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第11話
しおりを挟む「私の望みは、トランド伯爵家の次期当主の座を妹であるエマーソンに譲り、自身は一平民となって生きていく事でございます」
レオナールのその言葉に会場内はシーンと水を打ったように静かになった。
は? ちょっと待ってよ。
──今、レオナールは何て言った??
妹のエマーソン様に次期当主の座を譲る?
そして、レオナールは平民になりたい……そう聞こえた。
「……ほぅ? これまた今までに無い願い事だな。これは血筋か? ははは」
陛下が愉快そうな笑い声を上げる。
いや、陛下。笑い事じゃありませんからね??
「これは、両親であるトランド伯爵夫妻、妹に了解を得た上での“お願い”です」
「ほぅ」
「私が平民になりたいと願った3年前から、家族で話し合って決めました」
平民になりたいと願ったのが3年前??
それってまさか……私と会った頃……?
「この国の爵位の継承は、例外を除いて男児のみ。ですが、どうか女性の……妹の爵位継承のお許しをお願いします」
「ははは! そうまでして今の地位を捨てて平民になってまで、そなたには手に入れたいものがあるのだな。本当に面白い一族だ」
「……はい。何に変えても手に入れたいものがあります」
「あいわかった。その望みを聞き届けその話を進めようではないか」
「ありがとうございます」
レオナールのそのお礼の言葉と共に会場内には大きな騒めきが巻き起こった。
****
「初めまして。レオナールの母、マリエールです」
「父親のルカスだ。あー……その、この度は我が息子が……その申し訳ない」
「ルカス! そうじゃないでしょ!」
「いや、だってマリエール……」
私は今、トランド伯爵家を訪れている。
そして、私の目の前に! あの!! お二人が!!
こうしてマジマジと見ると、レオナールはお父様似でエマーソン様はお母様似なのね……
「エマーソンから聞いてるかもしれないけれど、私達はアリアンさん、あなたに本当に感謝してるのよ」
「いえ、そんな……私は!」
「息子が……レオナールが将来平民になりたいと言い出したのはあなたと会ってからすぐだったわ。どうして? と、問い詰めたら、好きになった人が平民だから一緒になるにはこの方法しかないって言い出すんだもの。驚いちゃった」
ふふふ、とマリエール様は笑ってるけど、それ笑い事じゃないと思う。
一大事ですよ、それ!
「同時にエマーソンが、私はずっと当主になりたいと思ってた! とか言い出すもんだからなぁ……」
ルカス様が遠い目をする。
あ、これ絶対、色々大変だったやつ。
何か拍子抜けするくらい二人はあっさりしてるけど、ちゃんと確認しなくちゃいけない。
「あの、お二人は反対はされなかったんですか?」
「「どうして?」」
マリエール様もルカス様も、声を揃えて不思議そうな顔をする。
すごい! 息ぴったり!
……では無くて! いや、その反応。私がビックリなんですけど!?
「あの子が自分で決めた事だもの。反対する理由は無いわ」
「苦労すると分かった上での決断で、しかも反対する周囲をねじ伏せてまで徹底してたからなぁ」
「好きになった相手に一直線な所、ふふ。ルカスにそっくりね?」
「……なっ! そ、それは……いや、マリエールだって……!」
「あら? なら、私達二人に似ちゃったのね」
可愛らしいじゃれ合いをする二人を見て、仲良しだなぁ……噂通りだなぁ……なんて思わず見惚れてしまった。
そして温かい家庭だな、と思った。レオナールがあんなに真っ直ぐな理由が分かった気がした。
「えーと……コホン……それでね? アリアンさんもあの子がいっぱい悩んで考えて出した決断……そしてその為にしてきた努力を理解してくれたら嬉しいわ」
ルカス様とのじゃれ合いを終えたマリエール様が、恥ずかしかったのかちょっと照れながら私に優しく微笑みながらそう言った。
「理解……」
──あぁ、エマーソン様は、この事を言ってたんだとようやく分かった。
「……アリアン」
「レオナール……」
お二人との話を終えた頃、レオナールがノックと共に部屋に入って来た。
マリエール様とルカス様は「二人でしっかり話してね!」と言って部屋を出て行かれた。
「……」
「……」
沈黙。何て口を開いたらいいのか分からない。
「……驚かせたか?」
最初に口を開いたのはレオナールだった。
「うん。すっごく驚いた」
「悪かったな。でも俺は……」
そこまで言ってレオナールは椅子から立ち上がり、私の方へ近づいて来たと思ったら目の前に跪き、そっと私の手を取った。
「!?」
「俺はこの先をアリアンと共に生きて行きたい」
「レ、レオナール……?」
「アリアンはこの後、田舎に戻るつもりなんだろ?」
「え?」
何で知って……その事はひと言も口にしていないのに。
「分かるさ。アリアン、一生懸命あの本読んでたじゃないか。それにそもそもあの日『農業の基本』を手に取った時点で既に考えてた事だったんだろ?」
「……」
「俺を一緒に連れてってくれないか? 一緒にアリアンの家を継がせてくれ」
「~~……」
「アリアン」
「へ、平民だよ? 田舎の農家だよ!? 貴族の坊ちゃんのレオナールには無理だよ……!」
それでいつか、やっぱり平民の生活は無理だったって離れて行かれたら……
その方が辛い。
「……3年前からこっちは、覚悟決めてんのに……まだ言うか。俺の母親は平民だぞ?」
「うっ」
「こんな事も出来ないとやってけないだのなんだの散々レクチャーされたよ。母さん、スパルタなんだよなぁ……まぁ、もちろん実際はもっと、過酷だろうし? 田舎ともなるとまた勝手も違うだろうけどな」
「……リンゴの皮を剥こうとして失敗してたじゃん」
「……ゔっ! アレは……もう大丈夫だ! 剥けるようになった!! めちゃくちゃ上手くなったぞ!」
「だとしても!」
「それでも!!」
レオナールは私の手に自分の手をギュッと絡める。
「俺はアリアンを選ぶ!!」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中に権兵衛さん……レオナールとの手紙のやり取りを思い出した。
『……出来れば私はどんな形でも好きな人と添い遂げたい』
──あれは、そういう意味だったんだ……
全部、全部私に繋がってた……
もう、無理だ。
こんな想いを向けられてこれ以上抗えないよ……
「……レオナール」
「何だ?」
「田舎を舐めないでね」
「……望むところだよ。そうだな、アリアンはー……」
「え?」
「俺の愛を舐めるなよ」
「!?」
そう言ってレオナールは、私を抱き寄せて優しいキスをくれた。
────……
私は手紙を通じて、
顔も名前も知らない人に恋をした。
その人の正体は、
ずっとずっと私を見守ってくれていて、
ちょっぴり素直じゃない、
私の為に人生の大きな決断をしちゃうほどの愛に溢れた人だった。
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございました!
これで、完結です。
前作? にあたる『私の好きな人には~』から、お読みいただいた方も、この話だけを見つけて読んでくださった方もありがとうございます。
当初は関連の無い話で考えてたのですが、途中で二人の息子をヒーローにしてもいいかも……なんて思いこんな形になりました。
また、もう一つの話の雲行きが怪しくなってきてたので、完全に気分転換で書き散らかしました……
レオナールの決断はそう上手くいくもんじゃないぞ! 甘くないぞ!
と言ってやりたいですけど、彼はアリアンがいれば多分何でもやれると思います。
首席卒業者を婿として連れて帰って来た時のアリアンの家族はきっと驚きますね。
そんな妄想しつつ終わろうと思います。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
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