誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

文字の大きさ
169 / 169

【おまけ】そして今日も振り回される

しおりを挟む


(この私がベビーに慰められるなんてね……)

 私はフッと鼻で笑う。

「歳は取りたくないわねぇ……」
「あうあ~」

 すると、ジョシュアがニパッと私に笑いかけた。
 そして何故か同時にエドゥアルトが慌てだした。

「ジョシュア!  女性の年齢を口にするのは禁句だぞ!」
「あうあ!」
「いや、だからガーネット様のお歳は今年でよ…………ふぁっ!?」

(なんですって!?)

 どうやら私の年齢を話題にしていたらしい二人に向かって思いっ切り睨みをきかせるとエドゥアルトが慌てて口を閉じた。

「エドゥアルト?  あなた今なにを言いかけたのかしら?」
「……」

 青白い顔でブンブンと強く首と手を横に振るエドゥアルト。

「あうあ~~」
「くっ、ジョシュア!  ダメだ……君はガーネット様に絞められたいのか!?」
「あうあ~」

 ニパッ!
 どうやら、ジョシュア……このベビーはまたしても私の年齢を口にしやがった。

「大丈夫です~、いや、全然大丈夫じゃないぞ、ジョシュア!」
「あうあ」
「君の“可愛い”はガーネット様には通用しないんだ!」

 どうやらジョシュアはお得意の“可愛いボク”で対抗しようとしている様子。

「ホーホッホッホ!  いい度胸ね、ジョシュア」
「あうあ!」

 ニパッ!
 ジョシュアはまたしても満面の笑顔を私に向ける。

「あうあ!」
「ジョシュア!?  ……だいじょーぶ。おばーさまはヨボヨボになっても美しいですって…………はっ!」

 エドゥアルトが私の視線に気付いて自分の手に口を当てる。

「へぇ、ヨボヨボ……」
「あうあ~~」

 ニパッ!

「でも可愛いボクはピッチピチですとでも言わんばかりの顔ねぇ、ジョシュア?」
「あうあ~」

 ニパッ!
 満面の笑みを浮かべたジョシュアがその場から逃げ出そうとする。
 でも、私は即座に首根っこを掴んで脱走を止めた。

「こら!  ジョシュア!」
「あうあ~~~~」

 ジョシュアは空中で手足をパタパタさせながらもキャッキャと楽しそうに笑っていた。


─────


 玄関でのドタバタ騒ぎを終えて私たちは部屋に移動した。
 逃げ出さないようジョシュアは私の膝の上、ナターシャはエドゥアルトの膝の上にそれぞれちょこんと収める。

「で?  今日のエドゥアルトは何の用なの?」

 エドゥアルトの今日の訪問理由をまだ聞いていなかったので訊ねてみた。

「ああ、そうだった。実は風の噂で聞いたんだが先日、ギルモア家の皆で領地に行っていたそうじゃないか」
「あうあ~」

 膝の上のジョシュアが私の代わりに答えると、どどーんと胸を張った。

「なに?  可愛い僕と天使のアイラで皆をメロメロにして帰ってきたです?  はっはっは!  相変わらず君はブレない自意識過剰な子だな!」
「あうあ~」

(あら?)

 エドゥアルトは陽気に笑いながらも、自分のことを可愛いと自画自賛するジョシュアをのことを一刀両断。
 これは珍しい。

「いいか?  ジョシュア。確かに君はとても可愛いくて皆を魅了する力のあるベビーだ」
「あうあ!」

 ニパッ!
 ジョシュアが満面の笑みで頷く。

「だがな、これだけは覚えておくといい───我が家のお姫様、ナターシャの方が君よりも小さくて可愛いんだ!!」
「あうあ!」

 エドゥアルトが鼻高々に堂々と最高な親バカ発言をした。
 その言葉を受けてジョシュアはニパッと笑う。

「あうあ!」
「なに?  それは悔しいです。ボクも負けていられません?」
「あうあ!」

(は?)

