誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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【おまけ】追いかけっこの結果

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「あうあ~~……」

 ジョシュアの呑気な声が風に乗って聞こえてくる。
 私は声の聞こえてきた方向と風向きをよんでジョシュアの居る場所を考えた。

「ホーホッホッホッ!  …………そっちね!」

 私は勢いをつけてアタリをつけた方向に走り出す。

「オーホッホッホ!  スーパーベビーだろうとなんだろうとこのガーネット様から逃げられると思わないことね!」

 この私に不可能はなくってよ!
 ここは慣れ親しんだ王都のギルモア邸とは違うけど、この鍛え抜かれた私の脚力で絶対にあの微笑みの悪魔を捕まえて見せる!

「ジョシュア~~出て来なさい!」

 呼びかけてみる。
 あうあ~~
 風に乗って楽しそうな声だけが聞こえた。
 すばしっこいあの子の姿は残念ながらまだ見えない。

「ホホホ、でも逃走してるのがジョシュアで良かったわ」

 ジョシュアの“あうあ”はとにかく自己主張が激しい。
 これが無言無表情のジョエルやアイラだったら、探し慣れていないこの邸では完全に迷宮入りすること間違いなし。
 そこでふと部屋に置いてきたジョエルやアイラのことが心配になった。

(大丈夫、部屋にはセアラさんやお義父様とお義母様もいる……)

 あの二人がこの邸で迷子になることはないよう見張りは頼んだ。
 今、アイラの頭の中は新しいおリボンに夢中だし、ジョエルはセアラさんがいれば勝手に駆け出すことはない。
 本当にセアラさんという存在には感謝。

「ジョシュアも恋をしてその人がストッパーになってくれたらいいのだけど……」

 あうあ~
 頭の中にジョシュアの満面の笑顔が浮かぶ。

「……駄目だわ。人類みな兄弟ですみたいな考えのジョシュアが誰かに恋をする姿が想像出来ない」

 いつか見た夢のように令嬢たちに通常通り愛想を振り撒きまくった結果、令嬢たちの中で血みどろの戦いが繰り広げられる未来ばかりが頭に浮かぶ。

「ジョルジュを育てている時のお義父様とお義母様もこんな気持ちだったのかしら……」

 つまり、ジョシュアには、
 この私のように清く正しく美しく、そしてジョシュアの突飛な行動にも着いていけるだけの知力と体力のある令嬢が必要ということ。
 しかし、問題はジョシュアだけじゃない。

「アイラのお相手選びも難しいわ……」

 アイラの場合は、ジョエルの女の子バージョンという感じなので、
 とにかくセアラさんみたいに素晴らしく理解力と包容力があり、そしてシスコンジョシュアとも渡り合えるような男性でなくては相手をするのは無理だろう。

「ホーホッホッホッ!  そんな超優良物件みたいな男って存在するのかしら~……」

 いたら苦労しない。

「ホホホ、私、あの子たちの幸せ見届けるため、あと百年くらい生きなきゃいけないかも……」
「────あうあ!」
「はっ!」

 なんて肩を落としていたら、捕獲ターゲット・ジョシュアの声が間近で聞こえた。

(───近くにいる!)

 ガバッと顔を上げてキョロキョロ辺りを見回す。
 そして前方に見えたお尻ものに息を呑んだ。

(見えたわ!  あの、プリップリのお尻は間違いなくジョシュア!)

「ジョシュア!!」
「あうあ!」

 ジョシュアが私の声に反応して後ろを振り返る。
 その顔はいつものニパッとした満面の可愛い笑顔!

(ホホホホホ……経験上、私は知っている)

「さあ、ジョシュア。追いかけっこお遊びはここまでよ?  戻ってらっしゃい?」
「あうあ!」

(決してこういう時のジョシュアに油断してはならない……!)

 声をかけると振り返ったジョシュアは少し減速する。
 ここで懸命に追いかけている私たちはジョシュアを捕まえられる!  と期待をしてしまう。
 しかし、このベビーは減速したと見せかけて……

「あうあ~~~~!」

(ほらぁやっぱりーー!)

 あと少し……というところで一気に加速する!!  それがジョシュア!

「オ~ホッホッホ!  甘いわ、ジョシュア!」
「あうあ!!」

 私はジョシュアがグンッと加速を始めたその瞬間を狙って首根っこを掴んで宙に持ち上げる。

「あうあ……!」

 ジョシュアは手足をパタパタさせて暴れる。

「ホーホッホッホッ!  なんで捕まったのかと不思議そうねぇ」
「あうあ」
「いいこと?  ジョシュア。私との追いかけっこは通算何度目になると思って?」
「あうあ」
「あなたのパターンなんてお見通しなのよ、お見通し!」
「あうあ」

 ジョシュアは観念したのか手足のパタパタをやめて大人しくなる。

「悔しかったら私もあっと驚くようなパターンを増やすことね!」
「あうあ……」

 そうして私はジョシュアを掴んだまま、皆のいる部屋へと戻る。

「あうあ~~……」


 ───悔しかったら私もあっと驚くようなパターンを増やすことね!

