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第3話

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  ルカスが突然そんな事を聞くから、私も気になってしまい、
  私もルカスに聞いてみる事にした。

「ルカスこそ、願い事なんてあるの?」
「は?」
「だって、ルカスは大抵の事なら自分の力で叶えられそうなんだもん」

  頭も良くて、身分もあって、大体の事ならルカスはわざわざ願わなくても自力でどうにか出来ると思う。

「俺か?  そうだな……俺の願いは……」

  そう言って何故かルカスが、私の事をじっと見つめてきた。

  ──ドキンッ!

  心臓が無駄に跳ねた。
  そんな瞳で私を見るのはやめて欲しい。
  だってルカスが想ってる相手は私じゃないでしょう?
  今、誰を思い出してる?  ……そんな目で私を見るのはこの髪色のせいなの?
  自分の髪が嫌いになりそうだった。


「俺の願いはさすがに俺の力だけじゃどうにもならない事なんだ……」
「……?」

  ルカスは私から目を逸らして寂しそうな顔でそう言った。

  ……ルカスでも叶えられそうにない願い事。
  それは、ユーフェミア侯爵令嬢の事なんだろうか?
  例えば、無理やりにでも彼女を取り戻したい──とか?

  そう思うと私の胸がチクリと痛む。

  いや、まさかルカスに限ってそんな人の気持ちを無視するかのような願いを口にするとは思えない。

  それでも。
  ルカスの心の中に、ユーフェミア侯爵令嬢がいると思うだけで私の気持ちは沈んでいく。

「……ルカスの願いが何であれ、私は負けないよ」
「あぁ、望むところだ」



  そんなライバル宣言をした翌日。



「嘘っ!  負けた!?」
「フッ。今回は俺の勝ちだな!」

  この日は小テストが行われた。
  私達は小テストでも勝敗を競っている。
  そして……なんと今回は私が負けてしまった。
  小テストと言えどもテストはテストだ。悔しい!

「マリエールにしては珍しいな」
「何が?」
「単純な間違いが多い」
「えっ!?」

  私の答案用紙を見ていたルカスが物珍しそうに言う。
  慌てて確認すると、確かに単純な間違いが多かった。


  (集中出来てなかったのかもしれない)


  卒業が……最後のテストが近付くに連れて、私の気持ちも焦り始めてるのかもしれない。
  もうすぐ終わってしまうこの時間が名残惜しくて。

「集中しないと最後のテストも俺に負けるんじゃないか?」
「~~っ!  負けないわよ!」
「その意気だな」

  そうよ、感傷に浸ってる場合じゃない。
  最後のテストまでの間にも小テストは何回かは行われるはずだ。
  ……次は負けない!  私は再度気合いを入れ直した。




****




  ──昔から勉強するのが好きだった。
  女のくせに……とか散々言われて来たけれど。
  したらしただけ結果が出るから。
  努力した事は決して私を裏切らない。

  ──そう。

  かつては、“友人”だと思っていた人達とは違って。



  パシャンッ



「……」

  頭から冷たい水が降って来た。
  どうやら、飲み物をかけられたらしい。

「あーら、ごめんなさい?  うっかり手が滑ってしまったみたい」
「……」
「そんな所に突っ立ってるマリエールがいけないのよ?」
「……」
「ちょっと!  今は男爵令嬢じゃなくて、平民よ、マリエールは!」
「あぁ、そうだったわ!  ごめんなさいね?  マリエール

  私を囲み、頭から水(おそらく飲み物)をかけて馬鹿にするように笑っているのはかつて、私がルドゥーブル男爵令嬢だった頃に仲良くしていた友人達だった。

「だけど、どうしてこんな所に平民が紛れ込んでるのかしら?」
「本当にねぇ……」
「あ、もしかして招待状を偽造して入り込んだとか?」
「えぇ~!?  それは犯罪よぉ」

  好き勝手な事を言う、かつての友人達。
  この場にいる平民は私だけではないのに。
  まるで、私だけが可笑しいと言うかのように吊し上げてくる。


  (嫌われたものね……)


  今、私が参加しているパーティーは、かつて学校を首席で卒業した先輩が立ち上げたという商会の成功を祝うパーティー。
  貴族、平民問わず招待されているのは取引拡大の為だろう。
  そして、愛校心の強いその先輩は、このパーティーに学校の在校生も招待した。
  学生であるうちに人脈作りも必要だからと言って。

  そうして校内で選出されたパーティー参加者に私は含まれていた。

  正直行きたくなかったけれど、断れるものでも無い。
  ダメ元で着ていくドレスが無いと先生に言ったら、学生は制服で参加するから問題ないとの事。
  完全に逃げ道を絶たれてしまった。

  よって今、私は学校の制服を着てこの場にいた。
  そして、運の悪い事に貴族として招待を受けていたかつての友人達に見つかってしまった。

「それよりも、マリエールさんのその格好……」
「見せびらかしてるのかしら?」
「いかにもー、“あなた達とは、違うんです”と言いたいばかりの格好よねぇ」

  彼女達は、ルドゥーブル男爵家が没落した際、手のひらを返したように私の元を離れていった。
  それだけなら良かったのに。
  その後、私がこのシュテルン王立学校に入学した事を知り、こうしてやっかんでいる。

「さっきから一言も喋らないけど、口が聞けなくなったのかしら?」
「生意気よねぇ」

  口を聞いたら聞いたできっと更に罵詈雑言を浴びせるくせによく言うわ。

  そんな気持ちが顔に出てしまっていたらしい。

「反抗的な目ね」
「分からせてあげましょうよ、身分の差というものを」

  そう言って一番仲が良かったはずのかつての友人……ロクサーヌが私に向かって手を振りあげた。

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