【完結】憧れの人の元へ望まれて嫁いだはずなのに「君じゃない」と言われました

Rohdea

文字の大きさ
9 / 34

9. 参加することにした

しおりを挟む


 パーティーへの招待状が届いたということで、私は公爵様に参加すべきか否かの相談をした。
 ナイジェル様はとてもパーティーなんて行ける容態ではないので、一緒に行くことは出来ない。

「私、一人でも参加した方がいいものなのでしょうか?」
「……」

 公爵様は招待状を見ながら考え込んでいた。

 招待を受けたパーティーそのものは大きな規模のものではない。
 エスコートも不要という。

「まぁ、いつもの流れで我が家にも招待状をくれたのだろうが……」
「……」

 けれど、結婚したばかりの私の名前も招待状に載っている。
 つまり、相手はナイジェル様が療養中であることも、結婚したことも分かったうえで送って来ている。
 それが意味するのは……

「だが、ナイジェルの結婚について知りたい、話を聞きたい……という目的が透けて見えるな」 
「……やっぱりそうですよね?」

 そうなると、参加したらどんな目にあうかは簡単に想像がつく。
 それはそれで、少し面倒ねと思った。

「欠席しても構わないが、もしマーゴット嬢の親しい友人も参加するから会いたいというなら──」

 公爵様は、気を使ってそう言ってくれたようだけど私は首を横に振る。

「いいえ、ご安心を!  これまでの私のパーティーの過ごし方はもっぱら“壁の花”でした!  ……ですから、親しいと呼べるほどの友人は…………いません!」

 私は胸を張ってそう答えたけれど……
 どうしてかしら?  何かを盛大に間違えた気がする。

「……!  そ、そうか。す、すまない……」

(こ、これは胸を張って言うことではなかったわ……)

 公爵様が気まずそうに申し訳ないと頭を下げた。
 私はその様子を見ていて、はたと気付いた。

(ああ!  こういう時の表情とか頭の下げ方がナイジェル様とそっくり……!)

 さすが親子!

「えっと、それで今回のパーティーですが……」

 ちょっと思考が逸れてしまったけど、今回のパーティーはフィルポット公爵家にとって絶対に参加しなくてはいけない関係の相手でもなく、ただ結婚について根掘り葉掘り聞きたいだけならば無理に参加せずとも……
 そう思って断ろうかと言いかけた時だった。
 ふと、思い出す。

(そういえば──この主催者となる家の令嬢と“マーゴ嬢”は仲が良かった気がする)

 もしかして、マーゴ嬢が参加するかもしれないわ!
 これまでは互いに何となく避けてきた所があるけれど……
 私はもう、プラウス伯爵令嬢ではないのだから、紛らわしいとは言われないわよね?
 もう“じゃない方のマーゴ”ではないもの。

(それなら、彼女と話がしてみたい……)

 ナイジェル様の想い人がどんな方なのか……知りたい。
 そう思ってしまった。


「あの!」
「どうした?」
「やっぱり……そのパーティー、参加してみてもいいですか?」
「え?」

 私の言葉に公爵様は驚いた顔をした。




「……苦い」
「もう!  ナイジェル様?  また、そんな子どもみたいなことを言っているんですか?」

 今日も体力強化によいお茶を淹れてナイジェル様に手渡した。
 一口飲んだナイジェル様からはいつもと同じ言葉が返ってきた。

「苦いものは苦いんだ……くっ」
「あ!」

 そんな文句を言いながらも、ナイジェル様は今日もきっちり飲み干していた。

(やっぱり律儀な方だわ…………頑張って飲んでくれたのだから、効果があるといいのだけど)

「はぁ、身体にいいことも分かっている……が、苦い」
「申し訳ないですけど、こればっかりは私にはどうすることも出来ないです」
「……分かっている!  だが!  マーゴット嬢!」
「は、はい?」

 なぜか改まった感じで名前を呼ばれたので、少しびっくりした。

(何かしら?)

「そ、その、色々と、あ…………とう」
「!」

 ナイジェル様は顔を赤くしてプイッと顔を逸らしながらそう口にした。
 正直、最後の方はかなりの小さな声だったので、はっきり聞こえなかったけど、何を言ったかは分かったわ。

 ───ありがとう。

 少しぶっきらぼうな物言いだったけれど、胸の奥がじんわりする。

(頬が熱い……)

 なんだか照れくさくなってしまったので、話を変えることにした。

「あ、えっと……そ、それでですね?  公爵様にも話したのですが、私、今度パーティーに参加することにしました!」
「パーティー?  だが俺は……」

 ナイジェル様が驚きの声を上げた。

「あ、はい。パートナーのエスコートは必須ではないそうなので大丈夫です」
「だからと言ってさすがに一人で参加……というのは心配だ。変な輩も多いし……」

 気のせいかしら?
 ナイジェル様が過保護な父親みたいなことを言い出した。
 なんだかんだで優しいなぁ、と思う。

「それも大丈夫です。公爵様も一緒に参加してくれますから」
「父上が?」
「だから一人ではないのでご安心を」

 パーティーに参加したいと言った私に公爵様はそれなら自分も参加すると申し出てくれた。

「そ、そうか……」
「ですが、おそらくパーティーでは結婚について根掘り葉掘り聞かれるだろう……と公爵様も言っています」

 ナイジェル様はハッとして俯いた。

「……すまない」
「ナイジェル様には申し訳ないのですが、私のような冴えない女が公爵家の嫁として大々的に紹介されてしまいます」
「冴えっ!?  君はなにを言っ……!  うっ……ケホッ……」
「ナイジェル様!」

(大変!  発作!?)

