167 / 169
【おまけ】追いかけっこの結果
しおりを挟む「あうあ~~……」
ジョシュアの呑気な声が風に乗って聞こえてくる。
私は声の聞こえてきた方向と風向きをよんでジョシュアの居る場所を考えた。
「ホーホッホッホッ! …………そっちね!」
私は勢いをつけてアタリをつけた方向に走り出す。
「オーホッホッホ! スーパーベビーだろうとなんだろうとこのガーネット様から逃げられると思わないことね!」
この私に不可能はなくってよ!
ここは慣れ親しんだ王都のギルモア邸とは違うけど、この鍛え抜かれた私の脚力で絶対にあの微笑みの悪魔を捕まえて見せる!
「ジョシュア~~出て来なさい!」
呼びかけてみる。
あうあ~~
風に乗って楽しそうな声だけが聞こえた。
すばしっこいあの子の姿は残念ながらまだ見えない。
「ホホホ、でも逃走してるのがジョシュアで良かったわ」
ジョシュアの“あうあ”はとにかく自己主張が激しい。
これが無言無表情のジョエルやアイラだったら、探し慣れていないこの邸では完全に迷宮入りすること間違いなし。
そこでふと部屋に置いてきたジョエルやアイラのことが心配になった。
(大丈夫、部屋にはセアラさんやお義父様とお義母様もいる……)
あの二人がこの邸で迷子になることはないよう見張りは頼んだ。
今、アイラの頭の中は新しいおリボンに夢中だし、ジョエルはセアラさんがいれば勝手に駆け出すことはない。
本当にセアラさんという存在には感謝。
「ジョシュアも恋をしてその人がストッパーになってくれたらいいのだけど……」
あうあ~
頭の中にジョシュアの満面の笑顔が浮かぶ。
「……駄目だわ。人類みな兄弟ですみたいな考えのジョシュアが誰かに恋をする姿が想像出来ない」
いつか見た夢のように令嬢たちに通常通り愛想を振り撒きまくった結果、令嬢たちの中で血みどろの戦いが繰り広げられる未来ばかりが頭に浮かぶ。
「ジョルジュを育てている時のお義父様とお義母様もこんな気持ちだったのかしら……」
つまり、ジョシュアには、
この私のように清く正しく美しく、そしてジョシュアの突飛な行動にも着いていけるだけの知力と体力のある令嬢が必要ということ。
しかし、問題はジョシュアだけじゃない。
「アイラのお相手選びも難しいわ……」
アイラの場合は、ジョエルの女の子バージョンという感じなので、
とにかくセアラさんみたいに素晴らしく理解力と包容力があり、そしてシスコンジョシュアとも渡り合えるような男性でなくては相手をするのは無理だろう。
「ホーホッホッホッ! そんな超優良物件みたいな男って存在するのかしら~……」
いたら苦労しない。
「ホホホ、私、あの子たちの幸せ見届けるため、あと百年くらい生きなきゃいけないかも……」
「────あうあ!」
「はっ!」
なんて肩を落としていたら、捕獲ターゲット・ジョシュアの声が間近で聞こえた。
(───近くにいる!)
ガバッと顔を上げてキョロキョロ辺りを見回す。
そして前方に見えたお尻に息を呑んだ。
(見えたわ! あの、プリップリのお尻は間違いなくジョシュア!)
「ジョシュア!!」
「あうあ!」
ジョシュアが私の声に反応して後ろを振り返る。
その顔はいつものニパッとした満面の可愛い笑顔!
(ホホホホホ……経験上、私は知っている)
「さあ、ジョシュア。追いかけっこはここまでよ? 戻ってらっしゃい?」
「あうあ!」
(決してこういう時のジョシュアに油断してはならない……!)
声をかけると振り返ったジョシュアは少し減速する。
ここで懸命に追いかけている私たちはジョシュアを捕まえられる! と期待をしてしまう。
しかし、このベビーは減速したと見せかけて……
「あうあ~~~~!」
(ほらぁやっぱりーー!)
あと少し……というところで一気に加速する!! それがジョシュア!
「オ~ホッホッホ! 甘いわ、ジョシュア!」
「あうあ!!」
私はジョシュアがグンッと加速を始めたその瞬間を狙って首根っこを掴んで宙に持ち上げる。
「あうあ……!」
ジョシュアは手足をパタパタさせて暴れる。
「ホーホッホッホッ! なんで捕まったのかと不思議そうねぇ」
「あうあ」
「いいこと? ジョシュア。私との追いかけっこは通算何度目になると思って?」
「あうあ」
「あなたのパターンなんてお見通しなのよ、お見通し!」
「あうあ」
ジョシュアは観念したのか手足のパタパタをやめて大人しくなる。
「悔しかったら私もあっと驚くようなパターンを増やすことね!」
「あうあ……」
そうして私はジョシュアを掴んだまま、皆のいる部屋へと戻る。
「あうあ~~……」
───悔しかったら私もあっと驚くようなパターンを増やすことね!
