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【おまけ】慰められた
しおりを挟むそうして、翌日。
ジョシュアとアイラは街に繰り出して“可愛い”をアピール。
「あうあ~」
「…………ぅぁ」
ジョシュアは満面の笑顔でお手をふりふり。
ニパッと笑うだけで可愛い~という歓声が上がる。
一方、ジョシュアと違って笑顔を武器としないアイラはお気に入りのおリボン頭に付けてこれまた可愛いアピール。
天使のような見た目は多くの人を胸キュンさせていた。
「この様子ならギルモア家はジョエル、ジョシュアと……この先も安泰だな」
「ええ、そうね! あなた」
背後で涙ぐんでるお義父様とお義母様に言いたい。
そのジョシュアの先が私は心配よ? と。
(やはり、嫁……嫁探しが重要……)
私がブツブツ唸っていると隣りに立っているジョルジュがどこが気の抜けたような呆けた顔をしていた。
「ジョルジュ? 何をボケッとしてるの?」
「ん? ああ……」
ジョルジュは軽く返事をしただけでそのまま黙り込んだ。
「なによ?」
「いや…………俺はガーネットに出会えてよかったな、と」
「は?」
ジョルジュがしみじみと語る。
急にどうしちゃった……?
「ジョエルにジョシュアにアイラ……ガーネットと出会ってこんな可愛い子どもや孫が出来て、それも皆に慕われているこんな様子を見たら……こう胸が」
ジョルジュがそっと自分の胸を押さえる。
「ジョルジュ……」
そんな夫の姿を愛しく感じた私は高らかに笑う。
「ホーホッホッホッ! だから昔、言ったでしょう? 後悔はさせないって」
「ああ、そうだな」
ふふふ、と私たちは微笑み合った。
そうしてバタバタだった領地訪問を終え、王都のギルモア邸に戻ってから数日後……
「やあやあやあ! お邪魔するぞ!」
聞き覚えのある声がしたと思ったらバーンとギルモア邸の玄関の扉が開く。
訪問の事前連絡が無いのはいつものこと───しかし、遂には扉のノックまでもがなくなった。
もちろん、やって来たのは……
「───エドゥアルト!」
「やあ夫人、お邪魔するぞ!」
「……」
玄関までやって来た私は意気揚々と現れたエドゥアルトの手をじっと見つめる。
(……どうしてノックが無いのかと思ったら)
「うぁぁったぁ……」
エドゥアルトはナターシャを抱えていた。
父親に抱えられたナターシャは何故か涙目で、手にはアイラ同様、ベビー界隈で大人気のどデカいおリボンが一つ握られている。
(ナターシャ、どうした……!?)
何事かと思ってエドゥアルトの顔を見るけど何が楽しいのか、はっはっは! といつもの調子で笑ってる。
「ねぇ、エドゥアルト? ナターシャなんだけど……」
「ナターシャ? ああ、今日も我が家のお姫様は可愛いだろう?」
そう言って軽く笑い飛ばすエドゥアルト。
そうじゃない!
「ナターシャは昨日も一昨日も可愛かったが今日も可愛い。明日も明後日も可愛いぞ!」
「───そんな親バカ発言はいいから!」
「うあっぱぁ……」
「そうじゃないわよ。よく見なさい! ナターシャったら涙目じゃないの!」
私が叱るとエドゥアルトはナターシャの顔を覗き込む。
「ぅあっあ……」
「うーむ? ナターシャのこれは楽しんで喜んでいる顔ではないのか?」
「どこがよ!!」
どこからどう見ても涙目!
「うーむ? でもナターシャは我が家でもいつもこんな感じだが……」
「は?」
(いつも……ですって?)
聞き捨てならない言葉が聞こえる。
仕方がない。
ここは唯一、ナターシャの言葉の通訳が出来る男、ジョルジュを召喚するしかない。
「───ジョルジュ!」
「任せろ!」
私が指パッチンするとすぐに奥からシュバッてくる出来た夫、ジョルジュ。
ナターシャの訴えはジョルジュなら通訳が出来る。
本当に私の愛する夫は最高だわ。
「さあ、聞くぞ! 何があった?」
ジョルジュがナターシャに問いかける。
すると、涙目だったナターシャはあうあう訴え始めた。
「あっぷぅぅ、うあったあ、あっうぁぁあ……あう……」
「ほう」
「うあっぱぁぁ、あっうあ、うううあっぷぁぁあ」
「ほう、そうか」
「あっだぁ、あうあったあ……うあっあぅあ……」
ナターシャの訴えを聞きながらジョルジュがふむふむと頷く。
そして顔を上げると通訳してくれた。
───おへやのなかでわたくしが、おきにいりのおリボンをならべてあそんでいたら、とつぜんおとーさまがバーンとやってきましたの……
(バーン? あ、扉のことね?)
