誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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【おまけ】ベビーとチョロ男

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 そうして、私たちはついに元祖カス男……
 エルヴィス元殿下との再会(ジョシュアは初対面)を果たした。
 長旅だったにも関わらず、さすがと言うべきか、ジョシュアは疲れ知らずで……



「あうあ、あうあ、あうあ~~」

 ニパッ!

「あうあ!」
「……っ」
「あうあ、あうあ~」
「…………っ」
「あうあ!」

 ニパッ!

「…………~~っ!」

 耐え切れなくなったエルヴィスがバンッとテーブルを叩いた。

「────ガーネット!  さっきから僕によじ登ってはまとわりついて離れずに笑顔を振りまいてくる、このちんまりしたのはなんなんだ!?」
「は?」

 私は首を傾げる。

「なんなんだって、見ての通りの赤ちゃんよ?」
「あうあ~」

 ニパッ!  ジョシュアがエルヴィスに笑いかける。

「……あなた、もしかして、赤ちゃんすらも分からなくなるくらい……」
「し、失礼だな!  まだそこまでの歳じゃないっ!!」

 エルヴィスはもう一度、バーンッと強くテーブルを叩いた。

「……ふーん」
「な、なんだその目は!」
「いいえ~」

 私はフフンと鼻で笑う。
 これはおそらく、対面するなり、なぜか突然自分に向かって突進して来て、いきなりまとわりついてきた赤ちゃん───ジョシュアを威嚇したつもり……
 なのだろうけれど、甘い。
 甘すぎるわ!!
  
(オーホッホッホ!  うちのジョシュアはそんなことで怯む子ではなくってよ!!)

 案の定、ジョシュアはけろりとした様子でエルヴィスに笑いかけた。

「───あうあ!」
「……ぐっ」
「あうあ~」

 ニパッ!
  
「…………うっ」
  
(ああ、ジョシュア……これがあなたの戦略なのね?)

 ジョシュアは今、自分の可愛さを前面に押し出してエルヴィスにグイグイ迫っている。
 まるで先手必勝とばかりに、さっさと自分にメロメロにして落としてしまおうという作戦。

 チラッとジョシュアが私の顔を見て来たので、私はフフッと微笑んでから頷き返す。
 すると、ジョシュアもニパッと笑った。

 ───好きなだけやっておしまい!
 ───はい、おばあ様!!

(ホーホッホッホ!  何だかジョシュアと通じ合えたような気分よ!)

 いつもはこの私の予想を超えた行動ばかりするジョシュア。
 そして何を言っているのかは相変わらず分からない。

 ────それでも今、私たちの心は一つよ!!

「あうあ!」
「こ、この赤ん坊はそこのガーネットの夫───侯爵にそっくりじゃないか!  つつつつつまり……」

 エルヴィスはお前が産んだのか!  その歳で!?  と言いたげな目で私を見てきた。
 あまりにも腹立たしいので一瞬、殴ってやろうかと思ったけど何とか耐える。

「阿呆なの?  この子は私たちの孫だけど?」
「ま、孫!?  なんで孫をつれて……?  そもそも突然思い出したかのように連絡して来て───何の用なんだ!?」
「あうあ!」
「っ!」

 ジョシュアがニパッ!  と笑いかける。

「ホホホ、とっても可愛いでしょう?  名前はジョシュアよ」
「……くっ……」
「あうあ!」

 ジョシュアの満面の笑顔攻撃に苦しそうに言葉を詰まらせるエルヴィス。
 かつて、私の嘘の涙にもあっさり絆されそうになっていた彼なだけあってチョロそうね。

「あうあ!」

 ニパッ!

「……っ、ず、随分と人懐っこい赤ん坊のようだ、が」
「そうねぇ」
「あうあ!  あうあ!」

 ジョシュアもニパッ、ニパッと笑って応えている。
 しかし、ジョルジュによるとその裏では……

 ───カスのおじーさん!

(ホホホ、カス呼ばわり!)

 ───よーく見るです!  ボクのおばあ様はピーー歳だけど今日も美しいです!

(オーホホホ!  お黙り!)

 ───だから、孫のボクもとってもとっても可愛いです!

(また自分で言ってる……!)

 ───そんなボクは天使なアイラのためにお山をおみやげにするです!

(さっさと要求に入ったわ……)

 ───さあ!  さっさとお山をボクたちによこせです!

(頂戴って言うんじゃなかったわけ!?)

 こんな圧をかけまくっている。
 言葉が分からないって本当に幸せよね……とつくづく思うわ。

「あうあ!」
「くっ……なんてことだ。ガーネットとそこの無愛想な侯爵の孫とは思えないほど天真爛漫なのだな」
「あなた、サラッと失礼なこと言ってるわね?」
「……ヒッ」

 私に睨まれたエルヴィスが縮こまる。

「───あうあ!」
「……くわっ!  カワイイ……」

(あら)

 そこを可愛い仕草と笑顔で癒す(フリをする)ジョシュア。
 このあざといベビーの行動にチョロい男、エルヴィスの心は一気に掴まれていた────



「……ガーネット」
「なぁに?」

 コソッと話しかけてきたジョルジュ。
 少し興奮している。

「ジョシュアは凄いぞ!  相手の顔色と反応を見て見事に“あうあ”を使い分けている……!」
「…………私には全部同じに聞こえるけど?」
「いいや、脅しのあうあ、癒しのあうあ、笑顔のあうあ、腹黒あうあ、あざといあうあ……」
「……」

 脅しのあうあ、腹黒あうあ、あざといあうあ……
 その辺の普通のベビーならこの歳で使えるものじゃない。
 でも、うちのジョシュアは違う。
 普通のベビーじゃないから。

「ホホホ……寂しい暮らしをしている男にとっては、ジョシュアのどんな“あうあ”も、さぞ眩しく可愛く映っていることでしょうねぇ」

 ジョシュアの可愛いさがエルヴィスに刺さるはずよ……
 なぜなら、この家を訪ねて私は真っ先に思った。
 いくら男爵家と言えども使用人がかなり少ない。
 さらに───

(この場には男爵夫人となったラモーナがいない……)

 エルヴィスは挨拶の際、ラモーナのことを
 “あれから何十年経とうとも君に……ガーネットに会うのは気まずいと言っていて部屋にいる”
 という言い方をしていた。
 でも、私には分かる。

(ラモーナは“男爵夫人”となった姿を見られたくないだけね!)

 ましてや結婚前にギクシャクしていた二人……
 おそらく、ほとんど日常でも顔を合わせていないことが窺える。
 そして、子どもにも出ていかれてしまった───

(そんな孤独な所に、こんな可愛いベビーが来たらそりゃ即メロメロになるわよねぇ……)

「あうあ~」
  
 ニパッ!
 ───お山まだですか!  (訳:ジョルジュ)

「……き、君はあのガーネットの孫なのに……僕に笑いかけてくれる、のだな……?」

 そうこうしているうちに、エルヴィスはジョシュアにメロメロ。
 チョロい……チョロすぎるわよ……!
 どんなに情けなく頼りにならない男でもその分、私がカバーするから大丈夫!  と婚約していた頃は常に思っていたけれど、やはりこの人を王にしなくて良かったわ、と心から思う。

「あうあ!」

 ニパッ!
 ───お山をボクにくれると言うまでペチペチするです!  (訳:ジョルジュ)

「……ん!?  な、んだ?  なぜ頬を叩く!?」

 突然始まったジョシュアのペチペチ攻撃に目を丸くするエルヴィス。
 抵抗もせずに、されるがままとなっている。

「あうあ~」

 ───お山には、きちょーな“しげん”もおねんねしてると、おばあ様が言ってたです!  (訳:ジョルジュ)

「あうあ~~」

 ───ボクとアイラがそれをこうやって起こすです!  (訳:ジョルジュ)

 ペチペチペチ……

(いや、山はペチペチじゃ起きないわよ?)

 これはギルモア邸に帰ったらじっくり二人に説明する必要がありそう。
 あと、山の資源については確かにジョルジュとは話した。
 けれど、ジョシュアの前で話をした覚えはない。

(この子……いつの間に私たちの会話を聞いていたのかしら……?)

「くっ……?  はっ!  まさか、君はいつまでも僕に不抜けていないで目を覚ませ、と言ってくれているのか!?」
「あうあ!」

(いやいやいや全然、違うわよ!?)

 そこのベビージョシュアは満面の笑みで自分の要求しかしていない。
 それなのに勝手に都合よく勘違いしたエルヴィスこと、チョロヴィスの目がジワジワと潤んでいく……

 ペチペチペチペチ……

「そう、か……ははは、こんな風に誰かに喝を入れられるのは何十年ぶりだろう」
「あうあ~!!」

 切なそうに笑うエルヴィスに向かってジョシュアが手を思いっきり振り上げた。

(ん?)

 ベチンベチンベチンベチン……

「───そうだった。思い返せば、あの頃の僕に喝を入れていたのもガーネットだった……」
「あうあ~!」

(ちょっ……え?  ペチペチがベチンベチンになってるんだけど!?)

 それなのに、思い出に浸り始めたエルヴィスは多分そのことに気付いていない。
 そんなエルヴィスの様子にさすがのジョルジュもコソッと口を開く。

「……なぁ、ガーネット。ジョシュアの叩き方が……」
「え、ええ。分かっているわ」

 ジョルジュの言いたいことは分かるので私も頷く。

「……見ろ。叩かれすぎてだんだん頬が赤く腫れてきているぞ?」
「そうね、それでもあの人、自分の世界に酔っていて気付いてなさそうなのよ」

 私たちがそんな会話をしている間も、ジョシュア───いや、微笑みの悪魔は手を止めない。

「あうあ~」
「なんだろう……不思議だ。顔がどんどん熱くなってきた。君といるとガーネットに喝を入れられているみたいだ」
「あうあ!」

(不思議だ……じゃないわよーー!?)

 冷静に考えれば分かることのはずなのに。
 目の前のジョシュアにメロメロにされてエルヴィスは思考能力まで落ちてしまっている……

「あうあ~」

 ちなみに、ジョルジュによると、ジョシュアは、
 ───カスおじーさん、早く!  ボクとお山についての話をするです!  
 と、ずっーーと催促しているらしい。

(そうは言ってもまだ、本題にすら入れてないんだけど?)

「そうか───ガーネットに出会うと皆、人生が変わるんだな」
「は?」

 突然、ジョルジュがしみじみとおかしなことを言い出した。

「俺の人生もすっかり変わった。それはあの男もそうなのだろう」
「ジョルジュ……」
「やはり俺の愛するガーネットは最高の……」

 ジョルジュがそう言いかけた時だった。

「────あうあ~~!!」

 バッチーーン!

「……っ!?  グハッ!?」

 興奮して勢い余ったのか。
 ジョシュアはエルヴィスにバシンッと渾身の一撃を放っていた。

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