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第1話 “私” を呼ぶ声
しおりを挟む「…………ア!」
誰かが私に向かって何かを呼びかけている。
それに応えなくちゃ、と思うのに何故か声が出てくれない。
しかも、身体のあちこちが痛いし思うように動かない。
いったい私はどうしてしまったの?
「……リア! リリア!!」
これは男性の声? 声の感じは若い気がする。だけど誰の声なのかは分からない。
「リリア! リリア! 頼むから目を覚ましてくれ!」
呼びかけてくるその声はとにかく必死だった。
どうにかして応えなくちゃって思った。
なのに……
もーー! 何で、この身体思うように動かないの!?
そう強く思った瞬間、ビクッと私の身体が動いた。
これでようやく身体が動かせそうだった。
「……っ! リリア!?」
私の身体が動いた事に気付いたのか、必死に呼びかけていた声が今度は驚きの声に変わった。
そんな声の主を確かめようと、私はそっと目を開けた。
「あぁ、リリア! 良かった!」
そう言ってホッとしたように私の手を握ってきたその人は、金髪で紫の眼をした、ものすごく顔の整った男性だった。
前髪は少し長めで後ろは短髪。瞳は吸い込まれそうなくらい綺麗な紫色だ。
思わず見蕩れてしまった。
「……大丈夫か? リリア!」
「…………」
困ったわ。何か答えたいのだけど声が出ない。
そんな目の前の男性は何も喋らない私を心配したのか、とても不安そうな顔をしている。
コクコク
私はとりあえず、大丈夫だと伝えたくて頷いてみた。
どうやら、それは上手く伝わったらしく、
「とにかく、目が覚めて良かったよ。今、皆にも知らせてくる。医者にも見てもらわないといけないしな、待ってろ」
そう言って男性は腰掛けていた椅子から立ち上がり、私の寝ていたベットの傍らから離れて部屋を出ていこうとする。
「……」
出ていく前に、状況を説明して欲しい……そう思ったけど声が出なかったので、その男性はバタバタと部屋から出ていってしまい、私はそのまま部屋に1人でポツンと取り残されてしまった。
本当に今はどういう状況なの?
目を覚ましてくれって何? 私は眠っていたの?
それにあちこち身体が痛いのも気になるのよね……
───あと、私にはさっきからずっと気になって仕方ない事がある。
これだけは絶対に戻って来たら確認しないといけない。
「リリアーーーー!!」
「!?」
すると突然、部屋の扉がバーンと開き、人が駆け込むようにして入って来た。
(び、びっくりした! ……って、誰?)
駆け込んで来たのは40代くらいの男性と女性だった。
「リリアーー!! 目を覚ましたんだな? 良かった! あぁ、本当に良かった……」
「そうよ、心配したのよ」
そう言ってその2人は私をギュウギュウと抱きしめてくる。
く……苦しい。誰か……た、助けて……
「伯爵も夫人も落ち着きなされ。リリア嬢が苦しそうですぞ」
天の助けとばかりに2人を窘める別の声が聞こえた。
そう言いながらゆっくり部屋に入って来たのは、どこからどう見ても医者にしか見えないご老人だった。
そして、その後ろにはさっきの金髪の男性もいる。
人を呼んでくると言っていたから、彼はこの2人と医者と思われるこのご老人を呼びに行っていたのだろう。
「あぁ、しまった! 悪い、リリア! お前の顔を見て安心したらつい……」
「……ごめんなさいね、リリア」
2人がそっと離れる。
あぁ、やっと息が出来るわ。私はようやく息を吸い込む事が出来た。
そして、全員を見回して、目が覚めた時から……いや意識を取り戻した時からずっと聞かなくてはと思っていた事を伝える為に私は口を開いた。
だいぶ気持ちも落ち着いていたからなのか、今度はちゃんと声が出てくれた。
「あの…………リリア、とは私の名前ですか?」
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