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第3話
しおりを挟む翌朝、泣き腫らした目を冷やしながら、私は学校へと向かう準備をする。
「休んでもいいのよ?」
お母様はそう言ってくれたけど、私は首を横に振る。
私には、お母様やお兄様みたいにシュテルン王立学校を首席で卒業する!
という夢がある。
昨日は早退してしまったから。
卒業試験も迫ってる今、出来れば授業を無駄にしたくないの。
「行ってきます」
心配顔のお父様とお母様に見送られて私は学校に向かった。
「エマ! 昨日はどうしたの!? ……って」
「ケイト……」
学校に着いて最初に私の顔を見て驚きの声を上げたのはケイトだった。
「まさか……」
「……」
察しのいい彼女は私が何も言わなくても何となく感じるものがあったみたいで、とても悲しそうな顔をした。
「ねぇ、エマ。もしかして私、余計な事しちゃった?」
「ううん、そんな事ないよ。私こそ忠告してくれたのに、信じなくてごめんね」
「エマ……」
私が力なく微笑むとケイトが泣きそうな顔になってしまった。
あぁぁ、そんな顔をさせたかったわけじゃないのに……!
「……これからどうするの?」
「うん、それなんだけどー……」
と、私が途中まで口を開きかけた時、後ろから声をかけられた。
「おはよう、エマーソン」
……!
一瞬、胸がチクリと痛んだ。
だけど、私はその痛みを隠してウォレスに顔を向けた。
「おはよう、ウォレス」
「ん? エマーソン。何か顔が……いや、何でもない」
「……」
さすがに、「顔が酷い」とまでは口に出来なかったみたい。それくらいの分別はあったようね……
「ねぇ、ウォレス」
「何だ?」
「私、暫く一人になりたいの」
「は?」
ウォレスは驚いた様な顔を見せる。
「ほら、もうすぐ試験があるでしょう? 私、勉強に集中したいの」
「? なら、いつもみたいに一緒に勉強すればいいだろ?」
ウォレスは不思議そうな顔をして問いかけてくる。
私は首を横に振って答える。
「ほら、卒業試験も近いでしょ? だから今回の試験だって油断は出来ないの。これからは一人で集中したいのよ」
私はニッコリ笑ってそう言った。
ウォレスは私がレーナさんとの関係を知ってしまった事に気付いていない。
だから、何食わぬ顔でこうして私の元へやって来るんだわ。
(最低な人……)
昨夜、お父様とお母様に宥められながら、子供みたいに泣いてしまったせいか、顔はすごい事になっているけれど、反対に私の頭の中はだいぶスッキリしていた。
おかげで私のウォレスへの気持ちはすっかり冷めてしまった。
もちろん、これからも関係を続ける事なんて微塵も考えていない。
だけど、悔しい。
私が見る目が無くて馬鹿だったから騙された。
そう分かってはいてもやっぱり悔しい。
正式に別れる前に彼に何かしら痛い目を見せてやりたい!
──そう。私は彼を見返して復讐してやるわ! そんな事を考えていた。
「さて。復讐と言ってもどうするのが1番効果的なのかしら?」
その日の放課後、私は図書館にいた。
数ある本の背表紙を眺めながら、うーんと頭を抱えていた。
「さすがに、“浮気男に復讐する方法”なんて事が書かれた本がこの学校にあるわけないわよね?」
あったらむしろ逆に驚くわ。
「なら、参考になるのはやっぱりコレかしら?」
そう言って私が手にしたのは“恋愛小説”
正直、今まであまり手にすることの無かった類の話だわ。
ざっと目を通して内容に浮気男が出て来そうなものを選ぶ。
……きっと一番の参考書になるに違いないわ! そう思って。
「…………」
それから。
何冊か読み終えた私は更に頭を悩ませていた。
「さすが創作だわ……私と同じ様な目にあってるのに、どこからともなく颯爽と次のお相手が現れて、あっさり幸せになっているじゃないの!」
浮気男はたくさん出て来たわ。
どっかの王子は浮気相手の女性を横に侍らせて、公衆の面前で婚約者だった女性に「婚約破棄だ!」なんて抜かしてもいたわ。
あれ、阿呆なのかしらね?
