誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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【スピンオフ完結記念】6. 決意

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 ペタペタペタペタペタペタ……

「あうあ~~」

 ドンッ

「うおっ!?」

 ペタペタと勢いよくハイハイして来たジョシュアに突撃されて、エドゥアルトは思いっ切りよろめいた。

(ジョシュアーーーー!)

「あうあ!」

 体当りしたジョシュアはエドゥアルトに向かってニパッ!  と満足そうに笑う。

「ケホッ、ジョ、ジョシュア……い、今の君の僕への当たり方は───か、かつてのジョエルを彷彿とさせたぞ?」
「あうあ!」
「……なに?  僕の声がいつもより元気がなかったからお父様を見習って特別にどーんをしてみたです、だと?」
「あうあ!」

 満面の笑みを浮かべるジョシュア。

(なんですって!?)

 あの子は今、ジョエルを見習ったと言った!?
 エドゥアルトの様子がいつもと違うと悟って元気を出してもらおうと思い、かつての父親の真似を……実行したわけ!?

「あうあ~」  

(なによそれ……)

 ニバッ!
 その無邪気な笑顔すら恐ろしく感じるじゃない……

「僕の元気が?  はっはっは!  ……そうか。ジョシュアの耳は誤魔化せないんだな」
「あうあ!」

 エドゥアルトは笑い飛ばすと感動した目でジョシュアをじっと見つめる。
 ニパッ!

「そうか。君の耳はなんでも聞き分ける自慢のお耳なのか……」
「あうあ」
「だから、お兄さんが来たといつも分かるのです?  なるほど」
「あうあ~!」

 ニパッ!
 ジョシュアはエドゥアルトに褒められて、キャッキャとご機嫌な様子で手を叩いた。

(なんでも聞き分ける……?)

 ベビーとは思えない恐ろしい言葉が聞こえた気がしたけど、気のせいだと思うことにした。



「エドゥアルト────それで?  今日はどうしたのかしら?」

 玄関での戯れは程々にしておいて応接室に案内し、腰を落ち着けたところでエドゥアルトに本日の来訪の目的を訊ねた。
 ちなみに今、部屋の中はギルモア家、勢揃いよ!
 ジョエルもエドゥアルトの様子がいつもと違うと感じているのか、眉間の皺がいつもより深く刻まれた。
 そのため、セアラさんが横からせっせと皺をのばそうと頑張っている。

「あうあ!」
「ふむ。それはもちろん、ボクと遊ぶためです!  ……ガーネット。ジョシュアはいつもぶれないな」
「あうあ!」

 ジョシュアはセアラさんの膝の上でニパッ!  と笑った。
 ジョルジュによる通訳を聞いた私はジョシュアを見てホホホと笑う。
 そこのお兄さんは今、そんなに暇じゃないわよ?

「じ、実は───その……」

(ん?)

 エドゥアルトがモジモジしている。
 そんな乙男モードを見た私はピンっと来た。
 ────つまり、これはレティーシャさん絡みのことなのね!?

「ぼ、僕は!  今度のパーティーで……」
「あうあ~」

 ゴクリ……
 呑気に笑うベビー1名を除いて部屋の中には緊張が走る。
 そんな中、エドゥアルトは頬を染めると大声で宣言した。

「レティーシャ嬢にプロポーズをしようと思っている!!」
「あうあ~~!」

(プロポーズ!)

 いきなりの急展開に私たちは驚きを隠せない。

「もちろん、彼女のカス男との婚約破棄が成立してからにはなる、が」
「あうあ~」
「僕の気持ちを伝えたいんだ」
「あうあ~」

 ジョシュアがキャッキャと笑って手足をパタパタさせている。

「……ガーネット。ジョシュアは“カス男~”と嬉しそうに笑っている」
「ホホホホホ!  る気満々ね……」

 でも、今はカス男のことなんかよりプロポーズよ!  プロポーズ!
 まさか、エドゥアルトがそこまで考えていたなんて……!
 “もう一人の息子”の決意に大きく胸を打たれる。

