【完結】来世では必ず添い遂げようと最愛の恋人と誓った私は、今度こそ二人で幸せになりたい

Rohdea

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17. 逃げた先は

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「ルーセント様、お、降ろしてください!」
「駄目」
「何でですか??」

  私を抱えたルーセント様は、おそらく彼が乗って来たのであろう馬車へとそのまま乗り込んだ。
  そこでようやく一旦降ろしてもらえる……そう思ったのに何故かルーセント様は私を降ろしてくれずに抱っこしたまま。

「やっと、フリージアに会えたのに何で離さないといけない?」
「え!」
  
  そう言って私を抱く手に力を入れる。

  (やっと。そうね、確かにやっと会えた……)

「ルーセント様、ずっと私に会いに来てくれていましたか?」
「うん。いつ訪ねても門前払いだったから、ダメもとで侯爵に直談判にも行ったけどやっぱり駄目だった」
「……」

  やっぱりだった。
  敵対している家に、更にはその根源でもあるお父様に会おうとするなんて。
  それだけ私の事を想ってくれているのだと分かってとても嬉しい。

「……ありがとうございます」

  私がそう言ってルーセント様の胸に顔を埋めると、彼は優しく私の頭を撫でた。

「フリージア」
「はい」
「会いたかったよ」
「私もです」

  そう言ってルーセント様はそっと私の唇に触れるだけのキスをする。

「あぁ、そうだ。二週間分のキスをしないと」
「えっ!?」

  ルーセント様がそんな(物騒な)事を呟いたと思ったら、びっくりして固まったままの私にたくさんたくさんキスをする。
  頭に髪に額に頬に目元に……
  まるで、私という存在を確かめるかのような沢山のキスの嵐だった。



「んっ……」
「フリージア……可愛い」

  ルーセント様はたくさんキスをしながら真っ赤になった私の耳元でもそう囁く。

「好きだよ」
「わ、たしも……」
「フリージア!」
「ルーセ……」

  馬車の中で二人きりの私達は、時間の許す限り、これまで会えなかった分の寂しさを埋めるようにひたすらお互いを求めた。


──


「そ、そう言えば、どこに向かっているのですか?」

  流されるように屋敷を後にして来てしまったけれど、この馬車はどこに向かっているのかと、ふと気になった。

「さっき、俺に協力してくれたキャルン侯爵家の執事の紹介してくれた家」
「え゙?」

  これまた、予想していない所からの話に変な声が出た。

「ど、どういう事ですか!?」
「フリージアに会いたくて何度も屋敷に通って門前払いをされて……何度目だったかな。あの執事が出て来たんだ」
「……」
「てっきり、非難されると思ったのに彼は俺に頭を下げたんだよ。“旦那様の行動はさすがに目に余る!  フリージアお嬢様を救ってくれ”って」
「!」

  まさか、そんな話をしていたなんて!

「フリージアを匿ってくれる家を用意するからそこに何としても連れ出して欲しいって」
「それが今日?」
「そういう事だ。色々手配に手間取ったのもあって随分遅くなってしまったと謝っていたよ」
「そんな事……」

  (だって、ルーセント様とこうして会わせてくれたんだもの)

「よっぽど侯爵の態度に腹を据えかねていたみたいだ」
「……」

  ルーセント様はそう言ってまた、優しく私の頭を撫でてくれた。
  執事は“フローラ様のように憔悴”と言っていた。
  それに、お父様の様子もおかしくなった。

「……お母様は最期はもしかして心を病んでしまっていたのかしら?」
「フリージア?」
「あ、いえ、何でもないです」
   
  (だけど、私を匿ってくれるのは誰?)

  私は優しく抱きしめられたまま“目的地”へと向かった。






「────着いたよ、ここだ。グランベル伯爵家」
「グランベル伯爵家って」

  ルーセント様の手にエスコートされながら馬車から降りるとそう説明される。
  その辿り着いた家の名前に私が驚いた顔をしたのでルーセント様が不思議そうな顔をした。

「知り合いだった?」
「知り合いも何も……私のお母様の実家です」
「!」
「お母様が亡くなっているから、交流は無いので私は名前しか知らないですが」

  ルーセント様が「なるほど……そうだったのか」と呟いた。

「本当に私を受けいれてくれるのでしょうか?」
「大丈夫だよ。執事を信じよう」

  少し不安になった気持ちをルーセント様に励まされて私はグランベル伯爵家の玄関に向かった。




「まぁ、ようこそ、あなたが私の孫のフリージアね?」
「は、はい。フリージア・キャルンです」

  そう言って出迎えてくれたのはお母様の母親……つまり、私の祖母だった。

「まぁ、まぁ、まぁ!  本当にフローラの若い頃にそっくり!  懐かしいわね。まるであの子が生き返ったみたい」
  
  なんて言われて抱きしめられたので私は心の底から安堵した。

「……あなたは?」

  お祖母様は、私に付き添っているルーセント様を見て首を傾げた。とてもじゃないけれど彼が私に付き従う従者には見えなかったからだろう。

「申し遅れました……ルーセント・ディギュムと申します」

  ルーセント様がそう挨拶をするとお祖母様が「え?」と目を丸くした。

「……ディギュム侯爵……家の?」
「はい」
「そ、そうなのね、では二人は……?」

  その質問にルーセント様ははっきりとした口調で答える。

「今、公の場で言える関係は学院のクラスメート……ですが、フリージアは可愛い恋人で、彼女との未来を望んでいます」
「!」

  お祖母様はとても驚いた顔をし、すぐに小さな声で呟いた。

「ディギュム侯爵家とキャルン侯爵家が……」

  その呟きを聞いてハッと思う。
  ──お祖母様はお父様やお母様、ディギュム侯爵の間にあった出来事の当事者だわ!
  何か知っている事があるかもしれない!

「あの!」
「何かしら?」
「…………ディギュム侯爵様が、お母様の婚約者だったという話は……本当ですか?」

  そう思ったらもう聞かずにはいられなかった。
  執事が私が身を寄せるのにグランベル伯爵家を選んだのも身内だから……だけではなかったのかもしれない。

「え?」
「フリージア?」

  ルーセント様は驚いている様子なのでこの話は知らなかったらしい。
  一方のお祖母様は驚いた顔は見せたものの、すぐに真面目な顔付きになる。

「どこかで聞いたのかしら?」
「はい」
「そう……」
「お祖母様は、ディギュム侯爵様とお父様が何故、犬猿の仲になったのかご存知ですか?  そこにお母様はどう関わってー……」

  私が一度に色々聞こうとしたのでお祖母様は困った顔をする。

「フリージア、落ち着いて頂戴?  ……とりあえず二人とも座りましょう」
「あ……」

  その言葉に自分達が立ったままだった事に気付く。

  (焦りすぎたわ……)

 

  


「───何から話せば良いのかしら?」

  腰を落ち着けた私達に向かってお祖母様がそう口にする。
  グランベル伯爵家の当主である私のお祖父様は、まだ仕事から戻っておらず、帰ってくるまでの間に少しだけ話をしてくれる事になった。

「知っている事を……教えて下さい」
「そう?  では……」

  そうしてお祖母様の口から語られたのは、
  もともと婚約していた侯爵家の嫡男と伯爵令嬢の間に、やはりもう一人の侯爵家の嫡男……つまり、お父様が伯爵令嬢のお母様に一目惚れして割り込んで来たと言う、ある意味単純でもあり、すでに私も予想していた話だった。

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