【完結】殿下! それは恋ではありません、悪役令嬢の呪いです。

Rohdea

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第三話 試す事にしました

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「えっと、用意する物は……」

  “好きな人を自分の虜にする方法”なんてどう考えても胡散臭いと分かっているのに、今の私は何にでもいいから縋りたい気持ちになっていた。

「へぇ……意外と簡単なのね」
  
  書かれている内容はそんなに難しい事では無かった。必要な物が揃って条件さえあえば……だけど。
  10歳の私が全て揃えるには両親にお願いしなくてはいけない物もある。

「実行日は満月の夜と決まっているのねー……んー、次の満月っていつだったかしら?」

  私がこれをフレデリック様に使ったら、五文字以上喋ってくれるようになる?
  それから笑顔も見せてくれるようになるかしら?

  (そうよ、あの……昔見たあの時みたいに……だって、フレデリック様の笑顔は本当に素敵なんだから……)

「……って、昔の事はいいから早く暗記しなくちゃ!」

  この本を持ち出すわけにはいかないので、もう一度内容をしっかり頭に叩き込もうとしたその時だった。

「────誰かいるのか?」
「!(……ひっ!?)」

  図書室の入口から声をかけられたので、私の身体がビクッと大きく跳ねる。
  そのせいで持っていた本がバサッと音を立てて足元に落下してしまった。

  (やってしまったわぁぁ……ってこの声……)

「っ!  そこにいるのか?」
「ひっ!」

  私は小さく悲鳴をあげて、おそるおそる振り返る。
  すると、やっぱりそこに居たのはとても見覚えのあるお顔。こんなにかっこいい人を私は他に知らない。

  (──やっぱり!  フレデリック様だったわ!)

「──は?  ……ディアナ嬢?」

  そして、すぐに私だとバレてしまう。

  (落ち着くのよ、私……)

  ちょっと怪しい本を手に取って疚しい事も考えたけれど、今はまだ怒られるような事は何もしていない。だから、大丈夫。そう思った私は堂々と挨拶をする。

「御機嫌よう、フレデリック様」
「……なぜここに?」
「妃教育でお借りしていた本を返す為ですわ。うっかり持ち帰りそうになってしまいまして、慌てて戻りましたの」
「……そうか」
「ええ」
「……」
「……」

  しんっ……
  やっぱり会話が続かないわ。でもね、私はめげないんだから!

「殿下も何か本を探しにいらしたのですか?」
「…………ああ」
「そうでしたか!  殿下が本をお好きなのは有名ですものね!」

  フレデリック様は身体を動かす事より、本を読む事の方がお好きらしい。

  (確か、ヒロインとも好きな本の話で意気投合するのよねー……)

  悪役令嬢ディアナは全く本に興味が持てなくて、完全に蚊帳の外だった。
  つまり今の私なら少しは殿下と本の話で盛り上がれたり……

「……」
「……」

  ……しないわね。また、黙り込まれてしまったわ。
  不審者では無いことは納得して貰えたみたいだけれど、私と仲良く話す気があるわけでもない……そういう事よね。

  私はがっくり肩を落とす。

「……」
「……」

  (今日はもう帰ろう……)

「……えぇと、馬車を待たせているので、私はこれで失礼します、わ!」
「あ、ああ」

  沈黙に耐えられなくなった私は逃げるようにして図書室から出て行く。
  
  (どうやったらフレデリック様との会話は弾むのよーー!  誰か教えてーー!) 



  そんな事を考えながら廊下を早足で歩いていた私は、すっかり忘れていた。
  “好きな人を自分の虜にする方法”とやらが載っていた怪しい本を床に落としたままだったという事を……




◇◆◇◆◇



「ディアナ。殿下とは上手くやれているのか?」
「……え」

  それから数日後、朝食の席でお父様が突然、私にそう訊ねてきた。

「上手く……とは?」
「そのままの意味だ。ディアナとの婚約が正式に発表されたとはいえ、殿下の妃の座を狙う令嬢が居なくなったわけではない。候補は他にも沢山いたからな。油断は出来ん」
「はい……」

  そんな事は分かっているわ。
  私が婚約者に選ばれた理由は、侯爵家の令嬢だから……
  “ディアナ”が見初められたわけでも無ければ、何かが優秀で選ばれたわけでもない。
  ただただ、身分が高くて年齢が釣り合っていたから。それだけ。
  だから、お父様や私の行動の一つですぐにどうなってしまうか分からない不安定な立場にいる。

  (……やっぱりフレデリック様には私の事を好きになって貰わなくちゃ!)

  だって、元の話でフレデリック様とヒロイン、ライラックを深く結びつけていたのは“愛”だもの!  愛なのよ愛!

「───というわけで、いいか?  ディアナは自分が婚約者だという自覚をしっかり……」
「ねえ、お父様!」

  お父様はずーっとくどくど婚約者の心得の様なものを説いていたけれど、私はそれを全部聞き流しておきながら訊ねる。

「……何だ?  話の途中だぞ?」
「ごめんなさい、でも、ちょっと聞きたい事があります!」
「聞きたい事?」
「はい、次の満月っていつですの?」
「…………は?」

  お父様の顔は何の話だ?  と言っていた。

  だって、やっぱりこのまま長期戦に持ち込んでも難しい気がするのよ。
  原作通りなら、私、ディアナの事をフレデリック様は最初から気に入っていなかったわけで。
  ヒロイン登場まで6年もある……じゃないのよ。
  6年しかないの!

  ヒロイン、ライラックが現れた時、彼女が入る隙が無いくらい、フレデリック様とお似合いの婚約者になっていたいのよ。

  (やっぱり、あの本に書かれていた方法を試してみるべきよね!)

「満月?  それが何の関係があ……」
「いいから!  教えて下さい! とってもとっても大事な事なのです!」
「ディアナ……?」
「それから、薔薇の花が欲しいです、お父様!」
「……!?」

  私の勢いにお父様が押されていた。



  お父様が言うには次の満月は来週だという。
  私はあの時読んだ本の中身を思い出しながら準備を進めた。

  (…………あれ?  そういえば私あの本ってちゃんと書棚に戻したかしら?)

  フレデリック様に会って落としてしまって……そのまま慌てて飛び出してしまったような気が……

「…………」

  何だか一気に不安になったけれどもう今更だった。

「……そもそも、何という名前の本だったのかしら?」

  そんな事すら覚えていない。偶然手にした本なのだから仕方が無いけれど。
  ただ、何となく次に図書室に行っても見つけられる気がしなかった。



  
   ───そして、とうとう満月の日がやって来た。

  私は窓の外を覗く。 空には雲がなくて綺麗な満月。

「うん、綺麗なまん丸のお月様だわ!  条件にピッタリね!」

  必要な物も用意した。
  紙とペン、それから薔薇の花びらと綺麗な水……

  今日はもう眠るから、朝まで誰も起こしに来ないでとお願いもしたから人払いも完璧!  

「ふっふっふ!  さぁ、始めるわよ!  フレデリック様……!」

  私はフレデリック様の顔を頭の中に思い浮かべながら、集めた材料達は本に書かれていた通りの作業を施し、そして最後は祈りを捧げる。

「────どうか、フレデリック様が私に夢中になってくれますように───……」
 
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