王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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211. 真実の愛とは ②

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(真実の愛について?)

 私は殿下からの問いかけを聞いて数回、瞬きをする。
 この言葉を聞いて私が頭の中に真っ先に思い浮かべる言葉は一つ。

「────浮気を正当化する言葉ですわね」

 私の言葉に室内はザワついた。
 そして、野次馬として集まった人たちはともかく、真実の愛を盲信している集団のメンバーにはすごい目で睨まれた。
 特にエリーズ嬢。

「ははは、予想はしていたが随分とはっきり言うのだな」

 アンセルム殿下は私を見ながら苦笑する。
 私も静かに微笑む。

「ですが私、“真実の愛”が無いとは思っていませんの」
「え?」

 殿下が不思議そうに首を捻る。

「そもそも愛って相手を大切に思う気持ちを表すのでしょう?」
「あ、ああ……まあ、定義は色々あるかもしれないが」
「ですから本来、真実の愛っていうのは、もっと崇高な意味で使われる言葉なのだと思うのですけども」

 私は少し目を伏せる。
 とにかく理不尽な目に合っている人が本当の愛を知って幸せになる───これも真実の愛の一つだと思うわ。

「気持ちというものは嘘がつけますから、そこに偽物や真実があってもおかしくはないと思うのです。ですから、全てを否定するつもりはありません」

 世の中、嘘つきさんはたくさんいますからね!

「でも、私は真実の愛───それは自分で口にすることではないと思っていますの」
「自分では?」
「何だか途端に薄っぺらくなりますわ」
「う、薄っぺらい?」

 少し驚いた様子の殿下に私は頷く。

「ええ……少なくとも私がこれまで見て来た“真実の愛”を口にしていた人たちって、自分に酔っていて実は全く相手のことを大切に思っていませんでしたから…………ね?  エリーズ様?」

 私に話を振られたエリーズ嬢がビクッと肩を震わせる。

「私、前にもあなたの前で言いましたわ」
「……っ」
「真実の愛って相手への思いやりから生まれるもので、打算まみれの計算していた時点で、残念ながらあなたの愛は真実の愛なんかじゃなかったと!」

 私の言葉に真実の愛を盲信する集団メンバーの目が一気にエリーズ嬢に向かう。
 ……真実の愛なんかじゃなかった?
 ……どういうこと?
 ……理不尽に真実の愛を奪われた被害者だったのでは?

「……ひっ!?  な、なに、その目……」

 “悲劇のヒロイン”だったはずのエリーズ嬢に疑惑の目が向けられる。

「や……なんでそんな目であたしを見るの!?  あたしは……あたしの真実の愛は……」

 エリーズ嬢はそんな皆からの疑惑の目に脅えだした。

「エリーズ様!  あなたも、あなたの真実の愛の相手だった貧…………しな?  ……げっそ……」
「────ヴァンサン王子だよ、フルール」
「……!  ヴァンサン王子もですわ!」

 とっさにあの王子の名前が出て来なくて焦ったけれど、私の素敵な旦那様、リシャール様がすぐに察して小声で助けてくれましたわ。
 さすが、出来る夫は違いますわね! と、内心の汗を拭う。

 そのまま私は気を取り直して続ける。

「あなた方はお互いが責められている時、何をしていました?  エリーズ様が追い詰められている時の殿下、何をしていたかどんな顔をしていたか覚えています?」
「~~っっ!  そ、それはっ……」
「…………このように、私がこれまで出会った“真実の愛”を口にして来た方々は、皆さま口だけのペラッペラでしたわ」

(ベルトラン様もそうだった……)

 私の存在を消して貫くはずだった王女殿下との真実の愛もペラッペラだったわ。
 そんなことを思い出しながら、私はエリーズ嬢から視線を変えると真実の愛を盲信するメンバーの方に視線を向けた。

「きっとこちらにお集まりのあなた方の中には、真実の愛を盾にして婚約者のいる方や配偶者のいる方から相手を無理やり奪った方もいると思うのです」

 心当たりがあったのか、殆どの人間がビクッと反応を示した。
 私は彼らに向かってにっこり微笑む。

(今日は、予言者フルールになるわよ!)

「そんなあなた方は───きっと、いつか大きなしっぺ返しが来ますわ」

 ザワッ……
 彼らは騒めくと深刻そうな表情で互いの顔を見合わせる。

「ふふ、そうですわね──愛と引き換えに身分を失った方もいるかもしれませんし、莫大な慰謝料請求をされる方も──」

 ビクビクビクッ
 さらに多くの人の身体が震えた。

(やっぱり……私の目は誤魔化せませんわ!)

「まあ!  どうやら慰謝料を請求されている方が多いのですね!  これは慰謝料の相場をお伝えした甲斐がありましたわ!」

 私がにっこり笑顔でそう口にすると、彼らはギョッとして一斉に“お前かーー”という目で私を見た。

「あら?  その反応はなんですの?  だってこれは当然の権利。大事なことですもの」

 私がにっこり微笑むと彼らはうっ……と静かに肩を落とす。

「そうそう。もし今そちらに集まっている方の中で、まさに真実の愛を持ち出されて理不尽に婚約破棄や離縁された方がいたらぜひ、活用すべきですわ!」

(……あら)

 私は野次馬の皆さんにも向けてそう言うと、何人かが反応を示した気がした。
 もしかしたら、泣き寝入りした人かもしれない。

(泣き寝入り?  そんなのダメですわ……!)

 メラッ……
 私の闘志に火がつく。

「貰えるものはがっぽり貰ってしまいましょう!  身分差?  怖くて言い出せない?  大丈夫ですわ。だって私は───」

 ここで私はどーんと大きく胸を張る。

「そうして自分の国の王家からも慰謝料をもぎ取りましたもの!」

 私の一際張り切ったこの宣言に室内はこれまでで一番大きくざわめいた。
 ……王家から!?
 ……本当に?
 ……そんなことが可能なのか!
 信じられない……という顔をしている人たちに私はにっこり笑顔を向ける。
 この国は大丈夫よ。
 だってアンセルム殿下とイヴェット様がいるもの。

「心配ご無用ですわ!  皆様にはアンセルム殿下が絶対に助けてくれますから!  ですわよね、殿下?」
「え?  あ、ああ…………確かに私は理不尽な婚約破棄は許せない──……」

 急に私に話を振られたアンセルム殿下がつられたように頷く。

「それで、慰謝料を手に入れたあとは“真実の愛”なんて口にして来た愚か者とはここで縁が切れて良かったと思ってもらえたら嬉しいですわ。だって───」

 ここで私はぐるっと全員を見渡す。
 皆が私のことをじっと見ている。
 そんな視線を受けながら私はニンマリ笑いながら声を張り上げた。

「“真実の愛”などと軽々しく口にして浮気を正当化して来るような方って、またすぐ別の誰かに運命を感じて全く同じ言い訳をして自分のことを捨てて来そうだと思いません?」

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