 私は慌ててナイジェル様に駆け寄って背中をさする。

「す、すまな……い……ケホケホッ」
「いえ、私こそ。興奮させてしまったみたいで……」

 ずっと見ているだけだった人のそばにいる……と思うと、ついつい色々な話がしたくて喋りすぎてしまうわ。
 気を付けないと……

 そう思った私だけど、そのパーティーにマーゴ嬢も参加するかもしれない、とはナイジェル様に言えなかった。




 そして、パーティーの日。

「やはり……こうなったか。すまないな、マーゴット嬢……いや、マーゴット」
「……」

 公爵様と共に会場に入るなり、一斉に視線が私に集中した。

 ───フィルポット公爵家……
 ───突然の結婚
 ───ナイジェル殿は療養中のままらしい
 ───なぜ、プラウス伯爵令嬢が?

 やはり、これまでなんの接点もなかった私が突然、結婚相手として名前が上がったことには疑問があるらしい。
 そして、微かに聞こえる“じゃない方”という言葉───……

(この声が上がるということは。やはりマーゴ嬢はこの場にいるんだわ)

 そう思って辺りを見回してみたけれど、近くにいる様子はなかった。

「どうした?」
「いえ……大丈夫です!」

 公爵様が心配そうな顔で私のことを見たので、笑顔で大丈夫と答えた。




 その後は主催者への挨拶を終えて、自由に過ごす時間……となったのだけど。
 公爵様はあっという間に人に囲まれてしまったので、私は少し離れた所で全力で壁の花となっていた。

(すごいチラチラ……) 

 一気に質問攻めに合うかもと覚悟していたけれど、そんなことはなかった。
 ただし、視線はすごく痛い。
 おそらく皆どう話しかけようか迷っている……そんな感じがした。

 そんな時だった。

「あの……」
「はい?」

 横から可愛らしい声に声をかけられて振り向いた。

(──あ!)

 思わずそんな声を上げそうになり、慌てて自分の口を塞いだ。

「えっと、突然ごめんなさい?  プラウス伯爵家のマーゴット様……ですよね?  ご存知かもしれませんが、私はマーゴ・プラウズと言います」
「……」


 ───まさかの私への最初の突撃者はマーゴ嬢だった。

しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。 でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。 加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。

【完結】想い人がいるはずの王太子殿下に求婚されまして ~不憫な王子と勘違い令嬢が幸せになるまで~

Rohdea
恋愛
──私は、私ではない“想い人”がいるはずの王太子殿下に求婚されました。 昔からどうにもこうにも男運の悪い侯爵令嬢のアンジェリカ。 縁談が流れた事は一度や二度では無い。 そんなアンジェリカ、実はずっとこの国の王太子殿下に片想いをしていた。 しかし、殿下の婚約の噂が流れ始めた事であっけなく失恋し、他国への留学を決意する。 しかし、留学期間を終えて帰国してみれば、当の王子様は未だに婚約者がいないという。 帰国後の再会により再び溢れそうになる恋心。 けれど、殿下にはとても大事に思っている“天使”がいるらしい。 更に追い打ちをかけるように、殿下と他国の王女との政略結婚の噂まで世間に流れ始める。 今度こそ諦めよう……そう決めたのに…… 「私の天使は君だったらしい」 想い人の“天使”がいるくせに。婚約予定の王女様がいるくせに。 王太子殿下は何故かアンジェリカに求婚して来て─── ★★★ 『美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~』 に、出て来た不憫な王太子殿下の話になります! (リクエストくれた方、ありがとうございました) 未読の方は一読された方が、殿下の不憫さがより伝わるような気がしています……

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。  そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ…… ※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。 ※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。 ※この作品は小説家になろうにも投稿しています。

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?

宮永レン
恋愛
 没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。  ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。  仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

【完結】やり直しの人生、今度は王子様の婚約者にはならない……はずでした

Rohdea
恋愛
侯爵令嬢のブリジットは、大きな嘘をついて王太子であるランドルフの婚約者の座に収まっていた。 しかし、遂にその嘘がバレてしまう。 ブリジットの断罪の場で愛するランドルフの横にいたのは異母妹のフリージア。 そのフリージアこそがかつて本当にランドルフが婚約に望んだ相手だった。 断罪されたブリジットは、国外追放となり国を出る事になる。 しかし、ブリジットの乗った馬車は事故を起こしてしまい───…… ブリジットが目覚めると、なぜか時が戻っていた。 だけど、どうやら“今”はまだ、ランドルフとの婚約前。 それならば、 もう二度と同じ過ちは犯さない! 今度は嘘もつかずに異母妹フリージアをちゃんと彼の婚約者にする! そう決意したはずなのに何故か今度の人生で、ランドルフから届いた婚約者の指名は、 フリージアではなく、ブリジットとなっていて───

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

処理中です...