誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

文字の大きさ
124 / 169

【スピンオフ完結記念】5. 幸運を呼ぶ微笑みの天使

しおりを挟む

「ホーホッホッホッ!  エドゥアルトのことだから手を繋ぐ程度が精一杯と思ったけどやるじゃないの!」

 後日、レティーシャ・ウッドワード伯爵令嬢が報告に来てくれた。
 ベビージョシュアのやらかした話は、セアラさんに聞いた通りだった。
 でも、まさかその裏で……

(エドゥアルトが彼女を抱っこしていたなんて……!)

「男性にあ、あんな風に抱き抱えられるのは、わたくしも初めてのことで……」
「レティーシャさん……」

 その時のことを思い出して照れているのか、頬を染めるレティーシャさんの可愛らしいこと!

(誰よ!  目付きが悪いとか言ってきたヤツ……)

 全員、私の前に呼び出してビンタの一つでもしてやりたい気分。
 それよりも、エドゥアルトよ、エドゥアルト!
 手を繋ぐことですら、まだ早いとモジモジしていたのに、色々すっ飛ばして……姫抱っこ!

(これは……きっとアレね)

 私は内心でフッと笑う。
 これは、公爵夫人の愛読書らしいピュアな恋愛小説を読み漁った研究結果に違いない。
 初デートで手を繋いでいる登場人物たちなら、他のデートで姫抱っこくらいお手の物でしょうよ……
 “なるほど、こう……横抱きにするのは許される行為なのだな?”
 そう思い込んだエドゥアルトなら……やる。

(でも……)

 頬を染めているレティーシャさんの顔からは照れの中に“嬉しさ”も感じる。
 ジョシュアのやりたい放題でデートらしきデートにならなかったのかと思ったけど───これ、いい感じじゃない?
 目的のカス男をペッチャンコにし終えたらこの二人が……という未来、有り得るかも!

「ホホ、ホホホホ……」
「ガーネット様?」
「ああ失礼。ちょっとこう胸が昂って来ただけよ!」
「胸が……?」

 オーホッホッホッホッホ!
 私は高らかに笑った。

「あうあ~~」

 そこで、バーンッと扉が開き元気な掛け声と共にベビージョシュアが突進して来た。

「ジョシュア!」
「ジョシュアくん!」
「あうあ!」

 ニパッ!
 ジョシュアは満面の笑みで私とレティーシャさんに笑いかける。

「え?  お祖母様とお姉さん、大事なお話終わったです?」
「あうあ!」

 ジョシュアがニパッと笑ってレティーシャさんの足をよじ登ろうとしている。

(レティーシャさんと遊びたくてまだかまだかと待っていたのね……?)

「あうあ!」
「美しい二人のお話にはぜひ僕も混ざりたかったですって、もう!  ジョシュアくんったら」
「あうあ!」

 レティーシャさんはジョシュアの言葉を冗談と受け止めてふふっと笑って流しているけれど……
 ───甘いわ!
 うちのジョシュアは純度100%……
 本気よ、本気で言ってるのよ!

(それにしても───)

「あうあ!」
「え?  次はいつ遊びに来てくれるです?  そうねぇ……」
「あうあ!」

 レティーシャ・ウッドワード伯爵令嬢はなんとジョシュアの言っていることが分かるらしい。
 そういう面でもエドゥアルトとの相性はいいのだと思う。

(エドゥアルト────しっかりなさい!)

 私は心の中でエドゥアルトにハッパをかける。
 はっはっはっ!  といつもの笑い声の幻聴が聞こえた気がした。



 ────それから数日後。
 私はとある報告書を手に持って頭を抱えていた。

「───どうした、ガーネット。まるでジョエルみたいだぞ?」
「は?  ジョエ……」

 ジョルジュに顔を覗き込まれて眉間の皺のことかと理解した。
 私は一生懸命、皺を伸ばしながらため息を吐く。

「ジョルジュ。ちょっと、これ読んでみてくれるかしら?」
「なんだ?」

 手に持っていた報告書をジョルジュに渡す。

「レティーシャさんの婚約破棄に協力するために、カス男たちの行動の裏付けを取ろうと思って社交界の噂を調査させていたんだけど」
「そうか。それで?  カス男は更にカスッカスだったのか?」
「いえ、もうとっくにあれはカスッカスよ?  そうじゃなくてね、こっち」