まさか、この言葉がジョシュアの闘志に火をつけていたことも知らずに……
────
「あと、一時間くらいじゃないか?」
ジョルジュの声。
「……いや、三十分だ」
続いてこれはジョエルの声。
「んー、意外ともう少し早いかもしれませんよ? 十五分!」
続いてセアラさんの声。
「でも、ジョシュアだぞ? あの子はとにかくちょこまかしている」
またまた、ジョルジュの声。
(んー? いったい、なんの話をしてるのかしら?)
部屋に近づくと、皆がなにやら和気あいあいと話している声が廊下まで聞こえて来た。
「あうあ」
皆の会話はジョシュアにも聞こえたのか急に手足をパタパタさせる。
「あら? ジョシュアも皆の声が聞こえた?」
「あうあ!」
───ボクのお名前が出ていたです! そう言わんばかりの顔で手足をパタパタしている。
「何かしらね? よく分からないけど、さっさと戻るわよ!」
「あうあ~!」
私たちは急いで部屋に戻った。
────
「オ~ホッホッホホッホッホッ! 待たせたわね! すっかり日が暮れちゃったわ~……」
「あうあ~!」
私はジョシュアを小脇に抱えてバーンと勢いよく扉を開ける。
その音に驚いた皆が一斉に振り返った。
「ガーネット! ジョシュア! 無事に捕獲出来たんだな?」
ジョルジュの声に私は頷く。
「当然でしょ! 物置を荒らしてコソ泥になる前に捕獲完了よ!」
「あうあ~」
ニパッとジョシュアが笑う。
「ふむ。おばーさまはほんとーに凄いのです? ボクの先を読むのです? よく分からんがガーネットだからな! 凄いのは当然だ!」
「あうあ!」
ニパッ!
「ん? さすが、ボクの人生の何倍も生きてるピーー歳のおばーさまで……」
「っっ! お黙りなさい! ジョシュア!!」
私はジョシュアの口を塞ぐ。
このベビーは油断するとすぐに私の歳を口にしようとする。
「あうあ~~……」
「ところで、あなたたちは集まってなんの話をしていたわけ?」
私は全員をじろっと見渡しながら訊ねる。
「あうあ~」
ジョシュアも同じように皆に目を向ける。
すると、ジョルジュがあっさり答えた。
「賭けだ」
「賭け?」
「そうだ、ガーネットがジョシュアを捕獲するまでの時間を予想して賭けていた」
「……はぁ?」
私が懸命にジョシュアと格闘している間に賭け、ですって?
「何を賭けたわけ?」
「予想が一番正解の時間に近かった者の本日の夕食が豪華になるという賭けだ!」
「なっ……」
「あうあ~~」
賭けの対象となったジョシュアは楽しそうにキャッキャと笑った。
楽しそうにしてるけどジョシュアのご飯は豪華にならないこと分かってるのかしらと少し心配になる。
「まあ、いいわ。それで? 予想合戦は誰が優勝したのよ?」
「……」
私が訊ねるとしんっと静まり返り皆が顔を見合わせる。
「は? なんで静まり返るわけ?」
「あうあ!」
「いや、それが……」
何故か誰も名乗り出ようとしない。
不思議に思っていたらジョルジュがポソッと言った。
「アイラだ」
「え?」
「あうあ~」
私とジョシュアの目がアイラに向けられる。
「アイラ?」
「……」
「あうあ!」
「……」
アイラがゆっくり顔を上げる。
ジョルジュがアイラの頭を撫でながら言った。
「誰もがジョシュアがギリギリまで逃げ切ってまだ時間がかかるだろうと予想した中、アイラだけが今すぐ二人は戻って来ると言った」
「まあ、アイラ……!」
「あうあ!」
皆がジョシュアの勝ちを予想する中、アイラだけは私の勝利を信じてくれていたのね?
私はアイラに感激の目を向ける。
「オ~オッオッオ!! ………………ぅぁ!」
すると、珍しくアイラがニタリと笑った。
その目線の先はジョシュア。
────ホ~ホッホッホ!! わざとみんなとよそーをかえたかいがありましたわ! さいこーきゅーのミルクはすべてわたくしのものですわ、おにーさま!
(ええーー……)
信じてくれていたわけではなく、ただの作戦だった……
─────
「あうあーー……」
「…………ぅぁ」
そしてその夜、アイラはジョシュアの目の前で最高級のミルクを独り占めし、これでもかと自慢するようにガブガブ飲みまくっていた。
443
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ
夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」
華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!
【書籍化決定】愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
王太子妃候補、のち……
ざっく
恋愛
王太子妃候補として三年間学んできたが、決定されるその日に、王太子本人からそのつもりはないと拒否されてしまう。王太子妃になれなければ、嫁き遅れとなってしまうシーラは言ったーーー。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる