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明かされる過去 ②
しおりを挟むそんな二人の様子を見てレイ伯父様は、ため息を吐きながら言った。
「マクチュール侯爵、ミゲール。そなたは我が国に留学している頃、ルルに一目惚れしていたな?」
「っっ!」
侯爵の身体が分かりやすく跳ねた。
それはまるで図星だと言っているようで……
(ど、どういう事……? お母さんに一目惚れ? 侯爵が?)
突然のその話に私の頭の中も混乱した。
「そなたは父に何度もルルとの婚約を願い出ては却下されていた。ルルもルルでそなたに見向きもしていなかったが」
「……」
侯爵が、悔しそうに下を向く。それは事実なのだと伝わって来る。
「そうしてフラれたそなたは、それからはルルによく似た容姿の女性とばかり付き合うようになっていたな。そう。まるでルルの身代わりを求めるように。違うか?」
「……っ」
そう問われた侯爵の顔色は真っ青を通り越して真っ白に近いくらいどんどん悪くなっていく。
「そこに現れたのがタニアだ。私とルルの従姉妹であるタニアはそれはそれはルルとよく似ていた。そんなタニアはミゲール……そなたに恋をした。かなり無理やり結婚を迫ったタニアをそなたは抵抗もせずに受け入れたな。あんなにルルに執着していたのに」
「…………それって、まさかお母さんの身代わり?」
思わず私はそう声に出していた。
私のその声を拾ったレイ伯父様は大きく頷いた。
「そういう事だろう。従姉妹のタニアほどルルに似ている女性はいなかっただろうからな」
「そんな……」
まさか、ここで“身代わり”なんて言葉が出てくるとは思わなかった。
侯爵夫人はお母さん……ルル王女の身代わりだった────?
「そうして結婚したミゲールとタニアだったが……しかし、その後ルルが失踪した事で事態は大きく変わった」
「お母さんが、この国に来て侯爵夫人を頼ったから?」
「そうだ。なぁ、タニア。私はルルが失踪した時、もしかしたら君を頼る事があるかもしれない。その時はこっそり助けてやってくれ、そう内密に連絡をしたはずだ。なのにどうしてこうなった?」
「……」
侯爵夫人は答えない。その顔色はかなり酷い。
「答えろ! タニア!! これは命令だ!」
「ひっ! ル、ルルは……」
流石に命令だと言われて答えないわけにはいかなかったのか、侯爵夫人は身体を震わせながらようやくその重い口を開いた。
「ルルは……本当に私を頼って来たわ……私の気持ちも知らないで……旦那様は私と結婚してくれたけど、本当は私を通してずっとルルを見ている事は知っていた……」
「やはりな」
「すぐに追い出したかったけど、思い直したわ。わざと下級メイドの真似をさせていびってやろう……そうすれば、勝手に出ていくだろうし、私もすっきりする。そう思って匿う事を決めたわ。だってルルは箱入りの王女様よ? メイドの真似事なんて出来るわけないもの!」
「!」
思わず侯爵夫人に文句を言いそうになる。
すんでのところで、殿下が無言で私の手を握って止めてくれた。
(確かに今、口を挟むべきではない。文句があってもちゃんと最後まで聞かないと……)
止めてくれた殿下に感謝した。
「なのに……! ルルは私からどんな扱いを受けても毎日楽しそうで健気で笑っていて……私の鬱憤はちっとも晴れなかった。“タニア、ありがとう。私を王女扱いしないでくれて”なんて言ってるのよ!? ろくにメイドの仕事も出来てなかったくせに!!」
侯爵夫人は半狂乱になって叫ぶ。
「でも、そんな仕事の出来ない下級メイドは逆に目立つものなのね……偶然、ルルは旦那様の目に止まってしまった! ルルの事をいつまでたっても忘れられない旦那様よ? いくら変装していても、ルイーゼと名前を変えていてもルルの面影は充分残っていた……だから旦那様は……!」
と、そこまで言った侯爵夫人は侯爵の事を見た。
侯爵は下を向いて何も答えない。
「……侯爵は無理やりルルに似たそのメイドを手篭めにした、そういう事だな?」
「何もかもが許せなかった。だから私はその日、そのままルルを身一つで追い出したわ……泥棒猫と罵って」
「ルルもルルで私に合わせる顔が無かったのでしょうね。そのまま屋敷を後にしたわ」
その言葉にレイ伯父様が苦痛の表情を見せながらも侯爵の方へと視線を向ける。
「そうか……先程からのミゲールのその反応。どうやらそなたは手篭めにしたメイドがルル本人だとは知らなかったようだな?」
「……っ」
侯爵の目が泳ぐ。
それはずばり言い当てられた、と言わんばかりの反応だった。
「ルルに似ているだけの平民メイド、そう思っていたわけだ。まさか、ずっと焦がれていたルル本人だったとも知らずに手酷く扱ったわけだな!?」
「……!!」
その言葉に侯爵は今までで一番大きな反応を見せた。
「……そういう事か」
「セオドア様?」
殿下がようやく理解した、と呟いたのでどういう事かと聞き返す。
「同じ自分の娘なのに侯爵がエリザベスは溺愛してライザを冷遇した理由だよ」
「理由ですか?」
「侯爵はルル王女に、懸想していた。だがその想いは叶わずよく似ていた夫人を身代わりにして結婚し、エリザベスが生まれる。愛しいルル王女との子では無いがルル王女の血筋は多少は入っている娘だ」
「まぁ、そうですね……」
何だか素直に肯定したくないのは何でかしら。
「一方、ルル王女に似ているからと恐らく単なる気まぐれで手を付けたメイド……ルイーゼ殿がまさか本物のルル王女だと思ってもいなかった侯爵は……」
「……つまり。似ているだけでルル王女の血筋が入っていないと思われた私は所詮、偽物だから要らない……どうなっても構わない……侯爵はそう思ったという事ですね?」
殿下は静かに頷く。
「皮肉なものだな。手に入らなかった女性の身代わりとして仕方なく娶ったであろう夫人との間に生まれたエリザベスを大事にして、本当に手に入れたかったはずの王女との間に出来たライザをここまで冷遇するとはな……愚かだな」
「……くっ! くそっ! わ、私は……!」
殿下のその言葉で侯爵はその場に膝から崩れ落ちた。
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