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第四話 殿下が会いに来まして
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──
「……殿下! どうして昨日の私とのお茶会に来てくれなかったのです!?」
「公務が入ったからと説明したはずだ」
(嘘よ! 私は知っているの……! あなたは、昨日あの平民女と……)
ディアナは悔しくてギリギリと唇を噛む。
「ディアナ、何か言いたそうな目だね」
「私、知っていますのよ。昨日は公の場に“彼女”を連れていったのでしょう? とても仲睦まじい様子だったと耳にしましたわ」
「…………彼女の持っている知識が優秀だったからだ。平民ならではの視線と物の考え方が新鮮で──……」
「っ! そんな言い訳は聞きたくありませんわ!」
頭がズキズキする。吐き気までしてきた。
ディアナは堂々と公務だと言い張って浮気のような行動をするフレデリックの事が許せなかった。
「どうして私じゃダメなの……フレデリック様!」
「……とにかく僕は忙しい。来月からは定例のお茶会そのものを無しにしてもらおうと思っている」
「そんなっ!」
あの平民女が現れてから、フレデリック様の心はどんどん離れていく。
フレデリックの告げたその言葉にディアナは大きなショックを受け、そしてそれは憎しみへと変わる。また、その矛先は彼の心を奪った平民女ライラックに───……
───
─────
(浮気? 嫌……そんなの嫌ーー! “私”は絶対にそんな事はさせないんだから!)
そんな事を思いながら目を覚ました。
「……ゆ、夢……?」
慣れない事をしたのがいけなかったのか。
胡散臭そうな本に載っていた“好きな人を自分の虜にする方法”の儀式を実施した私は、その翌日、熱を出した。
二日目の今も体調は戻っていない。
(うぅー……今日もなんて最悪な目覚めなの……それに、今日もまだ頭が痛いわ、身体も少し怠いし)
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「……な、何とか」
儀式は手順もばっちりで、滞りなく終わったはずだった。
ちゃんと祈りも捧げたわ!
あとは、フレデリック様に会いに行って効果が現れたかどうかを確かめるだけ……だったのに。
なのに昨日の朝、目が覚めたら、酷い頭痛と吐き気に襲われた。
今はだいぶ楽になったと言っても苦しいものは苦しい。
(儀式のせい? いいえ! 偶然よ、偶然。そうに決まっているわ!)
心当たりはそのくらいしか無かったけれど、必死にそう言い聞かせた。
「お嬢様、こちらがお薬です……とても苦いそうです」
「……うっ」
手渡された薬を見て思わず唸ってしまう。
我が家のお抱え医師はとても優秀なのだけど、出してくれる薬はいつもとんでもなく苦いお薬ばっかり。
いつもなら「こんな不味いもの持って来ないで!」と怒鳴り散らす所だけど、今の私は違う。
(早く体調を治してフレデリック様に会いに行くんだから!)
一日でも早く効果があったのか確認したいもの。だから、頑張ってこの苦いお薬を飲んでみせるわ!
と、決めてグイッと一気に薬を飲もうとしたその時───
「お嬢様! 大変です! 殿下からお見舞いの品が届きました!」
「……!?」
薬を飲もうとした私の腕がピタリと止まる。
(な、な、何ですって!?)
婚約してからというもの、手紙ですら一度も書いて送ってくれた事のないフレデリック様が!? お見舞いの品を贈ってきたですって……!?
現実もこんなだけれど、確か、物語の中でもまともに手紙が来た事は無いって書かれていたわよ? そんなフレデリック様からの贈り物だなんて!
「それから、なんと! 同時に旦那様宛に届けられた手紙には“迷惑でなければ直接お見舞いをしたい”と書かれているそうです!!」
「…………!!」
(お、お見舞いに来る───!?)
「お、お嬢様! 薬が……!」
「あ……」
贈り物の次にお見舞いに来るなんていう更なる衝撃を受けた私は、飲むはずだった苦い薬を床に落としてしまっていた。
それくらい驚いた。
────
私は考えた。
これは、これはもしかして……もしかするのでは?
やっぱりあの儀式効果なのかもしれないわ!
(フレデリック様に早く会いたいわ!)
お見舞いは今回は遠慮しておいた方が……と言い出したお父様を無理やり説得し、本日の午後、フレデリック様が私のお見舞いに来てくれる事になった。
(もしかしたら、五文字以上の言葉も聞けるかもしれない!)
どんな言葉が聞けるかしら? と、私は大きく期待する。
───そして時間通りの午後。
フレデリック様は本当に私のお見舞いに訪れた!
「……ディアナ嬢」
「殿下! わざわざお見舞いありがとうございます」
(ほ、本当に訪ねて来てくれたわぁぁぁ~!)
内心では盛大に興奮していた私は、どうにかお嬢様笑顔で乗り切った。
だって今の私、油断したら絶対に大泣きする自信があるもの。
さすがにそれは殿下も周りの皆も困っちゃうでしょ?
だから我慢よ我慢!
「熱を……」
「そうなのです。朝は吐き気と頭痛もありましたが、今は良くなりました!」
(フレデリック様が来るって聞いたら頭痛はすぐ治まったわ!)
「……そうか」
私が笑顔で答えたらフレデリック様の顔が明らかにホッとしていた。
(これは…………何だかこれまでと様子が違ーう!)
まだ、口数は少ないけれど、あのいつもの素っ気無い雰囲気が無い気がするわ!
私は早く確かめたくて胸がドキドキした。
チラッとフレデリック様の顔を見ると、思いっ切り私と目が合った。
(……! 目、目が合った……ですって!?)
今までは逸らされていた目が! 目が合ったわ! 初めてよ!
思わず(感極まって)泣きそうになってしまったので、涙を見せる訳にはいかない! と、俯いて身体を震わせていたら、とうとう私の待ち望んだ“その時”がやって来た。
「───ディアナ嬢!? 大丈夫か? どこか痛い……いや、苦しい!? 顔色はそんなに悪くないと思ったのに……!」
(……え?)
五文字以上……いえ、もはや何文字なのかも分からない言葉がフレデリック様の口から飛び出していた。
(初めて五文字以上の言葉を聞く時は、絶対に何文字か数えるわ! と心に決めていたのに……数えられなかったわ)
いったい、今は何文字だったの?
という喜びと悲しみが同時に押し寄せて来た。
「…………」
「ディアナ嬢? どうしたの?」
「…………」
そして目の前のフレデリック様が困ってオロオロしている。
こんな顔も初めて見た。
(フレデリック様が五文字以上喋って、更には私を……私を見て心配してくれている!)
胡散臭い内容にしか思えなかったけれど、試してみて良かった!
これで私の断罪回避の一歩目が成功したんだわ!
(ありがとう、謎の本!)
なんてこの時は浮かれていた私だったけれど、自分がかけた“呪い”の恐ろしさは、むしろこれから知る事になる……
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