誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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【おまけ】ジョシュアの目標

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 ニパッ!

「あうあ!」

 ゴロゴロゴロ……

「……」

 ゲシッ

「あうあ~~」

 ゴロゴロ……

「……」

 ゲシッ!
 ゴロゴロ……

「あうあ~~~」
「……」

 今、私の目の前では、ジョシュアが床をゴロゴロ転がりながらアイラに近づいてはゲシッと蹴り返されている。
 ジョシュアは何度蹴られても、いつものニパッとした笑顔のまま一切めげることなく再びアイラに向かっていく。
 そして蹴られている……

(は?  …………この子たち、何やってんの?)

 ひたすら無言、無表情で兄を蹴り返しているアイラも怖いけど、容赦なく蹴られているのに笑顔のまま何度もゴロゴロアタックするジョシュアがとにかく怖い……!

「ちょっと、ジョシュア……?」
「あうあ」

 とにもかくにも呼びかけてみる。
 ジョシュアはニパッと満面の笑顔でこっちを見た。

「一応聞くけど、それは新しい遊びなの?」
「あうあ~」

 ゴロンゴロンしながら答えるジョシュア。
 私は隣のジョルジュに視線を送る。
 ジョルジュは待ってましたとばかりに口を開いた。

「ジョシュア曰く、運動の一つらしいぞ」
「遊びじゃなくて運動?」
「あうあ~~」

 ニパッ!

「あうあ!  あうあ」
「───見てください!  最近のボクはちょっとプニッとしてきたです」

 ジョルジュがジョシュアの言葉を通訳してくれる。

「は?  プニ?」
「あうあ!」
「だから、ボクはこのままではいけません!  と強く言っている」
「は?」

 なんかベビーが美意識高い発言してるんだけど?
 プニッとか言ってるけどそもそもベビーの身体ってこんなものでしょ?

「あうあ、あうあ!」
「ボクが目指すは、おじーさまやおとーさまみたいなシュッとしたしぶくてカッコイイ男なのです!」
「は?  渋くてかっこいい……?」

 私は通訳中の夫ジョルジュの顔を見る。

(渋くてかっこいい……?)

 同時に眉間の皺で会話する息子ジョエルも頭の中で思い浮かべてみた。

(渋くてかっこいい……?)

 ジョシュアの目にはなんのフィルターがかかってるの?
 呆れた私は深ーーいため息を吐いた。

「落ち着きなさい、ジョシュア。そのまん丸の目でよく見てその小さな頭で考えなさい。ジョエルなんて表情筋が死滅してるだけの男よ?」
「あうあ!」
「───いいえ、二人は目で語るしぶくてカッコイイ男なのです!  …………ジョシュア!  俺たちのことそんな風に思ってくれていたのか……嬉しいぞ!」
「ジョルジュ!!」

 通訳中のジョルジュが涙ぐみ感動し始めた。
 チョロすぎる!

「あうあ!」
「まずはこのプニプニしたからだをだっきゃくして、スリムな男をめざすです!」
「ねぇ、ジョシュア。今度は誰の影響を受けたの?  あなたちょっとすぐ人に影響されすぎだと思うわよ?」

 ジョシュアはついこの間、かくれんぼのコツとやらを聞き回っていた。
 あうあを封印して少し静かにしてみたら?  と言われて本当に“あうあ”を封印するという極端なことをしていた。
 そのくせ、笑顔の圧だけは強くてなんとも気持ち悪い時間だった。

「あうあ!」
「いいえ、おばーさま!  ボクはそんな流されやすい単純な男ではありません!」
「何を言ってるのよジョシュア。完全にあなた、いつも流されて流されてどんぶらこっこでしょ?  本当に今回、余計な知恵を植え付けたの誰なのよ?」

 私はチラッとジョルジュに視線を向ける。
 ジョシュアがおかしなことを始める時のだいたいの原因はジョルジュかジョエルだ。

「俺は知らないぞ」

 ジョルジュが首を横に振る。

「うーん、やっぱりジョエルなのかしら?  人生の指南書を毎晩ジョシュアに読み聞かせてるって話だものね。あの本の内容も……ねぇ」
「何を言ってるんだガーネット?  あれは人生になくてはならぬとても素晴らしい本だぞ」
「……すば……らしい?」
「ああ」

 ボロボロになるまで読み続けても友人が一人もいなかった男が何か言ってる。

「あうあ~」
「ほら見ろ。ジョシュアも大絶賛してるぞ!  ベビー界のベストセラーだ!」
「えええ……絶対その歳で読んでるのジョシュアだけだと思うわよ?」
「あうあ~~」

 ニパッ!

