【完結】来世では必ず添い遂げようと最愛の恋人と誓った私は、今度こそ二人で幸せになりたい

Rohdea

文字の大きさ
4 / 21

4. 記憶は無いけれど

しおりを挟む


「え、えっと?」

  何故、彼がここにいるのかしら?  と、私は戸惑う。

「ここは医務室。覚えてる?  君は突然倒れた」
「え?  あ、はい……覚えています」

   突然、ぐるぐる視界が回って気持ち悪くなった。
   夢見は最悪だったけれど、目眩そのものは落ち着いたのか今は大丈夫そうだった。
  
「す、すみません。驚かせてしまいましたよね?」
「目の前で人が倒れればね、驚くよ」
  
  全くもってその通り。

「それで、さっきまで先生がいたんだけど」
「え?  そうだったのですか?」
「あぁ。貧血起こして目眩発作か何かだろうと言っていた」
「そ、そうなんですね……ありがとうございます」

  自分の事も大事だけれど、私はずっと気になっている事を聞かなくてはと思い訊ねる事にした。

「あの!  ディギュム侯爵令息様……」
「ルーセントで構わないよ」
「……ル、ルーセント様、あ、あなたは、何故ここにいらっしゃるのでしょうか?」
「え?」

  何故かルーセント様は驚いた顔を見せた。

「そんなの決まってる。俺が君をここまで運んだからだよ、フリージア・キャルン侯爵令嬢」
「…………え?」
「だから、倒れた君を俺が運んだ──……」

  (運んだですって!?)

「お、重っ」
「……くはなかったよ?」
「っっ!」

  私の頬にどんどん熱がたまっていく。今、絶対私の顔は赤い。

  (私ったら彼になんて事をさせてしまったの!)

「なっ!」

  顔が赤くなった私を見たルーセント様が何故か言葉を詰まらせる。
  そして、恥ずかしそうに言う。

「な、何でそこで赤くなるんだ!?」
「え?  そ、それは……」

  その先が言葉にならない。

「……あぁ、もしかして俺のせい?」
「え?」 
「だって、そうだろう?  君は──」
  
  と、何故かそこで私の顔をまじまじと見つめてくるルーセント様。
  ドキッと胸が大きく跳ねた。

  (もしかして、私がアマーリエだと気付いてくれた?)

  だって、顔が赤いのは貴方を意識してしまったから。

「あのね、わた……」
「───キャルン侯爵家の令嬢だもんな」
「……え?」

  デュカスこと、ルーセント様はうんうんと頷きながら言う。

「敵対する家の息子なんかに助けられたと知られたら、家族……特にキャルン侯爵に怒られてしまう。すまない……俺の配慮が足りなかった。だからと言って倒れてる君を放っておくのも嫌だったんだ」
「あ……」

  違った。
  アマーリエの事を思い出して、私だと気付いてくれたわけでは無かった。
  その事にがっかりしながら、改めて思い知る。

  (デュカス……今世の彼は敵対する家の息子なんだわ───)

  既に色々手遅れだけど、お父様に絶対に口を聞くな!  と命令された相手。
  ───でも。

  (そんなの関係無い)

  デュカスの生まれ変わりだからって事だけではなく、ルーセント様は絶対に良い人だ。

  (悪く言っていい人なんかじゃないわ)

「わ、私は、た、助けてくれた相手を悪くなんて、言いたくありません」
「え?」
「お父様に知られたら、確実にお、怒られるとは思いますが……私はルーセント様を悪くなんて思いたくありません」
「……!」

  ルーセント様の目が大きく見開かれたと思ったら、何故かすぐに笑顔になる。

  (───!!)

  その笑顔は反則!!
  心臓が飛び出すのではないかと思うくらい私の胸がドキンッと跳ねた。
  
「そっか。そう言って貰えて嬉しいよ。俺も……君の事を悪くは言いたくないし思いたくないな。キャルン侯爵令嬢……いや、フリージア嬢」

  ルーセント様が笑顔でそんな事を口にしながら、優しく私の頭を撫でた。
  ますます私の胸がトクンッと高鳴る。

  (……あぁ、そうだった。この頭を撫でる仕草はよくデュカスが私にしてくれたの……)

  手つきが全く一緒……
  記憶があっても無くても、容姿が全くの別人でもやっぱりルーセント様は、デュカスなんだと思わされた。

「ん?  フリージア嬢、すまない。頭のリボンが乱れている……」
「え?」
 
  そう言ったルーセント様は手際よく私の頭のリボンを結び直してくれた。

  (!!)

