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2. 真実の瞳の力に目覚めた日
しおりを挟む突然、目覚めた私の特殊能力は“真実の瞳”という能力でした。
この力はその名の通り、目が合った人物の発言が本当なのか嘘なのかを見抜けてしまう力。
この瞳を持つ人は珍しく、また、力の内容からどうしても忌避される傾向にあります。
ですが、私の“真実の瞳”の力はそれだけではありませんでした。
更なる特殊な力があり、そのせいで私と両親の関係は───……
───いいか、リリーベル!
こんな気持ち悪い力と目を持ったお前の価値は、王子の婚約者ということだけだ!
そのことをこれからも肝に銘じておけ!!
特殊能力に目覚めてからというもの、私はお父様とお母様に毎日、毎日そう言われて続けてきました。
───お前のせいだ! リリーベル。何が真実の瞳だ! こっちを見るな!
───お前のせいよ、リリーベル。ああ、嫌だ。こっちを見ないでちょうだい? 何でも見透かすその目、本当に気持ち悪いわ!
(気持ち悪い……)
───父上、母上、いい加減にしてくれ! どうしてリリーにそんなことを言うんだ! リリーの目は気持ち悪くなんかない! とても綺麗じゃないか!
家族の中で、お兄様だけがそう言って私のことをいつも庇ってくれました。
両親が私の目を“気持ち悪い”と言った理由は、力の発動時には瞳の色が変わるからです。
私の普段の瞳の色は青色ですが、力の発動時は金色になります。
お父様たちはそれを気味が悪いといつも私に聞こえるように言っていて……
私は気持ち悪い子なの?
両親の言葉は、力に目覚めて戸惑っていた、まだ十歳だった私に深く深く突き刺さりました。
─────
私が力に目覚めた日。その日は私の十歳の誕生日でした。
『ねぇ、お父さま? ティファってだれ?』
『なに!?』
昼食を一緒に食べていた時、いつもより機嫌がよくて浮かれている様子のお父様を見ていたら、突然頭の中に聞こえて来た言葉を私はそのまま口に出してしまいました。
この時はまだ、力のことも何も分かっていなくて、てっきりお父様が口に出した言葉だと思いましたから。
ガタンッ
パリーンッ
しかし、椅子を蹴って勢いよく立ち上がったお父様の顔はみるみるうちに真っ赤になり、お母様は飲んでいたお茶のカップを床に落としてしまいました。
(え……なに? もしかして聞いてはだめなことだった?)
二人の異様な雰囲気を感じ取ってそう思った時には既に時遅く……
『リリーベル……お前……なぜ、その名を! どこで知った!?』
『え? だってお父さまが今……昨夜のティファはとっても可愛かったな、って言ったから誰なんだろうって……』
『なっ!』
お父様の顔がクワッと怖い顔付きになりました。
(え……なに?)
私は怖くて恐怖で震えました。
そして、私の横でお母さまが叫び出したのです。
『あなたーーーー! どういうことなの!? あの女とは縁を切ったと言っていたじゃありませんか!』
『ま、待て! は、話せばわかる……』
『話せば分かるですって? ふざけないで頂戴!』
私は突然始まったお父さまとお母さまの喧嘩にひたすら怯えていました。
『あの小娘とは二度と会わないと言ったのに嘘つき!』
『う、嘘じゃない! ちゃんと別れた!』
(────嘘)
『それなら昨日の夜、帰って来なかったのは?』
『もちろん、泊まりでの仕事だったさ! な、リリーベル!』
お父さまは、私とお母さま両方の顔を見ながらそう言いました。
(────これも嘘)
本当はティファと過ごしていたんだって言うお父さまの声が聞こえてきました。
『嘘よ! 怪しいわ……』
『くっ……怪しいと言うなら、お前だって最近新しいドレスだの宝石だのを頻繁にねだってくるが、何をそんなに必要なんだ! お前こそどこかの若造に入れ揚げているんじゃないだろうな!?』
『まあ! 何を言っているの? 私には公爵夫人としての社交があるのだから当然でしょう? ね、リリーベル。あなたもそう思うわよね?』
お母さまが私に同意を求めるように顔を向けたので目が合いました
(────嘘)
本当は最近どこぞのパーティーで出会った若くてかっこいい男性に貢ぐのにお金が必要なのよって言うお母さまの声が聞こえてきました。
『だいたいお前はいつも───』
『あなたこそ、あんな身体だけの若い女にいつまで溺れて……!』
私の頭、どうしちゃったの?
なんで二人がたくさん嘘をついているって分かってしまうの?
(怖い……助けて……お兄さま、イライアスさま!)
自分の身に何が起きたのか分からず私はずっとお兄さまと婚約者の名前を心の中で呼びながら、とにかく震えていました。
やがて、一通りお互いのことを罵り合い続けたお父さまとお母さまは、大きなため息と共に『なんでこんなことに……』と呟くと、同時に私へと視線を向けました。
(───!)
その瞬間、二人の声が同時に頭の中に響いてきました。
───リリーベルが余計なことを言いやがったからだ……許せん
───そもそも、この子が変なこと言い出したからよ
さっきまであんなにお互いのことを悪く言っていたのにこういう時だけは同じことを思うのね……
そう悲しくなったことを覚えています。
(今日は私のお誕生日だったのに……)
朝一番にイライアスさまからプレゼントを貰って嬉しくてはしゃいでいたら、それを見たお兄様が、今日は授業があるから学校に行かなくちゃいけないけど、すぐに帰って来て俺もお祝いする! 殿下よりいいものを買ってくる! だからいい子で待っていろ!
そう言ってくれたのに。
(それどころじゃなくなっちゃった……私がいい子じゃなかったから?)
その後、両手いっぱいのプレゼントを抱えて帰宅したお兄さまがすぐに私の異変に気付いてくれて、すぐに私の鑑定が行われ───かなり特殊な真実の瞳の力に目覚めたことが分かりました。
────……
「リリー」
「お兄様?」
私が過去に思いを馳せていたら、お兄様がポンッと私の頭に手を置いて優しく撫でてくれました。
「リリー。俺からすればお前はまだまだ子供だよ」
「……っ」
「それから、イライアス殿下……のことだけど」
「……殿下のこと?」
お兄様の表情を見て、先程お父様が口にした“不仲説”を気にしているのだと分かりましたわ。
「リリー、あのな?」
「?」
「……いや、駄目だ。こういうことは外野が口を出すと何故か拗れていくんだ」
お兄様が珍しくよく分からないことを言っていますわね。
どうしてしまったのかしら?
「いいか、リリー。何かあったら俺でもマルヴィナでも構わないから隠さずに言うんだぞ?」
「お兄様……」
お兄様はそう言ってくださいますけれど……
今日から正式にお兄様には新しい家族が出来たんですもの。
さすがにこの先も今までと同じように好き勝手に私がお兄様に甘えることなんて出来ませんわ。
そう思った私はお兄様の言葉に曖昧に微笑むことしか出来ませんでした。
その後、お兄様は愛しのお義姉様の元に戻り、また私は一人になります。
皆様、私の瞳のことを知っているから、なかなか近寄って来ません。
(昔ならともかく、今は力を制御出来るから勝手に心を覗いたりしませんのに……)
そう思った時、また後ろから声をかけられました。
「リリー……」
「!」
私を“リリー”と呼ぶ人は限られています。
(お兄さまとマルヴィナお義姉様と……もう一人)
私は背筋を伸ばし、淑女の完璧な笑顔で振り向きます。
だって、この方にみっともない顔は見せられませんもの!
「……どうされましたか? 殿下?」
(婚約者であるイライアス殿下だけ───)
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