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しおりを挟む「マッフィー……様は、まだ私を諦めていない、と?」
「だね。そして、なりふり構わなくなって来ている」
その言葉にゾクッとした。
ロディオ様はそんな私に手を伸ばして抱き寄せながら言った。
ドキッと私の胸が高鳴る。
「安心して? あんな奴に俺の可愛いよ……ソフィアを指一本でも触れされる気は無いから」
「ロディオ様……」
「そういう、約束だろ? ソフィア……」
私達はそのまま暫く見つめ合う。
「あぁぁ……またラブシーンが……始まる……」
お父様が頭を抱えているのが視界の端で見えた。
またって何かしら?
そんな事より、私には今、ロディオ様に聞きたい事がある。
「……ねぇ、ロディオ様」
「何だ?」
フニフニ……
ロディオ様は、どさくさでふにふにを開始する。さすが、油断も隙もない。
しかも、私を目の前にすると、もう勝手に手が伸びるんだとか言っている。
(重症だわ……)
そして、そんなロディオ様にふにふにされる事を嫌だと思わない私も、
(重症だわ……)
フニフニフニフニ……
「最近? ロディオ様の口にする言葉を聞いていて、常々、不思議に思ってるのですが」
「うん」
「お恥ずかしながら、俺の可愛いソフィア……とよく口にして下さいますが、その前に何か言いかけていませんか?」
「ん?」
フニ!
ロディオ様のふにふにする手が変な形で止まった。
そして、目が泳ぎ出す。
「それは……ソフィアの、気の所為じゃないかな? うん」
フニフニフニ!!
ロディオ様の手が高速ふにふにに変わった。これは動揺している……絶対怪しい!
フニフニフニフニ!
「ロディオ様!」
「……っ!」
私はズイっとロディオ様に顔を近付けた。そして、その目をじっとしっかり見つめる。
フニフニフニフニフニ!
更に加速!!
「ロディオ様!!」
「~~っ」
フニフニフニフニフニフニ!!
「あー、うぅー……そ、そんな可愛い目で見つめないで下さい……ソフィアさん……」
「え? ……っ!」
突然、ロディオ様が顔を真っ赤にしたので、思わず私も釣られて赤くなる。
フニフニフニフニフニフニフニフニ!!
「……」
「……」
互いに見つめ合ったまま顔を赤くしながら、ふにふにしている(されている)私達の様子をお父様は何とも言えない顔で見ていた。
──後に聞いたところ、口の中が甘い物でいっぱいになって大変だったと言う。
私はいつ甘い物なんか口にしていたのかしら? と不思議に思いながらその話を聞いていた。
それから、数日後───
いつものように我が家を訪ねて来たロディオ様は一通の招待状を持っていた。
フニフニ……
「パーティーですか?」
「そう。我が家が懇意にしている伯爵家のパーティーなんだけど」
「ワイデント侯爵家が……ですか?」
(何かしら……すごくどこかで聞き覚えがあるような……)
フニフニフニフニ……
「エレペン伯爵家なんだけど」
「っ!!」
(あぁ! 思い出したわ!!)
思わず大きな声をあげそうになった。
フニフニフニフニフニフニ……
──エレペン伯爵家! それは……
『ふふ、ロディオ様。今日から私、伯爵令嬢ですよ! リンジー・エレペン!』
『君が伯爵令嬢か……』
『何て顔をするんですか! 酷い!』
『いやいや、すまない』
小説の後半、身分差に悩んでいた二人に手を差し伸べてくれた伯爵家だわ!
(エレペン伯爵家がヒロインを養女にしてくれた事で、身分差問題は解決するのよ)
そう。まさにこのエレペン伯爵家の主催するパーティーで、ヒーローとヒロインは婚約を発表する。そして……
フニフニフニフニフニフニフニ……
「……」
「……ロディオ様。あなたのふにふにのせいで、考え事に集中出来ません」
「考え事?」
「そうです。こんな風に……」
えいっ!
と私もロディオ様の頬に手を伸ばす。
ふにっ!
ふにふにふに……
「ロディオ様だって、こうして私にふにふにされたら考え事に集中出来ないでしょう?」
「え? いや、俺は……集中? と言うより……」
「言うより、何ですか?」
ふにふにふにふに……
「い、いや……」
フニフニフニフニ……
ロディオ様とふにふに合戦をしていたら、なんとロディオ様が情けない声をあげて来た。
「うー……」
(やったわ! 勝った!?)
「ソ、ソフィアさん、大変です。おかしな気持ちになります……我慢が出来ません」
「ロディオ様? 何を言ってー……」
私が喜んだのも、ほんのつかの間で。
ロディオ様はふにふにの手を一旦止めるとそのまま私をソファーの上に押し倒した。
「……へ?」
一瞬、何が起きたのか分からず自分の上にいるロディオ様をそろそろと見上げる。
彼はニッコリと微笑んでいた。
「ソフィアの無邪気な行動は大変、可愛いくて可愛いくてたまらないけど」
「む、無邪気……」
「そろそろ、男心というものを学ぼうか?」
「おとこごころ……」
「そうだよ、俺の可愛いよ……ソフィア」
「!!」
フニッ……
(あっ!)
そう言ったロディオ様は、キ、キス……という名の唇でのふにふにを開始した。
「ロ、ロディオ様ぁ……」
「……うん。その顔は逆効果だよ、俺の可愛いよ……ソフィア」
「!?」
フニッ……
──よく分からないけれど、ふにふに返しは程々にしなくてはいけないと私はこの日学んだ。
そんな、ふにりふにられな日々を送っていたら、あっという間にエレペン伯爵家のパーティーの日がやって来た。
「ソフィア。支度は終わった?」
「ロディオ様」
ロディオ様はわざわざ我が家まで迎えに来てくれた。
会場で落ち合えば良いのでは? と訊ねた私に勢いよく首を横に振って「可愛い俺のよ……ソフィアと長く過ごせる方がいいからね」と言っていた。
(いえ。ふにふにしたいだけなのでは……)
そんな事を思いながら馬車へと乗ると、ロディオ様は当然のようにふにふにを開始する。でも、少し緊張した面持ちで私に言った。
「……ソフィア。今日のパーティーなんだけど」
フニフニ……
「はい」
「ソフィアは、勘が良いから気付いているかもしれないけど」
「……」
フニフニフニ……
「今日のパーティーにはマッフィーも招待されている」
「あ……」
「嫌でもアイツと顔を合わせる事になる」
フニフニフニフニ……
(やっぱり……)
そんな思いが私の中に広がって行く。
これが偶然なのかは分からないけれど、小説では後半……ラスト近くに開催されたエレペン伯爵家が主催するそのパーティー。
この場はヒーローとヒロインの婚約発表の場……だけでは無かった。
ソフィア・イッフェンバルド男爵令嬢、殺害の犯人──マッフィー・ミスフリン公爵令息をヒーローが追い詰める断罪の場……でもあるパーティーだった。
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