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第一話
しおりを挟むその日、お姉様はいつものように私にこう言った。
「今回も飽きちゃったわ。だからアンタに譲ってあげる、リラジエ」
「……」
「私のお下がりだけど、アナタには十分でしょ?」
そう言って笑うお姉様の顔は美人のはずなのに、とても醜く見えた。
そして思う。
果たして、これはもう何回目の事だったか、と。
私の名前は、リラジエ・アボット。
アボット伯爵家の次女。
私には姉がいる。
お姉様の名前はレラニア・アボット。
正真正銘、私達は血の繋がった姉妹。
私とお姉様は、容姿も性格も全てが正反対。
明るい金髪にちょっと吊り上がった猫目のお姉様と、平凡な亜麻色の髪とタレ目の私。
共通しているのは瞳の色くらい。
血の繋がった姉妹なのにこうも違うのは、それぞれ私達の容姿がお父様とお母様に似たからだった。
かつて“社交界の薔薇”と呼ばれていた美しいお母様に似たお姉様と、平凡伯爵というアダ名を付けられていたらしいお父様に似た私。
まさか、姉妹でこんなにハッキリと差が出るなんて誰が想像出来ただろう。
性格だって、良く言えば明るく活発で行動的なお姉様と、どちらかと言うと家で静かにしているのが好きな私。
真逆にもほとがある。
社交界の薔薇だったお母様は私が小さい頃に病気で亡くなってしまい、その美貌を受け継いだお姉様に対して周りはこれでもかとデレデレに甘やかし溺愛した。
──その結果がコレだ。
年頃になり社交界デビューを終えたお姉様には当然、求婚者が殺到した。
だけど、昔からチヤホヤされるのが大好きなお姉様は、その中から誰か1人を選ぶことをせず、数多くの男性と浮名を流すようになってしまった。
そこでついた通り名は“社交界の毒薔薇”
絶対お母様は草葉の陰で悲しんでいると思うの。だって毒薔薇よ?
なのに、肝心のお姉様と来たら……
「オーホッホッホ! そんな名前は私の美貌を妬んだ愚かな女達の嫉妬に過ぎないわ! 何とでも呼ぶといいわ!!」
そう言って笑い飛ばし蹴散らしていた。
……お姉様はこっちが驚くくらいどこまでも逞しかった。
そんな毒薔薇のお姉様は、お付き合いした男性に飽きると必ずと言っていいほど、その相手を私に譲ると言い出す。
姉の恋人だった男性達が、次に紹介された私を見てガッカリするのを見て楽しむという悪い癖。
私には理解出来ない。
そもそも男性達もなぜ、お姉様から「あなたには飽きたの」と、言われて捨てられているのにも関わらず、平気な顔で次の恋人候補として妹を紹介されてるの?
お姉様の事を好きだったんじゃないの?
……きっとお互い結婚までの遊びと割り切っての事なんだわ。
私はそう結論づける事しか出来なかった。
正直、お姉様もその元恋人達にも私は不快感しか抱けなかった。
◇◇◇
「……はぁ、嫌だわ。本当に憂鬱……それで今回はどこの誰だったかしら? 」
もういちいちお姉様の恋人が誰かなんて覚えていないし、知りたくもない。
お姉様と恋人の関係は長くて3ヶ月持てば良い方。
酷いと数日でお別れも有り得る。
さて、今回の捨てられた可哀想な方はどれくらい持った方なのかしら。
私は今日、お姉様立ち会いの元、その人に会う事になっている。
毎度お決まりの憂鬱な時間。
「ふふふ~あぁ、リラジエ。今回は気に入られるといいわねぇ~?」
今日のお姉様はいつも以上にご機嫌だった。
きっと今回も、
『毒薔薇の妹のくせに地味だな』
『悪いけど、妹さんは無理だな』
そう言われる私を楽しみにしているに違いない。
もう慣れてしまった。
だけど、あと何度こんな事を繰り返せばいいのかしら。
正直に言わせてもらうなら、もういい加減にして欲しいのだけど。
「……はぁ」
ため息しか出ない。
そんな感じでいつものように気分が暗く沈み始めた頃、その人はやって来た。
「君がリラジエ嬢? ジークフリート・フェルスターと申します」
「……!?」
今までのお姉様の恋人達の中からは考えられないくらい丁寧に挨拶を受けた。
私はその事に驚き、しばし固まってしまった。
そのせいで返事を返すのが遅れてしまった事に気付いて慌てて自分も名乗った。
「リ……リラジエ・アボットです」
この人は本当の本当にお姉様の恋人だった人なの?
今までの男性達とは雰囲気も出で立ちも何もかもが違い過ぎて私はとにかく圧倒されてしまう。
そ、それにフェルスター家って……侯爵家じゃなかったかしら?
えぇぇ!?
「ごめんなさいね、ジーク様。リラジエがどうしても貴方を自分に紹介して欲しいって聞かなくて。私は迷惑よって言ったのだけど……」
色んな驚きのせいで挨拶以外の言葉を発せずにいた私の事など無視して、お姉様がいつものセリフを言う。
そう。
お姉様はいつも、私にせがまれて仕方なく元恋人を会わせているのと嘘をつく。
その言葉を聞いて、お姉様の元恋人達は「お前なんかが?」と、私を見下したかのように鼻で笑う。
そこまでが毎度お決まりのパターンだった。
「え? そうなんだ? それは光栄だな。ありがとう、リラジエ嬢」
「「えっ!」」
しかし、今日の男性───ジークフリート様は予想外の反応を見せた。
その反応に私とお姉様の驚きの声が重なる。
「ちょっ……!? あ、あなた何を言ってるの? よく見て! ほらこの子、リラジエよ!?」
そう必死に口にするお姉様の顔はピクピクと引き攣っている。
それはジークフリート様の反応が予想したものと違ったからだろうと思われるのだけど。
お姉様の言葉の中には悪意が見え隠れしているわ……
(でも、まぁ、お姉様の動揺はとてもよく分かる。だって私も驚いたもの!)
「……? 何かおかしな事を言ったかな? 可愛いらしい妹さんじゃないか」
「!!」
「はぁ?」
ジークフリート様のその言葉に私はさらに驚き固まった。
一方のお姉様は更に顔を引き攣らせた。
そんなお姉様の様子を知ってか知らずかジークフリート様は笑顔で更に爆弾発言を投下する。
「ねぇ、レラニア嬢。もう妹さんの紹介は受けたんだ。だから君はもうこの場に居なくてもいいんじゃないかな?」
「!?」
「なっ!」
ジークフリート様はとってもいい笑顔をお姉様に向ける。
彼は謎の圧力でお姉様をこの場から追い出そうとしていた。
「だよね? リラジエ嬢」
「……えぇと……」
なんて答えたら……?
今までにない出来事が起きてしまい、とりあえず私の頭の中は大パニックに陥った。
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