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第11話 悪夢
しおりを挟む「ルキア!」
(……え?)
とりあえず、いつまでも床に蹲っているわけにはいかない。
そう思った私が痛む足を抑えながら何とか立ち上がろうとしていると、少し離れた所からシグルド様の声が聞こえた。
「大丈夫か? ルキア」
彼は息を切らして私の元に駆け寄って来る。
「シグルド様? な、何故、ここに?」
「私に連絡があったからだよ、ルキアがティティ男爵令嬢に絡まれているって」
「絡まれている……」
「そんな事より、何があった? どうして床に座り込んでいるんだ?」
「あ……それは」
私はそっと自分の足に視線を向ける。その視線だけでシグルド様は何があったか察したらしい。
「足? あの女……まさか、私のルキアに怪我を負わせたのか!?」
「……えっと」
──目が! シグルド様の目が据わっているわ!!
しかも“あの女”呼ばわりしている。シグルド様らしくない。
「そうか……私のルキアを傷付けたか……」
「シ、シグルド、様? ──ひゃっ!?」
シグルド様は黒いオーラを出したまま、よいしょっと私を抱き抱える。
「私のルキアを傷付けた罪は重い。あの女の始末は必ずするからルキアは安心していてくれ。何で始末しようか? 抹殺、撲殺、毒殺、刺殺……私は何でも構わないよ?」
「え、いや、えっと……」
(全部、死んでる! 死んでるから!)
あんな様子だけど、貴重な属性と力の持ち主なのよ? なのに、そんな簡単に始末だなんて……
「今すぐ殺りたい所だが、今は大事な大事なルキアの手当の方が先だ」
「えっ」
「手当てが済んだら何があったか話してくれ」
「は、はい……」
シグルド様はどす黒いオーラを撒き散らした笑顔を浮かべながら私をお医者様の元へと運んだ。
───
(力が使えていたらこんな怪我、直ぐに治せるのに)
まぁ、軽く捻った程度の怪我だからこれは自然治癒に任せた方が良いのだけど。
───ただ、このままだとシグルド様が。
「ルキア、大丈夫か?」
「ルキア、痛みはどうだ?」
「ルキア、変わりはないか?」
「ルキア、移動する時は私に声をかけてくれ! 抱っこする」
(抱っこ……!)
シグルド様はこんな様子で5分毎くらいに私に足の様子を訊ねては、甲斐甲斐しく世話を焼こうとする。
「シグルド様、心配して頂けるのは大変嬉しいのですが、その……5分毎に訊ねられても変化はそうそう起きません」
「……そうか?」
(やっぱり私の事になるとこの方は目が曇る)
「そうですよ、急に悪化したりもしませんから、今はお仕事に戻って下さい」
「だが……」
「帰る前には声をかけますから、ね?」
「ルキア……」
シグルド様の目が、とにかく私の事が心配で心配で堪らない。そう言っている。
私はこれ以上心配かけたくなくて笑顔を浮かべた。
でも……
「ルキア。私は騙されない」
「な、何がですか?」
「ルキアが、心から笑う時の笑顔はもっと可愛いんだ」
「え?」
そう言いながらシグルド様の手が私の頬に触れて来たのでドキッと胸が跳ねた。
「ルキア……」
「シグルド様……?」
シグルド様の顔がどんどん近付いて来て、チュッと私の額に触れた。
「……額なら触れても許されるか?」
「許すも許さないも、もう触れてるじゃないですか……」
「ははは、それもそうか。じゃあ、頬も」
そう言って頬にもチュッとキスをする。
「~~~!」
「すまない。ルキアが可愛くてつい我慢が出来なかった」
シグルド様は苦笑いを浮かべるとそっと私から離れた。
「よし! ルキアは元気そうだな。仕事に戻るよ」
「……はい」
(ダメ。寂しいなんて思っては……ダメ!)
