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【おまけ】結局、こうなる
しおりを挟む「こら、ジョシュア!!」
「あうあ!」
あまりの図々しさに私は怒ろうとしたけれど、ジョシュアはえっへんと胸を張っている。
「くっ……」
「あうあ~~」
ニパッ!
私が何も言えなくなったのをいいことにジョシュアが満面の笑みを浮かべる。
ジョシュアのこの笑顔は本当に可愛い。
だからこそ悔しい。
「はぁ……王都から離れてる場所にまで噂が広がってるなんて、末恐ろしい子ね」
「あうあ!」
「ほう。ボクのしてきたことはどれもこれも立派なギルモア家の男になるためには全て必要なことです、か。本当にいつ聞いてもジョシュアの向上心はすごいな」
ジョルジュが嬉しそうにうんうんと頷いてジョシュアの頭をよしよしと撫でる。
「あうあ~」
「ホホホホホ……」
カス男やクズ男をボコボコにして領地や財産をぶんどることが立派なギルモア家の男になるのに必要って……
ジョシュアはギルモア家を何だと思ってるわけ?
なんて呆れていたら、その会話を聞いていたお義父様とお義母様の身体がプルプル震えていた。
(え! まさかジョシュアのあまりのはちゃめちゃっぷりに血圧急上昇しちゃった!?)
「おと……」
私は二人を落ち着かせようと声をかけようとした。
しかし……
「すごい!」
「なんという向上心の塊な赤ちゃんなの!」
「あうあ~」
(ん?)
二人のジョシュアを見る目がキラキラ輝いている。
「ジョルジュはね、あなたはギルモア家の後継ぎなのだからもう少しシャキッとしてしっかりなさい! と子どもの頃から何度叱っても叱っても……」
「はぁ……と、ぼんやりした答えしか返さず、やる気があるのか無いのか分からなくて困ったものだ」
「ええ。留学から戻って来てもやっぱりぼんやりした性格は何も変わってなくてね」
「ガーネットさんと出会って二十二歳でようやく跡継ぎの自覚に目覚めてくれた時は歓喜したものだ……」
「そんなジョルジュとは大違いの子ね!」
「あうあ~」
(ぼ、ぼんやり……)
すごい言われよう。
思わずジョルジュの顔を見たけど本人は全く気にしてる様子がない。
むしろ、覚えがあるのかふんふんと懐かしそうに頷いている。
「……ジョルジュ? あなたって一人息子のくせに跡継ぎの自覚なかったの?」
「ん? ああ……確かに昔はあまり深く考えてなかったな」
「……マイペースにも程があるわよ??」
「そうか? だが、少なくともジョシュアくらいの歳の頃に跡継ぎだのなんだのと考えた記憶は一切ないな」
「それは……」
私はニパッと笑っているジョシュアに視線を向ける。
「あうあ~」
どう考えてもジョシュアが異様なだけだと思う。
「あうあ~~」
私たちがそんな会話をしている間も義両親の興奮は止まらなかった。
「てっきり、最近領地が増えたのはガーネットさんの手腕だとばかり思っていたのよ!」
「あうあ~」
「はい?」
「ああ。海とか山とか……とにかく資産ががっぽり取れそうな土地ばかり手に入れていたから、てっきりガーネットさんが欲したのだと……」
「あうあ~」
「なっ……」
なんで、私の主導だと思われてたわけ!?
「「それがまさか、全部ジョシュア主導だったとは!!」」
「あうあ!」
ジョシュアは、ぜーーんぶボクです! と言わんばかりの顔で二人に笑いかける。
「こんなに小さくて可愛いのにすごい赤ちゃんね」
「まさに、スーパーベビーという呼び名に相応しい!」
「あうあ~~!」
「ギルモア家の未来は安泰だ!」
(いやいやいや、ジョシュアの前にジョエルがいるんですけど~~??)
しかし、次期ギルモア侯爵となるジョエルはそんなことを気にした様子もなく、アイラを抱っこしながら眠そうに欠伸をしている。
(ジョエルーー!?)