  再び思い出す過去の記憶。

『───お嬢様、また頭のリボンが曲がってますよ?』
『あら?  ふふ。ならデュカスが直してくれる?』
『……私の仕事じゃないと思うんですけどねぇ』
『えぇ?  良いじゃない。デュカスは器用なんだから』
『仕方が無いお嬢様だ』

  そう言って彼は何だかんだでリボンを結び直してくれた。

  (デュカス……)

「あ、ありがとうございます、ルーセント……様」
「いや……こちらこそ、勝手にすまない。だが普段は人のリボンなど気にならないのに何故か妙に気になってしまった。何でだろうな……」
「!」

  期待しすぎるのは良くないと思うけれど、ルーセント様も心のどこかで“アマーリエ”の事を覚えているのかしら?  その言葉についつい淡い期待を抱いてしまう。

  (覚えていて欲しい……)  

  だって、あの時。
  来世では必ず、必ず添い遂げようって。
  今度こそ二人で幸せになろうって……約束した。

  ……ポロッ

  そんな最期の時を思い出してしまったからか、私の目から涙が溢れた。

「フリージア嬢!?  な、な、何で涙……!?」
「え……あ、す、すみません……私……」

  見るからにルーセント様が困っている。
  突然泣き出して、絶対何だこいつと思われている。

「……な、泣いている女性を慰める方法なんて知らないし……ど、どうすれば泣き止んでくれるんだ!?」
「……」

  そんな事を言いながら慌てているルーセント様の様子が可愛く見えて、泣いていたはずの私は今度はクスッと笑ってしまう。

「ちょっと待て!  今度は何で笑う!?」
「……ふ、ふふ、何で、でしょう……?」
「くっ!  フリージア嬢…………いや、フリージア!!」

  (名前……!)

  それだけで私の胸が高鳴る。
  どこか悔しそうなルーセント様の様子が面白くて私はいつの間にか泣き止んでいてそのまま笑っていた。



「あ!  そう言えば……入学式!」
「……サボってしまったな」
「……」
「……」

  (ルーセント様までサボらせてしまった……)

「ごめんなさ……」
「まぁ、構わないだろう?  どうせ、話を聞いているだけのつまらない式だろうし」
「つまらないって……」

  ルーセント様は、あっけらかんとした顔でそんな事を言う。

「あ、でも。新入生代表の挨拶」
「?」
「あれだけは聞いてみたかったかもしれない」
「??」

  理由がよく分からず私は首を傾げる。

「あれ?  フリージアは聞いていないのか?」
「何を?」
「今年の新入生代表の挨拶は、シュバルツ殿下だ」
「……シュバルツ殿下って」

  我が国の王子……第一王子、シュバルツ殿下は謎に包まれている人物。
  何故か幼少の頃から公の場に一切姿を見せない。
  それ故に、昔から様々な噂が囁かれて来たものだけど────

  そんな王子がする挨拶……は確かにちょっと見てみたかったかもしれない。

「私のせいで……ごめんなさい」
「フリージアのせいじゃない。気にするな」

  ルーセント様はそう言ってくれて、また優しく私の頭を撫でた。



  その優しさにまたもやキュンキュンしていた単純な私は知らない。
  この先の私に……いえ、私達に待ち受けている事を。
  そして自分の考えの甘さを───


しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された令嬢リオナは、家の体面を守るため、幼なじみであり王国騎士でもあるカイルと「白い結婚」をすることになった。 お互い干渉しない、心も体も自由な結婚生活――そのはずだった。 ……少なくとも、リオナはそう信じていた。 ところが結婚後、カイルの様子がおかしい。 距離を取るどころか、妙に優しくて、時に甘くて、そしてなぜか他の男性が近づくと怒る。 「お前は俺の妻だ。離れようなんて、思うなよ」 どうしてそんな顔をするのか、どうしてそんなに真剣に見つめてくるのか。 “白い結婚”のはずなのに、リオナの胸は日に日にざわついていく。 すれ違い、誤解、嫉妬。 そして社交界で起きた陰謀事件をきっかけに、カイルはとうとう本心を隠せなくなる。 「……ずっと好きだった。諦めるつもりなんてない」 そんなはずじゃなかったのに。 曖昧にしていたのは、むしろリオナのほうだった。 白い結婚から始まる、幼なじみ騎士の不器用で激しい独占欲。 鈍感な令嬢リオナが少しずつ自分の気持ちに気づいていく、溺愛逆転ラブストーリー。 「ゆっくりでいい。お前の歩幅に合わせる」 「……はい。私も、カイルと歩きたいです」 二人は“白い結婚”の先に、本当の夫婦を選んでいく――。 -

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

「ばっかじゃないの」とつぶやいた

吉田ルネ
恋愛
少々貞操観念のバグったイケメン夫がやらかした

【完結】さっさと婚約破棄が皆のお望みです

井名可乃子
恋愛
年頃のセレーナに降って湧いた縁談を周囲は歓迎しなかった。引く手あまたの伯爵がなぜ見ず知らずの子爵令嬢に求婚の手紙を書いたのか。幼い頃から番犬のように傍を離れない年上の幼馴染アンドリューがこの結婚を認めるはずもなかった。 「婚約破棄されてこい」 セレーナは未来の夫を試す為に自らフラれにいくという、アンドリューの世にも馬鹿げた作戦を遂行することとなる。子爵家の一人娘なんだからと屁理屈を並べながら伯爵に敵意丸出しの幼馴染に、呆れながらも内心ほっとしたのがセレーナの本音だった。 伯爵家との婚約発表の日を迎えても二人の関係は変わらないはずだった。アンドリューに寄り添う知らない女性を見るまでは……。

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

処理中です...