13 / 46
13. お出かけ(モフモフ付き)
しおりを挟む「え? 買い物ですか?」
「にゃ?」
「あぁ、そうだ」
ファサス公爵家での生活が始まり、あっという間に半月程経った。
私はティティのお世話係として雇われたので、本当に毎日ティティと遊んでばかりだった。
(日中はティティと走り回ってモフモフして美味しいご飯にあったかい寝床……)
幸せ過ぎるわ。
だから、幸せ過ぎて何だか怖くもなる。
そんな事を思いながら過ごしていた頃……ダグラス様が突然、私とティティに明日は街に行くぞ! と声をかけて来た。
「リディエンヌはいつもティティと走り回っているが、何かティティの遊び道具もあった方がいいだろう?」
「にゃーーーん!」
「は? そんなに買えるか! ……要求が多いぞ、ティティ!」
「にゃぁ……」
遊び道具という言葉にティティは目を輝かせた後、色々、お願いしたようだけれどあっさり却下されて落ち込んでいた。
「……っく! そんな目で見るな!」
そんなティティの様子にダグラス様も一瞬、負けそうになっていたけれど、頑張って持ち直していた。
(さすがだわ! 私なら即誘惑に負けてしまいそうなのに!)
「それから、リディエンヌもだ。君が持っていた荷物は少なかったから、色々足りなくて困っている事もあるんじゃないか?」
「え!」
まさか、ダグラス様は私の事までも気にかけてくれた……?
氷の貴公子様は身内には優しいのかも。拾ったものは大切に使う! みたいな感じ?
……でも、待って?
買い物に行ってこい! じゃなくて、買い物に行くぞ?
と、言うことは……
「あの? ダグラス様も一緒に行かれるのですか?」
「にゃ!」
「……何だ、不満か?」
「いいえ、そうではなくて……わざわざ申し訳ないと思いまして」
「……」
(あ、笑っ?)
私がそう言ったらダグラス様は少しだけ笑って「気にするな」とだけ言った。
(ダグラス様とティティとお出かけ……)
誰かと出かけるなんて初めて!
そう思うだけで顔が自然と綻ぶ。
「にゃ?」
「ティティさん、お出かけですって!」
「にゃーん!」
「ティティ! 待て! 何でそこでリディエンヌと自分のデートにゃ! となる!? 俺もいると言っているだろう!」
「にゃー」
「邪魔にゃ……じゃない! そんな事言うとおもちゃは買ってやらんぞ?」
「にゃっ!?」
一人と一匹は今日も仲良しだった。
(何て微笑ましい光景なのかしら)
だけど、そんなお出かけに受かれていた私は、すっかり忘れていた。
ダグラス様もティティも、とてもとても目立つ存在だという事を!
────
そうして、彼らと出かけてみれば……
(す、すごく見られている!)
ダグラス様を見ては頬を染める女性、ティティを見て可愛いとデレていく男性と女性。
一人と一匹はすれ違う人という人全てを魅了していた。
そこにおまけのように一緒にいる私。
皆、一人と一匹に見惚れた後は必ずと言っていいほど、ダグラス様の隣を歩き、かつモッフモフ猫のティティを抱っこしている私に向かって冷たい視線を送ったり、コソコソ何かを囁いたりしていた。
(不釣り合いなのが隣にいると思われていそう)
でも、こういう視線は祖国でマリアーナと比べられていた時と同じなので慣れたもの。むしろ懐かしい気持ちさえある。
だから、あまり気にしない事にした。
「にゃー」
「ティティさん?」
「にゃー!」
すると突然、それまで私の腕の中で大人しくしていたティティが鳴き出した。
「にゃーーん!」
そう鳴いて何故か尻尾をペチペチして来る。
その姿はとっても可愛いけれど、何事?
「……リディエンヌをバカにするにゃ! と怒っているぞ」
「はい?」
いつものようにダグラス様が通訳してくれる。
「……私をバカにするなって」
「……」
まさか、ティティは周囲の人に怒ってくれているの?
その事に驚いていたら、ダグラス様はティティごと私を抱きしめた。
(───!?)
私は驚き過ぎて声が出ない。チラチラ視線を送ってきていた周囲の女性達も同じようにびっくり顔になっていた。
ダグラス様はそんな周囲の事は気にせず私の耳元でそっと囁く。
「…………すまない」
「?」
私が顔を上げてダグラス様の顔を見ると、彼は分かりやすく落ち込んでいた。
(氷……氷の貴公子様はどこに行ったの……?)
