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焦がれ続けた初恋が実った日 (セオドア視点)

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「ライザ。一緒に王宮に戻って共に闘ってくれる?」
「勿論です!」

  俺の問いかけに迷うこと無く即答するライザを見て胸が熱くなった。

  (本当に、本当に彼女は俺と共に生きる事を望んでくれたのだ、と)







  ちょっと予定には無かった形になってしまったが、ライザを好きだという気持ちを明かして、自分がテッドだと言うことも明かせた。
  その上で、ライザは俺の気持ちに応えてくれた。

  (こんな、夢みたいな事が起きるんだな)

  初恋が実った───……

  大好きなライザに触れられる……
  初めて触れたライザの唇は柔らかくて温かくてもう、幸せしかなかった。

  (もっと……触れたい)

  そんな想いがどんどん膨らんで、何度も何度もその甘くて柔らかくて温かい唇を堪能した。

  (そして可愛い……)

  欲望の塊と化した俺を受け入れてくれるライザ。
  諦めながらもずっとずっと焦がれ続けたライザが俺の腕の中に。
  エリザベスに嫉妬までして……

  (なんて事だ!  ほんの一瞬だけエリザベスに感謝の気持ちを覚えてしまった)

  ……それでも、マクチュール侯爵家の者達の事は決して許さないが。

  ───用済みになった私を娼館に売ろうと計画をしていました。

  その言葉を聞いた時、腸が煮えくり返る思いだった。
  アイツらはライザを……人をなんだと思っているんだ!!

  (娼館に行くならエリザベスの方がピッタリだな。遊びで不特定多数の男と平気で寝る女なんだから)
  



***




「さすがにもう戻らないと……」

  俺としてはこのままずっとライザを堪能していたかったけど、実は仕事の休憩中だったらしい。

「!  そうだったんだ……ご、ごめん」

  あまりにも嬉しくて幸せで手放したくなくて……でも、邪魔するのは駄目だ。

「大丈夫ですよ、それに……」
「それに?」
「私の方がセオドア様とこうしていたかったので」

  そうハニカミながらそんな事を言うライザは天使か?  天使だよな??
  なんなんだ、この可愛さは!!
  神様ありがとう!

  (ん?)

  ふと思った。
  ライザはこんなに可愛いんだぞ?  想いを寄せる男だっていたはずだ。
  
  (だが、キスに戸惑いを見せていたライザは間違いなく初めてで……誰の手垢もついてない……)

  あの甘く蕩けた顔をするライザは、俺だけの知ってるライザ。
  そう思うだけでますます胸が熱くなった。





「え?  求婚者ですか?」
「うん……街にいた頃に求婚者はいなかったの?」

  手を繋ぎながらライザの仕事場に向かう。
  ライザと王宮に戻る為に挨拶をさせてくれとお願いした。

  その途中でさり気なく横恋慕しそうな存在がいるのか知りたくて聞いてみた。

「私にですか?  いるわけないですよ!」
「……」
「不思議と昔から同世代の男の子達には好かれていなかったみたいで……あまり目も合わせてくれなくてちょっと寂しかったくらいです」
「……」

  何だそれ?  ヘタレか?  自分の事は言えないがこの街の男共はヘタレなのか!? 

「だから、テッドの存在が嬉しかった」
「え?」
「テッドは他の男の子達とは違って目を見て話してくれました。言いたい事もばんばん言ってくれて。でも私が落ち込んでいる時は優しくて……何より私の髪を綺麗だと言ってくれた事が本当に本当に嬉しかった」
「ライザ……」

  あぁ、可愛い顔でそんな事を語られると……

「だからいつだって、セオドア様だけが私の特別なんでー……んっ?」

  ライザのあまりの可愛さに我慢が出来なくなって思わず唇を奪う。

「んんっ……」

  ライザのその色っぽい声を聞くだけで頭がおかしくなりそうだ。
  もっともっと触れたい……そんな気持ちが生まれてしまう。

  (自分を律するように育てられて生きて来たつもりなのに)

  誰よりも特別な初恋の彼女はいとも簡単にそれを壊していく。







「ライザちゃん。こりゃまたとんでもない色男を釣り上げたね」
「釣り?  マーサおばさま何を言って……?」
「どこに、休憩に行ったらそんな大物が釣れるんだい?」
「え?  え!?」

  お店に戻り店主への挨拶をしようとライザと共に顔を出すと、マーサおばさまと呼ばれたその女性は目を丸くしてそんな事を言った。

  (あたふたしているライザも可愛い)

「店主殿、ライザを……彼女を助けてくれてありがとうございました」

  まずはお礼だ。彼女が助けてくれなかったら今頃ライザはどうしてた事か。

「可愛い可愛い娘みたいなものだからね、当然だよ」
「おばさま……」
「ルイーゼも今頃向こうでおったまげているんじゃないかい?  ライザちゃんが色男を釣り上げたってさ!」
「だからもう!」