「あ、でも待ってエドゥアルト。ご両親はなんて言っているのかしら?  特に公爵夫人……」
「え?  ああ……」

 エドゥアルトの結婚相手は未来の公爵夫人となる。
 まさか、両親に相談していないはずはないわよね?
 そんな私の質問にエドゥアルトは何故か口ごもる。

「何?  まさか反対されたとか?」
「いや、そうではない。特に母上は踊り狂うほどの大喜びで父上を引きずり回してもいた───」
「……」

(ホホホ、公爵家は楽しそうだこと)

「羨ましかった……」
「そ、そう」

 エドゥアルトの目はあきらかに“父上、いいなぁ”そう言っている。

「……コホンッ、それならエドゥアルト。ジョシュアが体当たりしちゃうくらいあなたに元気なかった理由はなんなの?」
「あうあ~」
「…………それは」

 エドゥアルトの頬がポッと更に赤く染まる。
 そして膝の上でギュッと強く両拳を握りしめた。

「プ……プロポーズする際には言葉だけでなく──贈り物もしたいと考えているんだ!」
「贈り物?」
「やはり定番でもある薔薇の花───そう思っていたが、よくよく考えるとパーティーで花を持って入場するのは難しい!」

(それもそうねぇ……)

「だから何か代わりになる物をと思ったがいい物が思い浮かばず、その相談を───」

 ガタンッ!
 エドゥアルトがそこまで言いかけた時、ジョエルが無言で勢いよく立ち上がった。

「ん?  ジョエル?  どうかしたのか?」
「……」
「なに?  ちょっとそこで待っていろ?」
「……」
「すぐ戻る?」
「……」

 ジョエルは目線でエドゥアルトにそう伝えると部屋を出て廊下を駆け出した。

「ジョエルったら、どうしたのかしら?」
「なんだろうな?」

 私とジョルジュは顔を見合わせる。
 とりあえず、待ってろというのだから私たちは待つしかない。

「あうあ~~」

 ここで、これまでセアラさんの膝の上でキャッキャしていたジョシュアが動いた。
 セアラさんの膝の上からスルリと抜け出してエドゥアルトの元に向かう。
 エドゥアルトは足元に来たジョシュアをそっと抱き上げる。

「ジョシュア?  どうしたんだ?」
「あうあ、あうあ!」
「ん?  ぷろぽーずとはなんですか?」
「あうあ!」

 ニパッ!
 ジョシュアは満面の笑みでわーいと両手をあげた。

「あうあ~!」
「なに?  とても楽しそうな匂いがします?  ボクもお兄さんとお姉さんとぷろぽーずして遊べますか?  だと?」
「あうあ~~!」

 どうやら、プロポーズを遊びごとと思ったジョシュア。
 自分も混ぜて?  と言うために擦り寄ったらしい。

「ジョシュア……す、すまない。僕にプロポーズされても……困る、ぞ?」
「あうあ!」
「君とでは歳の差が……いや、その前に僕たちの間には性別の壁というものが存在する……!」
「あうあ!!」

 ジョシュアがグイグイと困惑中のエドゥアルトに迫る。

「…………ジョルジュ。ジョシュアはなんて?」
「なぜ、困るです! どうして ボクはぷろぽーず出来ないです!?  そう迫っているぞ」
「ホホホ。それはさすがのエドゥアルトだって困るわよねぇ……」
「ああ」

 私たちがそんな会話をしていると、エドゥアルトがグッとジョシュアの両肩を掴む。

「いいか?  ジョシュア。“プロポーズ”とは特別なんだ!」
「あうあ」
「そうだ、特別。僕はレティーシャ嬢……お姉さんにこれからもいっぱい仲良しでいてくださいと伝えるためにプロポーズするんだ」
「あうあ!」

 エドゥアルトの言葉を受けてジョシュアが手足をパタパタさせる。

(うん、これさすがの私にも分かるわ───)

 私はフッと鼻で笑う。
 絶対に今の“あうあ”は、「それならボクもお兄さんとお姉さんにするです!」だ。
 エドゥアルトは首を振ってジョシュアの頭を撫でながら優しく言った。

「ジョシュア。すまないがそれは出来ないんだ」
「あうあ!」
「プロボーズはベビーにはまだ早い」
「あうあ!!」
「それから……例え君が大きくなっても僕にするものじゃない!」
「あうあ」
「レティーシャ嬢にもダメだ!」
「あうあ」

