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16. 前世の浮気 ①
しおりを挟む(これは一体どういうこと……?)
前世であの二人は知り合いだった?
胸元のホクロ?
「……」
私の記憶にある中での“アメリア”の装いを思い返してみる。
特別、胸を強調するようなデザインのドレスを着ているという印象は無い。
それは、前世の彼女も同じ。
(今世での二人がとっくにそういう関係だとして───……)
正直、色々思うことはあるけれどそこは納得出来る。
でも、前世は?
「───やっぱりさ、過去に愛し合った人間と同じだと思うとさ……」
「……」
(つまり、前世での二人は知り合いだった?)
「心がぐらつくと思うんだよ」
「……」
(私が知らなかっただけで何処かで繋がりがあった?)
「だから、これからは分からないだろう?」
「……」
(だけど、そんな偶然があるとは思えない……!)
「伯爵を信じすぎてはいけない!」
「……」
(……うるさいわね)
ジュート様はまだ得意気にペラペラ喋っているけれど、内容が全然頭に入って来ない。
こっちは思考しているのに邪魔だな、としか思えなかった。
「ん? ニーナ? なんでそんな目で見てくるんだ?」
私の“こいつ邪魔だな”感が伝わったのか、ジュート様がだんだん怪訝そうな表情になっていく。
「こっちは親切にまた浮気されてもニーナが傷つかないようにと思って、アドバイスしてあげているのにその態度はなんなんだ」
その意味の分からない主張に目を剥いた。
アドバイスして“あげている”。
その上から目線にもカチンッと来た。
「アドバイス……?」
「そう! そこの浮気予備軍の夫とはさっさと離縁するべきだって話さ!」
ジュート様はにこっと笑う。
他人のあなたには関係ないでしょ? と言った先ほどの私の言葉なんてもう何処へやら、だ。
「あ、でも今回は安心してくれ!」
「は? 今回?」
またまた意味の分からない言葉がジュート様の口から飛び出す。
「ほら、いくら慰謝料もらってても前世の新菜ちゃんは、あんなくだらない趣味にばかりお金を使っていたから、離婚後もお金が無くて大変だったもんね?」
「え……」
その発言にあれ? と思った。
大事な趣味をバカにされたことよりも……別のなにか。
「“助けてあげる”って何度も何度も何度も! メッセージ送ったのに返信くれないほど忙しく働いててさ」
「……」
「しかも、あんなボロアパートに住んで───」
(────!)
背筋がゾクッとした。
玲音との離婚後にしつこいくらいにメッセージが送られてきていた覚えは、ある。
最初は心配してくれている……そう思ったのだけどあまりにも量が多くて、内容も玲音を中傷するようなことばかり。
返信する気力がどんどん無くなっていきスルーしがちだった。
そして、ボロアパート……
確かに離婚後の私は慎ましい生活を送ることになった。
でも、その引っ越し先を私は彼に教えたっけ……?
(なんだろう? これ聞いているとまるで……ストー……)
「…………レ、レオン様」
「ニーナ!」
ブルッと身体を震わせた私は思わず助けを求めてレオン様の名前を呼ぶ。
レオン様はすぐに反応してくれてギュッと抱きしめてくれた。
その温もりにホッとした。
「ニーナ、これ以上あいつの話を聞いたらダメだ」
「レオン様……」
「頭がおかしくなる」
レオン様は私を抱きしめながら耳元でそう囁く。
私もその通りだと思って小さく頷いた。
それに、うまく言えないけれど───これ以上聞いてはいけないと強く警告されているような気持ちもある。
「…………」
「……レオン様? どうかしました?」
ふとレオン様からの強い視線を感じたので私はそっと顔を上げた。
パチッと私たちの目が合う。
レオン様はどこか悲しそうに微笑んだ。
「……ニーナ」
「はい?」
「あのさ……」
レオン様が私に何かを言いかけた時、またもやペラペラと悦に入ったように語っていたジュート様が我に返って突進して来た。
「おい! ちょっと目を離した隙にベタベタくっついて何をしているんだ! 今すぐ離れろ!」
怒り狂った様子のジュート様は無理やり私たちを引き剥がそうとして来た。
「離れろ? それはこっちのセリフだ。何度言えば君は理解するんだ、ジュート・ケンドリック!」
「くっ」
レオン様が足でジュート様を払い除けながら声を荒らげる。
「いいか? 何度でも言ってやる。ニーナはもう俺の妻だ! ニーナも言っていたが、お前がニーナを捨てて他の女の手を取ったんだ!」
ギリッとジュート様が唇を噛む。
「胸元のホクロだかなんだか……あるのかはよく知らないが、そんなものがあることを記憶出来るほど侯爵令嬢とは深い関係なんだろう!?」
「あ、あれは酒に酔っていて……それにアメリアの方から……」
言い訳がましいことを口にしようとしたジュート様に向かってレオン様が冷たく言い放つ。
「ハァ……少し調べさせてもらっていたが、どうやら貴殿がニーナとの婚約中の時からすでに関係していたそうじゃないか」
「!」
ギクッとジュート様は肩を震わせた。
「相手は未婚の侯爵令嬢……酔っていようと伯爵令息の君が迂闊に手を出すべき相手じゃなかったな」
「……っ、ぐっ……」
「だからあの時、君は苦しそうなニーナを見捨てたんだろう?」
レオン様は口撃の手を緩めようとはしない。
「君たちには当然、結婚の話も出ているはずだ」
「……」
「まあ、キャボット侯爵家としては“君では”不満らしいが」
「……!」
敢えて逆撫でするような言葉選びをしているな、と思った。
図星だったのかジュート様は反論せず悔しそうに唇を噛む。
(確かに侯爵家としてはそう思うかも……)
王子殿下は五歳だからお妃にはなれないけど、王族と縁のある若手の男性は何人かいる。
侯爵家なら自分の娘はそういう家に嫁がせたいと考えるのは普通。
ましてや、ケンドリック伯爵家は特に突出した“何か”がある家ではない……
「お前は、そんな肩身の狭い扱いを受け、元婚約者のニーナと結婚していればな……と段々と思うようになった」
「……」
「そう思っていたところ、甦った前世の記憶でニーナは“新菜ちゃん”だったと分かり、ますますお前はニーナのことが惜しく……そして欲しくなった」
「……っ、くっ……」
「だから前世の記憶を利用して、“また”俺を浮気者に仕立て上げて俺とニーナを離縁させ“今度こそ”自分がニーナと結婚したい……そう思って必死なんだろう?」
(……ん?)
何だろう?
レオン様の今の言葉に何かが引っかかる。
「残念だが────そんなことを画策しようしても無駄だ」
「なんだと!?」
レオン様が私の腰に回している腕にギュッと力を入れた。
「俺はニーナと離縁するつもりは一切ない」
そんなレオン様のキッパリと言い切った言葉にジュート様が息を呑む。
私も私で胸がキュッとなった。
「俺は、前世の失敗で学んだ。望まれた通り離れる選択を受け入れ、自分はただ遠くから幸せを願うことが彼女の幸せに繋がる───あの選択は正解じゃなかったんだと!」
「……レオン様?」
レオン様はキッときつくジュート様を睨みつけると指をさした。
「俺がこの手を離さずに守るべきだったんだ─────俺とニーナをはめたお前たちから」
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