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【おまけ】それはボクです
しおりを挟む「父上? 母上? どう、とは? ゴホッ」
詰め寄られているジョルジュは両親の昂りの理由が分からずケホケホむせている。
「ジョルジュ! なぜ、まだあの子は、あうあなんだ!」
「あうあ~」
「もっとお喋りしてもいい頃だろう!」
「あうあ~」
「俺に言われても……」
ジョルジュがうーんと首を傾げる。
「私たちに挨拶してたとか、あなたは言うけど全く何を言っているか分からないわよ!?」
「あうあ~~」
「せーんぶ、あうあ!」
「あうあ~~」
「いや、だから俺に言われても……」
この事態を分かっているのかいないのか。
ちょいちょい会話にジョシュアが無邪気に割り込んでいる。
「あうあ!」
ジョシュアは二人に向かって手を上げてニパッと笑いかける。
「くっ、可愛いじゃないか」
「なんて眩しい笑顔……」
「あうあ~」
ジョシュアの見た目は天使な微笑みにあっという間に負けそうになる二人。
「あうあ!」
ニパッ!
「…………ジョルジュじゃ駄目だわ! 困った時はガーネットさん!」
「!」
息子では埒が明かないと悟った二人の矛先が私に向かう。
「あの子はどうしたんだ!? 全ての言語が“あうあ”じゃないか!」
「私に言われましても……」
そんなの私の方が知りたい。
「そうよ! 思い返せば小さい頃のジョエルもいつだって“う”だった! これは父親に似たの!?」
「私に言われましても……」
むしろ、あなたたちの息子のジョルジュに似たんじゃない? とは言いづらい。
「待て。そうだ、我々のひ孫はもう一人いる……!」
「そうね。名前は……」
私に詰め寄りっていた二人はここでアイラの存在を思い出し、ジョエルの腕の中にいるアイラに目を向けた。
「「アイラ!!」」
「……」
二人に一斉に名前を呼ばれたアイラ。
しかし、当然ながらアイラは無反応。
うんともすんとも言わず、いつもの無言無表情でじっと見つめ返すだけ。
「なんてことだ! こっちのひ孫は笑いもしない!」
「まるで、ジョエルの女の子バージョン!」
アイラもやべぇ子だと瞬時に理解したお義父様とお義母様が大興奮。
血圧、大丈夫かしらとついつい心配になってしまう。
私はその光景を静かに見つめている夫、ジョルジュに声をかけた。
「……ジョルジュ」
「なんだ?」
「なんであなたそんなに冷静なのよ? お義父様もお義母様も心配になるくらい興奮してるわよ?」
「……」
私がそう訊ねるとジョルジュは、ふむ……と唸った。
「そうは言うが、父上と母上は昔からいつもあんな感じではしゃいでいたぞ?」
「は?」
(はしゃぐ……?)
