【完結】このたび殿下の婚約者となった身代わりの身代わり令嬢な私は、愛されない……はずでした

Rohdea

文字の大きさ
36 / 39

第25話 明かされる過去 ①

しおりを挟む


  ──ライザ・デ・リーチザクラウ

  今、確かに陛下は私の名をそう呼んだ。
  正式な王女だ、とも。

「まぁ、この名はセオドア殿と婚姻するまでの間だけだから、名乗れる期間は実に短そうなのが残念だがな」

  そんな事を言いながら陛下は愉快そうに笑う。

「ライザ。聞こえた?  君の名だよ?」
「セオドア様……」

  まだこの事態についていけなくてちょっと呆けている私に殿下が優しく囁いた。
  私の名前……

「ライザ」

  陛下が私の名前を呼びながら近付いて来たので、私は姿勢を正す。

「は、はい!」
「よく顔を見せてくれ……あぁ、ルルの面影がたくさんあるな。よく似ている」
「……」
「これまで君の事もルルの事も何も知らず申し訳なかった。母一人子一人で大変だったろう?」
「い、いえ……!!」
  
  私は必死に首を横に振る。
  申し訳なかった……なんて国王陛下に謝らせてしまっている事に、むしろこっちが申し訳なくなってしまう。

「母と過ごした日々は幸せでしたから」

  私はそう微笑む。
  本当だ。お母さんはいつも笑顔で楽しそうで……私にたくさん愛情をくれた。
  料理がちょっと苦手そうだったのは、元王女様だったからかぁ、なんて今更ながら思う。

「そうか。君はルルの娘……私の姪だ。セオドア殿が望んだようにこれからは私の事も家族だと思ってくれると嬉しい」
「へ、陛下……」

  なんて恐れ多い言葉なんだろう。
  それでも“家族”その響きはとても嬉しい気持ちになる。

「レイモンド……だ。そうだなレイ伯父様と呼んで貰えたら嬉しいぞ」
「レ、レイ伯父様?」

  私がそう口すると陛下……いえ、レイ伯父様はとても嬉しそうに笑った。

「リーチザクラウ国王として、そしてライザの伯父としてセオドア殿とライザの婚約を心から祝福する。セオドア殿、これがそなたから届いた書簡への返事だ」
「ありがとうございます」

  殿下がホッとした顔をして頭を下げた。

「ありがとうございます」

  私も倣って一緒に頭を下げるとレイ伯父様は笑った。

「先日会ったあの日も思ったが、セオドア殿ならルルの忘れ形見であるライザを幸せにしてくれると既に確信出来ていたからな。反対する理由など無い」
「え?」
「へ、陛下!!  あ、あの日の事は……!」

  何故、そんな確信が?  と疑問に思ったと同時に殿下が慌て出した。

「ライザ。セオドア殿がルルと君の話をしに我が国にやって来た時、セオドア殿は如何に君が可愛いかを散々惚気けていたのだ」
「!?」

  そんな話は聞いていない!
  私は驚いて殿下の顔をまじまじと見る。
  殿下は「うっ……そんな目で見ないでくれ……」と言って恥ずかしそうに目を逸らした。何なら頬もほんのり赤い。

「私もルルの可愛さは存分に語らせてもらったが……それ以上だったぞ。これだけ大切に思われているならと、全く心配はしていない」

  ……お母さんの可愛さを語るレイ伯父様と、私の可愛さとやらを語るセオドア様。

  一国の王と一国の王太子が顔を合わせてるのに何の話をしているのですか!
  と突っ込みたい気持ちになった。

  (でも、お母さんも私も大切に思われてる……そんな気がして嬉しい)

  だけど、そんなほのぼのした気持ちになった所を、またまたエリザベスが声を荒らげて水を差してきた。

「ちょっと待って下さい!  王女ってどういう事ですか!?」
「どうもこうもないだろう?  今、聞こえていた通りだ。ライザはリーチザクラウ国の王女だった! そして、正式に認められた」

  殿下が冷たく返すけれどエリザベスは納得いっていないようだ。

「嘘よ!  そんなの嘘に決まってるわ!  あなたの母親が陛下の妹だって証拠は何処にあるのよ!」
「そなたは私の言葉を疑うのか?」
「……うっ!  で、ですが、似ている、面影がある、というだけの話なら証拠とは言えません!  容姿だけなら似ている人間はいますから証明にはならないと思います!」

  よほどこの事実を認めたくないのか、陛下に睨まれてもなおその反論が出来るエリザベスは、どんな心臓の持ち主なのかと思う。

「エ、エリザベス!  やめなさい!」
「お母様?  何故です??  だって王女だなんておかしな話ではないですか」

  真っ青な顔をした侯爵夫人が慌ててエリザベスを止めに入る。侯爵夫人がこんなに慌てる姿は初めて見たかもしれない。

「……タニア。お前の娘は本当に躾がなっていないな」
「も、申し訳ございません」

  侯爵夫人はそう謝罪するもずっと顔が真っ青だ。なんなら身体も震えている。
  それはどこか怯えているようにも見える。

「ライザ。セオドア殿から聞いている。ルルの指輪を持っているのだろう?  そこのうるさい娘に見せてやれ」
「は、はい!」

  (あぁ……こうなる可能性を考えて殿下は指輪を身に付けてくるように言っていたのね?)

  私はこっそり忍ばせていた指輪を手に取るとそれをエリザベスに見せる。

「エリザベス様、これはあなたがこれまで散々馬鹿にした私の母親の形見です」
「は?  この指輪が?」

  エリザベスは訝しげな顔をする。

「リーチザクラウ国では王家の王女が成人を迎えるとその瞳の色を模した石を使った指輪が作られます。これは国王陛下の妹で私の母であるルル王女の指輪です」
「バ、バカな事を言わないで頂戴、そんなの偽物の可能性だって……」

  エリザベスはやはり認めようとしない。なので私は続けて言う。

「リーチザクラウ国の紋章も入っていますから間違いありません。私の母はルル王女で、当時、この王家の指輪を持って失踪したそうです」
「……失踪?」
「エリザベス様にはこの指輪の石が偽物に見えますか?」
「…………っ!」

  まじまじと指輪を見たエリザベスの顔色が分かりやすく変わった。
  流石に理解したのかもしれない。
  けれど、すぐに思い至る事があったのか声を荒らげた。

「なら何で、その失踪した王女様が我が家に紛れ込んでお父様を誘惑したのよ!?」
「……その説明はタニア。お前の口から聞かせてもらおうか?」

  レイ伯父様の言葉に侯爵夫人がビクリと震える。

「お、お母様?  どういう事です?  何か知っているの?」
「……」

  侯爵夫人は震えたまま答えない。

「それと、さっきからそこで呆然としていて微動だにしないマクチュール侯爵。貴殿にも話を聞きたい所だな。を!」
「…………!」

  ずっと沈黙を保っていた侯爵も顔が真っ青だった。しかも何故か「ルル王女?  ……あの……ルイーゼ、が?  ほ、本物……?」と呟いている。

  その言葉を聞きとって不思議に思った。

  (ま、まさか、侯爵はお母さんの正体を知らなかった?)

 
 
しおりを挟む
感想 242

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...