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【おまけ】そして今日も振り回される
しおりを挟む(この私がベビーに慰められるなんてね……)
私はフッと鼻で笑う。
「歳は取りたくないわねぇ……」
「あうあ~」
すると、ジョシュアがニパッと私に笑いかけた。
そして何故か同時にエドゥアルトが慌てだした。
「ジョシュア! 女性の年齢を口にするのは禁句だぞ!」
「あうあ!」
「いや、だからガーネット様のお歳は今年でよ…………ふぁっ!?」
(なんですって!?)
どうやら私の年齢を話題にしていたらしい二人に向かって思いっ切り睨みをきかせるとエドゥアルトが慌てて口を閉じた。
「エドゥアルト? あなた今なにを言いかけたのかしら?」
「……」
青白い顔でブンブンと強く首と手を横に振るエドゥアルト。
「あうあ~~」
「くっ、ジョシュア! ダメだ……君はガーネット様に絞められたいのか!?」
「あうあ~」
ニパッ!
どうやら、ジョシュア……このベビーはまたしても私の年齢を口にしやがった。
「大丈夫です~、いや、全然大丈夫じゃないぞ、ジョシュア!」
「あうあ」
「君の“可愛い”はガーネット様には通用しないんだ!」
どうやらジョシュアはお得意の“可愛いボク”で対抗しようとしている様子。
「ホーホッホッホ! いい度胸ね、ジョシュア」
「あうあ!」
ニパッ!
ジョシュアはまたしても満面の笑顔を私に向ける。
「あうあ!」
「ジョシュア!? ……だいじょーぶ。おばーさまはヨボヨボになっても美しいですって…………はっ!」
エドゥアルトが私の視線に気付いて自分の手に口を当てる。
「へぇ、ヨボヨボ……」
「あうあ~~」
ニパッ!
「でも可愛いボクはピッチピチですとでも言わんばかりの顔ねぇ、ジョシュア?」
「あうあ~」
ニパッ!
満面の笑みを浮かべたジョシュアがその場から逃げ出そうとする。
でも、私は即座に首根っこを掴んで脱走を止めた。
「こら! ジョシュア!」
「あうあ~~~~」
ジョシュアは空中で手足をパタパタさせながらもキャッキャと楽しそうに笑っていた。
─────
玄関でのドタバタ騒ぎを終えて私たちは部屋に移動した。
逃げ出さないようジョシュアは私の膝の上、ナターシャはエドゥアルトの膝の上にそれぞれちょこんと収める。
「で? 今日のエドゥアルトは何の用なの?」
エドゥアルトの今日の訪問理由をまだ聞いていなかったので訊ねてみた。
「ああ、そうだった。実は風の噂で聞いたんだが先日、ギルモア家の皆で領地に行っていたそうじゃないか」
「あうあ~」
膝の上のジョシュアが私の代わりに答えると、どどーんと胸を張った。
「なに? 可愛い僕と天使のアイラで皆をメロメロにして帰ってきたです? はっはっは! 相変わらず君はブレない自意識過剰な子だな!」
「あうあ~」
(あら?)
エドゥアルトは陽気に笑いながらも、自分のことを可愛いと自画自賛するジョシュアをのことを一刀両断。
これは珍しい。
「いいか? ジョシュア。確かに君はとても可愛いくて皆を魅了する力のあるベビーだ」
「あうあ!」
ニパッ!
ジョシュアが満面の笑みで頷く。
「だがな、これだけは覚えておくといい───我が家のお姫様、ナターシャの方が君よりも小さくて可愛いんだ!!」
「あうあ!」
エドゥアルトが鼻高々に堂々と最高な親バカ発言をした。
その言葉を受けてジョシュアはニパッと笑う。
「あうあ!」
「なに? それは悔しいです。ボクも負けていられません?」
「あうあ!」
(は?)
エドゥアルトによるとジョシュアは悔しがっている……らしい。
(いやいやいや待って。どう見ても全然悔しがってる顔に見えないんだけど?)
「ほう、ジョシュアでも悔しいと思うのか」
「あうあ!」
「とーぜんです?」
全然悔しそうに見えない満面の笑顔のジョシュア。
そんな笑顔のジョシュアがエドゥアルトに訴える。
「あうあ、あうあ、あうあ……あうあ~~!」
「なに? ボクはギルモア家の男として、可愛いでも誰にも負けられません? へぇ、可愛さでも負けられないのか? 珍しいな」
「あうあ!」
「ほう、それがおばーさまの教えです?」
「あうあ!」
(は?)
エドゥアルトの言葉に私は自分の耳を疑った。
「それは初耳だ……ギルモア家はそんな教育方針だったのか?」
「あうあ!!」
───そうです!!
ジョシュアはそう言わんばかりの顔で力強く返事をして大きく頷いた。
「そうか。厳しい厳しいガーネット様の教育方針……」
「あうあ~!」
(違 う わ よ !?)
二人の阿呆な会話に私は絶句した。
「知らなかった。ジョエルとは長い付き合いだが、これまでそんな話は一度も聞いたことがなかったな……ジョエルも苦労していたのだろうか」
「あうあ」
聞いたことがない? 当たり前でしょ!