  赤くなって抗議するライザを見ながらその女性は優しく微笑んだ。

「ライザちゃん、幸せにおなり。今のライザちゃんはすごくキラキラしていて本当に幸せそうだ」
「そ、そんなに?」
「うん、そこの色男な兄ちゃんを大好きなんだなと伝わって来る」
「!」

  その言葉でライザが顔を赤くした。可愛いなぁ……今すぐ抱きしめたいぞ。

「兄ちゃんも兄ちゃんで、鼻の下がデレっと伸びてるからね。まぁ、当然か。ライザちゃんはこんなにも可愛い」
「!」

  そんなに俺はデレデレしているのかと軽く衝撃を受ける。

「はい、ライザちゃん。これまでのお給金だよ。仕事の事は気にしなくて大丈夫だからね!  街の男共がまた肩を落とすだけさ!」
「おばさま……ありがとうございます」

  マーサおばさまと呼ばれた女性はこれまでのライザが働いた分の給金を渡して聞き捨てならない事をサラッと言ってのけた。

  (やっぱりライザはモテてる……男共がヘタレで良かった……)

「準備しておいで」
「はい!  それでは荷物を用意して来ますのでちょっと待ってて下さいね」

  そう言ってライザは、荷物を取りに奥へと進む。
  なので、俺とマーサおばさまがその場に残される。

「……どうか、ライザちゃんを……あの子を頼みます」

  すると、マーサおばさまが俺に向かって頭を下げた。

「あの子は昔から一生懸命で頑張り屋で母親思いのいい子です。泣きたい事がある時は知られないようにひっそりと見つからないように泣く子なんです」
「……あぁ、知っている」

  初めて会った時、ライザはあの場所でこっそり泣いていたから。

「ライザは……彼女は俺が必ず幸せにします。ルイーゼ殿とあなたの分まで」

  俺はしっかりと目を見て答える。
  ライザの母親代わりのこの方には、きちんと認められたい。

「えぇ…………どうかをよろしくお願いします。…………王太子殿下」
「!!」

  その言葉に衝撃を受ける。今、なんて言った?

  (この女性は……何者だ!?)

「あ、あなたは……」
「……殿下はライザ様の事は既にご存知かと思いますが……私はかつてライザ様の母親であるルイーゼ……いえ、ルル王女に仕えていた者。そして、ルル王女の逃亡に手を貸した者です」
「なっ!」

  何だと!?

「……ですが、私達は無事にこの国に来れたものの実は追っ手に見つかってしまいまして……私はルル様を逃がすのに精一杯で、離れ離れになってしまいました」
「……」
「ルル様と再会したのは従姉妹が嫁いでいた事から頼ったらしい……マクチュール侯爵家で酷い目にあい逃げ出して来た様子の時で……」
「……」
「ルル様はそれはそれは酷いお姿でした……あれはどこからどう見ても……そしてその後、ライザ様を身篭っている事が判明しました……」

  そう話す彼女の顔からは後悔という色が滲み出ていた。
  彼女曰く、祖国でのルル王女と侯爵夫人の従姉妹同士の関係は悪いようには見えなかったそうだ。
  だから頼ったのだと思う。そう言った。

  (だが、腹の中は何を考えていたのか……)

「ルル様が亡くなられた後ライザ様だけはお守りしたい……そう思って見守って参りましたが……まさかマクチュール侯爵がライザ様にまで手を伸ばすとは……」

  その先は言わなくても分かる。
  侯爵は無理やりライザを連れて行った。
  また、守れなかった……彼女はその事をかなり悔いたに違いない。

「顔を上げてくれ」
「……」
「俺はライザを心から愛している。ルル王女とあなたの分まで必ずどんなことがあっても絶対に幸せにする事を誓う。俺はライザの笑顔が大好きなんだ」
「……殿下、どうかよろしく、よろしくお願いします……それと、私は何も知らないフリをしています。ですから私の事はライザ様には……」
「分かっている」

  俺はしっかり頷いた。






  荷物を取りに行ったはずのライザがなかなか降りて来ないので迎えに行くと、ライザは部屋で荷物を持ったままぼんやりしていた。

「ライザ?」
「セオドア様……」

  様子がおかしい。それに泣いた跡が見える……?
  そこでハッと思い至る。

  (さっきの話!)

「ライザ……もしかして俺達の話を」
「ごめんなさい。聞いてしまいました……私、本当に何も知らなくて……知らない間にこんなにも守られていたんですね……」

  泣きそうな顔をするライザの事が堪らなくなって、俺が腕を伸ばしライザを抱きしめると、珍しくライザからも俺に抱き着いた。
  きっと色々思う事があるのだろう。

「これからは俺が守るよ……ずっとずっと」
「ふふ、ありがとうございます。私もセオドア様を守れるようになりたいです」

  またそんな可愛いことを言う。
  この可愛さは罪だと思う。

「私、お母さんとマーサおばさまの思いをしっかり受け取ってあなたと生きていきたいです」
「あぁ」

  そう言って涙を引っ込めて前を向いたライザは、また強くなった気がして俺はますます彼女の事が愛しくなった。

  
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