癒やしの巫女と業務隊長

白玉しらす

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25.私はひたすら隊長の無事を祈った

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 隊長との屋上ピクニックを終えると、私は女子寮に向かった。
 子供達と一緒に寝させて貰うよう頼むと、前回同様レインは甘え癖がつくと言っていい顔をしなかった。
 一緒に寝る女の子達も前は喜んでくれたのに、今回は戸惑いの表情を見せていた。
「一緒に寝るの、迷惑?」
 私が聞くと、首をふるふると横に振った。
「だって、お姉ちゃんはこの間のおじちゃんと寝るんでしょう?」
「え?」
 思わずレインの顔を見てしまう。
「俺は何も言ってない」
 気を取り直して女の子達に向き直る。
「えっと、おじちゃんとは寝ないから、大丈夫だよ」
「おじちゃんと、チュッチュするから私達とは寝られないんだって、言ってた」
 再び、思わずレインの顔を見てしまう。
「だから、俺は何も言ってない」
「おじちゃんと、エッチな事する邪魔しちゃダメって、お母さんが」
「そ、そんな事、してな……いや、して?え?いやいや、して……」
「してんじゃねえか」
「とにかく、大丈夫だから!しばらく一緒に寝させてね」
「わーい!」
 無駄に恥ずかしい思いをして、寝る場所を確保した。


 次の日の夕方、子供たちと文字の勉強をしていると、席を外していたレインが難しい顔をして戻ってきた。
「どうかした?お腹痛い?」
「子供扱いするな。なんか、明日魔物の討伐があるらしい」
「え?私何も聞いてないよ」
「だから伝えおいてくれって頼まれたんだよ。視察で何人か森に入るから、癒やしの巫女も医務室で待機しててくれって」
「視察……」
「王都から来たヤツがいけ好かないヤツらしくて、皆ピリピリしてた。俺達を狩人だとか、必要無いとか言いたい放題で、討伐もそいつが言い出した事らしい」
 顔をしかめるレインに、私は恥ずかしいような申し訳ないような気持ちになる。
 私がいなかったらラドがここに来る事は無かった訳で、ラドの不遜な態度が自分の事のように恥ずかしかった。

「まあ、でも心配するな。少数精鋭で団長はじめ、隊長クラスで班編成してるらしいから」
 微妙な顔で黙りこくる私を心配していると受け取ったのか、レインが私の頭をポンポンと優しく叩いた。
「レインが、いつになく優しい……」
 頭の上に置かれた手を退かしながら、不気味なものを見るような眼差しをレインに向けると、レインは途端に嫌そうな顔をした。
「業務隊長に、ユイが落ち込んでいたら優しくしてやってくれって言われたんだよ」
「隊長が……」
「ババアが乙女みたいな顔をしても見苦しいだけだぞ」
「まあ、レインはそっちの方がレインらしいからいいけど」
「でっ!……いいと言いながら頭突きするな!」
 おでこを押さえてうずくまるレインは無視して、私は隊長の事を考えて再び乙女の顔になった。
 ラドの事は何にも解決してないけど、優しい隊長の事を思うと温かいものが胸一杯に広がる。
 早く隊長に会いたかった。


 翌日、医務室の片付けをしながら待機していると、一人の騎士が慌てて駆け込んできた。
「業務隊長が瀕死の重傷です!」
「ひんし?」
 直ぐには理解できず、間の抜けた声で聞き返してしまう。
「魔物に噛まれて、意識不明です!」
 その言葉の意味を理解した瞬間、私は何も言わず駆け出していた。
「先生!?」
 少しでも早く、隊長の所に行って怪我を治さないと。
「先生、こちらです!付いてきてください!」
 門の所でどこに向かえばいいのか立ち止まってキョロキョロすると、追いかけてきていた先触れの騎士が、私の横を叫びながら駆け抜けて行った。
 私は必死でその後を追う。
 息が切れ、足がもつれそうになっても、私の足が止まることは無かった。
 ただひたすら、隊長の無事を祈りながら森に向かって走り続けた。