 私はこの報告書よ、と指をさす。
 ジョルジュがうん?  と言いながらそこに目を通した。
 そこには、
 “白昼堂々、公園でハイハイして走り回る赤ん坊についての噂が急速に広まっている件”
 そう書かれている。

(公園でハイハイする赤ん坊……)

 ジョルジュがクワッと目を見開いた。

「ガーネット!  ───こ、これは!」
「ええ、そうよ。これ……」
「まるで、うちのジョシュアみたいな赤ん坊じゃないかっ!」
「うちのジョシュアの話よーーーー!」

 私がそう叫ぶとジョルジュはハッとした。

「他の赤ん坊の話ではないのか!」
「他の赤ん坊ですって!?」

 私がジョルジュに何をバカなこと言ってるのかと問いかけようとしたその時だった。

「─────あうあ!」

 ペタペタペタペタ……

 廊下から聞き覚えのある声と足音が聞こえてきた。

「あうあ!」

 ペタペタペタペタペタ……

「ジョシュア坊っちゃまぁぁ~~」
「お待ちくださいませぇぇ」
「まだ、お着替えの途中でございますーー」
「あうあ!」

 ペタペタペタペタペタ……

「そのままではお風邪を引いてしまいますから~~」
「あうあ!」
「坊っちゃま、そちらはお部屋ではございません」
「あうあ!」

 どうやら、ジョシュアは着替え時に脱走をはかり、半裸で屋敷内をハイハイしている様子。

「……ジョルジュ」
「……」

 ジョルジュの名を呼ぶとジョルジュは無言でゆっくりと顔を上げた。

「あんな半裸で屋敷内を駆け回るやんちゃな赤ん坊が他にもいると思えるかしら?」
「……」

 無言のジョルジュは再び報告書の続きに目を通す。
 そんな白昼堂々公園でハイハイして走り回る赤ん坊に関してはこう書かれていた。

 赤ん坊は、あうあ~!  という元気な掛け声とともに凄いスピードで地面をハイハイ。
 その後を髪がぐしゃぐしゃの男性が追いかけていた。
 そう記述されている。

「……髪が乱れてぐしゃぐしゃの男性?」
「ホホホホ、ジョエルのことでしょ…………」

 私は遠い目をする。
 私たちの可愛い息子は見た目はいいのに身なりに無頓着ですもの……

「髪がぐしゃぐしゃの男性に抱っこされて、あうあ~!  と周囲に笑顔を振りまく赤ん坊……」
「どうかしら?  これが、ジョシュアの話でなかったらびっくりよ」

 今も、廊下で元気いっぱい「あうあ~」とハイハイしながら走り回っているジョシュア。

「この噂が急速に広まっていて今、社交界で最も有名なベビーだそうよ?」
「ジョシュアが……」
「それで────このベビーに会えた人は、幸せになれるんですって」
「なに!?」

 ふむふむと頷いていたジョルジュが興奮しながら顔を上げた。

「ガーネット!  俺たちの孫にはそんな力があったのか!?」
「そんなわけないでしょーーーー!」

 私コホンッと咳払いする。

「あのニパッ!  は釣られて笑いたくなるでしょ?  だからジョシュアは本当に周囲をメロメロにしちゃったというわけよ」
「ジョシュア……表情筋が生きているというのは恐ろしいことなんだな……」

 ジョルジュがしみじみとそう言った。

「あうあ~~~~!」

 ペタペタペタペタ……

「ジョシュア坊っちゃま~~」
「あうあ~~」

(まだ、やってるわ……)

 幸運を呼ぶ微笑みの天使ジョシュアはその後も元気に半裸で屋敷内をずっと走り回っていた。



 それから、その後もカス男たちを踏みつけるための下準備を行なっている中で、
 カス男が元々、エドゥアルトの取り巻きであったことや、かつてジョエルに体当たりされた子どもたちの中の一人で、ジョエルに逆恨みしていることなどが判明。

(ホーホッホッホッ!  あの時の子たちね!?)

 ジョエルに踏まれて新しい世界の扉が開いてしまったエドゥアルトをこれまでのように利用出来なくなったので不満タラタラだった様子。

「小者だわ。小者すぎるわね、ジョシュア」
「あうあ!」

 ニパッ!

「ホホホ、いい笑顔」
「あうあ!」

 そんなエドゥアルトはカス男たちのことを公の場で暴露するために、とパーティーを開くことを決めた。
 ジョシュアも当然、張り切っている。

「それで?  パーティーに向けておリボンも新調するんだったかしら?」
「あうあ!」
「……そのデザインだと大きくない?」
「あうあ!」

 ニパッ!
 ジョシュアは満足そうに笑った。



 そうしてそれぞれがパーティーに向けての準備を進める中────

「やあやあやあ!  お邪魔するよ!」

 恋する乙男、エドゥアルトがいつものように我が家を訪ねて来た。
 言葉とは裏腹に……

 ───緊張した面持ちで。
しおりを挟む
感想 542

あなたにおすすめの小説

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

婚約破棄されやけ酒飲んでると軽い男が声かけてきたので張り倒したら、何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
パシーン キャロラインの張り手が男に飛んでいた。婚約破棄されて友人とやけ酒を飲んでいるところに現れたイケメンの男が「男を立てないから婚約破棄されたんじゃないの?」と言ってくれたから機嫌の悪かったキャロラインは男を張り倒していたのだ。 でも、何故かそれから男がキャロラインに執着しだしてもう大変。 上司や親にまで話をし出して外堀がどんどん埋められていき、最後は…… 執着されたヒロインが王族まで巻き込んでヒーローにがんじがらめにされてしまうお話しです

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

役立たずと捨てられた薬草聖女、隣国の冷酷王太子に拾われて離してもらえません!〜元婚約者が「戻ってこい」と泣きついてきても、もう遅いです〜

きみつね
恋愛
「リリアーナ・ベルモンド。地味で陰気な貴様との婚約を破棄する!」 薬草研究以外に取り柄がないと罵られ、妹に婚約者を奪われた公爵令嬢リリアーナ。 彼女は冬の雪山に捨てられ、凍死寸前のところを隣国の氷の王太子アレクシスに拾われる。 「見つけたぞ。俺の聖女」 彼に連れ帰られたリリアーナが、その手でポーションを作ると――なんとそれは、枯れた聖樹を一瞬で蘇らせる伝説級の代物だった!? 「君の才能は素晴らしい。……どうか、俺の国で存分に力を発揮してほしい」 冷酷無比と恐れられていたはずのアレクシスは、実はリリアーナに対して過保護で甘々な溺愛モード全開! エルフの執事、魔導師団長、獣人将軍……次々と彼女の才能に惚れ込む変わり者たちに囲まれ、地味だったはずのリリアーナは、いつの間にか隣国で一番の至宝として崇められていく。 一方、リリアーナを追放した祖国では、奇病が蔓延し、ポーション不足で国家存亡の危機に陥っていた。 元婚約者たちは必死にリリアーナを探すが――。 これは役立たずと蔑まれた薬草オタクの聖女が、最高の理解者(と変人たち)に囲まれて幸せになるストーリー。 書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡

お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん
恋愛
特産物のないポプリ国で、唯一有名なのは魔法だ。  初代女王は、歴史に名を残すほどの魔法使い。 それから数千年、高い魔力を引き継いだ女王の子孫達がこの国をおさめてきた。 時はアンバー女王の時代。 アンバー女王の夫シュリ王婿は、他国の第八王子であった。 どこか影の薄い王婿は、三女ローズウッドを不義の子ではと疑っている。 なぜなら、ローズウッドだけが 自分と同じ金髪碧眼でなかったからだ。 ローズウッドの薄いピンク色の髪と瞳は宰相ククスにそっくりなのも、気にいらない。 アンバー女王の子供は四人で、すべて女の子だった。 なかでもローズウッドは、女王の悩みの種だ。 ローズウッドは、現在14才。 誰に似たのか、呑気で魔力も乏しい。 ある日ストーン国のレオ王から、ローズウッド王女を妻にしたいとうい申し出が届いた。 ポプリ国は、ストーン国から魔法石の原料になる石を輸入している。 その石はストーン国からしか採れない。 そんな関係にある国の申し出を、断ることはできなかった。 しかし、レオ王に愛人がいるという噂を気にしたアンバー女王は悩む。 しかし、ローズウッド王女は嫁ぐことにする。 そして。 異国で使い魔のブーニャンや、チューちゃんと暮らしているうちに、ローズウッドはレオ王にひかれていってしまう。 ある日、偶然ローズウッドは、レオ王に呪いがかけられていることを知る。 ローズウッドは、王にかけられた呪いをとこうと行動をおこすのだった。  

処理中です...