誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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91. 幸せな光景

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「あうあ!」
「ジョシュア坊っちゃまーーーー!」

 ペタペタペタペタペタ……

「あうあ!」
「お待ちくださいーー、そちらはお庭ですーー」
「ハイハイで庭に出ないで下さいませーー」
「あうあ!」

(……今朝もジョシュアは元気ねぇ)

 ジョシュアの「あうあ!」を聞かないと一日が始まった気がしない。
 それくらい日常と化してしまった。

(何を言っているかはさっぱりだけど)

 私が通訳無しでジョシュアと会話したのは後にも先にもあの半裸脱走迷子の日だけ。
 しかし、あの短い時間でも天然無自覚プレイボーイになる未来の想像が出来たジョシュア。
 今からどう教育していくべきかギルモア家では連日、深刻な話し合いが続いている。

「今日もあうあ……お義母様は一度とはいえ、ジョシュアと会話が成立したんですよね?」
「ええ」

 目の前で食後のお茶を飲みながらセアラさんは言う。

「0歳なのに既に天然無自覚プレイボーイ発言の連発だったわよ?」
「ふふ」

 クスッと笑うセアラさんは相変わらず可愛い。

「きっとお義父様がお義母様のことを“美しい”と毎日褒めているからですよね!」

 セアラさんはお馴染み朝の置物中で固まっているジョルジュに視線を向けながら言った。

「あら、それを言うならジョエルもでしょう」
「ジョエル様も?」

 そのまま置物その2となっている自分の夫にも視線を向けるセアラさん。

「ジョシュアは好みの女性は、強く美しく逞しく!」
「お義母さまですね?」
「そうよ!  そしてセアラさんみたいな天使ですって言ってたもの」
「!」
「すでに理想が高すぎて笑っちゃうわ!」

 ホーホッホッホッと私は笑う。
 セアラさんは目を丸くしている。

「これだって、そこのジョエルが毎日毎日、欠かさず天使のセアラさんが~ってジョシュアに向かって口にしている成果なのでしょうね」
「ジョエル様……」  

 セアラさんはジョエルの横顔を見つめて頬を赤く染めた。
 相変わらず息子夫婦が仲良しなのが伝わって来て私も嬉しくなる。

「それにしても……今朝のそこのジョエルの寝癖はどうしちゃったの?」
「え?  あー……これは」

 今朝のジョエルの髪型はいつものちょこんとした寝癖ではなく、あちこちツンツン逆立っている。
 これは珍しい。

「今朝、ジョシュアは早くに目が覚めてしまったみたいで」
「あら、元気」
「それで、私たちの顔や頭をペチペチして起こしてくれたんです」

 あうあ!
 いつもの言葉を吐きながら満面の笑みでペチペチしてくる様子が目に浮かぶ。

「でも、ジョエル様はこのように頑として起きませんから……」
「なるほど。ジョシュアが躍起になって父親を起こそうと奮闘した後なのね?」

 ここまで揉みくちゃにされても起きないって本当に凄いわ。
 改めて実感する。

「でも、ジョエル様は目を覚ました時に絶対に喜ぶから全部そのままにしてあるんです!」
「ふふ。ジョエルのことだから、無言で身体を震わせて感動するわね」
「はい!」

 私たちがクスクス笑い合っていると、廊下を這いずり回っていたジョシュアが食堂にやって来た。

「あうあ!」

 ペタペタペタペタ……

「あら、ジョシュア、おはよう。ご機嫌いかが?」
「あうあ!」

 顔を上げてニパッと笑うジョシュア。

(うーん……)

 何を言ってるかは分からない。
 分からないから私は勝手に話を進める。

「あなた、もしかしてお父様───ジョエルに会いに来たの?」
「あうあ!」
「残念ながらジョエルはまだ置物よ」
「あうあ!」
「───ジョシュア」

 セアラさんが椅子から立ち上がりジョシュアの元に近付いてそっと抱き上げる。

「あうあ!」

 ニパッと嬉しそうに笑うジョシュア。
 セアラさんは時計を見ながらジョシュアに言い聞かせる。

「もう少しかしら?  ジョシュア、ジョエル様と遊ぶのはもう少し待ってね?」
「あうあ!」

 すると、ジョシュアが置物その1とその2に向かって手を伸ばす。
 そこで私は閃いた。

(これは、またとないチャンス!)

 私はパンパンッと手を叩いて使用人を呼ぶ。

「───奥様、お呼びでしょうか?」
「そこ、ジョエルが固まってる隣にベビージョシュア用の椅子をおいてちょうだい」
「は、い?」

 駆け付けてきた使用人にそう命じると、少々困惑気味の表情を返された。

「椅子?  お義母様?  どうかされたのですか?」
「あうあ!」
「いえ、ふふふ。ふふふふふ。これはまたとない機会だと思って、ね」
「?」

 キョトンとする二人に向かって私はホホホと笑った。



「───さあ、ジョシュア。そこにお座りなさい」
「あうあ!」

 私は、使用人に運ばせたジョシュア用の椅子に座るようにと命じた。
 セアラさんは首を傾げながらジョシュアを椅子に座らせる。

「あうあ!」

 大人しく椅子に収まったジョシュアはニコニコしながら手をパタパタさせいる。
 こういう時にギャーと泣かないところは、ジョエルにそっくり。
  
(それはそれで、普通の子とは違うと思わされるけどね)

「お義母様!  す、座らせました!」
「あうあ!」

(ふふ、いい感じ!)

