【完結】私の初めての恋人は、とても最低な人でした。

Rohdea

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第4話

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「ダメ」
「これもですか!?」
「それもダメだ」
「うぅ……ラリー先生、酷いです!  これでは私、ウォレスに復讐が出来ません!」

  私は目の前の先生に向かってそう叫ぶ。

  先日、うっかり図書館で「復讐したい!」なんて独り言を大きな声で発してしまっていた私は、そのままラリー先生に監視される事になってしまった。

  

「そもそも、何で参考にするのが恋愛小説なんだよ!?」

  と、呆れられ、

「このまま目を離すと本気で何をしでかすか分からない!  どうしても復讐とやらがしたいなら、まずは俺に実行したい内容を話せ。内容によっては許可してやる」

  と、完全に危険者扱いされてしまい、ウォレスに復讐を実行するには先生の許可が必要になってしまった。


  なので、あれから私は仕方なく復讐内容と計画を思いつく度に先生の元を訪ね、許可を得るための説明を繰り返している。
  なのに!!  先生は全部ダメだって言う。
  どれも許可が降りれば即実行するつもりなのに!

「毎日毎日アレもコレもダメだ!  しか言われないなんて、私はどうすればいいんですか?」
「……復讐を諦めるっていう選択肢は無いのかよ……」
「ありません!」

  最近、気付いたわ。この先生私が何を示しても許可する気が無いのでは??
  
  “よし、それならやってもいい”

  最近は先生に、どうにかその言葉を言わせたくて復讐の内容を考えているような気がするわ。ここまで却下されるなんて悔しいんだもの!




  そんなラリー先生。
  あの日、うっかり素で喋ってしまった事から、私の前では完全に地で喋るようになっていた。

  (まさかこんなに口の悪い先生だったなんて。知らなかったわ)

  私としてはこっちの先生の方が取っ付きやすくていいと思うけれど、教師として色々あるそうなので黙っていてくれと言われてしまった。
  教師の世界も色々と大変みたい。


「だいたい、なんなんだよ?  この悪口を書いた紙を机の中に入れ続けるって」
「え?  地味に嫌かなと思いまして!」

  子供のイタズラみたいだけど、ずっと続けば気味悪くなると思うのだけど。

  本当は何でもいいの。
  復讐なんて言い方してしまったけれど、とにかく、ウォレスが嫌がりそうな事を実行したいだけなんだもの。
  ちょっとだけでも痛い目みせてやりたいのよ。


「そんなん筆跡でバレんだろ」
「あ……」
「……ったく、そんなチマチマした嫌がらせなんて考えてないで、男を見返すんなら、自分を磨いて捨てた事を後悔させた方がいいんじゃないか?  イタズラするよりよっぽど前向きだろ?」
「自分を磨く?」
「そうだよ。最初に参考にしようとしてた恋愛小説にもあったろ?  主人公が自分磨きをしていい女に成長するような話」
「確かにそれはありましたけど……」

  ……あれは、確かブスだと言われて振られてしまった主人公が、キレイになって見返してやる!  って話だったかしら。
  捨てた男はキレイになった主人公を見て振った事を後悔して、やり直したいって縋り付いて来るのだけど、主人公はけちょんけちょんにしてたわね。
  確かにスカッとしそうではあるけど……

  ……でも、状況が違うわ。私に縋り付くウォレスを見たいわけじゃないもの。
  彼は私をお飾りの妻にする事が目的なのだから、私と別れる気なんて無いんだもの。

  それに……あの話は新しい恋をしたから主人公はキレイになっていったわ。
  だから、そこも私には無縁ね。



  だけど、自分磨くなんて考えた事も無かった。具体的にはどんな事をするのかしら?
  私はうーん、と考える。
  自分の復讐内容に向かないと分かっていても、一旦気になりだしたら追求してみたくなる私の癖が発動していた。

  確か、小説では内面と外見の両方を磨いていたっけ。
  内面って難しいわ。心の持ちようだもの。外見はー……

「先生!  外見を磨く場合は肌の手入れとか、髪の手入れくらいしか思い浮かびません!  でもいつもしてる事です」
「まぁ、貴族令嬢だからなぁ……その辺はすでに手厚くされてるよな」

  私の返答に先生が苦笑する。

「はい。我が家の使用人は完璧です!」
「だよなぁ、綺麗な髪だもんな」

  先生はそんな事を言いながら、突然私の髪をそっと手に取った。

「っっっ!?」

  この先生、な、な、なんて心臓に悪い事をするのかしら!?

