【完結】殿下! それは恋ではありません、悪役令嬢の呪いです。

Rohdea

文字の大きさ
5 / 31

第五話 贈り物と手紙

しおりを挟む


「お嬢様、今日もお花が届いています」
「え、また!?」

  フレデリック様がお見舞いに来てくれた日から、約一週間。
  私はすっかり元気になって以前と変わらない生活を送れるようになっていた。
  けれど……
  体調不良になる前(つまり儀式を行う前)と違う事が起きていた。

「今日はピンクのチューリップですね」

  そう言われてメイドから手渡された花を受け取る。
  フレデリック様はお見舞いに来てくださった日にもお花を持参していて、更にその翌日からは我が家にお花が届くようになった。
  それも、豪華な花束!  ではなく、一輪だったり小さな花束だったり……と、そこにはちょっとした気遣いまでもが窺える。

「もう、体調は回復しましたよ、とお伝えしたのに?」
「お見舞いとは違う意味があるのでは?」

  メイドがサラリとそんな事を言う。

「違う意味?」
「お嬢様と仲を深める為、とか……でしょうか」
   
  メイドのその言葉に私の目が輝く。
  ───私と仲を深めたい……ですって!?

  (……本当に本当にあの儀式の効果なんだわ……)

  フレデリック様が私に夢中になって虜になってくれたのかは、まだよく分からないけれど、五文字以上の会話に毎日のプレゼント!  これは明らかに好感度は上がっている(はず)!

  (ふふふ、顔がニヤケてしまう)
 
「お礼の手紙を書かなくちゃ!  紙とペンを用意してちょうだい!」
「は、はい!」

  メイドは慌てて紙とペンを取りに行った。
  




「───見て!  フレデリック様へのお礼の手紙が書けたわ!  お返事が来るかしら?」

  手紙を書き終えた私は、満足気にメイドに手紙を見せた。
  フレデリック様と手紙のやり取りはした事が無いので私の期待はどんどん高まる。
 
「それはようございました。それでは早速、旦那様にお渡しして王宮にお届けを…………おぉぉ!?」
「どうしたの?」

  笑顔で振り返ったメイドが、突然奇声を発した。

「…………お嬢様、そちらは。その手に持っていらっしゃる物は……?」
「もちろん、フレデリック様へのお手紙よ!」
「……お、てがみ……ですか。え?  何かの会議の資料とかではなく……?」

  メイドが何に困惑しているのかさっぱり分からない。
  私は首を傾げた。

「会議の資料?  何を言っているの?  どこからどう見てもお手紙でしょう?  ちょっとフレデリック様に伝えたい事がたくさんありすぎて厚くなってしまったけど!」
「……厚くなった…………のレベルでは無い気が……」
「何か言った?」

  メイドが何かを呟いたけれど、声が小さ過ぎて何と言われたのか分からなかった。

「……いえ、お嬢様がそれでいいのなら……」
「いいに決まってるでしょう?  私のフレデリック様への想いがたくさん詰まっているのよ!」
「…………ドン引き……されない事を願います……」
「?」

  何だか歯切れの悪い様子のメイドが気になりつつも、私は分厚くなったお手紙をフレデリック様の元に届けてもらった。

  (預かってくれたお父様の顔も引き攣っていたけれど何でかしら?)


  ───それから数日。

「返事が来ないわ!」
「……」

  儀式効果を期待した私は、すぐに返事が来ると思っていた。
  だって、フレデリック様からの初めてのお手紙。
  どんな字を書かれるのかしら?  内容は?
  ───と、すごく楽しみにしていたのに!!

「どうして来ないのかしら?」
「……」

  そう訊ねる私に何故かメイドは気まずそうに目を逸らす。

「そうですね……殿下も勉強がありますし……色々とお忙しいのでは?  あの(何かの資料にしか見えなかった)手紙では読むのにもお時間が……かかるはずです……から」
「……それはそうかもしれないけど」

  たった一言でもいいの。
  五文字以上喋ってくれなかった時の事を思えば、何でも幸せなんだから!

