癒やしの巫女と業務隊長

白玉しらす

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22.先生は何かを抱えている ☆

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 先生がおかしい。
 先生がおかしいのは今に始まった事ではないが、いつもに輪をかけておかしかった。
 貧血で倒れた日から、先生は酒を飲むと執拗に俺を求めるようになった。
「隊長さんが……ほしい……」
 そんな事を言いながら、ズボンの上から俺のものを撫で擦り、上目遣いで見つめてくる。
「中に、いっぱいほしいの……」
 ズボンの中に手を差し入れられ、直に扱かれると、今すぐにでも挿れてしまいたくなる。
 ここでは避妊薬の効果が薄いとは言え、そんなにすぐ妊娠する訳でも無いだろう。
 それでも、酔いに任せて最後までしてしまい、もし妊娠してしまったら、それはいい事では無い。

「くっ、あっ……先生、やめ……」
 熱っぽい視線で俺のものを扱いていた先生が、ズボンから取り出したと思ったら口に咥えた。
「んっ、ふっ……オス、臭い……んっ……」
 凄まじく恥ずかしい事を言われたのに、俺のモノは反応してしまった。
「やめっ、うっ……」
 止めようと先生の頭を押すと、先生は音をたてて俺のモノから口を外し、そのまま手で扱きだした。
「ねーえ、たいちょーさん……」
 にゅちゃにゅちゃと扱きながら、上目遣いでチロチロと先端を舐められて、腰が浮いてしまう。
「隊長さんの、せーし欲しい……ダメ?」
 駄目ではない。むしろお願いしたい。
 でも、いつもなら言わないような事を言う先生が、正常な判断ができているとは思えなかった。
「いっぱい、出して……」
 先生はそう言うと、巧みな舌遣いで俺のモノをしゃぶりだした。
「くっ、先、生……」
「んっ……大っきい……んっ、ふっ……ああ、たいちょ……んっ……」
 夢中で貪る先生に、俺の腰は勝手に揺れてしまう。
 欲望のままに腰を振らないように、奥まで入れない様に。脳が痺れるような快感の中、俺は必死に耐え続けた。

「先生、もう、出る……」
 外に出そうと声を掛けると、先生は更に強く吸い付いた。
「くっ、うっ……」
 吸い取られるように、ドクドクと先生の口の中に出してしまう。
「ふっ、うっ、んん…………ゲホッ、ゲホッ」
 顔をしかめながら先生は俺が出した物を飲み込もうとして、むせ返っていた。
「そんな物を飲もうとするからだ」
 口からこぼれた白い物が先生の胸元まで汚していて、苦しそうに涙ぐむ先生にまで欲情してしまう。
 よがり狂わせ、泣かせたい。
 どす黒い欲望が巻き起こり、乱雑に出したものを拭うと、先生を押し倒した。
 視察なんてなければ、とっくにビラシュッドに行って、先生を俺のものにしている。
 挿れてしまいたくなる欲望を抑え込み、まだ見ぬ視察者を呪いながら、俺は先生に快感を与え続けた。


「外に出てだいじょうぶなんですか?」
「ああ、団長にも報告済だ」
 本来であれば今日は休日だ。
 視察者がいつ来るか分からず砦で待機を命じられていたが、俺は先生を誘って出かける事にした。
 門で待ち合わせをしていたら、先生は大きなバスケットを抱えてやってきた。
 先生からバスケットを受け取ると、そのまま無言で見つめてしまう。
「あの、やっぱり、おかしいですか?」
 俺の視線に気がついたのか、先生が自分の格好を確かめながら聞いてきた。
 水色のワンピースに白いふわふわとしたエプロンをつけていて、髪の毛にもどうなっているかよく分からない編み込みが施されている。
 可愛らしいお嬢さんと言った格好だ。
「いや、とてもよく似合っている」
「リリーさんが正しいピクニックスタイルと言ってこうしてくれたんですが、レインはババアのくせに乙女ぶってて気持ち悪いって。正直私もそう思います」
「先生が可愛いから照れたんだろう。本当に、よく似合っている」
「そんな感じではなかったんですけど……でも」
 そう言うと先生は俺の隣に立ち、しっかりと手を握った。
「隊長さんがいいと言ってくれるなら、いいです」
 嬉しそうに笑う先生に、俺の頬も締まりなく緩んでしまう。
「さあ、これでもう、一人で先には行けませんよ。歩くのはゆっくりめでお願いします」
 繋いだ手を持ち上げて、先生は楽しそうに笑う。
「あ、でも荷物が重くなったら、気にせずはずしてください。ここから遠いんですか?」
「いや、それ程遠くない。だからもう離さない」
 持ち上げたままの先生の手にキスをすると、先生は顔を赤くしていた。
 自分から結構なことを仕掛けてくる癖に、妙な所で恥ずかしがる。
 そんな先生を可愛いと思った。


