【完結】そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして

Rohdea

文字の大きさ
11 / 30

11. 暴走令嬢について考えてみた

しおりを挟む


「うぅ……痛いー……」

  私は頬に貼られた湿布を交換の為にペリペリと剥がしながら情けない声をあげる。

「……お嬢様、大丈夫ですか?」
「ありがとう、大丈夫よ」

  メイドのマリサが心配してくれる。
  マリサは昨日、部屋で大騒ぎになった私とイリーナ様の異変を聞き取って、真っ先に人を呼び乗り込んで来てくれた。

  (あれだけ騒げば外には丸聞こえよね)

「マリサが、来てくれて助かったわ」
「お嬢様……」
「そうでなかったら、もっと叩かれていたはずよ」

  二度でもこんなに痛いのだから、それ以上は勘弁して欲しい。
  そんな事を考えていたらマリサがフルフルと身体を震わせ悔しそうに唇を噛み締めている。

「……お嬢様、私は納得いきません」
「マリサ?」
「どうして、ケルニウス侯爵家あの女に抗議が出来ないのですか!?」
「……」

  それは我が家が伯爵家で格下だからよ……
  密室の出来事でもあったのではっきりと証言出来る人もいない。訴えた所で此方が負けて痛い目を見るのは明らか。

  “残念だがこちらから訴える事は……出来ない”

  イリーナ様を何とか追い出した後、お父様は悔しそうな顔をして私にそう言った。
  驚きは無い。イリーナ様はそうなる事を全て分かった上で訪ねて来て、あんな振る舞いをしたのでしょうから。せこいわー……

「……そんな事より。伯爵家に行けなくなってしまってエドワード様、心配しているかしら」

  以前の彼ならともかく今のエドワード様は、私が伯爵家に行けないという連絡を聞いて凄く心配してくれそう……いえ、しちゃいそう?
  
  (自分が無理させたからかも……なんて変な方向に思い込まないと良いのだけど)

「そんな事って、お嬢様!  お嬢様はあの女に叩かれているんですよ!?  頬だってこんなに腫らして」
「そうね……叩かれてしまったこの顔のせいで腫れが引くまではエドワード様には会いに行けなくなってしまったわ。本当に迷惑よね」
「え!?  いえ、そうではなくて…………って、ダメだわ。あぁ、もう!  昔からですけど、相変わらずお嬢様の頭の中はエドワード様の事しか考えていない……!」
「何を言っているの?」

  マリサがガックリと肩を落としている。

「だって、私みたいにすぐ治る怪我よりもエドワード様の事の方が心配なんだもの。頭痛だってまた起きてしまっていたらと思うと落ち着かなくて、今すぐ部屋を飛び出して伯爵家に向かってしまいたい気分よ」

  私のその言葉にマリサは呆れた目を向ける。

「……それですが。お嬢様はエドワード様の浮気を疑っていないのですか?」
「浮気?」

  私が首を傾げるとマリサの声には熱が入る。

「昨日、少し話が聞こえてしまいました……あの女は婚約後にエドワード様が急にお嬢様に対して素っ気なくなったのは自分と恋人になったからだと言っていましたよね?」
「……」
「エドワード様が浮気をしたそのせいで乗り込まれてこんな事になったのでは……!」

  少しと言う割にはガッツリ聞いている気がするのだけど。

「マリサ。それは違うわ。それから、エドワード様の事を悪く言わないで」

  私は少しきつめの声を出しつつ、首を横に振る。

「ど、どうしてですか?  どうして、そんなにエドワード様の事を信じられるのですか?」
「そうね、浮気……私も確かにその勘違いはしたわ」
「……!」

  マリサが、ほらやっぱり!  という顔をする。
  でも、私は再び首を横に振る。

「でも、違うのよ」
「……違う?」
「もちろん、エドワード様から以外の言葉は信じたくないっていうのが1番だけれど……」
「けれど、何ですか?」

  私は静かに微笑む。

「だってイリーナ様が言っていたんだもの。エドワード様は“相変わらず素っ気ない”って」
「??」

  マリサには分からないらしい。
  
「だっておかしいじゃない?  本当にイリーナ様がエドワード様の恋人だったなら、なぜ、エドワード様は恋人であるイリーナ様に対してまで素っ気なくする必要があるの?」
「え?」
「本来のエドワード様の性格を考えれば、恋人にする態度ではないと思うのよ」
「本来の性格……」