「じろじろとした不快な視線を送られるのは、いつもの事なので俺はすっかり慣れていて気にしていなかったが……そうだった、今日は君がいた。巻き添えにしてしまってすまない。まさか、ティティに教えられるとは……」
「にゃん!」
「す、すまなかったよ、ティティ……だから、そんなに怒らないでくれ……!」
「にゃーーー」
ダグラス様を責めていくティティ。
「ティティさん、大丈夫よ? ありがとう。でも私はコソコソ、ヒソヒソ言われるのなんて慣れているのよ」
「にゃ?」
「何?」
一人と一匹が同じような反応を見せる。
たまにこの一人と一匹は同じような顔をする時があるけれど、まさに今もだった。
「にゃーーー……」
「あぁ、そうだな。ティティ」
「にゃん!」
ティティの必死な訴えにダグラス様も真剣な顔で頷く。
「普段なら絶対に許さないが、それは特別だ。許可をしよう」
「にゃ!」
「ああ!」
(……? いったい彼らは何の話を……?)
私の視線に気付いたダグラス様が軽く咳払いをした後、ゆっくり説明してくれた。
「リディエンヌ。今、俺とティティの中で今後、君を傷付ける様な真似をする者にはティティの会心の猫パンチを喰らわせる事が決定した」
「にゃーん!」
ティティが元気よく返事をする。
「はい? 猫パンチ……?」
「もちろん君が望むなら、これまで君を傷付けた奴らにもたっぷり俺とティティで制裁を……」
「!!」
ダグラス様がゾッとするくらいの冷たい顔で物騒な事を言い出した。
心なしか周囲の温度もぐっと下がった気がする。
(こ、氷が見えた!)
私は慌てて聞き返す。
「ま、待って下さい? ダグラス様もティティも、何故そこまで……?」
「にゃーーーん!」
「何を言っている? 君はもう俺の大事な家族の一員だろう?」
「にゃ!」
(家族……?)
その言葉にドキッと胸が大きく跳ねた。
国から追い出された時に私が失くしたもの……家族。
「ティティは俺の家族……なんだろう? それなら、ティティの面倒を見てくれている君は単なる使用人と言うよりも家族だと思っている」
「にゃん!」
「家族を傷付けられたら誰だって怒りを覚えるものだ、違うか?」
「にゃん!」
血の繋がりだけが“家族”じゃない。ダグラス様とティティはそう言ってくれている。
家族だから、私を傷付けた人の事を怒ってくれている?
(嬉しい……)
「……それに、自分でもよく分からないんだが……何故だろうか。俺は君を放っておけない」
「え?」
「にゃ!?」
ダグラス様がそう言って再びティティごと私を抱きしめた。
(あたたかい……)
氷の貴公子様は氷のはずなのに嘘のように温かかった。
「……」
「……」
(また、変な空気になっているわ。そして……)
照れくさくて恥ずかしくてムズムズする。これは、この気持ちは何なのかしら?
などと、考えていたら、
「すまない、苦しかったか?」
「にゃん」
「ティティに、言ったのではなかったんだが……」
「にゃん」
「……苦しかったにゃ……そうか、すまない」
そう言ってダグラス様が、ティティに謝りながら抱きしめていた腕を緩めたその時だった。
「あ……いっ」
「す、すまない!」
ダグラス様の着ていたジャケットの袖のボタンに私の髪の毛の一部が絡まってしまっていた。
「せっかく、今日はいつもと違う髪型をしていたのにな……崩すのは申し訳ない」
「!」
ダグラス様はそう言って絡まった髪を解いていく。
(ダグラス様、気付いてくれていたのね?)
