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10. 胸騒ぎ (エドワード視点)
しおりを挟む「え? 今日はアリーチェが来られない?」
「あぁ。さっき、オプラス伯爵家から連絡が届いた。それも今日だけでなく、しばらくアリーチェ嬢は家で休ませたい……との事なんだが……」
アリーチェに会えるのを楽しみにしていた俺に父上が深刻な顔をしてその連絡を持って来た。
「休ませる……? もしかして、具合でも悪いのか? 俺が無理をさせてしまったから……?」
昨日は俺が倒れてしまった事で相当、アリーチェには心配と負担をかけてしまった。
アリーチェは俺が苦しんでいた時、必死に俺を抱き締めてくれていた。
(アリーチェに抱き締められている間だけは……頭痛も和らいでいた気がする……)
その後も俺が目を覚ますまでずっと手を握ってくれていて……
後で父上から聞いたが、目を覚ました俺が寂しくないようにと言っていたと。
(何だそれ……可愛すぎる……俺の婚約者が可愛すぎて困る)
俺は心の中で悶える。
「かもしれん。帰るように勧めても頑なにお前の傍にいたいのだと、ずっと傍に着いていたからな。やはり、疲れが……」
父上も同じ考えのようだ。
「……アリーチェ」
でも、本当は毎日無理をしてここに来ていたのかもしれない。
なのにアリーチェはいつも笑顔で接してくれるから……俺はそれに甘えてしまっていたのだと改めて気付かされる。
「俺は情けないな……」
それに、昨日は倒れた事だけでなく……
あのケルニウス侯爵令嬢の俺にベタベタするような態度もアリーチェにとって面白いものであったはずがない。
(それに、あの得意そうな顔で語っていた話……)
記憶が無いので真実か嘘か全く分からなかったが、あれではまるで記憶を失くす前の俺が、浮気──……
俺はそこまで思いながら首を横に振る。
いやいや、それは無い。
どう考えても記憶を失くす前の俺は──
あまりにも俺の婚約者であるアリーチェをバカにするかのような話ばかりだったので「いい加減にしろ!」と、怒鳴ろうとした所で、囁かれたあの言葉に俺は衝撃を受けた。
(あの女は何を考えている……?)
何だか言葉に出来ない不安が押し寄せてくる。
「アリーチェにしばらく会えないのは辛いな」
「お前って奴はどの面下げ…………いや、今のお前に言ってもな……」
父上が俺に何かを言いかけてやめる。
何だろう?
やはり、記憶を失くす前の俺の事だろうか?
(なぜ、俺はあんなに可愛らしいアリーチェを大事にしなかったんだ?)
前から感じていて、アリーチェにも前に確認して確信を得た事ではあるが、昨日のあの女の態度や口振りから思うに、記憶喪失前の俺がアリーチェを大事にしていなかった事は周囲も知っている事なのだろう。
本人の前だけでなく何故、他の者の前でまで……
(それなのにアリーチェは俺にあんな優しく微笑みかけてくれているのか)
それは、俺の記憶が無いからなのか。
それとも、記憶喪失前からあんな風に健気だったのか……
(多分、後者なんだろう。アリーチェはそういう子だ)
本当に俺は何をやっていたんだ? 殴ってやりたい……
「アリーチェ……」
無理はさせたくないが……早く会いたい。
自分が動けるようになったら、今度は俺の方から会いに行こう。
傷も癒えてきたから動ける許可がもうすぐ医者から降りるはずだったのに、昨日倒れたせいでそれも延期になってしまった。
(ついてないな)
アリーチェをデートに誘って二人で出かけて……なんて妄想までしていたのに。
「今度は俺がアリーチェのお見舞いに行きたい」
「まだ、ダメだ」
「分かってる!」
それでも、大事な人が辛い思いをしている時は傍にいたいじゃないか。
きっとアリーチェもそんな思いで俺の傍にいてくれようとしたんじゃないのか?
「手紙くらいなら送っても構わないかな」
と、そこまで口にしてふと、思い出す。
(そうだ、手紙……あの侯爵令嬢と俺がやり取りしていたらしいおかしな手紙……)
何かが心に引っかかる。嫌な予感と言うべきか。
「父上……」
「どうした?」
「……気になる事があるんだ」
「気になる事?」
父上が不思議そうな顔をする。
「そこの俺の机の引き出しの中を開けて見て欲しい」
「引き出し?」
動けない俺の代わりに父上が引き出しを開ける。そして、驚きの声を上げた。
「こ、これは……!」
「……」
振り返った父上がジトっとした目で俺を見る。なぜだ?
「お前……いや、今のお前に言っても無駄だろうが……いくらアリーチェ嬢の事が好きでも限度があるだろ! こんな所にこっそりとどれだけしまい込んでいたんだ!!」
「あ!」
しまった。上の段の机の引き出しには記憶を失くす前の俺がどうやら大切にしまい込んでいたらしいアリーチェからの贈り物も入れてあったんだった……
なんて所にしまってるんだよ、俺!
「ち、違う! そっちの引き出しじゃない! その下だ! 手紙、手紙があるはずだ。それを見て欲しいんだ」
「手紙? これか?」
父上が下の段の引き出しを開ける。そして、手紙を取りだした。
「何か記憶を取り戻す手がかりになるかもと思って見つけた時に前に読んだんだけど、昨日までは正直よく意味が分からなかった。でも……」
「?」
父上がパラパラと何通かの手紙の中身を確認する。そして読み終えるとサッと顔色を変えた。
「お前、これは浮……! いや、だから……くっ……今のお前に言っても意味無いが……」
「違う! よく読んでくれ! ちゃんと順番に!」
「順番……?」
父上が不思議そうに首を傾げつつもう一度初めから読み直していく。
「はぁ? 何だこれは……」
「……父上。アリーチェの突然の休みたいという連絡には、ケルニウス侯爵令嬢が絡んでいて、アリーチェに何かしたのかもしれない……」
「何だと!?」
「昨日会った時のあの振る舞いや、その手紙を書いて寄越した事を思い返すと……そんな気がしてならない……」
「……」
父上が驚き、黙り込んだ。
あぁ、何で俺は動けないんだ!!
もう傷は癒えた! 動く許可をくれ! 医者にそう言いたい。
アリーチェが何かされてるかもしれないのに、ベッドに居て何も出来ない自分が悔しい。
「頼む、父上。オプラス伯爵家にもう一度確認してアリーチェが無事かどうか確かめてくれ! アリーチェが心配なんだ」
「それは構わないが……エドワード。そう言えば、お前は倒れる前に侯爵令嬢に何を言われたんだ? あの時、耳元で何かを言われていただろう?」
「……あれは」
俺は唇を噛んで拳をギュッと握り込む。
そうだ。あの言葉も意味が分からなかった。
「あの時、侯爵令嬢は俺に───」
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