 エドゥアルトによるとジョシュアは悔しがっている……らしい。

(いやいやいや待って。どう見ても全然悔しがってる顔に見えないんだけど?)

「ほう、ジョシュアでも悔しいと思うのか」
「あうあ!」
「とーぜんです?」

 全然悔しそうに見えない満面の笑顔のジョシュア。
 そんな笑顔のジョシュアがエドゥアルトに訴える。

「あうあ、あうあ、あうあ……あうあ~~!」
「なに?  ボクはギルモア家の男として、可愛いでも誰にも負けられません?  へぇ、可愛さでも負けられないのか?  珍しいな」
「あうあ!」
「ほう、それがおばーさまの教えです?」
「あうあ!」

(は?)

 エドゥアルトの言葉に私は自分の耳を疑った。

「それは初耳だ……ギルモア家はそんな教育方針だったのか?」
「あうあ!!」

 ───そうです!!

 ジョシュアはそう言わんばかりの顔で力強く返事をして大きく頷いた。

「そうか。厳しい厳しいガーネット様の教育方針……」
「あうあ~!」

(違  う  わ  よ  !?)

 二人の阿呆な会話に私は絶句した。

「知らなかった。ジョエルとは長い付き合いだが、これまでそんな話は一度も聞いたことがなかったな……ジョエルも苦労していたのだろうか」
「あうあ」

 聞いたことがない?  当たり前でしょ!
 そんな教育方針は私だって知らない。
 ジョシュアが今、勝手に作りやがった。
 そしてそれをおかしいとも思わず真に受ける男、それがエドゥアルト。

「ちょっと!  何を勝手なこと言っ……」

 私が二人の会話に割り込もうとしたところで、ジョシュアが声を張り上げた。

「あうあ~~!!」
「ん?  だからこれからボクは勝負を挑むです?」
「は?」

(今、なんて……?)

「あうあ!」
「───あっぷぁあ……?」

 ここでジョシュアがクルリと首の向きを変えるとナターシャに向かってニパッと笑いかける。
 すごくすごくすごーーく嫌な予感がする。

「あうあ、あうあ~、あうあ、あうあ!」
「あっぷぁあぁぁ!  うあ!  うあったぁうあうあっああーー!」

 ジョシュアの訴えを聞いたナターシャの顔もベビーとは思えない目つきになってゆく。

(なに……何が起きた!?)

 私は慌てて隣のジョルジュに助けを求めた。

「───ジョルジュ!」
「任せろ!  ジョシュアは……ベビーちゃん!  いま、ボクにはおばーさまがあっとおどろくよーなおいかけっこパターンをふやすしめーがあるです、ちょうどいいからこれからボクとしょーぶするです!  と勝負を持ちかけてる」
「は?  ヘラヘラした顔であの子何を言いだしてるの?」

 追いかけっこのパターンを増やす使命ですって?
 それってまさかこの間の……
 ───悔しかったら私もあっと驚くようなパターンを増やすことね!

(あの発言のせい!?)

「なんで追いかけっこ!?  この流れならせめて可愛さを競う勝負をするところじゃないの!?」
「そうは言うが、ジョシュアは追いかけっこでの勝負を求めてる」
「待って!  それでナターシャの返事は?」

 私がおそるおそるジョルジュに訊ねると、ジョルジュはフッと小さく笑った。
 ますます嫌な予感……

「ジョシュアァァ!  うけてたちますわ、さっさとつかまえてきょーもボッコボコにしてやりますわぁぁーー!  と叫んでいた。こっちはメラメラだな」
「えええ!?」

(ヘラヘラ vs メラメラ……)

 そのことに呆気にとられていたら、それぞれ膝の上からびょんと床に降りてスタンバイ始めた二人。
 最っっっ高に意味の分からないベビーの戦いが始まろうとしていると気付き、我に返った私は慌てて立ち上がり二人を掴んで止める。

「ジョシュア!  ナターシャ!  ストーーップ!  駄目よ!」
「あうあ」
「うあったぁ?」

 まさに走り出す寸前だった二人が不服そうな様子で振り返る。

「あうあ、あうあ!」
「───おばーさま!  なぜとめるです!  ガーネット、ジョシュアがかなりプンスカ怒ってるぞ?」
「お黙りジョシュア!」

 私はジロッとジョシュアを睨むと一喝する。

「うあったぁあ!  あっぷぁあ、うっあうあうあばぶぁあ!」
「────なぜですの!  ジョシュアをボッコボコにするおおきなチャンスでしたのに!  ガーネット、こっちのベビーも嘆いてるぞ」
「は?  なんでこんな時だけ二人は意気投合するわけ!?」

 おかしいでしょ?
 普段は明後日の会話ばっかりで全く噛み合わないくせに!

「あうあ、あうあーー!」
「ふむ。ジョシュアの言い分は、ボクはベビーちゃんとおいかけっこしょーぶしてかつです!  かったほうがいちばんかわいいということになるです!  だそうだ」
「なんで!?  全っっ然意味が分からないから!」

 追いかけっこ勝負で勝った方が一番可愛いとか最高に意味が分からない。
 ジョシュアの思考回路どうなってるわけ?

「あっぷぁあ、うあたぅあうぅあったぁぁあ、うおぁおお!」
「ジョシュアには、“まいりましたナターシャおじょーさま。ボクのかんぱいです、どーぞ、にるなりやくなりすきにしてください”といわせてみせますわ!  ほう、こっちも勢いでは負けてないぞ?」

 ジョルジュが感心したように通訳する。

「煮るなり焼くなりって……ナターシャ!  殺気を仕舞って!  あとそんな物騒な言葉どこで覚えたの!?」
「あばばばば!」
「───えほんですわ!  絵本か……最近の絵本は過激なんだな。ジョシュアは丸々してるからきっと美味いぞ?」
「ジョルジュ!!」

 ナターシャの即答にジョルジュがうんうんと頷いた。

「エドゥアルト!  あなた……なんて本を読み聞かせてるのよ!」

 私はエドゥアルトに向かって怒鳴る。
 これは非常に教育上よろしくない。
 しかし、エドゥアルトは必死に首を横に振った。

「い、いや、これは多分母上……」
「は?  コックス公爵家こそ教育方針はどうなってるの!」
「あうあ~~」

 ───煮られるのも焼かれるのもとっても楽しそうです~~(通訳:ジョルジュ)

「ジョシュア!!  笑ってる場合じゃないわよ!?  あなた食べられる気!?」
「あうあ~」

 ───美味しいです~(通訳:ジョルジュ)


 ベビーたちに振り回されてこの日の私の血圧はすっごく上昇した。
しおりを挟む
感想 542

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(542件)

月桂樹
2025.10.19 月桂樹
ネタバレ含む
解除
まる
2025.10.08 まる
ネタバレ含む
解除
月桂樹
2025.10.07 月桂樹
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

俺の妻になれと言われたので秒でお断りしてみた

ましろ
恋愛
「俺の妻になれ」 「嫌ですけど」 何かしら、今の台詞は。 思わず脊髄反射的にお断りしてしまいました。 ちなみに『俺』とは皇太子殿下で私は伯爵令嬢。立派に不敬罪なのかもしれません。 ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻R-15は保険です。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

婚約破棄、国外追放しておいて、今さら戻ってきてほしいとはなんですか? 〜今さら戻るつもりなどない私は、逃げた先の隣国で溺愛される〜

木嶋隆太
恋愛
すべての女性は15歳を迎えたその日、精霊と契約を結ぶことになっていた。公爵家の長女として、第一王子と婚約関係にあった私も、その日同じように契約を結ぶため、契約の儀に参加していた。精霊学校でも優秀な成績を収めていた私は――しかし、その日、契約を結ぶことはできなかった。なぜか精霊が召喚されず、周りからは、清らかな女ではないと否定され、第一王子には婚約を破棄されてしまう。国外追放が決まり、途方に暮れていた私だったが……他国についたところで、一匹の精霊と出会う。それは、世界最高ともいわれるSランクの精霊であり、私の大逆転劇が始まる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。