今日は、お出かけという響きに浮かれて、いつもと違う髪型をしていた。
なので、いつもは見せない首を───……
「……ん? あれ?」
絡まった髪の毛は無事に取れたようで、乱れた部分のチェックをしてくれていたダグラス様が変な声を上げた。
「み、乱れちゃいましたか?」
「あ……いや、そうでは無い……髪は大丈夫だ」
そう言ってダグラス様の手が髪から離れる。
「良かったです」
「あ、ああ……」
「にゃ~?」
「ティティさんも心配してくれたの? ありがとう」
「にゃ!」
この時の私は、朝から頑張った髪が崩れていなかった事に安堵していて、ダグラス様がちょっとおかしな様子を見せていた事に気付かなかった。
「……」
そんなダグラス様の視線は、私の首の後ろをじっと見つめていた……
149
あなたにおすすめの小説
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
【完結】全てを後悔しても、もう遅いですのよ。
アノマロカリス
恋愛
私の名前はレイラ・カストゥール侯爵令嬢で16歳。
この国である、レントグレマール王国の聖女を務めております。
生まれつき膨大な魔力を持って生まれた私は、侯爵家では異端の存在として扱われて来ました。
そんな私は少しでも両親の役に立って振り向いて欲しかったのですが…
両親は私に関心が無く、翌年に生まれたライラに全ての関心が行き…私はいない者として扱われました。
そして時が過ぎて…
私は聖女として王国で役に立っている頃、両親から見放された私ですが…
レントグレマール王国の第一王子のカリオス王子との婚姻が決まりました。
これで少しは両親も…と考えておりましたが、両親の取った行動は…私の代わりに溺愛する妹を王子と婚姻させる為に動き、私に捏造した濡れ衣を着せて婚約破棄をさせました。
私は…別にカリオス王子との婚姻を望んでいた訳ではありませんので別に怒ってはいないのですが、怒っているのは捏造された内容でした。
私が6歳の時のレントグレマール王国は、色々と厄災が付き纏っていたので快適な暮らしをさせる為に結界を張ったのですが…
そんな物は存在しないと言われました。
そうですか…それが答えなんですね?
なら、後悔なさって下さいね。
悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜
見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。
ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。
想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。
悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで
渡里あずま
恋愛
アデライトは婚約者である王太子に無実の罪を着せられ、婚約破棄の後に断頭台へと送られた。
……だが、気づけば彼女は七歳に巻き戻っていた。そしてアデライトの傍らには、彼女以外には見えない神がいた。
「見たくなったんだ。悪を知った君が、どう生きるかを。もっとも、今後はほとんど干渉出来ないけどね」
「……十分です。神よ、感謝します。彼らを滅ぼす機会を与えてくれて」
※※※
冤罪で父と共に殺された少女が、巻き戻った先で復讐を果たす物語(大団円に非ず)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
偽聖女の汚名を着せられ婚約破棄された元聖女ですが、『結界魔法』がことのほか便利なので魔獣の森でもふもふスローライフ始めます!
南田 此仁@書籍発売中
恋愛
「システィーナ、今この場をもっておまえとの婚約を破棄する!」
パーティー会場で高らかに上がった声は、数瞬前まで婚約者だった王太子のもの。
王太子は続けて言う。
システィーナの妹こそが本物の聖女であり、システィーナは聖女を騙った罪人であると。
突然婚約者と聖女の肩書きを失ったシスティーナは、国外追放を言い渡されて故郷をも失うこととなった。
馬車も従者もなく、ただ一人自分を信じてついてきてくれた護衛騎士のダーナンとともに馬に乗って城を出る。
目指すは西の隣国。
八日間の旅を経て、国境の門を出た。しかし国外に出てもなお、見届け人たちは後をついてくる。
魔獣の森を迂回しようと進路を変えた瞬間。ついに彼らは剣を手に、こちらへと向かってきた。
「まずいな、このままじゃ追いつかれる……!」
多勢に無勢。
窮地のシスティーナは叫ぶ。
「魔獣の森に入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」
■この三連休で完結します。14000文字程度の短編です。
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
夏灯みかん
ファンタジー
生まれながらに強い魔力を持つ少女レイラは、聖女として大神殿の小部屋で、祈るだけの生活を送ってきた。
けれど王太子に「身元不明の孤児だから」と婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」
追放の道中で出会った冒険者のステファンと狼男ライガに拾われ、レイラは初めて外の世界で暮らし始める。
冒険者としての仕事、初めてのカフェでのお茶会。
隣国での生活の中で、レイラは少しずつ自分の居場所を作っていく。
一方、レイラが去った王国では魔物が発生し、大神殿の大司教は彼女を取り戻そうと動き出していた。
――私はなんなの? どこから来たの?
これは、救う存在として利用されてきた少女が、「自分のこれから」を選び直していく物語。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。
【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜
三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。
「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」
ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。
「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」
メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。
そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。
「頑張りますね、魔王さま!」
「……」(かわいい……)
一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。
「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」
国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……?
即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。
※小説家になろうさんにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる