19 / 33
19. 癒しの力と呪いの力
しおりを挟む(ローブがあって良かった)
防寒対策で着ていたわけではなかったけれど、別の意味でこれが役に立つとは。
「ミリア、大丈夫?」
「ええ……」
お互いにそれ以上の言葉が見つからない。
だって明らかにおかしい。
ざっと当たりを見回したヴィンス様が言う。
「……いつもならもっと活気に溢れた街なのに人が全然いない」
「この寒さ……異常気象のせいで家の中に籠っているのかもしれませんね」
私は空を見上げる。
今にも雨が降りそうだ。いや、この寒さなら子供の頃に一度だけ見た記憶のある雪というものが降ってもおかしくない気がする。
(まさか、これがレベッカ様が黒い力で国を呪ったかもしれない結果……?)
滞在していた辺境の地でまだ何も起きていなかったのは、レベッカ様のいる王都を中心に異常気象が発生しているから?
そうなると───
「ヴィンス様、もしかしたら王都はもっと酷い事になっているかもしれません」
「……ミリアもそう思う? 僕もだよ」
レベッカ様は最初からその気だったのか、それとも偶然なのかは分からないけれど、この国の崩壊はきっと始まっている────……
「ミリア、そんなに自分の手を真っ直ぐ見つめてどうかしたの?」
「ヴィンス様!」
本当はさっさと王都に乗り込みたい所だけど、私達は今日はこの街に泊まることにした。
こんな気候では滞在者も多くないようで「皆、逃げるようにこの街からは、さっさと出て行っちゃって」と、嘆く宿主。
なので宿は空いていて大歓迎された。
この調子では王都からも人が大量に流出している可能性もある。
辺境の地からの移動は長かったので、一旦、それぞれの部屋で身体を休めようと別れたけれど、荷物を置いたヴィンス様はすぐに私の部屋を訪ねてきた。
そして、当然のように私の隣に腰を下ろした。
「いえ、勢いだけでここまで来てしまいましたが」
「うん?」
「私の“癒しの力”? ってどう使うのかしら、と今更ながら思いまして」
お花を元気にしたのもヴィンス様の傷を癒したのも、言ってしまえば無意識だった。
無我夢中でそう願っただけ。
果たしてこの力は、願えば私の意志で自由自在に発動してくれるものなのかしら?
「花や僕の怪我の時は」
「あれは……心の中で強く願いました」
「強く?」
「だって! ヴィンス様の腕はあんなに風に傷だらけになっていいものでは無……」
そこまで言いかけた所で、きつく抱きしめられる。
「……え、えっと、ヴィンス様?」
「そう言ってくれてありがとう、ミリア」
(ヴィンス様……)
そうよね。あの腕では思う存分、剣も振れなかったでしょうし───
「おかげでこうしてミリアをこの腕に抱きしめられるよ!」
「……」
(───ん?)
「どんなに思いっきりミリアに触れたくても、やっぱり痛みが邪魔するとね」
「……えっと?」
「おかげで今はこうして思いっきり君を僕の腕の中に囲う事が出来る。幸せだ……」
頭上からうっとりした声が聞こえる。
(───なんか違う!)
こうなってから、これまで色々と知らなかったヴィンス様の面をたくさん知った気がする。
てっきり、お兄様……王太子殿下を尊敬していて国思いの人だとばかり思っていたのに、あっさり捨てちゃおう? なんて口にするし。
何より───
(私、自分で思っている以上にヴィンス様に愛されている気がする……)
そんな事を考えてしまったせいで、頬が熱くなる。
「ん? 何かミリアが真っ赤になってて可愛いんだけど」
「き、気の所為です!」
「ミリア……」
我ながら可愛くない態度だと思ったけれど、ヴィンス様は気にしないらしい。
クスクス笑っている。
「ミリア、空いてたから(仕方なく)部屋は二部屋とったけど、せっかくだから今夜はここで一緒に──」
「いっ───!! ま、まだ早い! ……です!」
私がやんわり押し返すと、ヴィンス様は「チェッ……」と可愛く拗ねた。
そんな顔や仕草にもキュンとさせられてしまう。
「それじゃ、ミリア」
「?」
「一緒にここで君と寝るのは諦めるけど、これは許してね?」
「ヴィンス様?」
ヴィンス様の腕の中で首を傾げていたら、ヴィンス様の顔がそっと近づいて来る。
え?
と、思う間も無く、私の唇はそっと塞がれた。
(甘い……)
───やがて、チュッと音を立てて唇が離れた。
ドキドキ破裂しそうな心臓をどうにか抑えて、ヴィンス様の顔をそっと見てみると……
「ヴィンス様! か、顔がま、真っ赤!! ……ですよ!?」
「……」
ヴィンス様が見たことがないくらい真っ赤な顔をしていた。さらに照れてしまったのかプイッと顔を逸らす。
(こ、こんなに真っ赤なヴィンス様、貴重だわ!)
ヴィンス様はいつだって余裕がありそうで、馬鹿な私が遠ざけようとしていた時ですら……
また、胸がキュンとした。
「……は、話を戻す! けど!」
「あ、は、はい!」
ヴィンス様は照れ隠しなのか赤く染めた頬を押さえながら話し出す。
「ミリアのその新しい力……えっと、癒しの力? はミリアの想いで発動するんじゃないかな」
「私の想い……」
「そう。花に元気になって欲しい、僕の傷が治って欲しい……どれもミリアの優しくて強い想いが出ているだろう?」
その通りだ。
夢見の力は自分で願って視られるものではなかったけれど、この力は私の想いが強く出ている。
「それと、あの女……レベッカの持っている黒い力……呪いの力も本質は同じなのかもしれない、と僕は思う」
「え?」
「どちらも使い手の心によって作用が変わる、とでも言えば良いのかな?」
「……」
(それって……)
「あの女は、笑顔の裏でよからぬ事を考えてばかりだったから、黒くて呪いの力になったんじゃないかな、と僕は思っている」
「ヴィンス様……」
「うん?」
「つまり、私の力も場合によっては……レベッカ様みたいに黒く……呪いになってしまうのでしょうか?」
あの夢。
醜い嫉妬をして全てを憎もうとしていた“私”
もしかしたら、あの夢の続き……私はそんな力を手に入れて───
「え? 何を言っているの? ミリアの力は呪いにはならないよ」
「え!」
ヴィンス様は即答する。
本質は同じだと言ったのに?
「だって、ミリアはそんな事を望まない。そんな子じゃないという事は僕が一番知っている」
「ヴィンス様……」
「それに、もしも、ミリアがそんな黒い心に支配されそうになった時は……」
「なった時は?」
私が聞き返すとヴィンス様は笑顔で言った。
「僕が絶対にミリアを暗闇から救ってみせるよ」
「──!」
「だから、安心して欲しい」
(あぁ、ヴィンス様はいつだって私の光なんだわ……)
そう言って笑ってくれたヴィンス様は、今もあの眩しくて輝くような金髪ではない黒髪なのに、とても明るくて眩しく見えた。
64
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
白のグリモワールの後継者~婚約者と親友が恋仲になりましたので身を引きます。今さら復縁を望まれても困ります!
ユウ
恋愛
辺境地に住まう伯爵令嬢のメアリ。
婚約者は幼馴染で聖騎士、親友は魔術師で優れた能力を持つていた。
対するメアリは魔力が低く治癒師だったが二人が大好きだったが、戦場から帰還したある日婚約者に別れを告げられる。
相手は幼少期から慕っていた親友だった。
彼は優しくて誠実な人で親友も優しく思いやりのある人。
だから婚約解消を受け入れようと思ったが、学園内では愛する二人を苦しめる悪女のように噂を流され別れた後も悪役令嬢としての噂を流されてしまう
学園にも居場所がなくなった後、悲しみに暮れる中。
一人の少年に手を差し伸べられる。
その人物は光の魔力を持つ剣帝だった。
一方、学園で真実の愛を貫き何もかも捨てた二人だったが、綻びが生じ始める。
聖騎士のスキルを失う元婚約者と、魔力が渇望し始めた親友が窮地にたたされるのだが…
タイトル変更しました。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる