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第9.5話 (マリアン視点)
しおりを挟む「手袋、私が使うわけないでしょう!?」
部屋に戻った私は物に八つ当たりしながらそう叫ぶ。
「バカなんじゃないの? あの子は!」
王子と出掛けて買ってもらったものが手袋って何なの?
せっかくなのだから宝石の一つや二つねだればいいものを。
「まぁ、セシリナだもの。宝石なんて持っててもしょうがないわよね」
と、私は内心で妹をバカにしながら微笑んだ。
──バルトーク伯爵家の次女は薄気味悪い令嬢。
気付いたらセシリナは、世間でそう呼ばれるようになっていた。
昔から陰気な子だとは思っていたわ。
人の顔色を窺ってはビクビクしてるし?
基本、外には出ないし、前髪はうっとおしいし、笑わないし。
何だか家族に壁を作っているような子だった。
私と違って可愛くないから卑屈にでもなってるのかしらね。
そもそも、あの手袋はなんなのよ! 意味が分からない。
着け始めた頃に咎めた事があるけれど、あの子は頑なに譲らなかった。
正装でもないのにずっと着けていて、はっきり言って気味が悪い。
「だから薄気味悪い令嬢なんて呼ばれるのよ」
そんな事を考えていたら、無性に腹が立って来た。
「そもそも、私はこんなに可愛いのにどうしてギルディス殿下の婚約者に選ばれなかったわけ!? やっぱりセシリナのせいだとしか思えない!」
私は昔から王子様と結婚するのが夢だった。
そう思ったのは多分、お母様が読んでくれた絵本が始まりだった。
可愛い女の子が王子様と恋に落ちて幸せになる話──
『この女の子はマリアンそっくりね? あなたも将来はお妃様かしら。なんてね』
お母様はそう言って笑っていた。
その時思ったわ。
私はお妃様になるのに相応しい子なんだって。
「我が国の王子様は2人。狙うならやっぱり王太子殿下よね! と思って近付いたけれど……」
ギルディス殿下は私を選ばなかった。
可愛い私があんなに迫ったのに!
結局、殿下の婚約者に選ばれたのは大して可愛くも無いつまらない令嬢だった。
しかも、私と同じ伯爵令嬢。
つまり、身分としては私だって問題無かったはずなのに!
「本当に腹が立つわ!」
ギルディス殿下も婚約者になったあの女も……そして、セシリナも!
私が選ばれなかった事は今でも心から納得いっていない。
けれど、正式に発表されてしまった婚約を今更どうこうするのは難しい。
(下手な事をすれば私の立場が……)
そうなると、私が王子様のお妃様になる方法はあと一つしかない。
──エリオス殿下。
普段からあまり城におらず街で遊んでいるとも、女性関係が派手でどこぞに隠し子がいるだのといった噂の飛び交う奔放な第二王子。
私の魅力にかかれば遊んでる殿下も大人しくなって私に夢中になるはずよ!
そう思ったのに。
「何で私を差し置いてセシリナなんかと交際始めてるのよ。意味が分からない!」
しかも脅されたわ。何なのよ、あれは。
(ギルディス殿下に近づく為に、ちょーっと邪魔な令嬢達を荒っぽい方法で追い払っていただけなのに……どうして知られていたのかしら……殿下ってあまり城にいなかったんじゃないの?)
「そもそも、セシリナとエリオス殿下はどこで出会ったわけ?」
あの陰気な妹は滅多に外になんて出ない。
おかしくないかしら?
「はっ! まさか、あのお茶会の日に?」
確か、あの時……途中であの子どこかに行っていたわね……まさかとは思うけれど、その時に会ったのかしら?
……でも、それなら二人は出会ってまだ日は浅い。
(それで恋に落ちるもの?)
だってあの大して可愛くもないセシリナに、よりどりみどりの殿下が一目惚れするなんて信じられないわ。
見た目もあんなで性格も陰気なセシリナよ? 有り得ない!
そう言えばあのうっとおしい前髪は切ったらしく、久しぶりにまともに顔を見たけれど所詮セシリナはセシリナ。
私に比べて可愛さの欠けらも無い。そしてあの気味悪い色の瞳。
(昔からあの子の目が嫌いだった。何でも見透かされているような気がして)
やっぱり、私ならともかくセシリナに一目惚れ要素なんてどこにも無い。
まぁ、百歩ぐらい譲ってこれまで多くの女性を相手にしてきたエリオス殿下が、ちょっと変わった令嬢を試してみたくなっただけ……なんて事はある……かもしれない。
ならばあの陰気なセシリナ相手だから、エリオス殿下もすぐに飽きて付き合いきれないってなるのは目に見えているわね。
「そもそも、あんなに遊んでる噂のある王子をセシリナがどうこう出来るわけがない! すぐに別れるでしょ」
私は、ふふふと笑いが込み上げる
「……」
だけど、やっぱりちょっと気になる。
「……本当に恋人なのかしらね」
だってよくよく考えたら贈り物も手袋よ、手袋!
あんなものに愛情が込められてるとは到底思えない。
女性に贈り物なんてしなれているであろうあのエリオス殿下がよ?
じつはからかってるだけ、とか?
それなら最高に楽しいのだけど!
「……ふぅ」
いずれ、ボロ雑巾のようにセシリナが殿下からポイッと捨てられるのが目に見えているとは言え……私を差し置いて一時でも“エリオス殿下の恋人”だったなんて肩書きはやっぱり許せそうにない。
「調子に乗られても困るのよね。セシリナのくせに……」
一日も早く殿下の恋人の座から引きずり下ろしてやりたい。そしてその場所は私が収まるの。
「あの子の悪評なんて今更なのだから流しても無駄よね……やっぱりちょっと手荒な真似が必要かしら?」
だけど、私が手を回したとバレてしまっては意味が無いから……難しいわね。
こうして私はどうやってあの子を蹴落とすかを真剣に考え始めた。
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