 まさか、この言葉がジョシュアの闘志に火をつけていたことも知らずに……


────


「あと、一時間くらいじゃないか?」

 ジョルジュの声。

「……いや、三十分だ」

 続いてこれはジョエルの声。

「んー、意外ともう少し早いかもしれませんよ?  十五分!」

 続いてセアラさんの声。

「でも、ジョシュアだぞ?  あの子はとにかくちょこまかしている」

 またまた、ジョルジュの声。

(んー?  いったい、なんの話をしてるのかしら?)

 部屋に近づくと、皆がなにやら和気あいあいと話している声が廊下まで聞こえて来た。

「あうあ」

 皆の会話はジョシュアにも聞こえたのか急に手足をパタパタさせる。

「あら?  ジョシュアも皆の声が聞こえた?」
「あうあ!」

 ───ボクのお名前が出ていたです!  そう言わんばかりの顔で手足をパタパタしている。

「何かしらね?  よく分からないけど、さっさと戻るわよ!」
「あうあ~!」

 私たちは急いで部屋に戻った。


────


「オ~ホッホッホホッホッホッ!  待たせたわね!  すっかり日が暮れちゃったわ~……」
「あうあ~!」

 私はジョシュアを小脇に抱えてバーンと勢いよく扉を開ける。
 その音に驚いた皆が一斉に振り返った。

「ガーネット!  ジョシュア!  無事に捕獲出来たんだな?」

 ジョルジュの声に私は頷く。

「当然でしょ!  物置を荒らしてコソ泥になる前に捕獲完了よ!」
「あうあ~」

 ニパッとジョシュアが笑う。

「ふむ。おばーさまはほんとーに凄いのです?  ボクの先を読むのです?  よく分からんがガーネットだからな!  凄いのは当然だ!」
「あうあ!」

 ニパッ!

「ん?  さすが、ボクの人生の何倍も生きてるピーー歳のおばーさまで……」
「っっ!  お黙りなさい!  ジョシュア!!」

 私はジョシュアの口を塞ぐ。
 このベビーは油断するとすぐに私の歳を口にしようとする。

「あうあ~~……」
「ところで、あなたたちは集まってなんの話をしていたわけ?」

 私は全員をじろっと見渡しながら訊ねる。

「あうあ~」

 ジョシュアも同じように皆に目を向ける。
 すると、ジョルジュがあっさり答えた。

「賭けだ」
「賭け?」
「そうだ、ガーネットがジョシュアを捕獲するまでの時間を予想して賭けていた」
「……はぁ?」

 私が懸命にジョシュアと格闘している間に賭け、ですって?

「何を賭けたわけ?」
「予想が一番正解の時間に近かった者の本日の夕食が豪華になるという賭けだ!」
「なっ……」
「あうあ~~」

 賭けの対象となったジョシュアは楽しそうにキャッキャと笑った。
 楽しそうにしてるけどジョシュアのご飯は豪華にならないこと分かってるのかしらと少し心配になる。

「まあ、いいわ。それで?  予想合戦は誰が優勝したのよ?」
「……」

 私が訊ねるとしんっと静まり返り皆が顔を見合わせる。

「は?  なんで静まり返るわけ?」
「あうあ!」
「いや、それが……」

 何故か誰も名乗り出ようとしない。
 不思議に思っていたらジョルジュがポソッと言った。

「アイラだ」
「え?」
「あうあ~」

 私とジョシュアの目がアイラに向けられる。

「アイラ?」
「……」
「あうあ!」
「……」

 アイラがゆっくり顔を上げる。
 ジョルジュがアイラの頭を撫でながら言った。

「誰もがジョシュアがギリギリまで逃げ切ってまだ時間がかかるだろうと予想した中、アイラだけが今すぐ二人は戻って来ると言った」
「まあ、アイラ……!」
「あうあ!」

 皆がジョシュアの勝ちを予想する中、アイラだけは私の勝利を信じてくれていたのね?
 私はアイラに感激の目を向ける。

「オ~オッオッオ!!  ………………ぅぁ!」

 すると、珍しくアイラがニタリと笑った。
 その目線の先はジョシュア。

 ────ホ~ホッホッホ!!  わざとみんなとよそーをかえたかいがありましたわ!  さいこーきゅーのミルクはすべてわたくしのものですわ、おにーさま!

(ええーー……)

 信じてくれていたわけではなく、ただの作戦だった……


─────


「あうあーー……」
「…………ぅぁ」

 そしてその夜、アイラはジョシュアの目の前で最高級のミルクを独り占めし、これでもかと自慢するようにガブガブ飲みまくっていた。
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