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第12話 王子様の力
しおりを挟む───私の身体に流れ込んでくるもの……これって、魔力?
シグルド様の魔力を感じる。
(…………あ、頭痛が)
まだ、微かに続いていた頭痛がどんどん和らいでいく。
(温かい……)
「……」
「……」
「ルキア、大丈夫か?」
少しして、唇を離したシグルド様が私に訊ねる。
シグルド様の瞳が大きく揺れているので、どこか不安そう。
「大丈夫、です」
「……強引に唇を奪ってすまなかった」
申し訳なさそうに頭を下げるシグルド様。
「い、いえ! でも……今、私に何を? ……魔力を感じましたが」
「ルキア。ルキアは私の“特殊な力”を知っている?」
「え?」
シグルド様の“特殊な力”? 私で言うところの“癒しの力”みたいなものだけれど。
確か──
「シグルド様は沢山持っていますよね?」
「そうだね、その中の一つに“浄化”があるんだ」
「浄化……」
シグルド様は私に魔力を流して“浄化”を行った、という事?
「……ルキアの見た嫌な夢、は魘され方から言って“単なる夢”じゃない」
「!」
「明らかにルキアを狙ってかけられた呪術の一つだ」
「それをシグルド様の力で浄化した……?」
シグルド様は「そうだ」と頷きながら、ホッとした表情を見せた。
「ちょっと強引な方法だったけど、うまくいったみたいで良かったよ」
「シグルド様……」
確かにもう頭は痛くない。
夢なのか現実なのかも分からなくなっていた頭の中もかなりすっきりしていた。
「ルキア」
名前を呼ばれて顔を上げると、熱っぽい瞳をして私を見つめるシグルド様と目が合う。
ドキンッと私の胸が大きく跳ねる。
そして───
「……シグ…………んっ」
シグルド様の顔が再び近づいて来た──? と思ったらそのまま、また唇を奪われる。
「あっ……」
「ルキア……」
チュッ、チュッ……とシグルド様は何度も何度も私にキスをした。
(こ、これは魔力は関係ない気がする……!)
てっきり、また魔力を流されるのかと思ったけれど、何か違う。
これは絶対にシグルド様が私にキスをしたいだけ───
「シグルド……様……」
「うん?」
そのうちシグルド様は、チュッ、チュッと唇以外の場所にもキスをし始めた。
もはや、ただのキス魔と化したシグルド様に私は訊ねる。
だって、キスをされながら、ふと思った事があって、そこからは気持ちがモヤモヤしてしまいどうしても聞かずにはいられなかった。
「先程、浄化の力を使って私……を助けてくれましたけど……」
「うん」
チュッと再び唇を奪われる。止める気はないらしい。
今は話をさせて欲しいのに!
「シ、シグルド様は……そ、その浄化の力を使われる時、」
「うん」
チュッ
(……甘いキス攻撃に負けていないで、聞くのよ、私!)
「だ、誰にでもこんな事をしているのですかっ!?」
「…………え!?」
「こ、こんな風に口移しで……するのですか?」
「ええ!?」
私のその言葉にもう一度、私に迫ろうとしていたシグルド様の顔がピタッと止まる。
そんな彼の表情は本気で驚いていた。
「えー……コホッ……ルキアさん、すみませんでした」
シグルド様が申し訳なさそうに頭を下げる。
「……何の謝罪でしょう?」
「久しぶりにルキアさんの甘い甘い唇に触れたら、その甘さと可愛さに負けて暴走した事です」
(い、言い方ー!! 言い方を考えてーー!!)
「コホッ……つ、つまり、シグルド様は最初のキスこそは浄化の為だったけれど、その後はただ私にキスをしたかっただけだと?」
「そうです、その通りです」
シュンッと項垂れるシグルド様。
「……私、あまりにも沢山のキス攻撃に息が苦しくて幸せで甘くて胸が破裂するかと思いました」
「そうですよね、あんなにされたら苦し……ん? 幸せ? ル、キア……」
恐る恐るといった様子でシグルド様が顔を上げる。
「……」
私は顔を真っ赤にしてプイッと、横を向いた。
苦しかったけど、甘い甘いキスは嬉しくて幸せ……なんて思ってしまったなんて絶対に言ってやらない!
シグルド様が少し動揺している。
「……っ! え、えっと、それで!」
「……」
「ルキアが口にした“浄化の力を使うのに誰にでもこんな事をしているのですか?”という質問の答えだけど──」
「……」
「す、するわけない! 私が触れるのはルキアだけだ!!」
「!」
頬を赤く染めたシグルド様が声を張り上げながらそう言った。
───
「つまり、本来その力は口移しでなくてもかけられる、と?」
「そうなる。そもそも“浄化”なんて力は使う機会なんてそうそう無いが」
「では、何故……?」
私がそう訊ねると、シグルド様は少し辛そうな顔をすると、そっと私の手を取りギュッと握り締めた。
「ルキアが魔力を失っていたから。魔力が無いルキアに普通の方法で浄化の力をかけても効かないだろう?」
「あ……」
「それと、ルキアにかけられた呪術はかなり強力なものだったから、早くしないと危険だったというのもある」
「っ! そんな事が分かるのですか?」
私が聞き返すと、うん、と頷かれた。
「だってルキア、現実との境が分からなくなるくらい気持ちを引っ張られていただろう?」
「……」
その通りなので私は頷く。
「ルキアは悪夢を見ていて、何か思わなかった?」
「思う、ですか?」
そう言われて、あまり思い出したくは無いものの、先程の悪夢を振り返る。
シグルド様と婚約解消して、私よりミネルヴァ様が良いと言われた。
(当たり前の事よ、って自分に言い聞かせて……)
「頭痛と共に変な声が頭の中で聞こえて来て──」
「変な声?」
シグルド様の私の手を握る力が強くなった。
「それで、私は役立たずだからシグルド様には相応しくない。だから私はもう生きている価値なんて無いって思って──……あ!」
ようやく気付いた。
私、あのまま抗わなかったらきっと流されて自ら命を……
その事に思い至りぶるっと身体が震える。
「ルキア」
シグルド様が今度はギュッと私を抱きしめた。
「……敵は本気だな」
「……」
「やっぱりあの黒魔術のようなものが……」
「……」
(これはミネルヴァ様の仕業なのかしら?)
そう思わずにはいられない。でも……
もし、本当に彼女が企んだ事なら、最近、諸々の力が発現したばかりのはずの彼女がどうしてこんな事が出来るのか、と不思議で仕方ない。
(彼女は……いったい何者なの?)
ミネルヴァ様の得体の知れなさに、再び私の身体が震えた。
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