誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

文字の大きさ
69 / 169

66. 息子の恋心

しおりを挟む


「ホホホ、あなた。聞いて?  ジョエルが面白いのよ」
「ジョエルが?」

 セアラさんがジョエルの新しい婚約者となって我が家に来てから彼女のことを気にかけては甲斐甲斐しく世話をしようとする息子、ジョエルが面白い。

「ジョエルは昔から面白いぞ?」
「!」

 ジョルジュは不思議そうな顔で聞き返して来た。

「そうだけど、そうじゃないのよ!」
「?」
「ジョエルのセアラさんへの接し方を見ていると……こう───」
「?」

 なんて表現すればいいのかしら?
 甘酸っぱい?
 微笑ましい?

「こう……二人の関係が」

 ゆっくり進展していく様子を影からコソッと見守りたい心境というべきなのかしらね。
 私が上手く言葉に出来ずにどもっていると、ジョルジュがポンッと手を叩く。

「───そうか。ガーネット。実は俺もこっそり感じていたんだ」
「え!?  あなたが?」
「そうだ。ジョエルは彼女に対して特別な気持ちを抱いている!!」
「!」

 私は思わず息を呑む。
 鈍いジョルジュでも感じているほどの息子の変化。
 そうよ。
 きっと、ジョエルはセアラさんに対して、こ……

「俺には分かる。あれは───父性だ!  ジョエルには父性が芽生えた!」
「……あ?」
「どうした?  ガーネット」

 眉をひそめてドスの効いた声を出した私を不思議そうに見つめる夫、ジョルジュ。

(ふ、父性?  父性ですって!?)

 私が目をまん丸にして驚いているとジョルジュは感慨深そうに続ける。

「──彼女の傷付いた心に寄り添い……」
「まあ……寄り添ってるわね?」
「──心と身体を労り安心をサポート……」
「まあ……食事やら寝具やらの手配には拘ってるわね?」

 ジョエルは、最高級のふっかふかのベッドだけでは飽き足らず、なんと最高に気持ちのいい安眠出来る枕まで用意させていたことを私は知っている。

「───これが親心───父性でなくてなんなんだっっ!」
「こーーい!  恋心!  それもきっと初恋!」
「……!?」

 ジョルジュが顔をしかめる。
 私はそんなジョルジュの両肩をガシッと掴んで揺さぶった。

「なんで一足飛びに父親の気持ちになってるのよ!?」
「こ、恋……だと!?」

 私にガクガク揺さぶられているジョルジュの眉がピクっと反応した。

「恋……そ、それは、俺が常にガーネットに抱いているような気持ち……?」
「!」

 常に抱いている───現在進行形なその言い方に不覚にも胸がキュンとした。

「……そ、そうよ!  あなた私のことを大好きでしょう?  それと同じよ!」
「ジョエル……が?  あのジョエル…………が、恋……?」
「え、ジョルジュ?」

 ジョルジュの身体が震え出した。これは明らかに感動している!
 やっぱり、ジョルジュも一人の父親なのよね───……

「踏まれてないのに……恋に落ちることもあるんだ、な」
「…………は?」

 聞き捨てならないその言葉に私は目を丸くする。

「そうだろう?  ワイアット嬢……あの子の性格的にジョエルを踏みつけたとは思えないからな」
「……」
「そうか……踏まれなくても恋は出来るのか」
「ジョルジューーーー!」
「?」

 今すぐ背中を踏みつけてやりたい衝動に駆られたけれど、それはジョルジュを別の意味で喜ばすだけだと思い直してぐっと我慢した。


─────


「……母上。聞いてくれ」
「ジョエル?」

 その日の昼食の後、終えたらいつも部屋へとさっさと戻っているジョエルが私に声をかけて来た。

(なんて珍しい!)

「どうかしたの?」

 私が聞き返すとジョエルは、目を逸らしてあー……とかうー……とか言い淀む。
 これはジョエルが一生懸命言葉を探しているところ。
 私はそのまま静かに待つ。

 ……待つこと五分。
 ようやくジョエルの口が開く。

「…………そ、その!」
「ええ」
「お、俺の体温上昇がとどまることを知らない!」
「!」

 私はカッと目を見開く。

(ま、まさか!)

 こ、これは息子からの恋の相談というやつなのかしら?
 こんな日が来るなんてと、私の胸が高鳴る。

(いえ、落ち着くのよ、ガーネット……)

 ここで下手にジョエルを刺激してはいけない。
 ピュアピュアな息子の“初恋”
 今のジョエルの脳内レベルは、「う」しか喋っていたなかったベビーの頃とそう変わらない。

(大事に大事に育てなくちゃ!)

「ホホホ、それはどういう時に?」
「…………どういう?」

 きょとんとする息子に私はゆっくり微笑む。

「何をしている時?  どういう時によく体温が上がるのかしらと思って」
「……」

 ジョエルはしばらく考えたあと、ポツリと言った。

「セアラ嬢……」

(ホーホッホッホッ!  やっぱりね!)

 私は内心で高らかに笑う。
 逸る気持ちを抑えながらジョエルに訊ねる。

「セアラさん?」
「……」

 コクリと頷くジョエル。
 すでに頬がほんのり赤い。

「笑っている……」
「そうね。ここに来てから穏やかに笑ってくれていて私も嬉しいわ」
「心の奥……」
「そうね。でも、酷く傷付けられたものね。心の奥の傷はまだまだ癒えてないかも」
「!」

 ジョエルがグッと唇を噛む。

(へぇ、この子もこういう顔をするのね?  ───面白い)

 私はフフッと笑うと、ジョエルの肩をポンポンと叩きながら告げる。

「それを癒すのが新しい婚約者となったあなたの役目でしょう?  ジョエル」
「……!」
「そのためにも、まずはお互いのことを知って仲良くならないとね」
「仲良く……」

 ジョエルの瞳の奥が輝いた気がした。

「口下手のジョエルには難しいとは思うけど、それでも顔を合わせて話さないと交流というのは───……」
「分かった」
「え!  ジョエル?」

 ジョエルはそのままダッシュで部屋から出て行く。

「ジョエル?  何が分かった、なの!?  ジョエルーーーー!」

 走り去っていくジョエルに慌てて声をかけると、「茶会だ!」という返事が聞こえて来た。
 その返答を聞いた私は苦笑する。

「……茶会、ね」

 シビルさんがやって来るたびに眉間に皺を寄せてしぶしぶお茶会をしていたジョエルとは思えない発言と行動。
 でも、セアラさんなら、沈黙の間が出来ても無理やりジョエルから言葉を引き出そうとはしないはず。
 なぜなら───

「ふふっ…………セアラさんって結構、脳内で面白いこと考えていそうなのよねぇ……」

 なんとなく巻き込まれながらの突っ込み体質だと私は睨んでいる。

「さてさて、ジョエルがお茶会しながらセアラさんと交流を深めている間に私はやれることをしておかなくちゃ、ね」

 私がそう口にしていると、ちょうど使用人がやって来た。

「───奥様。大雨で発生した土砂災害現場の確認に行った報告書です」
「ありがとう」

 セアラさんの結婚式予定だった日は雨が凄かった。
 そのせいで土砂災害も発生している。
 我が家に続く道にも影響があったことから、その状況を調べさせていた。

 報告書を受け取りパラパラと目を通していく。

「……ん?  あら?」

 ふと、土砂災害のせいで立ち往生しているという数台の馬車についての報告の書かれた箇所で私は目を止めた。

(この家紋って確か……)

「!」

 そこで、ある可能性に思い至った私はニヤリと笑う。

「───なるほどねぇ……」
「奥様?」
「あ、いえ。ただ……ちょっとね」
「ただ?」
「……」

(悪いことって出来ないものね?)