 エドゥアルトはジョシュアに大真面目に諭していく。

「君がもっと大きくなって、ずっとずっとずっとずーーっと一緒にいたいと思える人が見つかった時、初めてその人に向けてするものだ」
「あうあ!」
「ああ、安心してくれ。お姉さんには僕がプロポーズしてずっと仲良く一緒にいれば、君はいつでも遊べる」
「あうあ!!」

 ニパッ!
 ジョシュアは満面の笑みを浮かべる。
 ジョシュアにとって大事なのはエドゥアルトやレティーシャさんと遊べるか否かだから。

「……だが、もしも僕がプロポーズに失敗したら───」
「あうあ」

 ここでエドゥアルトが目を伏せた。

「────お姉さんと三人ではもう遊べなくなるかもしれないっ…………くっ」
「あうあ!  あうあ、あうあ、あうあ!  あうあ!!」
「ジョシュア……」

 エドゥアルトと何かを必死に訴えるジョシュアが見つめ合う。

(何これ……)

 私は何を見せられているの?

「……ジョルジュ」
「ああ、説明する────それはダメです!  お兄さんとお姉さんはこれからもボクともっと遊ぶです、失敗は絶対にダメです……このボクが許しません!!  …………ジョシュアは手厳しいな」
「ホホホ、必死ね……」

 更にジョシュアはエドゥアルトに訴える。

「あうあ~~~~」
「なに?  それならこのボクがぷろぽーずのお手伝いするです?」
「あうあ!」

 そして、なんと手伝いまで申し出たらしい。
 エドゥアルトが目を丸くする。

「あうあ!」
「ギルモア家のボクに出来ないことはありません、だと?  はっはっは!  ジョシュアは身体は小さいのに心は強気だな」
「あうあ!」

 エドゥアルトは嬉しそうに笑うと、ジョシュアも嬉しそうに笑い返した。

「……そうだな。それではジョシュア。僕は君にいくつか頼みたいことがある」
「あうあ~~!」

 任せろと言わんばかりに胸を張るベビー。
 エドゥアルトは苦笑しながら、ジョシュアに当日のパーティー会場でのことをお願いしていた。
 私はそんな光景を微笑ましい気持ちで見守る。



 それから、しばらくジョシュアとエドゥアルトは作戦会議という名の打ち合わせを続けている。

(エドゥアルトにはプロポーズ……絶対に成功して貰わなくちゃ!)

 私も私でそう気合いを入れた時だった。
 傍らのジョルジュに静かに名前を呼ばれた。

「ガーネット……」
「なぁに?  私たちも協力出来ることはバンバンするわよ?」
「ああ……」
「?」

 ジョルジュは頷いたものの何だか歯切れが悪い。

「どうしたの?」
「いや……」
「ジョルジュ?」

 私が先を促すとジョルジュはそっと顔を上げて時計を指さす。

「……俺たちの息子さんはどこに消えたんだ?」
「あ!」

 私も慌てて時計を見上げる。
 ジョエルが待ってろ、すぐ戻ると言い残して出て行ってから……

「…………かれこれ三十分ほど行方不明、ね?」
「あの二人の作戦会議が終わる前には戻って来て欲しいところだな」
「ホホホ……」

 私が笑ったその時だった。
 バーンッと部屋の扉が勢いよく開いた。

「あら、噂をすれば私たちの息子さんの帰還のようよ、ジョルジュ」
「行き倒れずに戻ってこれたか。立派だな」
「立派……」

 おそらく色んな部屋の扉を開けて回ってきたのだろう。
 そんなジョエルは部屋の中に私たちがいるのを見て眉をピクリと上げた。

(…………ん?  何か持っている?)

 戻って来たジョエルは手に何かを抱えていた。

(あれは────本?)

 私がそう思ったと同時に、ジョエルはエドゥアルトの元にズンズン向かっていく。
 ジョシュアと話していたエドゥアルトがジョエルに気づいて顔を上げた。

「やあやあやあ、ジョエル。長旅だったな!」
「あうあ~!」
「……」
「ん?  手に持ってるそれはなんだ───うぐっ!?」
「あうあ~~!」
「……」

(ジョエルーーーー!?)

 ジョエルは無言のまま、手に持っていた何冊もの本をエドゥアルトの顔にグイグイと押し付け始めた。
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