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【スピンオフ完結記念】11. 賑やかな毎日
しおりを挟む「───ジョエル・ギルモア様、お、及び! ご子息のジョシュア・ギルモア様! こ、このたびは大変、大変、ももも申し訳ございませんでした……!」
「あうあ!」
「……」
ニパッ!
ジョシュアはキャッキャと満足そうに笑う。
そしてその隣のジョエルは無言の圧。
怒っているように見えるけど多分、眠いとしか考えてない顔……
(何これ……)
いったい何がどうしてこうなったのか。
今、私の目の前でカス男がジョエルとジョシュアの前に平伏して謝罪している。
(ホホホ……)
────可愛い顔をした天使どころか悪夢のようなジョシュアによるとんでもない要求は、どんどんエスカレートしていった。
それを本日の通訳係に任命したジョルジュがきっちり丁寧にカス男に伝えた。
その結果……
ジョシュアの単なる欲望の塊から発生した過大な要求は、全てジョルジュの意思───とカス男は認識。
つまり、“あうあ”しか喋れないジョシュアの代わりにジョルジュが口にしたことで、これはギルモア家当主からの要求である、と受け止めた────
(そりゃ、信じられないわよね? 0才のベビーが土地寄越せと言うとか……)
チラッとジョシュアの顔を見るとパチッと目が合った。
「あうあ~」
「!」
ニパッ!
ジョシュアが私に向かって満面の笑顔で手をフリフリする。
……可愛いのに。
こんなにも可愛いのに!!
「ほほほ、本日頂きました要求は、こ、この愚かな私めが、せせせ責任を持って持ち帰り、当主である父とけけっ検討しお返事させていただきます……!」
「あうあ!」
「……」
「で、ですから!」
ここでカス男はガバッと勢いよく顔を上げた。
その顔は涙と鼻水でぐしょぐしょだった。
(これはこれは……)
レティーシャさんとエドゥアルトにもこの顔を見せたかった……
そう思うくらいカス男はさらにカスッカスになっていた。
「どうか! ぼ、没落だけは───か、勘弁してくださいぃぃぃ……」
「あうあ!」
ニパッ!
ジョシュアはカス男に満面の笑みを向ける。
「レ、レティーシャにも、な、何度でも謝罪し、しますからっっ!」
「あうあ!!」
(ん? ジョシュアの語気が強くなった?)
不思議に思っていると、ジョルジュが私にコソッと言った。
「ガーネット。ジョシュアは誰がお姉さんを呼び捨てにしていいと言ったです? とお怒りだ」
「え?」
「あうあ、あうあ!!」
ジョシュアは手足をパタパタさせて更にカス男に何か訴える。
何を言われているのか分からずポカンとするカス男。
すかさず、ジョルジュが今の言葉を通訳するとカス男はさらに青ざめた。
「も! ももももも申し訳ございません……! えっと、レ、レティーシャ様にも、改めてしゃ、謝罪をしますからぁぁっ」
「あうあ!」
「───当然だ!」
「ど、どうか……お許しをーー……」
カス男が地面に這いつくばって謝ったその時、ジョシュアがニパッ! と笑った。
「あうあ!」
「ん? ジョシュア。もう謝罪はいい? ───そうか。そろそろ殺るのか?」
「あうあ!!」
「殺っ…………ウヒッ!?」
物騒な発言にカス男の身体がガタガタ震えだした。
その目は完全に脅えきっている。
「あうあ」
「……分かった」
(分かった? 何する気なの?)
ジョシュアの言葉に頷いたジョルジュが立ち上がる。
本当に殺らないにしても何をやるつもりなのかは気になるところ。
「あうあ~~」
ジョルジュがひょいっとジョシュアを持ち上げて抱き上げた。
そしてスタスタとカス男の元にジョシュアを運ぶ。
「あうあ!!」
「なっ!? なに……をす、る……気だ?」
ひたすら脅えるカス男。
声も震えている。
しかし、ジョルジュは脅えるカス男のことなど気にもとめず、ジョシュアをそっとカス男の背中に降ろした。
「───さあ、ジョシュア。ここからはお前の自由だ! 好きにしろ」
「あうあ~~!!」
「……ひっ!?」
背中の上でニパッ! と笑うベビーと脅えた声を出すカス男。
「あうあ!」
「待っ、待ってくれ……くらさい!? 俺のせ、せせせ背中に乗って、な、何をする…………さ、されるおつもり……」
(あらあら……気が動転して言葉がめちゃくちゃよ?)
「……あうあ!」
「!?」
ニパッ!
ジョシュアは満面の笑みを浮かべる。
「ひぃっ!? いいい今、絶対に背中の上で笑ってるだろ!?」
「あうあ~~」
ニパッ!
───ジョシュア・ギルモアという天使のような顔の中身は悪魔なベビーを背中に乗せてしまったカス男こと、ジェローム・ニコルソン。
「あうあ~~~~」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁあぁあ~~~~」
この時の彼の悲鳴はだだっ広い我が家の端にまで響いたという。
「あうあ~~」
カス男の背中に乗って思いっきり暴れて遊び終えたジョシュア。
ボロボロの瀕死状態で逃げ帰ったカス男を見送ったあと、満足そうな顔で微笑んでいる。
「ジョルジュ。ジョシュアは幸せそうな顔でなんて言ってるのかしら?」
「──踏み踏みは楽しいことです~、だな。目覚めたのかもしれん」
「…………そう」
「あうあ~」
「──おばあ様に踏み踏みの許可を出してもらえるくらい早く大きくなるです、と意気込んでいる」
「……」
(今はまだ可愛いくてやんちゃねぇ、で済むけど……)
成長したら────……
余程のことがない限り、この子には許可を与えない方がいい。
この時、私は強く強くそう決意した。
その後。
ギリギリ没落こそしなかったけれど、慰謝料支払い金額がかなり膨れ上がり結果的に土地も半分以上失ったニコルソン侯爵家。
しかし、ジョシュアのしたことは全て“ギルモア家のしたこと”に置き換えられた。
その結果、ジョシュアの悪魔的要素は世間にほとんど知れ渡ることはなく……
幸運を呼ぶ微笑みの天使としての地位だけを手に入れた────
───────……
「あうあ~」
パタパタパタパタ……
「ちょっと、ジョシュア! 走らない! 私の話を聞いてるの?」
「あうあ!」
ニパッ!
今日も私はジョシュアと日課の散歩。
ハイハイから立ち上がり歩けるようになったジョシュアは相変わらず、屋敷の奥へ奥へと入り込んでは物置を荒らしていく。
二足歩行になったことで更にやんちゃっぷりが激しくなった気がする。
そんな散歩中のジョシュアが突然、ピタッと足を止める。
「───あうあ!」
「なに? アイラは今、セアラさんと遊んでるわよ?」
「あうあ! あうあ!」
あれから我が家に誕生した二人目の天使、アイラ。
ジョシュアはお兄ちゃんとして、とてもアイラのことを可愛がっている。
「あうあ! あうあ、あうあ!」
「ジョシュア……そろそろ、もう少し言葉を話しなさいよ」
「あうあ!」
ニパッ!
「そんな所までジョエルに似なくてもいいでしょ?」
あの子も成長してもなかなか「う」以外は喋らなかった。
おかげで無口無表情を極めたことで変な二つ名がついたり……
「あうあ!」
「はいはい、どうせボクのお父様はかっこいいのですとか言っているのでしょう?」
「あうあ!」
「ええ、そうね! そしてこの私───あなたのおばあ様も今日もとびっっっきり美しいでしょう?」
ホーホッホッホッ! と私は高らかに笑う。
どうせ、何言ってるか分からないし、これは変えようのない事実だからいいわよね?
「あうあ!」
「いいお返事ね、元気でよくってよ! …………ん?」
なんて笑っていたら何やら玄関の方が騒がしくなった。
「誰かしら? お客様……」
「あうあーーーーー!」
お客様の予定なんて聞いてないけど?