「父上は俺が何かするとよく頭を抱えてたし、母上はジョルジューー! といつも俺の名を叫んでいた」
「……いつも」
「そうだ。懐かしいな」
(ジョルジュ……)
私は何とも言えない目で夫を見つめる。
そうよね。
よくよく思い返せば私と出会った時のジョルジュはすでにやべぇ……コホンッ、おかしかったもの。
前に聞いた留学前にこの国にいた頃の話も大概だったし……
「確かに、まだジョエルがベビーだった頃、何しても無反応すぎた時もお義父様たち、いつもあんな感じだったわね」
「だろう? ジョエルは、どんなにあやしてもくすぐってみても常に無反応だったからな」
「……ホホホホホ」
(絶対に始まりはあなたよ、ジョルジュ……)
私はそんな気持ちで愛する夫を見つめた。
────
「───そういえば最近、王都ではスーパーベビーが居るという話を聞いた」
ようやく落ち着いたお義父様とお義母様。
互いに近況報告を行っていると、お義父様がそういえば、と切り出した。
「スーパーベビー?」
私たちは眉をひそめる。
「セアラさん、知ってる?」
「いいえ」
セアラさんも首を振る。
どうせ、ジョルジュとジョエルに聞いてもまともな答えは返ってこないと判断し、セアラさんに訊ねたけれど知らないらしい。
「あうあ!」
ベビーという言葉にに反応するジョシュア。
そして何が楽しいのかキャッキャと笑ってる。
「領民たちの間で噂になってるそうよ」
「最近の赤ん坊は元気なんだなぁと話していた所だったんだ」
「ええ。そんな時にジョルジュから訪問の連絡があったから嬉しかったわ」
お義母様も嬉しそうに微笑む。
確実に血圧は上昇させてしまったとは思うけど、今回の訪問を喜んでくれているなら嬉しい。
「あうあ~」
「ふーん、スーパーベビー」
「あうあ~」
ジョシュアやアイラみたいにやべぇベビーが他にもいるのねぇ、なんて他人事のように思った時だった。
「なんでも、赤ん坊自らクズな男を成敗するらしい」
「中でも浮気男はボコボコにされるんですって。赤ちゃんなのに凄いわね」
「あうあ~」
(ん?)
お義父様とお義母様の会話に何かが引っかかる。
「そして赤ん坊らしい無茶苦茶理論で相手の財産や領地をぶんどるのだとか」
「赤ちゃんだから一切の遠慮はないんですって」
「あうあ~」
(んん?)
私は傍らでキャッキャと笑ってる我が家のベビーの一人、ジョシュアをじっと見つめる。
私の視線を感じたらしいジョシュアと目が合う。
ニパッと笑われた。
「あうあ!」
「……」
私はスッと手を上げると無言で指をパチンッと鳴らした。
その音に反応したジョルジュが、待ってましたとばかりに言った。
「任せろ! それはボクです~、たぶんボクです~、おそらくボクです~、きっとボクです~、とさっきからジョシュアは訴えてたぞ?」
「あうあ!」
(───やっぱり!)
私は頭を抱える。
全然、他人事じゃなかった。
めちゃくちゃ身内だった。
「ス、スーパーベビー!?」
「あうあ!」
微笑みの天使だの悪魔だの……この子の呼び名はいくつあるのよ……!
「んん? ジョルジュ、どういうことだ? 巷で噂の赤ん坊はジョシュアのことなのか?」
「あうあ!」
「ああ。ジョシュア以外にいないだろう」
ジョルジュはキッパリとそう言った。
「なら最近、領地が増えていたのは?」
「あうあ!」
「あれは、ジョシュアがぶんどった土地だ」
お義父様とお義母様が目を丸くして顔を見合わせる。
「……ジョシュアが」
「ぶんどった……」
「あうあ~」
ニパッ!
「……この子が噂の」
「スーパーベビー……」
「あうあ~~」
ニパッ、ニパッ!
ジョシュアはご機嫌で二人に笑いかける。
しかし、ここでハッと何かに気付いたのか、ジョルジュに向かって手をパタパタさせて訴え始めた。
「あうあ、あうあ! あうあ~~」
「なに? ジョルジュ、ジョシュアはなんて言ってるの?」
「あうあー」
ジョルジュはうんうんと頷きながら言った。
「……ジョシュアは足りないと言っている」
「足りない?」
「あうあ!」
「そうだ。スーパーベビーでは足りないそうだ」
「あうあ!」
「何がよ?」
私が聞き返すと通訳ジョルジュは言った。
「“可愛い”が足りないらしい」
「は?」
「あうあ~~」
「ほら、だってボクはこんなに可愛いです~~とジョシュアは胸を張っている」
「あうあ~~!」
「はぁぁああ!?」
知らないうちにスーパーベビーなんて呼ばれていたジョシュア。
しかし、そんなジョシュアは更に自分には“可愛い”が必要だと訴えていた。
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