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第18話 王子様の初恋の人と思い出の男の子の正体
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「……」
「……」
互いに沈黙し変な空気が流れる。
(どうして殿下が私と同じ手鏡を持っているの?)
偶然? いえ。そんな事は有り得ない。
だって、あの手鏡はテッドがくれた物だ。いくらテッドが貴族だったとしてもさすがに王族と同じ物を持つなんて……
ならば?
「……手鏡は、殿下の物……ですか?」
「……」
殿下が無言で頷く。
「実は、私も同じ物を持っているんですけどー……」
「……知ってる」
「え? それは、ど」
どうしてですか?
と、聞こうとした所でまた抱きしめられた。
「手鏡を君に贈ったのは俺だからだよ、ライザ」
「…………」
「“テッド”は俺なんだ」
「……!?」
何を言っているのかしら?
殿下がテッド? 何の冗談を言っているの?
髪色が違う。テッドは黒髪だったわ。
「“今日が最後だから。今回だけは受け取って? そしてこれを俺だと思って大事にしてくれると嬉しい”」
「っ!」
その言葉は、テッドに手鏡を貰った時に言われた言葉……
頑なにプレゼントなんて貰えないと固辞していた私に今回だけは、とテッドは言った。
「…………テッド?」
「そうだよ、ライザ」
私が震える声で恐る恐る呼びかけると、物凄く甘い顔と声で返事が来た。
「本当に……殿下が……テッド…………なのですか?」
「そうだと言ってる」
「髪が……」
「今のライザと同じだよ。変装して染めてた」
殿下がそっと私の頬に手をかけて顔を上に向かせる。
目が合った。
──あぁ、そうだ。この瞳……私、前にも殿下を見てテッドの事を思い出した事がある。
髪の色は変わってもは瞳は変わらない。
「あの頃からずっとずっとライザの事が好きだった」
「……え?」
「ここで出会ったライザの事がずっと忘れられなかった……俺の初恋だよ」
「……初、恋……?」
……殿下の結ばれる事が叶わない初恋の相手。
初恋の相手と似ていたから、その人の身代わりでエリザベスは婚約者に選ばれた……
そう聞いた。
(だから、私は身代わりの身代わりなのね、そう思った)
「結ばれる事は無いと諦めていた初恋の人が、何故か他人を装っていたけど俺の婚約者ですと言って目の前に現れた」
「あ……」
「夢かと思ったよ」
殿下の顔がふにゃっと崩れる。
「私を愛さないと言ったのにまるで、手のひらを返したかのように優しくなったのは……」
「ライザだったからだ」
「噂にまでなっていた殿下の忘れられない初恋の人……」
「ライザの事だね」
「!」
あぁぁぁぁ、私は一気に恥ずかしさが込み上げてきて両手で顔を覆う。
(無理! 今は顔を見ないで!!)
やだ、もう! 何それ……全部、全部、勘違い……!!
「殿下……コホッ……セオドア様は…………昔も今も変わらず、ずっと私の事を……好き……?」
「……!」
私がわざわざ“セオドア様”と言い直したからか、殿下は一瞬驚いて目を大きく見開き、やがて破顔した。
「そうだよ、ライザ。ここで過ごした時も王宮で再会してエリザベスのフリをしていた時も、髪を染めて雰囲気の変わった今のライザも全部全部引っ括めて大好きだ」
「ひぇっ!」
もう、もう!!
ずるい、ずるい!!
私の心にどんどん入って来ては振り回して、ようやく自分も好きなんだと気付いた殿下が私が大切な思い出にしていたテッドだなんて!!
「こんなの……運命だと言わないで何て言うのよ……」
「ライザ?」
殿下はキョトンとした顔を私に向けている。
(あぁ……私が今、こうして喜んでいるように、私もあなたを喜ばせたい!)