そう言いかけたところで、ジョシュアが突然走り出す。
私は慌てて追いかけた。
「は? ちょっと! ジョシュア!!」
「あうあ~!」
直感でジョシュアは“お客様”の出迎えに行きたいのだと分かった。
(まあ、我が家に先触れ無しで堂々と訪問する人は決まってるからねぇ)
早く会いたいのだろう。
しかし……
「───待ちなさい! ジョシュア!!」
「あうあ~」
ジョシュアの首根っこを掴んで止める。
するとジョシュアはジタバタと暴れた。
「あうあ! あうあ、あうあ!!」
「こら! 暴れないの!」
(おそらく────おばあ様! どーしてボクを止めるです、ボクはお出迎えするです!! とか言っているんでしょうね……)
私は暴れるジョシュアと目を合わせた。
「いいこと? ジョシュア、あなたの駆け出したい気持ちは分かっているつもりよ? だからこそ、私の話をよーーく聞きなさい?」
「あうあ!」
大人しくなったジョシュアがニパッ! と笑って頷く。
そんなジョシュアに私ははっきり告げた。
「ジョシュア。あなたが今すぐ向かいたい玄関は─────逆方向なのよ!」
「あうあ!!」
「そう。玄関はあっちよ、ジョシュア」
私はビシッと玄関の方を指さす。
「あうあ!」
───分かりました。おばあ様、ありがとうございます!
そう言わんばかりの顔で頷いたジョシュア。
分かってくれたのね? と私はジョシュアから手を離した。
「あうあ~~!」
「…………あ!?」
そして、元気な掛け声を上げて私が指さした方向とは真逆に走って行った。
(な ん で !?)
「ジョシュア~~~~!」
「あうあ~~~~」
私が全速力で追いかけ始めると、ジョシュアは楽しそうにキャッキャと笑いスピードを上げて駆けていった。
─────この日、なんとエドゥアルトとレティーシャさんは、少し前に二人の間に生まれた“天使”を初お披露目しようと連れて来てくれていた。
そう。
ジョシュアとアイラにとって未来の親友(予定)となる子。
……しかし、ジョシュアが“その子”とようやく対面出来たのは、訪問から三十分以上経ってからのことだった。
「────ジョシュアくん!」
「やあやあやあ、ジョシュア。今日も元気そうだな! ガーネット様と追いかけっこしていたそうじゃないか!」
(不可抗力よ!)
したくてしたんじゃないんだから!
「あうあ~~~~!!」
ジョシュアが満面の笑みで二人に駆け寄る。
そして、レティーシャさんの腕の中にいる赤ちゃんに気付いた。
「────あうあ!」
「ふふ、そうよ。約束したジョシュアくんとアイラちゃんの親友になる子よ?」
レティーシャさんが赤ちゃんをジョシュアに見せながら微笑んだ。
「仲良く遊んでくれるかしら?」
「あうあ! あうあ! あうあ、あうあ、あうあ! あうあ、あうあ~~~!!」
大興奮するジョシュア。
あまりにも早口だったのか、エドゥアルトとレティーシャさんが顔を見合せて苦笑している。
私にはジョシュアがなんて言ったのかは分からない。
けれど、まあ……想像はつく。
(いいわね、とってもいい気分よ!)
今夜は祝杯、お酒ね! と笑っていたらジョルジュが目をキラキラさせて訊ねてきた。
「どうした、ガーネット? その美しい微笑みは何か悪どいことでも思いついたのか? 今度はどこの家を潰すんだ?」
「……ホホホホホ! 潰してはいないわよ!」
私はキッとジョルジュを睨みつけたけれど、ジョルジュは嬉しそうに笑うだけだった。
───愛する夫、ジョルジュ。
そして、親友の子どもを見て大感激してるくせに相変わらず無表情な息子、ジョエル。
そんなジョエルの良き理解者のセアラさん。
まだ、あうあ、あうあ、と興奮してはしゃいでいるジョシュア。
セアラさんに抱かれながら静かに、じぃぃっと自分より小さなお客様を見ているアイラ。
私の愛する家族と、その親友一家───
(ホーホッホッホッ! ……どうやら、これからも、もっともっと賑やかな毎日になりそうね!)
❋❋❋❋❋
いつも、シリーズ通しての応援、あたたかい声、ありがとうございます。
スピンオフ完結記念はここで締めますが、
この人たちの物語は、また書く時がある気がするので完結にはしません。
(ガーネットが一番書きやすい)
宜しければ、これからもお付き合いくださいませ。
ちなみに私は現在、ふとした時に「あうあ!」と口に出しそうになるヒヤヒヤした生活を送ってます。
最後に……ジョシュアへのファンレターは随時募集中です!
1,030
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