 森に入るとさすがに走る事はできなくなり、木の根に足を取られないように気をつけながら歩を進めた。
「団長!先生です!ユイ先生を連れてきました!」
 先を行く騎士が森の奥に向かって叫ぶと、しばらくして木の間から団長が姿を現した。
「こっちだ」
 飛ぶように私の元に来た団長は、私を抱えあげると直ぐに来た道を戻った。
「しっかり掴まってろ」
 団長は私を担いだまま、器用に森の中を走る。
 団長がこれ程急ぐと言う事は、隊長の怪我はよっぽど酷いんだろう。
「隊、長、寝か、せて、服、脱がっ」
 森の奥に向かって次の指示を伝えようとしたら、舌を噛んでしまった。
「セオなら寝かせてきた。服を脱がせばいいのか?」
 団長の問いかけに首を振って答える。
「おい!もう着く!セオの服を脱がせとけ!」
 団長の怒鳴り声が森の中に響き渡り、まだその声が残っているように感じる内に、人が集まる場所に着いた。
 中央には青白い顔の隊長が目を閉じて横たえられていた。
「怪我の様子は?」
 団長に降ろされ、隊長の元に駆け寄りながら聞く。
「肩を噛まれて骨が砕けている。出血も多い」
 上半身裸の隊長は、肩にぐるぐると包帯が巻かれていて、それも血で染まっていた。
「そのまま下も脱がせてください」
 ワンピースと下着を脱ぎ捨てながらそう言うと、そのまま隊長に覆いかぶさった。
 急激に流れ込む快感に身体が反応しても、私の頭はどこか冷静だった。
「……早く、ズボン、脱がせて……」
 いきなり全裸になって隊長に覆いかぶさった私に、皆の動きが止まっているけど、今はそんな事を気にしている場合ではない。
 とにかく早く隊長の怪我を治したかった。
「おい、いつまで見惚れてんだ。さっさと脱がせろ。あと、何か掛ける物を持ってこい」
 団長が周りの騎士を小突きながら指示を出すと、隊長のスボンは取り払われ、私の上には色んな布が掛けられた。
 絡みつくようにピッタリと肌を合わせて、最大出力で巫女の力を使う。
 ビリビリと快感は流れ込んできても、青白い顔の隊長を見ると、それどころではなくなる。ちっとも気持ち良くなんてなかった。


 治療が終わっても、隊長は目を覚まさなかった。
 大怪我をした場合は、傷を治しても助からない事がある。失われた血の全てが戻る訳ではないし、体内に入った菌なんかはそのままなんだろう。
「隊長……」
 私は身体を起こし、隊長の頬に手を当てた。顔色は少し良くなっているけど、まだいつもの元気な隊長の顔ではない。
 隊長がいなくなったら。
 そう思うと、とても怖かった。
「治療は終わったのか?」
 団長の声に、私は顔も見ずにただ頷く。
「なら早く着ろ。それ以上肌を晒してると、俺達がセオに殺される」
 目の前に差し出された私の服を見て、裸だった事を思い出す。
 団長の方を見るとじっと私を、多分胸の辺りを見つめていた。
「普通、そう言う事は視線を外しながら言いませんか?」
 受け取った服で身体を隠しながら隊長の上から退くと、周りの騎士達があっと言う間に隊長に服を着せていった。
「まあ、折角だからな」
「服を着るんで、後ろ向いてください」
「脱ぎっぷりはいいのにケチ臭いな。まあ、セオに免じて見ないでおいてやるよ」
 もうしっかり見ているくせに、団長は偉そうにそう言うと後ろを向いた。

 私は手早く服を着ると、改めて周りを見渡した。
「他に怪我をした人はいませんか?」
 何人か怪我をしているようだけど、もう隊長は背負われて運ばれていて、皆移動し始めていた。
「魔物を一体狩っただけだから大丈夫だ。帰ろう。業務隊長もきっと大丈夫だ」
 第一部隊の隊長が私に笑いかけて、そっと背中を押してくれた。
 傷は治したから、もう後は元気になる事を信じて祈るしかない。
 砦に向かい歩き出そうとすると、皆から離れた場所で呆然と立ち尽くすラドに気が付いた。
 その顔は大きく腫れていた。
「ラド、その顔……大丈夫?」
 私がラドの方に向かおうとすると、団長に腕を掴まれて止められた。
「放っておけ」
「でも……」
「あいつには必要な痛みだ」
 そのまま団長はラドの所へ行き、何か話しかけていた。
 ラドも促されるまま俯いて歩き出したので、私も皆について歩き出す。
 歩き出せば直ぐにラドの事は頭から抜け落ち、私は背負われた隊長の隣に駆け寄ると、ひたすら隊長の無事を祈った。
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