 因果応報という言葉が頭に浮かんだ。

「───ジョルジュは今、部屋かしら?」
「はい。執務室におられます」
「そう。では少しジョルジュの時間を貰いましょうか」
「は、はい?」

 不思議そうな顔をする使用人に私は静かに微笑みかける。

「お花畑カップルの駆け落ちがね、失敗している可能性があるのよ」
「お、お花畑?  駆け落ち失敗……?」
「……」

 それだけ告げて私は報告のためにジョルジュの元へと向かう。
 そんな執務室までの廊下を歩きながらふと窓の外を見つめた。

 ザーッ
 ドバーッ
 ビュオォ~
 ガッシャーーーン

(今日も凄いわ……まるで嵐のような大雨ね────……)


 その頃───
 初恋への自覚があるのかないのか分からないけれど、セアラさんとの仲を深めることに張り切っていた息子ジョエルは……
 この嵐のような大雨の光景がよく見える眺めのいい部屋で、とてもスリリングなお茶会へとセアラさんを誘っていた。
しおりを挟む
感想 542

あなたにおすすめの小説

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】大聖女は無能と蔑まれて追放される〜殿下、1%まで力を封じよと命令したことをお忘れですか?隣国の王子と婚約しましたので、もう戻りません

冬月光輝
恋愛
「稀代の大聖女が聞いて呆れる。フィアナ・イースフィル、君はこの国の聖女に相応しくない。職務怠慢の罪は重い。無能者には国を出ていってもらう。当然、君との婚約は破棄する」 アウゼルム王国の第二王子ユリアンは聖女フィアナに婚約破棄と国家追放の刑を言い渡す。 フィアナは侯爵家の令嬢だったが、両親を亡くしてからは教会に預けられて類稀なる魔法の才能を開花させて、その力は大聖女級だと教皇からお墨付きを貰うほどだった。 そんな彼女は無能者だと追放されるのは不満だった。 なぜなら―― 「君が力を振るうと他国に狙われるし、それから守るための予算を割くのも勿体ない。明日からは能力を1%に抑えて出来るだけ働くな」 何を隠そう。フィアナに力を封印しろと命じたのはユリアンだったのだ。 彼はジェーンという国一番の美貌を持つ魔女に夢中になり、婚約者であるフィアナが邪魔になった。そして、自らが命じたことも忘れて彼女を糾弾したのである。 国家追放されてもフィアナは全く不自由しなかった。 「君の父親は命の恩人なんだ。私と婚約してその力を我が国の繁栄のために存分に振るってほしい」 隣国の王子、ローレンスは追放されたフィアナをすぐさま迎え入れ、彼女と婚約する。 一方、大聖女級の力を持つといわれる彼女を手放したことがバレてユリアンは国王陛下から大叱責を食らうことになっていた。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!

柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」 『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。 セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。 しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。 だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

役立たずと捨てられた万能建築士、隣国で「聖域」を造って無双する。今さら復興のために戻れ? ご自分たちで瓦礫でも積んでいればよろしいのでは?

しょくぱん
恋愛
「お前の魔法は石を積むだけの土木作業だ」と婚約破棄されたので、城を支えていた『構造維持結界』をすべて解除して出て行きますね。今さら「城が崩れる!」と泣きつかれても、私は隣国で氷結の皇帝陛下と「世界最高の聖域」を造っていますので、一切知りません。 王国唯一の建築魔導師アニエスは、その地味な見た目と能力を理由に、王太子シグムンドから婚約破棄と国外追放を言い渡される。 彼の隣には、派手な光魔法を使う自称聖女の姿があった。 「お前の代わりなどいくらでもいる。さっさと出て行け!」 「……分かりました。では、城にかけていた『自動修復』『耐震』『空調』の全術式を解約しますね」 アニエスが去った直後、王城は音を立てて傾き、噴水は泥水に変わり、王都のインフラは崩壊した。 一方、アニエスは隣国の荒野で、呪われた皇帝レオンハルトと出会う。彼女が何気なく造った一夜の宿は、呪いを浄化するほどの「聖域」だった。 「君は女神か? どうか私の国を救ってほしい」 「喜んで。ついでに世界一快適な住居も造っていいですか?」 隣国がアニエスの力で黄金の国へと発展する一方、瓦礫の山となった母国からは「戻ってきてくれ」と悲痛な手紙が届く。 だが、アニエスは冷ややかに言い放つ。 「お断りします。契約外ですので、ご自分で支えていればよろしいのでは?」 これは、捨てられた万能建築士が隣国で溺愛され、幸せを掴む物語。 そして、彼女を捨てた者たちが、物理的にも社会的にも「崩壊」し、最後には彼女が架ける橋の『礎石』として永遠に踏まれ続けるまでの、壮絶な因果応報の記録。

処理中です...