そんな気持ちで私は真っ直ぐ殿下の目を見つめる。
「……好きです、セオドア様」
「へ?」
「私も……あなたの事が大好きです」
「ラ、ライザ?」
殿下は理解が追いついていないのか今度はポカンとしている。
「テッドだからとか、王太子だからとかそんなの関係ありません。今、私の目の前にいるあなたが……セオドア様の事が好きです!」
「…………」
「私、もう逃げません。自分の運命にも向き合って立ち向かいます! だから、どうかあなたのそばにー……」
いさせてください──
……続きは言えなかった。
殿下が、キツくキツく私を抱きしめたから。
「ねぇ、ライザ……これって夢で嘘じゃないよね?」
「何で嘘つく必要があるんですか……」
「……だよね」
「夢でも無いです。私も夢になんてしたくありません」
「うん」
そう頷いた殿下はもっと強く私を抱きしめる。
ちょっと苦しいけれど、愛情が伝わって来て幸せな苦しさだと思った。
「……ライザ」
「はい」
少し時間が経ってようやく気が済んだのか、殿下が私を離したと思ったらその場に跪く。
そして、私の手を取りながら言った。
「ライザ、君を愛してる。これから先、俺の全力で君を愛し守ると誓う。いつだって君が笑顔でいられるように。だからどうかこの手を……俺を選んで下さい」
「……セオドア殿下」
私は殿下の手をそっと握って応える。
「私もあなたを愛しています。何も持たない私ですが、生涯あなたの側であなたを支え続ける事を誓わせてください」
「……ライザ……ありがとう」
そう言って笑った殿下の瞳は少し潤んでる気がした。
「……本当はこの場所で、俺がテッドだと明かして……それで花束を用意してプロポーズするつもりだったんだ」
「え?」
たった今、気持ちを伝え合ったばかりだと言うのに、殿下は何やらちょっと残念そうに言った。
「両手いっぱいの花束をあげたかったのに。全然、計画通りに行かなかった……」
「……それが、前に約束した私と行きたい場所で話したい事……だったのですか?」
「そう」
「っっ!」
本当に本当にこの方は!
あんな私の些細な夢を覚えていたんだわ。
「夢見がちだなと、笑ったくせに」
「か、可愛いな……って思ってたんだよ!! その……照れ隠しだ」
そう、顔を赤くしてムキになる殿下が可愛い。
(でも、可愛いなんて口にしたらますます落ち込んでしまうかも)
そんな事を考えていたら、殿下がジトっとした目で私を見た。
「?」
「ライザ……なんか変な事を考えてないか?」
「へ、んな事ですか?」
しまった! 動揺して声が裏返ってしまったわ!
これではバレバレ……
「……お仕置だ」
「え」
お仕置とは?
と、聞く事は出来なかった。
殿下は私を引き寄せて、そのまま顔を近付けて来る。
(あ……)
何をされるのか分かったので、私がそっと瞳を閉じた瞬間、
私の唇にそっと、優しい温もりが触れた。
──初めての、キスだった。
「……」
互いに沈黙し変な空気が流れる。
(どうして殿下が私と同じ手鏡を持っているの?)
偶然? いえ。そんな事は有り得ない。
だって、あの手鏡はテッドがくれた物だ。いくらテッドが貴族だったとしてもさすがに王族と同じ物を持つなんて……
ならば?
「……手鏡は、殿下の物……ですか?」
「……」
殿下が無言で頷く。
「実は、私も同じ物を持っているんですけどー……」
「……知ってる」
「え? それは、ど」
どうしてですか?
と、聞こうとした所でまた抱きしめられた。
「手鏡を君に贈ったのは俺だからだよ、ライザ」
「…………」
「“テッド”は俺なんだ」
「……!?」
何を言っているのかしら?
殿下がテッド? 何の冗談を言っているの?
髪色が違う。テッドは黒髪だったわ。
「“今日が最後だから。今回だけは受け取って? そしてこれを俺だと思って大事にしてくれると嬉しい”」
「っ!」
その言葉は、テッドに手鏡を貰った時に言われた言葉……
頑なにプレゼントなんて貰えないと固辞していた私に今回だけは、とテッドは言った。
「…………テッド?」
「そうだよ、ライザ」
私が震える声で恐る恐る呼びかけると、物凄く甘い顔と声で返事が来た。
「本当に……殿下が……テッド…………なのですか?」
「そうだと言ってる」
「髪が……」
「今のライザと同じだよ。変装して染めてた」
殿下がそっと私の頬に手をかけて顔を上に向かせる。
目が合った。
──あぁ、そうだ。この瞳……私、前にも殿下を見てテッドの事を思い出した事がある。
髪の色は変わってもは瞳は変わらない。
「あの頃からずっとずっとライザの事が好きだった」
「……え?」
「ここで出会ったライザの事がずっと忘れられなかった……俺の初恋だよ」
「……初、恋……?」
……殿下の結ばれる事が叶わない初恋の相手。
初恋の相手と似ていたから、その人の身代わりでエリザベスは婚約者に選ばれた……
そう聞いた。
(だから、私は身代わりの身代わりなのね、そう思った)
「結ばれる事は無いと諦めていた初恋の人が、何故か他人を装っていたけど俺の婚約者ですと言って目の前に現れた」
「あ……」
「夢かと思ったよ」
殿下の顔がふにゃっと崩れる。
「私を愛さないと言ったのにまるで、手のひらを返したかのように優しくなったのは……」
「ライザだったからだ」
「噂にまでなっていた殿下の忘れられない初恋の人……」
「ライザの事だね」
「!」
あぁぁぁぁ、私は一気に恥ずかしさが込み上げてきて両手で顔を覆う。
(無理! 今は顔を見ないで!!)