だけど、どの話も主人公は浮気して自分を捨てた人よりも魅力的な男性に救われていた。
「つまり、ウォレスを見返すには、ウォレスより魅力的な新しい誰かと恋に落ちるのが1番……?」
なるほど、なるほど。答えが見つかったわ! と思いたかったけど……
「……って、そんな都合の良い相手がコロッと現れるわけないじゃないの!!」
なんて虚しいの……無理よ。そんなの無理だわ。
「そうなると、1番手っ取り早いのはコレね……ただ、見返すというよりも本気で復讐なのでさすがに躊躇うけれど……」
私が今、手にしているのは、『私、自分を捨てた男に復讐します!~悪女と呼ばれても~』という本だった。
題名がピッタリすぎて手に取ってみたのだけど、これは新しい恋より、完全に自分を捨てた男に復讐する物語。
主人公は自分を捨てた男にはもちろん、彼を奪った女性にもこれでもかと嫌がらせをしていく。
「……まさに悪女だわ!」
可哀想な主人公だったはずなのに、どこからどう読んでも悪役にしか思えない。
とんでもない嫌がらせの数々……
「…………復讐ってこれくらいしないと、ダメなのかしら……?」
しかし、さすがにこれは──……
と、私が躊躇したところで、突然後ろから笑い声が聞こえて来た。
「ぷはっ! ずっと我慢してましたが……もう無理です! トランドさん」
「!?」
私が慌てて後ろを振り返ると、そこに居たのは一人の男性。
「鬼気迫る顔で図書館にやって来たから、何事かと思ってずっと注視してましたが、まさか悪女になろうとしているとは……!」
クツクツと笑いながら私に向かってそんな事を言ったのは、
「ラリー先生……」
この学校の中で最も若手の教師でもあるラリー先生だった。
「あー、あなたの独り言で、だいたいの事情は察しました」
「え!?」
なんて事なの! 私ったらそんなに口に出していたの!?
「しかし、復讐なんて物騒な言葉を聞いて、教師として黙ってはいられません」
先生は、とてもとても教師らしい言葉を口にされた。
えぇ、とても教師らしいお言葉だわ……
お言葉なのだけど。
「…………」
「トランドさん。何故、そんな変な目で私を見るんですかね?」
先生が不思議そうに首を傾げる。
どうやら、私の気持ちが顔に全面に出てしまっていたようね。
「だって先生は……」
「?」
この先生、そんな事を言っているけれど私は知っているわ!!
昨年、お兄様が万年2位だった男に卑怯な手を使われてたった一度だけ成績を落としたあの事件!!
お兄様が大好きだったアリアンさんに横恋慕する形でわざと彼女を誘惑してお兄様を動揺させたあのラウルとかいう男!
事の経緯が発覚して、お兄様を馬鹿にされた事に怒りを覚えたアリアンさんは件の男を殴ったわ。
──えぇ、殴ったのよ。それも拳でね!!
とってもとっても有名な話よ。
私はそれを聞いてアリアンさんカッコイイ!! って痺れたわ!!
「昨年、アリアンさんがラウルさんをグーで殴った時に、せめて平手打ちにしときなさい! と言ったの先生ですよね?」
私はじとっとした目で先生を見る。
先生はちょっとビックリした顔をする。
「お? 知ってたのか?」
「当事者の一人の妹ですから。先生、暴力を咎めなかったではありませんか」
「あれは認めたわけじゃない。だがアリアン嬢の気持ちはとっても分かるから賛同しただけだ」
「同じですよ……」
アリアンさんが先生にそう言われたの、と話していたのを聞いた時はとても驚いたわ。なんて豪快な事を言う先生がいるのかしらって!
「だってなぁ、あのやり方は卑怯だろ。人の恋愛感情を弄ぶようなヤツを無罪放免にはしたくなかったんだよ。まさか拳で殴るとは思わなかったけどな。アリアン嬢……すごいヤツだったよなぁ」
「先生……」
「そういう意味でも、今回のエグバートくんのした事も、もちろん許せないからトランドさんの気持ちは分かるんだけどな」
先生はウンウンと頷いている。
それよりも、私はさっきからどうしても気になって仕方のない事があった。
「先生……あのー……」
「何だ?」
「口調がですね……」
「口調?」
そこまで聞いて先生はハッとした顔をする。
ようやく今の今まで自分の発してた口調の変化に気が付いたみたい。
「やべ!! つい!」
「ふふふ!」
とたんに顔を真っ青にする先生がおかしくて、私は思わず声を出して笑ってしまった。
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