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第10話 プロポーズ
しおりを挟む私は混乱した。
「っっ!?」
何がどうしてこうなったの?
どうして私は今、ベルナルド様の胸の中にいて抱きしめられているの……?
ベルナルド様はため息と共に言う。
「クローディアは目が離せないし、本当に放っておけない」
「……どういう意味ですか?」
「───そのままの意味だよ」
「……」
何となくだけど、また、お子様扱いされている気がする。
(悔しいわ。そんなに歳は離れていないはずなのに)
「もう、いっその事ずっとヴェールで隠しておきたい」
「……嫌ですよ」
「うん、分かっている」
「!」
そう言って頷いたベルナルド様の私を抱きしめる力が強くなった。
「クローディア…………ごめん」
「はい?」
「頬……力は入れないようにしたけれど、その……」
「……」
さっきのお仕置の事を言っているのだと分かった。
私は内心で苦笑する。
「痛くはなかったですよ。喋りづらかったですけど」
はにかんでそう答えたら、ベルナルド様の腕の力がますます強くなった。
(……なぜ?)
「…………逃げたいと言われるのかと思った」
「逃げる、ですか?」
「身に覚えはないけれど、浮気男と結婚なんてごめんです! そう言われたのかと思ったんだ」
「え? あ、す、すみません……」
浮気男だなんてそんな目で見たつもりは無かったのに。
とんだ誤解をさせてしまった。
(それに、逃げたりなんかしないわ)
だって、私はアピリンツ国には絶対に帰りたくないもの。
私はこのままここで、ベルナルド様と……一緒にいたい……
「クローディア。俺に婚約者はいなかったよ」
「……そ、そうですか」
その言葉に胸がドキッとした。
そして同時に良かった、と思った。
(私、ホッとしてる??)
自分で自分の気持ちに戸惑った。
「……ただし、婚約者候補の令嬢は数名リストアップはされていたけどね」
「あ、そうですよね。それは分かります」
王族として、それが普通。
候補者の話すら出なかった私の方がやっぱり異常なのだと思わされた。
「それから、内緒の恋人も秘密の恋なんていう相手もいない!」
「そ、そうですか」
妙に語気が強めなのが気になったけれど、ここで嘘をついてもしょうがないのでその通りなんだと思った。
そしてやっぱり……
(まただわ、私、その言葉にホッとしている)
「で、最後の“意中の人”は……」
「?」
ベルナルド様は何故かそこで一旦言葉を詰まらせ、少し身体を離して私の事をじっと見つめる。
「……いなかった」
「そ、そうなんですね」
(あぁ、ほら。また私の胸はホッとし……………んん?)
───待って? いなかった? 過去形なの?
その言葉を不思議に思っているとベルナルド様が私の目を見つめたまま話を続ける。
「でも今は……」
「い、今は?」
ゴクリと唾を飲み込む。
ベルナルド様の私を見つめる目が何だかさっきまでとは違う。
その事により胸がドキドキした。
「……」
「ベルナルド……様?」
「クローディア」
名前を呼ばれたと思ったら、その瞬間、私の額にそっと柔らかいものが触れた。
(────え?)
その額に触れた“柔らかいもの”はチュッと音を立てて離れていく。
「!?!?」
「…………」
「べ、ベルナルド様! い、今のは!」
「……口付けだね。額にだけど」
────口付け!!
その言葉に大きな衝撃を受ける。
く、くくくく……
「な、な、何故……ですか!?」
なぜ、こんなことを!?
生まれて初めての事に私は驚き、そして声を震わせる。
「…………したかったから?」
「し!」
そんな欲望のままに!?
その返答に私は焦る。
「それに、クローディアに分かってもらいたくてね」
「分かる? な、何……をですか?」
私のその質問をすると、ベルナルド様はしっかり私の目を見つめてきた。
「俺の妃は君だけだよ、クローディア」
「!」
私はヒュッと息を呑み、ドクンッと心臓が大きく跳ねた。
「わ、私……だけ」
「ここまでの話を踏まえてもしやと俺は思ったのだけど、クローディア。君の事だから自分は側妃になるのかもしれないって思わなかった?」
「!」
図星だった。
どうして見抜かれてるのかしら。
不思議でしょうがない。
「君は側妃ではなく、俺の唯一の妃、ファーレンハイト国の王妃になるんだ」
「ベルナルド様……」
「俺は君を、クローディアを望んでる」
「私、を?」
私が目を丸くしていると、ベルナルド様が優しく微笑んだ。
「クローディア。俺のたった一人の妃になって?」
「!」
ベルナルド様がそっと私の手を取り、手の甲に口付けを落とす。
こんな事をされたら私の胸のドキドキは加速するばかり。
そして、ベルナルド様は手の甲から唇を離すと、私に向かって甘い微笑みを向けた。
「クローディアだけだ。君だけを大切にすると誓うよ」
「っっ!!」
(何これ、何これ……こんなの、こんなの聞いてない!)
お姉様の身代わりでファーレンハイトの王妃になる為にやって来て、でも、すぐに身代わりだってバレて、しかも嫁ぐはずだった相手は悲しい事に儚くなっていて……
でも、ファーレンハイトの国王陛下に嫁ぐのは変わらないまま。
それだけの事だったはずなのに!
(身代わりの世界が、こんなにも甘くて優しい世界だなんて聞いてない!!)
「クローディア?」
私がずっと黙ったままだからか、ベルナルド様の声は少し不安そうになる。
胸がキュッとした。
ベルナルド様の言ってくれたその言葉に応えたい!
───応えなくちゃ!
私は顔を上げる。
そして、しっかりベルナルド様を見つめた。
「ベルナルド様……!」
「……うん」
「えっと、あ、ありがとうございます」
「……」
「とっても、とっても嬉しいです! こ……わ、私、少しでもベルナルド様の助けになれるよう頑張ります」
ついいつもの癖で、“こんな私”と言いかけてしまったけれど、やめた。
だって私は“こんな私”なんかじゃない、“ベルナルド様が望んでくれた私”だから。
「クローディア!」
「!」
破顔したベルナルド様が再び私を抱きしめる。
とっても恥ずかしかったけれど、私はおそるおそる手を伸ばしてベルナルド様の背中に手を回してギュッと抱きしめ返した。
「クローッ……!!」
ベルナルド様は一瞬驚いた様子を見せたけれど、すぐにとても嬉しそうに笑ってくれたので、私もそれが嬉しくて自然と笑顔になった。
───ピシッ
(…………ん? 何かしら? 今、何かひび割れるような音が聞こえた気がしたけれど?)
「クローディア? どうかした?」
「い、いいえ、何も……多分、気の所為だと思います」
「そう? ならいいけれど」
「はい、大丈夫です!」
私は笑顔でそう答えた。
「……」
(気の所為……よね?)
────こうして私がファーレンハイトでそんな“初めての幸せ”を感じていたすぐ後……
アピリンツ国ではとある異変が少しだけ起き始めていた。
「───こ、これは!!」
「なんて事だ……大変だ」
「王宮に……ナターシャ様に報告だ!!」
とある光景を見たもの達がそう口走る。
そして────……
「ナ、ナターシャ様!! わ、我々をた、助けて下さい!!」
「え、な、何ですの!? あなた達……」
突然、押し寄せて来た者達にナターシャは大きく戸惑う。
「た、大変なんです!」
「いえ、こ、こっちもです!」
「ナターシャ様ーーーー!!」
「ひっ……な、なに!?」
アピリンツ国の王宮には、お姉様に助けを求める人々が殺到し始めていた───
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