「では、また後で様子を見に来る。いい子で待っていてくれ」
「なっ!」
「ははは、ルキアはやっぱり可愛い」
シグルド様はそう言って笑いながら部屋から出て行き、顔を真っ赤にした私だけが残された。
───
シグルド様が一人で騒がしかったからか居なくなってしまったら部屋の中が一気に静かになった。
(動けないし、人もいないし……暇だわ)
シグルド様は部屋の外に護衛は置いていると言っていたけど、私に気を使ったのか部屋の中には人を置いていかなかった。
もちろん呼べば直ぐに誰か来てくれる事にはなってはいる。
でも、ここに誰かを呼びたいと言う気持ちに全くならない。
「役立たずと呼ばれる今の私は王宮の人達から全く人望が無いもの」
なのに、魔力がなくても癒しの力が使えなくても、シグルド様は私が良いと言う。
「変なの。なにもかも無くなってしまった私の価値って何処にあるのかしら? シグルド様はいったい私のどこを…………んー……」
そんな事を呟きながら、私は段々ウトウトしてしまい気が付けば夢の世界へと入り込んでいた。
────────…………
『ルキア、君との婚約は解消しようと思う』
『!』
『やはり、魔力の無い君は将来の王太子妃に相応しくない。癒しの力も使えない君は王家の役にも立てないだろう? だから、君の望んだ通り、私は私に相応しい人を選ぶ事にする』
ズキッ
何故かその言葉に胸が痛んだ。どうして? 自分が望んだ展開になったはずなのに。
『……誰をお選びになるのですか?』
私の質問にシグルド様はにっこり笑う。
『もちろん、そんなの決まっている。ティティ男爵令嬢だ!』
『そう、ですか……』
『最初は不安定そうだった癒しの力も今は使いこなせているそうだし、貴重な属性の持ち主だ。残念ながら魔力量は人並みらしいがそれ以外の部分で充分、周りには王太子妃として認められるだろう』
(王太子妃……)
『幸い、王宮の者達も彼女の事を快く受け入れてくれている』
『そうですか……おめでとうございます』
『あぁ』
(私が、ずっとあなたの隣に……)
『今までご苦労だった、ルキア』
『──っ!』
そう言われた瞬間、頭の中に声が聞こえて来る。
────ヤクタタズノオマエハイラナイ。
────ズットクツウダッタ。
────コレデ、ホントウニスキナヒトトシアワセニナレル!
(痛っ……頭が痛い!)
私は役立たずだから。
シグルド様には相応しくない。
だから私はもう生きている価値なんて無──……
何? 何かに気持ちが引きずられる!
(怖い! 何これ、嫌だ……)
ズキッ! ズキンズキン……
そして頭痛は更に酷くなる一方。
「……けて」
「いや、助け……」
「助けて! シグルド様ーーーー!!」
「ルキア!!」
私は、手を伸ばしそう叫びながらパチッと目を覚ます。
叫んだと同時に名前を呼ばれて、宙に伸ばした手を取られていた。
(──え?)
「ルキア、大丈夫か?」
「……シグ、ルド、様……?」
目の前にはシグルド様の顔。とても心配そうに私の事を見ている。
「そうだよ、私だ」
「……」
これは夢? 夢の続き?
でも、婚約は解消……したよわよね? あれ? 違う。それは夢で……
(え? え!?)
頭の中が混乱を起こしていた。
シグルド様はそんな私の手をギュッと優しく握る。
その温もりが私は昔から安心出来て大好きで……
(夢じゃない。ここに居るのは私の大好きなシグルド様)
「……」
そう思ったら段々落ち着いて来た。
「様子を見に来たらルキアが魘されていた。大丈夫か?」
「……大丈夫、です。ありがとうございます。ちょっと嫌……な夢を見ました」
「夢?」
「そうなんです……嫌な夢に……気持ちが引きずられそうになって」
私がそう言いながら力なく微笑むとシグルド様の顔つきがスっと真剣なものに変わる。
「ルキア」
「シグルド様?」
「すまない、ルキア」
「え?」
何故か謝られた? と思った瞬間、私の唇に柔らかい物が触れた。
(───えっ!? キス……されてる?)
と、同時に何か温かいものが私の身体の中に流れ込んで来るような感覚があった。
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