そんな教育方針は私だって知らない。
ジョシュアが今、勝手に作りやがった。
そしてそれをおかしいとも思わず真に受ける男、それがエドゥアルト。
「ちょっと! 何を勝手なこと言っ……」
私が二人の会話に割り込もうとしたところで、ジョシュアが声を張り上げた。
「あうあ~~!!」
「ん? だからこれからボクは勝負を挑むです?」
「は?」
(今、なんて……?)
「あうあ!」
「───あっぷぁあ……?」
ここでジョシュアがクルリと首の向きを変えるとナターシャに向かってニパッと笑いかける。
すごくすごくすごーーく嫌な予感がする。
「あうあ、あうあ~、あうあ、あうあ!」
「あっぷぁあぁぁ! うあ! うあったぁうあうあっああーー!」
ジョシュアの訴えを聞いたナターシャの顔もベビーとは思えない目つきになってゆく。
(なに……何が起きた!?)
私は慌てて隣のジョルジュに助けを求めた。
「───ジョルジュ!」
「任せろ! ジョシュアは……ベビーちゃん! いま、ボクにはおばーさまがあっとおどろくよーなおいかけっこパターンをふやすしめーがあるです、ちょうどいいからこれからボクとしょーぶするです! と勝負を持ちかけてる」
「は? ヘラヘラした顔であの子何を言いだしてるの?」
追いかけっこのパターンを増やす使命ですって?
それってまさかこの間の……
───悔しかったら私もあっと驚くようなパターンを増やすことね!
(あの発言のせい!?)
「なんで追いかけっこ!? この流れならせめて可愛さを競う勝負をするところじゃないの!?」
「そうは言うが、ジョシュアは追いかけっこでの勝負を求めてる」
「待って! それでナターシャの返事は?」
私がおそるおそるジョルジュに訊ねると、ジョルジュはフッと小さく笑った。
ますます嫌な予感……
「ジョシュアァァ! うけてたちますわ、さっさとつかまえてきょーもボッコボコにしてやりますわぁぁーー! と叫んでいた。こっちはメラメラだな」
「えええ!?」
(ヘラヘラ vs メラメラ……)
そのことに呆気にとられていたら、それぞれ膝の上からびょんと床に降りてスタンバイ始めた二人。
最っっっ高に意味の分からないベビーの戦いが始まろうとしていると気付き、我に返った私は慌てて立ち上がり二人を掴んで止める。
「ジョシュア! ナターシャ! ストーーップ! 駄目よ!」
「あうあ」
「うあったぁ?」
まさに走り出す寸前だった二人が不服そうな様子で振り返る。
「あうあ、あうあ!」
「───おばーさま! なぜとめるです! ガーネット、ジョシュアがかなりプンスカ怒ってるぞ?」
「お黙りジョシュア!」
私はジロッとジョシュアを睨むと一喝する。
「うあったぁあ! あっぷぁあ、うっあうあうあばぶぁあ!」
「────なぜですの! ジョシュアをボッコボコにするおおきなチャンスでしたのに! ガーネット、こっちのベビーも嘆いてるぞ」
「は? なんでこんな時だけ二人は意気投合するわけ!?」
おかしいでしょ?
普段は明後日の会話ばっかりで全く噛み合わないくせに!
「あうあ、あうあーー!」
「ふむ。ジョシュアの言い分は、ボクはベビーちゃんとおいかけっこしょーぶしてかつです! かったほうがいちばんかわいいということになるです! だそうだ」
「なんで!? 全っっ然意味が分からないから!」
追いかけっこ勝負で勝った方が一番可愛いとか最高に意味が分からない。
ジョシュアの思考回路どうなってるわけ?
「あっぷぁあ、うあたぅあうぅあったぁぁあ、うおぁおお!」
「ジョシュアには、“まいりましたナターシャおじょーさま。ボクのかんぱいです、どーぞ、にるなりやくなりすきにしてください”といわせてみせますわ! ほう、こっちも勢いでは負けてないぞ?」
ジョルジュが感心したように通訳する。
「煮るなり焼くなりって……ナターシャ! 殺気を仕舞って! あとそんな物騒な言葉どこで覚えたの!?」
「あばばばば!」
「───えほんですわ! 絵本か……最近の絵本は過激なんだな。ジョシュアは丸々してるからきっと美味いぞ?」
「ジョルジュ!!」
ナターシャの即答にジョルジュがうんうんと頷いた。
「エドゥアルト! あなた……なんて本を読み聞かせてるのよ!」
私はエドゥアルトに向かって怒鳴る。
これは非常に教育上よろしくない。
しかし、エドゥアルトは必死に首を横に振った。
「い、いや、これは多分母上……」
「は? コックス公爵家こそ教育方針はどうなってるの!」
「あうあ~~」
───煮られるのも焼かれるのもとっても楽しそうです~~(通訳:ジョルジュ)
「ジョシュア!! 笑ってる場合じゃないわよ!? あなた食べられる気!?」
「あうあ~」
───美味しいです~(通訳:ジョルジュ)
ベビーたちに振り回されてこの日の私の血圧はすっごく上昇した。
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