私は夫に似てどこまでもマイペースな息子に愕然とした。
「あうあ~!!」
一方でたくさん褒められた孫、スーパーベビージョシュアはご満悦の様子だった。
────
そして翌日。
恒例の朝の置物になった男たちも無事に目覚めて動き出したと思ったら、ジョシュアが皆に何かを訴えだした。
「あうあ、あうあ~、あうあ!」
「ん? なんだって? これからアイラと街に繰り出して領民たちにご挨拶するです?」
「あうあ!」
ジョルジュの通訳によるとジョシュアは挨拶をしたいと言っているらしい。
「これはまた随分と立派な心掛けじゃないか、ジョシュア!」
「あうあ~!」
ジョルジュがまたもや感心しているとジョシュアは胸を張ってニパッと笑った。
「あうあ、あうあ~」
「ほう、ボクとアイラで皆をメロメロにするです? ふむ、メロメロにするのか」
「あうあ!」
「そして、大きくなる前の可愛いボクを皆の目に焼きつけるです? ほう? ジョシュアは時々何を言ってるのかよく分からん」
ジョルジュは通訳しながら首を傾げている。
(出たわ~)
ジョシュアの自信満々発言。
でも……
私はジョシュアに訊ねてみる。
「ねぇ、ジョシュア」
「あうあ」
「そうは言うけど、あなたの本当の目的はただ街に出て遊ぶことなんじゃないの?」
ニパッ!
ジョシュアが笑う。
これは珍しい。いつもなら先に“あうあ”って言ってから笑うのに。
これは図星だったかしら?
「あうあ! あうあ~、あうあ!」
「ホーホッホッホッ! ジョルジュ! ジョシュアはなんて言ってるのかしら?」
「任せろ! ───まさか! 遊ぶだなんて~、でもでも街に出るからにはとーぜん美味しいものも食べるです!」
「へぇ、前にぷにぷにの身体を気にしてたけど、ダイエットはもういいの?」
「あうあ、あうあ~」
「それは、明日からです~」
(ホホホ、知ってる。そう言って絶対やらないやつね~~)
挨拶だなんて立派なことを口にしながら要するにジョシュアは遊びたいだけ。
やっぱりまだまだベビーだわ。
だけど、ちゃっかりアイラを道連れにしている。
「アイラ! アイラは勝手に巻き込まれてるけどそれでいいのかしら?」
私は相変わらず大人しくて、うんともすんとも言わないアイラに声をかける。
すると、アイラは静かに顔を上げた。
「………………ぅぁ」
────わたくしは、かわいくてぷりちーなあたらしいおリボンがかえればまんぞくですわ
「ホホホ、そう。可愛くてプリチーなリボンね……」
ジョシュアもだけどアイラもブレないわね、と思う。
「……ぅぁぅ」
────それで、ナターシャにじまんしますの
「ホホホ、それはやめてあげて」
私は首を横に振る。
そんなことしたらナターシャの性格上、絶対に負けないですわ~って張り切ってくるから!
それで、エドゥアルトがはっはっは! と陽気に笑いながら街中のリボンをナターシャのために買い占めちゃうから!
「あうあ~~」
「ん? ガーネット! ジョシュアがアイラに似合うおリボンもたくさん買うですと張り切り始めたぞ?」
「は? なんでよ?」
「あうあ~」
「自分の分のついでらしい」
「自分の!?」
「あうあ~」
ジョシュアが私に向かってニパッと笑う。
そうだった。
そもそも、謎のデカイリボンをベビーたちの中に流行らせたのはジョシュアだった。
「あうあ!」
「───そうと決まったら出発です! だ、そうだ」
「え? あ、こら、ジョシュア……!」
ジョシュアがタタタッと部屋を飛び出す。
「だめ、待ちなさい……!」
「あうあ~~」
「しかも、そっちは外じゃないからーーーー……」
ジョシュアが走っていった方向は玄関ホールとは真逆の方向。
「あうあ~~~~」
(結局、こうなる……のね)
私はがっくり肩を落とす。
結局、その日は街に繰り出すことはなく、半日かけてジョシュアと私の追いかけっこになった。
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