「今度、ベビーちゃんにもオススメするです、とジョシュアは言ってる」
「は?  それはやめてあげて」
「あうあ~」

 私が戸惑ってる間にジョシュアはゴロゴロアタックを再開。
 再び、ゴロゴロとアイラに向かって転がっていく。
 そんな転がってくる兄を無表情で迎え撃つアイラ。

「……」

 ゲシッ!

「あうあ~~」
「…………ぅ」

(あら?)

 ここでアイラが小さな声で言葉を発した。

 ────おにーさま、まだまだですわね

(……?)

 何がまだまだなのかしらと私は不思議に思う。
 すると、アイラはジョシュアに向かって続けて言った。

「……ぅぁ」

 ────おにーさま?  そんなことではいつまでたってもプニプニのままですわ

「あうあ~」

(んんん?)

「ぅぁ!」

 ────しぶくてかっこいいスリムな男にはとーくおよびませんわよ!

(え?  …………アイラは何を言ってるの?)

「あうあ!」
「……」

 ゲシッ!
 ニパッと笑ったジョシュアが再びゴロゴロと転がっていってアイラに蹴り返された。

「あうあ~~」
「……」

(えーー……)

「……い、いた」
「ガーネット?」

 ジョシュアに余計な知恵を植え付けた張本人がここにいた!
 天使のような可愛らしい顔でえげつない要求してる!

「ジョルジュ!  分かったわ。ジョシュアをプニプニしてると言って渋くてかっこいい男になることを勧めたのはアイラよ!」
「アイラが?」
「……」

 ジョルジュがアイラに顔を向けた。
 アイラは無言でじっと私たちを見つめてくるだけ。
 しかも……

 ────それが何か?

 アイラの目がそう言っている。
 まさか、あの自由人ジョシュアを自分好みの男に育てようとするなんて!

(……アイラ、恐ろしい子!)

「ジョシュアを手のひらでコロコロと転がしたのか……やはりアイラはガーネットに似たんだな」
「え?」
「やはり、アイラならガーネットの出来なかったこの国を乗っ取って頂点に立つ───女王様にでもなれる!」

 ジョルジュがウンウンと頷きながらそんなことを口にした。

「は?」
「下僕宣言していたジョシュアもアイラのためなら喜んで邪魔者を始末するだろうしな」
「は?」
「ジョシュアもジョシュアで国の一つや二つ、滅ぼして手にしそうだし」
「は?」
「────ガーネット!  これからの成長が楽しみだな!」
「は?  ちょっ……」

 ギルモア家ならぬギルモア国の建国でも夢見たのか、ジョルジュが目をキラキラ輝かせていた。




 また、ジョルジュからそんな訳の分からない未来を託されたうちの一人、
 渋くてかっこいいスリムな男を目指していたプニプニジョシュアは……


「あうあ~~」
「え?  もしかしてお代わり?  ジョシュア、そんなにミルクを飲んで大丈夫?」
「あうあ~~!」

 ニパッ!
 最高級のミルクを片手に満面の笑みを見せるジョシュア。

「セアラ、大丈夫だ。ジョシュアは今日もいっぱい運動したです、と笑っている」
「運動?  そ、そう?」

 ジョエルの通訳に半信半疑ながら頷くセアラさん。

「あうあ~~!」

 ゴキュッゴキュッゴキュッ……
 そして、ジョシュアも美味しそうにミルクを飲み干す。



 ───そして後日。

「あうあ~~……」

 ────おかしいです、しぶくてカッコイイ、スリムな男にならないです~~……

 ミルクをたっぷり飲みまくってプニプニからは抜け出せずにいた。

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