 私はパンッと手を叩く。

「はい!  ではジョシュア!  下を向いて!」
「あうあ!」

 聞き分けのいい孫はパッと下を向いた。

「そう。でも手はパタパタさせないで!」
「あうあ!」
「そのまま目を瞑って!  静止!」
「あうあ!」

 素直なジョシュアは私の指示にちゃんと従ってくれる。
 これは、まだまだ0歳とは思えない動きをするこの子だからこそ出来ること!

 そうして出来上がったのが───

「お、お義母様……これ!」

 セアラさんが両手で口元を押さえながら震えている。

「ホホホ、そうよ!  ちょっと強引だったけどどうかしら?  ギルモア家、朝の名物…………置物の三体目よ!」

 そこには、
 ジョルジュ、ジョエル、ジョシュアと俯く三人。
 祖父から孫までの三体の置物がずらりと並んだ。

「わぁ!  私、もっと大きくなってからでないと見られないと思ってました……!」 

 セアラさんが並んだ三人を見て大興奮している。

「でしょう?  ジョシュアがベビーなこの時期に並べられるなんて貴重よ!」
「でも、ジョシュアがもう少し大きくなったらこの光景が日常になるんですね?」
「ホホホ!  そうね。その時が楽しみね、セアラさん!」
「はい!」

 そうして笑い合った後、ジョシュアに無理な体勢をさせ続けるのも良くないので、もう動いていいわよ、と言おうとした。
 しかし……

「あら?」
「お義母様?  どうしました?」

 私は、しっと口元に指を立てる。
 そして小声でセアラさんに伝えた。

「───ジョシュア、寝ちゃったわ」
「え!」

 慌ててセアラさんもジョシュアの顔を覗き込む。

「本当……!  確かに椅子に座らせてからは大人しく静かでした」
「朝から暴れていたものね……」

 スヤーと気持ちよさそうに眠るジョシュアの顔は天使そのもの。
 そして、置物三体は爆笑そのもの。

 でも、これが我が家の幸せな光景。

(ふふ……そうだわ!)

 パチンッと指を鳴らして私は再度、使用人を呼ぶ。

「───奥様、お呼びでしょうか?」
「紙とペンを持って来なさい!」
「は、い?  何にお使いで?」
「もちろん───この愉快……面白い光景を絵に残しておくのよ!」


────


「さあ!  ジョルジュ、ジョエル、ジョシュア!  これをご覧なさい!」

 その後、無事に覚醒した三人に向かって先程描いたばかりの三人の絵を見せる。

「……あう?」
「う?」
「あうあ!」

 三人はまだ少し眠そうに目を擦りながら、じっと紙を見つめた。

「……」
「……」
「あうあ!」

 何故かジョシュア以外は眉間に皺を寄せて黙り込んでしまう。
 ジョシュアはキャッキャと楽しそうに笑っている。

「あらあら、その反応は何かしら?  あまりにも素晴らしすぎて声が出ない?」
「……」
「……」
「あうあ!」

 顔を見合わせるジョルジュとジョエル。
 キャッキャと笑うジョシュア。

 ちなみにセアラさんは私の絵が完成してからなぜかずっと無言。
 素晴らし過ぎて声が出ないみたい。

(なかなか、上手く描けたと思うのよね~自信作よ!)

 私の絵を見た人は昔からこんな反応になる。

「……ガ、ガーネット」
「なぁに?  ジョルジュ?」

 しばらくして、ジョルジュが口を開いた。
 そして、そろっと私の絵に指をさす。

「そ、その絵(?)の三本の棒らしき、ものは……」
「棒?  あなた、何を言っているの?  私は棒なんて描いてないわよ?」
「……っ」

 キュッと口を結んでジョルジュが下を向いて黙りこんだ。

「……?」
「は、母上……!」
「なぁに?  ジョエル。あなたが喋るなんて珍しいわね?」

 今度はジョエルが口を開く。
 さっきのジョルジュと同じような表情をしている。

「そ、その三つの、ま、丸……みたいなの、は?」
「丸?  何のことよ?」
「……っ」

 キュッとジョエルもジョルジュ同様、口を結んで下を向いて黙り込んだ。

「棒と丸?  ……変な二人。ね?  ジョシュア!」
「あうあ!」 
「どう?  この私、ガーネットが描いたあなたたちの絵、素晴らしいでしょう?」
「あうあーー!」

 ニパッとジョシュアはいつもの可愛い笑顔で元気いっぱいに応えてくれた。
 なんて言ってるかはやっぱり分からない。
 けれど、この満面の笑みは、おばあさまの絵は最高です!  と褒めてくれているに違いない。
 私はウンウンと満足して大きく頷く。

「ホホホ、では、私の最高傑作のこの絵は玄関にでも飾りましょう!」

 私がそう言うとジョルジュとジョエルとセアラさんが勢いよく顔を上げる。
 何だか三人とも驚いていた。
 でも、その顔は賛成って顔ね!

「……あう!」
「う!」
「あうあ!」
「お……お義母様!  待っ……」

 私はウキウキの気分で玄関にその絵を飾った。




❋❋❋❋


たまに変な方向に抜けてる……それが、ガーネット。
そんなガーネット画伯の絵心に対して、ジョシュアの
「あうあーー!」
が、なんと言っていたのかは察してください。

あと、すみません。
この家族のほのぼのを書くのが楽しくて終われずにいる作者です。
困った……
あと、エドゥアルトの話を書きたいけどタイトルが思いつかない……
〇〇当日……
こっちも困った……
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