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第10話
しおりを挟むその後、騒ぎを聞きつけた先生達が駆けつけて、
私は、ラウル様をグーで殴った事だけちょっぴり怒られ……
(せめて平手打ちにしとけ、と言われた)
ラウル様とレオナールも、厳重注意を受けてこの件はお開きとなった。
──そして、運命の卒業試験は、当然揺らぐことなくレオナールが首位を飾った。
「おめでとう! レオナール!」
「ありがとう」
さすがだなぁ、って思っちゃうけど、レオナールの努力がこうして身を結んだ事がたまらなく嬉しかった。
「そう言えば、レオナールはご褒美は何を願うの?」
「……え!」
何気無く聞いただけだったけど、何故かレオナールが固まった。
……聞いちゃダメだったのかな?
「前にエマーソン様とお話した時に、既に願い事は決まってそうだったけど……」
「!? エマーソンと話したのか!?」
レオナールが驚いてる。
そう言えば、エマーソン様と話した事言ってなかったかも。
エマーソン様も言ってなかったみたいね。
「あいつ、何か余計な事を言ってなかったか……?」
レオナールが動揺してる。
よっぽど私に知られたくない事があるのかな?
「そんな事は無いけど……あ、でも一つ」
「……何だ!!」
「レオナールの事を理解してくれって言ってた」
「理解?」
レオナールもよく分からないのか困惑の表情を浮かべた。
『その時、最後に願うお兄様の望みを……どうか、他の誰もが理解しなくても、どうかアリアンさんだけは理解してあげてくれませんか?』
──結局、エマーソン様の言ってたあれはどういう意味だったんだろう?
首席卒業のご褒美の願い事と関係あるのは分かったけど。
卒業式に分かるのかな?
「……」
卒業。
もうすぐ私達は卒業する。
だけど、お互い卒業後の進路の話はしていない。
何となく避けてきてしまった。
だって、どうしたって私とレオナールが結ばれる事は無いから。
貴賤結婚の認められないこの国で平民農家娘の私と伯爵家嫡男のレオナールが一緒になる方法は無い。
レオナールもそれを分かってるんだろう。
だから、あの日私の事を好きだと言ってくれたけど、レオナールは肝心の私の気持ちを聞こうとはして来ない。
レオナールが、万が一にも私と結ばれる為に“お願い”で自分の両親のように婚姻の自由を願うとは思えない。
父親であるルカス様があの決断をしたのは、マリエール様が元貴族令嬢だったからだ。
私とは違う。
私には貴族の事なんて全く分からない。
だから、レオナールの妻には絶対になれない。
それに、ルカス様は婚姻の自由を一代限りで望んだ。
だから、息子である次代のレオナールが同じ事を願うわけにはいかないのだ。
その事もあって結局私は卒業したら田舎に帰る事に決めた。
さすがシュテルン王立学校。
私みたいなのでも就職先の打診はあった。
でも、それは貴族社会に関わるものばかりだった。
──このまま、貴族社会に関わってしまったら、いつかレオナールがお嫁さんを迎えるのをこの目で見なくてはいけなくなる。
そんなの嫌だ。
だから、それは“逃げ”だと言われても、私は田舎に帰る。
あれから、ちゃんと『農業の基本』をちゃんと読んで勉強もした。
『応用編』や、『農地改革』の分野までしっかり頭に叩き込んだ。
後は実際にやってみてどうなるか、だ。
だから、シュテルン王立学校に入学した事は決して無駄じゃない。
私は胸を張って帰る。
そして、ここまで好きにさせてくれてありがとうって両親に笑って伝えるんだ。
****
そして、迎えた卒業式はとてもいい天気だった。
まるで、卒業生の門出を祝ってくれてるみたい。
「アリアン」
「レオナール……と、エマーソン様」
声をかけられたので振り返るとレオナールとエマーソン様が並んで歩いていた。
「アリアンさん、ご無沙汰しています」
「あ、こ、こちらこそ」
エマーソン様がとても丁寧に挨拶してくれたので、私も慌てて挨拶を返す。
「アリアンさん、今日はよろしくお願いしますね」
「え? あ、はい……?」
何だろう、やっぱりあの、“理解してくれ”って話のことかな。
エマーソン様の言葉に私は曖昧にしか頷けなかった。
「なぁ、アリアン」
「どうかした?」
レオナールの声が硬い。緊張してるのかな?
「俺が……権兵衛が言った事、覚えてるか?」
「権兵衛さんが言った事?」
「名無しさん……アリアンが、尋ねたろ? 願い事はありますかって」
「あぁ、うん。尋ねたね」
あの時の権兵衛さんの返事は──……
『あります。何を捨ててでも、どうしても叶えたい願いが……──そして、私は絶対にこの願いを叶えてみせます……』
「俺は手紙に書いたように絶対に願いを叶えてもらえる事になったよ……だから……」
「え? レオナール? 今、何て……?」
ちょうど風が吹いて、「だから……」の後が聞こえなかった。
聞き返したのにレオナールは曖昧に微笑むだけで、もう一度言ってはくれなかった。
「首席卒業、レオナール・トランド。前へ」
「はい」
陛下の言葉でレオナールが前に進み出る。
「はは、まさか親子二代でこうして向き合う事になるとはな。そなたの両親と向き合ったあの日が懐かしいな。大変、驚かせてもらった」
「ありがとうございます。両親も喜ぶでしょう」
陛下は懐かしそうに言った。
きっと今まで色んな人のお願いを聞いてきたけど、レオナールの両親二人の願いはその中でもインパクトが強かったに違いない。
「して、レオナール・トランド。そなたの望みは何だ?」
「……私の望みは…………」
レオナールが何て答えるのか。会場中が静かに注目していた。
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