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17. 前世の浮気 ②
しおりを挟む(はめられた……)
それは、前世の私たちの離婚の原因───玲音の浮気のことを指している……
すぐにそう思った。
なぜなら、ここまでのやり取りで私の中で、
“俺はやっていない”
ずっとそう主張していたことが本当のことだったのでは? と思えていたから。
(その裏にいたのが───)
「……なっ」
実際、ジュート様はレオン様のその言葉を受けて青ざめると硬直した。
反論の言葉一つも出せずに呆然としている。
(この反応……)
明らかに図星をさされた反応。
けれど、レオン様は“お前たち”と言った。
つまり、一人……ジュート様だけじゃない、ということ。
複数の意味は────……
レオン様のその言葉を反芻していたその時だった。
「マクラウド伯爵と夫人……あなたたちは、何をしているんですか……!?」
聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
「───ジュート様!!」
その声の主であるアメリアはレオン様に蹴られて床にへたれこんでいるジュート様に向かって駆け寄る。
私たちが会場から出る時は、硬直していたアメリアだけど我に返って追いかけて来たらしい。
(このタイミングで……)
正直、アメリアを刺激したくないというのが本音だけれど。
そう思いながら今は何も答えずにアメリアの様子を窺う。
アメリアはキッと私のことを睨んできた。
「……マクラウド伯爵夫人! あなたって方はどれだけ見境のない方なのかしら!」
見境が……ない?
なんのこっちゃと思ってアメリアの顔を見返すと、彼女はまたギラギラした目で私を見てくる。
「夫である伯爵様を侍らせておきながら、元婚約者のジュート様にも色目を使うなんて!」
「……」
私の態度が色目を使っていたように見えたなら、アメリアは一度視力検査を受けた方がいい。
そう言いたいけれど、言ったらその先が面倒なことになりそうだ。
「どうしてかしら? ……私、昔から夫人、あなたの顔を見ているとその顔を思いっきり歪ませてやりたくなりますの」
アメリアは憎々しそうな顔でそう言い放つ。
(────やっぱりアメリアは“彼女”だわ)
どうやら前世の記憶はフラッシュバックされてはいないようだけど、おそらく本能で感じとっている。
つまり、前世でジュート様と共に私たちをはめたのはアメリア。
二人で協力して私たちを仲違いさせようとした───
「ですから、アメリア様は私からジュート様を寝とったのですか?」
「え?」
「……私たちが婚約解消する前からとっくに深い関係だったとお聞きしましたが?」
「ジュート様?」
私がそう言うとアメリアが驚いた様子でジュート様の顔を見る。
青ざめているジュート様の顔を見て察したらしいアメリアは、私に視線を戻すと楽しそうにクスクスと笑った。
「ええ、その通り。あなたの悔しそうに歪んだ顔が見たくてジュート様は私からお誘いしましたわ」
アメリアは全く悪びれる素振りも見せずに堂々と認めた。
「お酒に酔わせて近付いてみたら、ジュート様は簡単でしたわよ? すぐ私の誘いに乗ってくれました」
「……」
「婚約者なのにガードが固くて何もさせなかったあなたにかなりの不満が溜まっていたのではなくてぇ~?」
ホホホと勝ち誇った顔で笑うアメリア。
この世界は中世ヨーロッパ風なだけあって結婚前に関係を持つことは決して褒められたことじゃない。
にも関わらず、侯爵令嬢という身分で堂々と自慢気にそのことを口にするアメリアは無意識に前世に引っ張られているのかもしれない。
「ふふふ、ジュート様と私の相性はとっても良くて、まるで初めてとは思えな……」
「ハハッ────まあ、それはそうだろうな」
ここでレオン様がアメリアの話を遮るように鼻で笑った。
アメリアが怪訝そうな表情になる。
「……伯爵様? 何を笑って?」
「いや、ははは。きっと無意識ながらも覚えていたのだろうな、と思っただけだ」
「…………無意識? 覚えている……?」
レオン様の言葉にアメリアは思いっきり眉をひそめる。
でも、レオン様はアメリアのその問いかけには答えずにジュート様の方に顔を向けた。
「そうだろう? ジュート・ケンドリック」
「……」
ビクッとジュート様の身体が震えた。
「君も今回彼女と関係を持った時、同じことを思ったんじゃないのか? 何だか懐かしい、と」
「…………っ」
「は? なに? なんの話……?」
レオン様の言葉にますます身体を震わせるジュート様。
一方でアメリアは事情が飲み込めずに首を傾げている。
(──ああ、そういうこと……だったんだ)
私にはレオン様の言いたいことが分かった。
────胸元のホクロだかなんだか……あるのかはよく知らないが、そんなものがあることを記憶出来るほど侯爵令嬢とは深い関係なんだろう!?
さっきのレオンのこの言葉を聞いた時に思った。
レオン様がアメリアの胸元にホクロがあるかどうかを知らないのは当然。
しかし、この言い方は前世の浮気相手の亜芽莉さんにもホクロがあることを知らなかったように聞こえた。
(玲音は知らないのに十斗くんはホクロのことを知っていた……それはつまり)
「十……いえ、ジュート様……あなた、だったのね?」
「────っっ」
ジュート様が思いっきり私から顔を逸らす。
これでは肯定したも当然。
「あの時、“彼女”の中にいたというお腹の子の……」
(父親!)
最初に自分は妊娠している───その話をされた時は、てっきり亜芽莉さんの狂言だと思った。
でも、彼女は玲音の写真だけじゃなく、エコー写真も一緒に持っていた。
だから、私は……新菜は完全に浮気だと誤解して─────……
(……っ)
私はおそるおそるレオン様の顔を見る。
パチッと私たちの目が合った。
「ニーナ」
「……レッ!」
「大丈夫だ。分かっているから」
「───っ」
レオン様は優しく諭すように私にそう言った。
そして、ギュッと私がレオン様に抱きつくと優しく抱きしめ返してくれた。
「……私、酷いこと……いっぱい言った……」
「ニーナ……」
「あなたは何度も何度も知らない、誤解だってちゃんと本当のことを言っていたのに……」
「いや、落ち着け。シロでもクロでも大抵の奴はそう言うと思うぞ?」
レオン様は苦笑しながらそう言って私の背中をポンポンと優しく叩く。
「でも、私はあなたを信じようとしなかった……」
「あの状況では無理だろ? 俺だって逆の立場だったらニーナに同じ言葉をぶつけていたかもしれない」
「……レオン、様」
レオン様が優しすぎる。
もっと責めてくれてもいいのに。
それくらい酷いことを私はたくさん言った……ぶつけてしまった……
「────いいんだ」
「え?」
「ニーナは自分を責めてくれって思っているだろうけど」
レオン様がギュッと強く私を抱きしめる。
「今をこうして生きてニーナと一緒にいられるなら……俺はそれでいいんだよ。それ以上は望まない」
「──────レオンっっ」
私もギュッと強くレオン様の体を抱きしめ返した。
ずっと青ざめたままその場から動かないジュート様と何が何だか分からず目を白黒させているアメリアを無視して、私たちはしばらくの間、思いっきり抱きしめ合った。
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