「お、お母様譲り、なんです……この髪」
「あぁ、あのマリエール夫人か」
「ご、ご、ご存知でしたか!」
「そりゃな」

  動揺してしまい、吃ってしまう。
  それにしても、やっぱりお母様は有名なのね。

「なるほどな、確かにキレイな髪だな。トランド伯爵がいつも見惚れてたっていうのも分かる」

  先生が私の髪を手に取ったままそんな事を口にする。

「え!  どうして先生がお父様の嗜好を知ってるんですか!?」

  えぇ、そうよ。お父様は今でも眩しそうにお母様の事を見ているわよ。

「何を驚いてんだ?  二人の恋物語は世間でも有名だろ。特にこの学校ではな。俺が通ってた頃だってー……」

  私は先生のその発言に更に驚いた。

「先生ってこの学校の出身だったのですか!?」
「そうだが?」

  そうだったのね!?  知らなかったわ!
  思わず興奮した私は食い気味で先生に質問していた。

「卒業生で教師になるって珍しいですよね?」

  この学校の卒業生はエリート候補生。
  卒業後は王宮勤めが圧倒的に多い。
  教師になるという選択はとても珍しい事だった。
  ましてや、ラリー先生は姓が無いから平民。平民の卒業生は大抵が王宮務めを狙う人が多い。

「まぁな………………俺には他に道が無かったからな」

「先生?」

  先生が小さな声で何か呟いたけれどよく聞こえなかった。
  その顔はどこか遠くを見ているようだった。

「何でもない。ほら、今日はもう復讐の作戦考えるのは諦めて今度の試験の勉強したらどうだ?  首席卒業したいんだろ?」

  先生が私の頭を撫でながらそんな事を言う。

「……はっ!」

  そうよ!  復讐も大事だけど、本来やるべき事を蔑ろにするのはいけないわよね。

「では、先生。せっかくなのでこのまま勉強を見てもらえますか?」
「……お前、ちゃっかりし過ぎだろ。なんなんだよ、その変わり身の早さは!」

  先生が呆れた顔で私を見る。

「残念だが、一教師として一生徒のみに肩入れは出来ない」
「今更、それを言います!?  もちろん分かっていますよ!  ですが、生徒の質問に答える事は教師のお仕事の一つだと思います!  と、いう訳で質問です。ここなんですけど……」

  そう言って私は教科書を広げ、どうしても理解出来ずに困っていた箇所の質問を始める。ちょうど良かったわ。

  先生は何故かポカンとした顔をしていた。

「……」
「先生?  どうされました?」
「いや、何でもねぇ……ったく。仕方ねぇな。分からないのはどこだって?」
「ここです、ここです!  どうしても公式に当てはめてみても解けなくてー……」

  先生はぶつくさ文句を言いながらも、何だかんだできっちり最後まで面倒を見てくれようとする。
  私は何だかそれがとても嬉しかった。




 
  その後は、私は問題集を解きながら、分からない事はその場で先生に質問をしながら黙々と机に向かっていた。


  それなりに時間が経ち──

  
「……おい。熱中してるところ水を差すようだが……帰りの時間はいいのか?」
「へ?」

  先生の声で机から顔を上げると、なんと帰宅時間が迫っていた。

「ひゃぁ!  大変、お迎えが来てしまいます!」
「お、おい!  落ち着け。そんな慌てるなよ」

  そう言われても。
  私は慌てて帰宅の準備を始める。
  でも、急がないと待たせてしまうわ。
  色々心配かけてしまっているお父様とお母様にこれ以上の心配はかけたくないもの。



「先生、ありがとうございました!  ですが、明日こそはちゃんと復讐計画のどれかには許可をくださいね!  それでは明日もよろしくお願いします!」
「はぁ? 明日もって決まってんのかよ!?  おいっ、こら!」

  それだけ言って私は慌てて教室を後にした。




  早足で廊下を歩きながら私は考えていた。

  (……ふふ。明日は先生に何の計画を持っていこうかしら?)

  どんな顔して却下してくれるのかしらね。楽しみだわ!


  ──成り行きで始まった先生との時間が思いの外楽しくて、本気で目的が変わりつつある事にこの時の私はまだ気付いていなかった。


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