【完結】どうか、ほっといてください! お役御免の聖女はあなたの妃にはなれません

Rohdea

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19. 癒しの力と呪いの力

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  (ローブがあって良かった)

  防寒対策で着ていたわけではなかったけれど、別の意味でこれが役に立つとは。

「ミリア、大丈夫?」
「ええ……」

  お互いにそれ以上の言葉が見つからない。
  だって明らかにおかしい。
  ざっと当たりを見回したヴィンス様が言う。

「……いつもならもっと活気に溢れた街なのに人が全然いない」
「この寒さ……異常気象のせいで家の中に籠っているのかもしれませんね」

  私は空を見上げる。
  今にも雨が降りそうだ。いや、この寒さなら子供の頃に一度だけ見た記憶のある雪というものが降ってもおかしくない気がする。
  
  (まさか、これがレベッカ様が黒い力で国を呪ったかもしれない結果……?)

  滞在していた辺境の地でまだ何も起きていなかったのは、レベッカ様のいる王都を中心に異常気象が発生しているから?
  そうなると───

「ヴィンス様、もしかしたら王都はもっと酷い事になっているかもしれません」
「……ミリアもそう思う?  僕もだよ」

  レベッカ様は最初からその気だったのか、それとも偶然なのかは分からないけれど、この国の崩壊はきっと始まっている────……




「ミリア、そんなに自分の手を真っ直ぐ見つめてどうかしたの?」
「ヴィンス様!」

  本当はさっさと王都に乗り込みたい所だけど、私達は今日はこの街に泊まることにした。
  こんな気候では滞在者も多くないようで「皆、逃げるようにこの街からは、さっさと出て行っちゃって」と、嘆く宿主。
  なので宿は空いていて大歓迎された。
  この調子では王都からも人が大量に流出している可能性もある。 

  辺境の地からの移動は長かったので、一旦、それぞれの部屋で身体を休めようと別れたけれど、荷物を置いたヴィンス様はすぐに私の部屋を訪ねてきた。
  そして、当然のように私の隣に腰を下ろした。

「いえ、勢いだけでここまで来てしまいましたが」
「うん?」
「私の“癒しの力”?  ってどう使うのかしら、と今更ながら思いまして」

  お花を元気にしたのもヴィンス様の傷を癒したのも、言ってしまえば無意識だった。
  無我夢中でそう願っただけ。
  果たしてこの力は、願えば私の意志で自由自在に発動してくれるものなのかしら?

「花や僕の怪我の時は」
「あれは……心の中で強く願いました」
「強く?」
「だって!  ヴィンス様の腕はあんなに風に傷だらけになっていいものでは無……」

  そこまで言いかけた所で、きつく抱きしめられる。

「……え、えっと、ヴィンス様?」
「そう言ってくれてありがとう、ミリア」

  (ヴィンス様……)

  そうよね。あの腕では思う存分、剣も振れなかったでしょうし───

「おかげでこうしてミリアをこの腕に抱きしめられるよ!」
「……」

  (───ん?)

「どんなに思いっきりミリアに触れたくても、やっぱり痛みが邪魔するとね」
「……えっと?」
「おかげで今はこうして思いっきり君を僕の腕の中に囲う事が出来る。幸せだ……」

  頭上からうっとりした声が聞こえる。

  (───なんか違う!)

  こうなってから、これまで色々と知らなかったヴィンス様の面をたくさん知った気がする。
  てっきり、お兄様……王太子殿下を尊敬していて国思いの人だとばかり思っていたのに、あっさり捨てちゃおう?  なんて口にするし。
  何より───

  (私、自分で思っている以上にヴィンス様に愛されている気がする……)

  そんな事を考えてしまったせいで、頬が熱くなる。

「ん?  何かミリアが真っ赤になってて可愛いんだけど」
「き、気の所為です!」
「ミリア……」

  我ながら可愛くない態度だと思ったけれど、ヴィンス様は気にしないらしい。
  クスクス笑っている。

「ミリア、空いてたから(仕方なく)部屋は二部屋とったけど、せっかくだから今夜はここで一緒に──」
「いっ───!!  ま、まだ早い!  ……です!」

  私がやんわり押し返すと、ヴィンス様は「チェッ……」と可愛く拗ねた。
  そんな顔や仕草にもキュンとさせられてしまう。

「それじゃ、ミリア」
「?」
「一緒にここで君と寝るのは諦めるけど、これは許してね?」
「ヴィンス様?」

  ヴィンス様の腕の中で首を傾げていたら、ヴィンス様の顔がそっと近づいて来る。
  え?
  と、思う間も無く、私の唇はそっと塞がれた。



  
  (甘い……)

  ───やがて、チュッと音を立てて唇が離れた。
  ドキドキ破裂しそうな心臓をどうにか抑えて、ヴィンス様の顔をそっと見てみると……

「ヴィンス様!  か、顔がま、真っ赤!!  ……ですよ!?」
「……」

  ヴィンス様が見たことがないくらい真っ赤な顔をしていた。さらに照れてしまったのかプイッと顔を逸らす。

  (こ、こんなに真っ赤なヴィンス様、貴重だわ!)

  ヴィンス様はいつだって余裕がありそうで、馬鹿な私が遠ざけようとしていた時ですら……
  また、胸がキュンとした。

「……は、話を戻す!  けど!」
「あ、は、はい!」

  ヴィンス様は照れ隠しなのか赤く染めた頬を押さえながら話し出す。

「ミリアのその新しい力……えっと、癒しの力?  はミリアの想いで発動するんじゃないかな」
「私の想い……」
「そう。花に元気になって欲しい、僕の傷が治って欲しい……どれもミリアの優しくて強い想いが出ているだろう?」

  その通りだ。
  夢見の力は自分で願って視られるものではなかったけれど、この力は私の想いが強く出ている。

「それと、あの女……レベッカの持っている黒い力……呪いの力も本質は同じなのかもしれない、と僕は思う」
「え?」
「どちらも使い手の心によって作用が変わる、とでも言えば良いのかな?」
「……」

  (それって……)

「あの女は、笑顔の裏でよからぬ事を考えてばかりだったから、黒くて呪いの力になったんじゃないかな、と僕は思っている」
「ヴィンス様……」
「うん?」
「つまり、私の力も場合によっては……レベッカ様みたいに黒く……呪いになってしまうのでしょうか?」

  あの夢。
  醜い嫉妬をして全てを憎もうとしていた“私”
  もしかしたら、あの夢の続き……私はそんな力を手に入れて───

「え?  何を言っているの?  ミリアの力は呪いにはならないよ」
「え!」

  ヴィンス様は即答する。
  本質は同じだと言ったのに?

「だって、ミリアはそんな事を望まない。そんな子じゃないという事は僕が一番知っている」
「ヴィンス様……」
「それに、もしも、ミリアがそんな黒い心に支配されそうになった時は……」
「なった時は?」

  私が聞き返すとヴィンス様は笑顔で言った。

「僕が絶対にミリアを暗闇そこから救ってみせるよ」
「──!」
「だから、安心して欲しい」

  (あぁ、ヴィンス様はいつだって私の光なんだわ……)

  そう言って笑ってくれたヴィンス様は、今もあの眩しくて輝くような金髪ではない黒髪なのに、とても明るくて眩しく見えた。

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