「ここら辺でいいだろう」
 砦近くの丘の上で俺は足を止めた。
 何も無い草原には柔らかな風が吹いている。
「気持ちのいい場所ですね」
 先生は風に吹かれながら、眼下の景色を眺めている。
「何も無いがな」
「それがいいじゃないですか」
「そうか?気に入ったなら良かった」
 敷布を敷きその上に座ると、先生も隣に腰を下ろした。
「どうしてここに連れてきてくれたんですか?」
「よく屋上にいるから、高い所が好きなのかと」
「そう言うわけでもないんですが……」
 先生の表情が少し曇る。
 俺は何も言わず先生の手を握ると、視線を丘の下に向けた。
 ここからなら街道も見えるから、視察者が来ても分かるだろう。
 先生は何かを抱えている。
 俺に話してくれるなら力になりたいし、話したく無ければそれでもいい。先生には俺がいると伝えたかった。

「こうやって、高い所から景色をながめていると思うんです」
 先生は一瞬繋いだ手を見ると、視線を前に向けて話しだした。
「私がいた場所とはぜんぜん違うなあって。何で私はここにいるんだろうって」
「帰りたいのか?」
「どうでしょう。もう、あきらめちゃっているので……ただ、こうやって景色を見ても、いつまでたっても違う世界にいるとしか思えなくて。でもいつか、ここが私の住む場所だと思えるなら、そうなりたいって……今はそう思います」
「砦は先生を必要としている。それは癒やしの巫女だからと言うだけでなく、先生が、ユイが頑張っているからだ」
 俺の言葉に先生の顔が赤くなった。
「そこで名前を呼ぶのは、ひきょうです」
「ユイは頑張っている」
「ああー、もう、やめて。泣いちゃうでしょ」
 先生が顔を膝に埋めてしまったので、俺はその頭をそっと撫でた。

 先生は仕事が無いとボヤきながら、砦のあちこちに顔を出しては細々と仕事を手伝っていた。
 下女の仕事も手伝えば、子守りだってしっかりとこなしている。
 皆先生が来るのを心待ちにしていた。
「ずっと癒やしの巫女になんてなるんじゃなかったって思っていたんです。でも、巫女じゃなければここには来られなかったし、巫女の力もここでは必要だと思うから……少しはよかったと、思えるようになりました」
 顔を上げた先生の目は涙で滲んでいたが、口元は少しだけ笑っていた。
「無理、してるんじゃないか?」
「だいじょうぶ。私には隊長さんが……」
 先生は途中で言葉を止めて黙りこくってしまった。


「隊長さん、私の罪を聞いてください」
 風に吹かれるまま静かな時が流れた後で、先生は口を開いた。
「罪?」
 先生は眼下の景色を見つめたまま、暗い顔で語りだした。
「王都で私をなぐさめてくれていたのは、まだ年若い近衛騎士でした。会うのは治療の時だけ。そして治療をしては、身体を重ねていました。ラドは、その人は本当にまだ若くて、ドロドロでグチャグチャな毎日を送るうち、おかしくなってしまったんです」
「どうなったんだ?」
「私が治療になれてきて、その、求めなくなると、わざと大きなキズを作るようになりました」
「わざと?」
「その人がいた部隊は、訓練では防具をつけずに斬りあいをしていたんです。だからいつも血まみれで。そのキズが、どんどんひどくなっていったんです。大きなケガを治せば、私がガマンできなくなるからって……」
 それは確かに気が狂っている。
「したい時にはしていいから、わざとケガするようなことはやめてって言ったんです。それなのに、ケガが少ないと物足りないって、つながったまま自分を傷つけるようになって……血まみれで怖くて、嫌なのに、それでも私は凄く感じてしまって」
「先生」
 辛そうな先生を見ていられなくて、俺は先生を抱きしめた。
「私は逃げるようにここに来ました。私がいなくなれば、ラドも元に戻ると思って。でも、それではダメだったんです」
「何が駄目なんだ?」
「ラドが、その人が来るんです」
 先生を見ると、思い詰めた顔をしていた。
「王都からの視察は、その人だったんです」
「視察は口実で、先生に会いに来るのか」
 癒やしの巫女を派遣して貰っているとは言え、王都から視察なんて今まで一度も来たことが無いからおかしいとは思っていた。
「隊長さん、私は……」
 先生は俺の顔を見ると、何かを言おうとして、そして顔を伏せてしまった。きっと碌でも無い事を考えている。
「そいつがおかしいのは元々の資質だ。先生が罪悪感に駆られる事は無い」
「でも……」
「もし先生に罪があったとしても、それは俺が被る。だからそんな顔をしないでくれ」
「隊長さん……」
 抱きしめていた先生が、俺の服をギュッと掴んだ。
 先生がおかしかったのは、そいつが来るからだったんだな。貧血で倒れたのもそのせいなのかもしれない。
 見知らぬ場所で頭のおかしい奴に犯されて、どうしたら先生をその苦しみから救ってやれるだろうか。

 その時、街道に光るものが見えた。
「くそっ、間が悪い」
 街道を馬で駆ける騎士の鎧が、日の光を浴びて輝いている。
「王都からの視察だろう」
「えっ……ラド?」
 先生が街道を目を凝らして見つめる。
 そう言えば俺はまだ名前を呼んで貰っていないなと、小さな事を気にしてしまった。
「残念だがピクニックは中止だ。戻ろう」
「……はい」
「先生、話してくれてありがとう」
 俺の言葉に、先生は少しだけ笑った。 
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