やだ、もう! 何それ……全部、全部、勘違い……!!
「殿下……コホッ……セオドア様は…………昔も今も変わらず、ずっと私の事を……好き……?」
「……!」
私がわざわざ“セオドア様”と言い直したからか、殿下は一瞬驚いて目を大きく見開き、やがて破顔した。
「そうだよ、ライザ。ここで過ごした時も王宮で再会してエリザベスのフリをしていた時も、髪を染めて雰囲気の変わった今のライザも全部全部引っ括めて大好きだ」
「ひぇっ!」
もう、もう!!
ずるい、ずるい!!
私の心にどんどん入って来ては振り回して、ようやく自分も好きなんだと気付いた殿下が私が大切な思い出にしていたテッドだなんて!!
「こんなの……運命だと言わないで何て言うのよ……」
「ライザ?」
殿下はキョトンとした顔を私に向けている。
(あぁ……私が今、こうして喜んでいるように、私もあなたを喜ばせたい!)
そんな気持ちで私は真っ直ぐ殿下の目を見つめる。
「……好きです、セオドア様」
「へ?」
「私も……あなたの事が大好きです」
「ラ、ライザ?」
殿下は理解が追いついていないのか今度はポカンとしている。
「テッドだからとか、王太子だからとかそんなの関係ありません。今、私の目の前にいるあなたが……セオドア様の事が好きです!」
「…………」
「私、もう逃げません。自分の運命にも向き合って立ち向かいます! だから、どうかあなたのそばにー……」
いさせてください──
……続きは言えなかった。
殿下が、キツくキツく私を抱きしめたから。
「ねぇ、ライザ……これって夢で嘘じゃないよね?」
「何で嘘つく必要があるんですか……」
「……だよね」
「夢でも無いです。私も夢になんてしたくありません」
「うん」
そう頷いた殿下はもっと強く私を抱きしめる。
ちょっと苦しいけれど、愛情が伝わって来て幸せな苦しさだと思った。
「……ライザ」
「はい」
少し時間が経ってようやく気が済んだのか、殿下が私を離したと思ったらその場に跪く。
そして、私の手を取りながら言った。
「ライザ、君を愛してる。これから先、俺の全力で君を愛し守ると誓う。いつだって君が笑顔でいられるように。だからどうかこの手を……俺を選んで下さい」
「……セオドア殿下」
私は殿下の手をそっと握って応える。
「私もあなたを愛しています。何も持たない私ですが、生涯あなたの側であなたを支え続ける事を誓わせてください」
「……ライザ……ありがとう」
そう言って笑った殿下の瞳は少し潤んでる気がした。
「……本当はこの場所で、俺がテッドだと明かして……それで花束を用意してプロポーズするつもりだったんだ」
「え?」
たった今、気持ちを伝え合ったばかりだと言うのに、殿下は何やらちょっと残念そうに言った。
「両手いっぱいの花束をあげたかったのに。全然、計画通りに行かなかった……」
「……それが、前に約束した私と行きたい場所で話したい事……だったのですか?」
「そう」
「っっ!」
本当に本当にこの方は!
あんな私の些細な夢を覚えていたんだわ。
「夢見がちだなと、笑ったくせに」
「か、可愛いな……って思ってたんだよ!! その……照れ隠しだ」
そう、顔を赤くしてムキになる殿下が可愛い。
(でも、可愛いなんて口にしたらますます落ち込んでしまうかも)
そんな事を考えていたら、殿下がジトっとした目で私を見た。
「?」
「ライザ……なんか変な事を考えてないか?」
「へ、んな事ですか?」
しまった! 動揺して声が裏返ってしまったわ!
これではバレバレ……
「……お仕置だ」
「え」
お仕置とは?
と、聞く事は出来なかった。
殿下は私を引き寄せて、そのまま顔を近付けて来る。
(あ……)
何をされるのか分かったので、私がそっと瞳を閉じた瞬間、
私の唇にそっと、優しい温もりが触れた。
──初めての、キスだった。
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