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【スピンオフ完結記念】5. 幸運を呼ぶ微笑みの天使
しおりを挟む「ホーホッホッホッ! エドゥアルトのことだから手を繋ぐ程度が精一杯と思ったけどやるじゃないの!」
後日、レティーシャ・ウッドワード伯爵令嬢が報告に来てくれた。
ベビージョシュアのやらかした話は、セアラさんに聞いた通りだった。
でも、まさかその裏で……
(エドゥアルトが彼女を抱っこしていたなんて……!)
「男性にあ、あんな風に抱き抱えられるのは、わたくしも初めてのことで……」
「レティーシャさん……」
その時のことを思い出して照れているのか、頬を染めるレティーシャさんの可愛らしいこと!
(誰よ! 目付きが悪いとか言ってきたヤツ……)
全員、私の前に呼び出してビンタの一つでもしてやりたい気分。
それよりも、エドゥアルトよ、エドゥアルト!
手を繋ぐことですら、まだ早いとモジモジしていたのに、色々すっ飛ばして……姫抱っこ!
(これは……きっとアレね)
私は内心でフッと笑う。
これは、公爵夫人の愛読書らしいピュアな恋愛小説を読み漁った研究結果に違いない。
初デートで手を繋いでいる登場人物たちなら、他のデートで姫抱っこくらいお手の物でしょうよ……
“なるほど、こう……横抱きにするのは許される行為なのだな?”
そう思い込んだエドゥアルトなら……やる。
(でも……)
頬を染めているレティーシャさんの顔からは照れの中に“嬉しさ”も感じる。
ジョシュアのやりたい放題でデートらしきデートにならなかったのかと思ったけど───これ、いい感じじゃない?
目的のカス男をペッチャンコにし終えたらこの二人が……という未来、有り得るかも!
「ホホ、ホホホホ……」
「ガーネット様?」
「ああ失礼。ちょっとこう胸が昂って来ただけよ!」
「胸が……?」
オーホッホッホッホッホ!
私は高らかに笑った。
「あうあ~~」
そこで、バーンッと扉が開き元気な掛け声と共にベビージョシュアが突進して来た。
「ジョシュア!」
「ジョシュアくん!」
「あうあ!」
ニパッ!
ジョシュアは満面の笑みで私とレティーシャさんに笑いかける。
「え? お祖母様とお姉さん、大事なお話終わったです?」
「あうあ!」
ジョシュアがニパッと笑ってレティーシャさんの足をよじ登ろうとしている。
(レティーシャさんと遊びたくてまだかまだかと待っていたのね……?)
「あうあ!」
「美しい二人のお話にはぜひ僕も混ざりたかったですって、もう! ジョシュアくんったら」
「あうあ!」
レティーシャさんはジョシュアの言葉を冗談と受け止めてふふっと笑って流しているけれど……
───甘いわ!
うちのジョシュアは純度100%……
本気よ、本気で言ってるのよ!
(それにしても───)
「あうあ!」
「え? 次はいつ遊びに来てくれるです? そうねぇ……」
「あうあ!」
レティーシャ・ウッドワード伯爵令嬢はなんとジョシュアの言っていることが分かるらしい。
そういう面でもエドゥアルトとの相性はいいのだと思う。
(エドゥアルト────しっかりなさい!)