  マリサの表情を見る限りどうもしっくり来ないみたい。

「マリサはエドワード様の事をそこまでよく知らないから、ピンと来ないかもしれないけれど……本来のエドワード様って凄く優しく笑う人なのよ。あのね?  甘く甘く見つめて微笑んでくれるの。もうドキドキが止まらないんだから!」
「お、お嬢様。話がズレ……いえ。そ、それは……惚気……ですか?」
「惚気?」

  マリサったら、何でそんな呆れた目で私を見るのよ。
  惚気ではないわよ。事実よ事実!
  記憶喪失になって、婚約者である女性を大切にしようとするエドワード様の本来の姿を語っているだけなのに!
  
「いえ、でもそれなら婚約者であるお嬢様の目を気にして、わざとあの女に素っ気ない態度を取って誤魔化していたっていう事も……」
「もしそれなら、疑われないように逆に私に対しては今まで通りかもしくは優しくするでしょう?  私への態度が変わった事は謎のままとなるわ」

  つまり、イリーナ様への態度は私の思うエドワード様の特別な人に向けた態度とは違う。

「私がエドワード様の本命の相手の有無や浮気を疑うなら、その相手は、彼が“特別に優しくする人”よ」
「優しくする人……」

  私は頷く。

「イリーナ様が“あなたに向ける顔とは違って私には甘く優しい顔をしてくれるのですわ”なんて口にしていたら私も違う!  とは言えなかったかもしれないわね」
「お嬢様……」
「だから、その他の話はともかく、彼女の言っている恋人同士と言うのは少なくとも嘘なのよ。実際証拠も何も無く、口だけだったしね。おそらく私にショックを与えて身を引かせようとしたのでしょうけど……甘いわ」
「……」
「本当に私を傷付け追い詰めたいのなら、エドワード様とやり取りしていたという手紙でも持って来て、“ここに愛の言葉が書いてありますわ!”くらいはしなくちゃ。多分書かれた物は無いと思うけどね」
「……」
「プレゼントの話もそうね。本当に貰った物があるなら、むしろあの時、私に見せびらかしたっていいはずなのに!  実際貰った物なんてないんじゃないかしら?」
「……」
「デートもそうよ。いくら、行先が街とはいえ、こっそり出掛けたってどこかでバレて噂の一つや二つ広がるものよ。でも、そんな噂聞いたことが無い。誰もその事で私を貶めようとしないのだから、そういう事でしょう?」
「……」
「そもそも、私に手を上げたのも、反論されて嘘だって見破られてどうにもならなくなったからでしょうし!」
「……」
「はぁ……全く!  幼馴染と、長年の片思いを舐めないで欲しいわ」
「お……お嬢様……」
「どうしたの?  マリサ。 顔色が悪いわ?」

  なぜ、そんなに顔を引き攣らせているの?
  もしかして私、一人で喋り過ぎたかしら??

「いえ、お嬢様って逞しかったんだなぁと……」
「えぇ、どこが?  普通でしょう?  本当に逞しい人に失礼だと思うわよ」

  私がそう答えたら、マリサはため息を吐きながら、
「だから、いくら好きだとしてもあんな態度のエドワード様の婚約者をめげずにやって来れたのですね……」
  と、呟いていた。



  この時、マリサと部屋でそんなやり取りをしていた私は、ニフラム伯爵家の人間がエドワード様の命を受けて訪ねて来ていた事を知らずにいた。

しおりを挟む
感想 165

あなたにおすすめの小説

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜

恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」 18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から 情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。 しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。 彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、 彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。 「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」 伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。 衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、 彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。 「……あの、どちら様でしょうか?」 無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。 裏切った男と、略奪を企てた伯母。 二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

私はあなたを覚えていないので元の関係には戻りません

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリカは、婚約者のマトスから記憶を失う薬を飲まされてしまう。 アリカはマトスと侯爵令嬢レミザの記憶を失い、それを理由に婚約破棄が決まった。 マトスはレミザを好きになったようで、それを隠すためアリカの記憶を消している。 何も覚えていないアリカが婚約破棄を受け入れると、マトスはレミザと険悪になってしまう。 後悔して元の関係に戻りたいと提案するマトスだが、アリカは公爵令息のロランと婚約したようだ。

処理中です...