さすがエドゥアルト。
いつでもどこでもノックを知らない。
───おとーさまのとーじょーにびっくりしていたら、はっはっは! さあいくぞ! といわれてわたくしのからだがフワッともちあがりましたわ。
(まるで誘拐……)
───そうして、きづいたらおリボンかたてにいま、わたくしはここにいますの……
完全に誘拐そのものだったーー!
「エドゥアルト!!」
私が怒鳴るとエドゥアルトがしまったという顔をした。
「す、すまないナターシャ! ちゃんとこれからギルモア家に行くぞ! と言うべきだった!」
「そういう問題なの!?」
困った顔で娘に謝罪するエドゥアルト。
絶対に問題はそこじゃない!
「うあっぱぁぁ……」
「エドゥアルト。残念ながら、おとーさまぁぁ……と恨めしい顔でお前のことを睨んでるぞ?」
「っっ!」
ジョルジュにそう言われてエドゥアルトの顔が苦痛で歪む。
怖いもの知らずなエドゥアルトも愛娘に嫌われるのはかなりの恐怖らしい。
「くっ! ……よし! ナターシャ! 帰ったら新しいおリボンをたくさん買おう!」
「う?」
「母上とレティーシャが怒る気がするが説得する!!」
「……! ぅあったあ!」
エドゥアルトの言葉にナターシャが笑顔で頷く。
私はチラッとジョルジュの顔を見た。
さすがにこれは通訳されなくても何となく分かるけど……
「───許しますわ! だそうだ。リボンの力はすごいな。嘘のようにあっさりエドゥアルトのことを許したぞ」
「ホホホホ……」
「ナターシャ!」
ホッと胸を撫で下ろすエドゥアルト。
ナターシャもリボンゲットの確約が取れて満足そうにしている。
こういう所はまだまだ赤ちゃんね、と思った。
───その時だった。
「あうあ~~」
廊下の奥から聞き覚えのある声。
ジョシュアがトコトコやって来た。
───おにーさんとベビーちゃんの声がしたです~
とでも言わんばかりの顔だ。
その瞬間、落ち着いていたはずのナターシャの目がギラッとした目つきになる。
「あっぷぁあ……!」
「あうあ!」
(ホホホ!)
ジョシュアを呼ぶ声もドスがきいてる……
相変わらずナターシャはジョシュアのことをバリバリ敵視しているのが伝わってくる。
けど、ジョシュアはそんなナターシャの様子を一切気にする様子もなく、通常通りニパッとエドゥアルトとナターシャに笑いかけた。
「あうあ!」
「あっぷぁあ……」
───ジョシュアめ……(通訳:ジョルジュ)
「やあやあやあ、ジョシュアじゃないか!」
「あうあ!」
「うあったぁ……」
───来やがりましたわね……(通訳:ジョルジュ)
すごい……ジョシュアのことギラギラの目で敵視してる。
「あうあ!」
「あったぁうあったぁぁ!」
───ここであったが百年目ですわぁぁ!(通訳:ジョルジュ)
そんなギラギラした娘の気持ちを知ってか知らずかエドゥアルトはいつもの調子でジョシュアに笑いかけた。
「はっはっは! ジョシュア、君は相変わらずちまっこいな、元気だったか?」
「あうあ!」
「ん? これでも毎日スクスク大きくなってるんです? そうか、それはすまない」
「あうあ!」
ジョシュアはぷにぷにの腕やらムチムチの足やらを披露する。
「あうあ!」
「なに? 渋くてかっこよくてスリムな男? ジョシュアはそういう男を目指しているのか?」
「あうあ!」
「そうか……」
スリムどころか、まだぷにぷにの赤ちゃんになんて答えるべきか悩んだ様子のエドゥアルト。
「はっはっは! 大丈夫だ! だって君はジョエルの子だからな! そして何かあったらガーネット様が全てどうにかしてくれるさ!」
「あうあ~~!」
(エドゥアルトォォォ!?)
適当なことを言われて目をひん剥いていると、ナターシャの声が聞こえた。
「うあっぷぁぁあ……」
「……ナターシャ?」
「あぶぁうあっば、あっぷぁあ、うあった」
「…………えっと?」
────ガーネットおばさま。つよくいきてくださいですわ……(通訳:ジョルジュ)
と、哀れみの目で見られ、
────わたくしもはやくおおきくなって、このおててでジョシュアをぶんなぐってみせますわ(通訳:ジョルジュ)
「ナ、ナターシャ……」
こうして私、ガーネット・ギルモア。
人生経験豊富なはずのピー歳は、まだまだ人生始まったばかりの0歳児ベビーに慰められた。
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