私は心の中でエドゥアルトにハッパをかける。
はっはっはっ! といつもの笑い声の幻聴が聞こえた気がした。
────それから数日後。
私はとある報告書を手に持って頭を抱えていた。
「───どうした、ガーネット。まるでジョエルみたいだぞ?」
「は? ジョエ……」
ジョルジュに顔を覗き込まれて眉間の皺のことかと理解した。
私は一生懸命、皺を伸ばしながらため息を吐く。
「ジョルジュ。ちょっと、これ読んでみてくれるかしら?」
「なんだ?」
手に持っていた報告書をジョルジュに渡す。
「レティーシャさんの婚約破棄に協力するために、カス男たちの行動の裏付けを取ろうと思って社交界の噂を調査させていたんだけど」
「そうか。それで? カス男は更にカスッカスだったのか?」
「いえ、もうとっくにあれはカスッカスよ? そうじゃなくてね、こっち」
私はこの報告書よ、と指をさす。
ジョルジュがうん? と言いながらそこに目を通した。
そこには、
“白昼堂々、公園でハイハイして走り回る赤ん坊についての噂が急速に広まっている件”
そう書かれている。
(公園でハイハイする赤ん坊……)
ジョルジュがクワッと目を見開いた。
「ガーネット! ───こ、これは!」
「ええ、そうよ。これ……」
「まるで、うちのジョシュアみたいな赤ん坊じゃないかっ!」
「うちのジョシュアの話よーーーー!」
私がそう叫ぶとジョルジュはハッとした。
「他の赤ん坊の話ではないのか!」
「他の赤ん坊ですって!?」
私がジョルジュに何をバカなこと言ってるのかと問いかけようとしたその時だった。
「─────あうあ!」
ペタペタペタペタ……
廊下から聞き覚えのある声と足音が聞こえてきた。
「あうあ!」
ペタペタペタペタペタ……
「ジョシュア坊っちゃまぁぁ~~」
「お待ちくださいませぇぇ」
「まだ、お着替えの途中でございますーー」
「あうあ!」
ペタペタペタペタペタ……
「そのままではお風邪を引いてしまいますから~~」
「あうあ!」
「坊っちゃま、そちらはお部屋ではございません」
「あうあ!」
どうやら、ジョシュアは着替え時に脱走をはかり、半裸で屋敷内をハイハイしている様子。
「……ジョルジュ」
「……」
ジョルジュの名を呼ぶとジョルジュは無言でゆっくりと顔を上げた。
「あんな半裸で屋敷内を駆け回るやんちゃな赤ん坊が他にもいると思えるかしら?」
「……」
無言のジョルジュは再び報告書の続きに目を通す。
そんな白昼堂々公園でハイハイして走り回る赤ん坊に関してはこう書かれていた。
赤ん坊は、あうあ~! という元気な掛け声とともに凄いスピードで地面をハイハイ。
その後を髪がぐしゃぐしゃの男性が追いかけていた。
そう記述されている。
「……髪が乱れてぐしゃぐしゃの男性?」
「ホホホホ、ジョエルのことでしょ…………」
私は遠い目をする。
私たちの可愛い息子は見た目はいいのに身なりに無頓着ですもの……
「髪がぐしゃぐしゃの男性に抱っこされて、あうあ~! と周囲に笑顔を振りまく赤ん坊……」
「どうかしら? これが、ジョシュアの話でなかったらびっくりよ」
今も、廊下で元気いっぱい「あうあ~」とハイハイしながら走り回っているジョシュア。
「この噂が急速に広まっていて今、社交界で最も有名なベビーだそうよ?」
「ジョシュアが……」
「それで────このベビーに会えた人は、幸せになれるんですって」
「なに!?」
ふむふむと頷いていたジョルジュが興奮しながら顔を上げた。
「ガーネット! 俺たちの孫にはそんな力があったのか!?」
「そんなわけないでしょーーーー!」
私コホンッと咳払いする。
「あのニパッ! は釣られて笑いたくなるでしょ? だからジョシュアは本当に周囲をメロメロにしちゃったというわけよ」
「ジョシュア……表情筋が生きているというのは恐ろしいことなんだな……」
ジョルジュがしみじみとそう言った。
「あうあ~~~~!」
ペタペタペタペタ……
「ジョシュア坊っちゃま~~」
「あうあ~~」
(まだ、やってるわ……)
幸運を呼ぶ微笑みの天使ジョシュアはその後も元気に半裸で屋敷内をずっと走り回っていた。
それから、その後もカス男たちを踏みつけるための下準備を行なっている中で、
カス男が元々、エドゥアルトの取り巻きであったことや、かつてジョエルに体当たりされた子どもたちの中の一人で、ジョエルに逆恨みしていることなどが判明。
(ホーホッホッホッ! あの時の子たちね!?)
ジョエルに踏まれて新しい世界の扉が開いてしまったエドゥアルトをこれまでのように利用出来なくなったので不満タラタラだった様子。
「小者だわ。小者すぎるわね、ジョシュア」
「あうあ!」
ニパッ!
「ホホホ、いい笑顔」
「あうあ!」
そんなエドゥアルトはカス男たちのことを公の場で暴露するために、とパーティーを開くことを決めた。
ジョシュアも当然、張り切っている。
「それで? パーティーに向けておリボンも新調するんだったかしら?」
「あうあ!」
「……そのデザインだと大きくない?」
「あうあ!」
ニパッ!
ジョシュアは満足そうに笑った。
そうしてそれぞれがパーティーに向けての準備を進める中────
「やあやあやあ! お邪魔するよ!」
恋する乙男、エドゥアルトがいつものように我が家を訪ねて来た。
言葉とは裏腹に……
───緊張した面持ちで。
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