「それに、お花は毎日届いていますよ?」
「そうね」

  フレデリック様からのお花は、あれからも途絶えること無く続いていた。
  だけど、何のメッセージカードも無くてひたすらお花だけが届くという状態。
  フレデリック様の目的はよく分からないけれど、最初の頃に貰ったお花からどんどん枯れてしまうので、ドライフラワーにしたり、押し花にしたりと極力手元に残すようにしている。

  そんな愚痴を言っていたその日の午後。
  遂に私の元に念願の物が届いた。

「へ、へ、返事が来たわーー!」
「……よ、良かったですね……お、お嬢様……」

  フレデリック様からの返事を手にして喜びを顕にしている私を、何故かメイドが引き攣った顔で見ていた。

「あ!  はしゃいでみっともなかったかしら?」
「いえ、そうではありません……お返事を貰ってお喜びになっているお嬢様は大変可愛らしいと思っております」
「ありがとう?  なら、何でそんな顔をしているの?」

  私が訊ねると、メイドは「あー……」とか「う……」とか唸っている。

「お嬢様、はお手紙……なんですよね?」
「決まってるでしょう?  私宛なのだから、この間の私のお手紙に対するお返事よ!  ほら!」

  そう言って私は大事に大事に抱えていたフレデリック様からの“手紙”を見せつける。

「…………お嬢様のも大概でしたけどこちらも負けず劣らずの……資料……コホンッ」
「何か言った?」
「いえ、殿下もたくさんお返事を書かれていたようだと感心しておりました」
「でしょう!」

  嬉しくて私は微笑んだ。




「ふふ、フレデリック様からのお手紙~」

  私は待望のお手紙を鼻歌を歌いながら開封する。

  何が書かれているかしら?
  先に送った手紙には、フレデリック様の事が知りたくてたくさん質問してしまったのよね…… 
  その回答があるといいな~
  
『───ディアナ嬢へ』

  手紙はそんな書き出しで始まっていた。
  さすが、王子様。字はとても丁寧で綺麗だった。

『すっかり体調も良くなったようで安心している。そして、手紙をありがとう。返事が遅くなってしまい申し訳ない。大切な君からの手紙だから、一言一句もらす事の無い様に大事に大事に読もうとしたら、どうにも読み込むのに時間がかかってしまい……』

「…………まあ!」

  大切な私?  大事に大事に読もうと思った!?
  その言葉が嬉しくて興奮した私はメイドに聞いて聞いて、と語る。

「ねぇ、聞いてちょうだい!  フレデリック様は私のあのお手紙を一言一句もらさない様に大事に読んで下さったそうよ!」
「あれを……」

  ついでに読み進めると、私に負けないくらいの内容で返事を書きたかったとある。
  その事も伝えると、ますますメイドの顔がおかしな表情になっていった。

「……その結果が、ですか……」
「ふふ、嬉しいわ!  私もフレデリック様の綴ってくれた言葉を一言一句もらす事の無い様に読まなくちゃ!」

  (これなら、いつかヒロインのライラックが現れた時も決して負けない!)

  私達はこんなに愛のこもった(重い)手紙のやり取りをしていたのよ!  って誇れるもの!
  そんなフレデリック様からの手紙は、私の質問にちゃんと答えてくれていて、やっぱり彼が以前の彼とは違うのだと思わせてくれた。

  (これは間違いなくいい感じね!)

「ふふふ、このままいい調子で突き進むわよーー!  さぁ、しっかり読んでお返事を書かなくちゃ!」

  フレデリック様からのお返事は情熱だったので、最後まで読むのに夜中までかかってしまったけれど、私は張り切ってお返事を書いた。そのせいで二通目もちょっとだけ分厚くなってしまう。
  けれど、フレデリック様も負けないくらいの返事を返してくれるようになった。

  (これが憧れの手紙のやり取りなのね!)

  ───こうして、私とフレデリック様の…………後に伝説となる(重い)文通が開始した。
 
しおりを挟む
感想 120

あなたにおすすめの小説

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました

歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と 罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、 エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」 辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。 商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。 元夫が「戻ってこい」と泣きつくが—— 「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます

由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。 だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。 そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。 二度目の人生。 沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。 ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。 「今世は静かに生きられればそれでいい」 そう思っていたのに―― 奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。 さらにある日。 皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。 「沈薬は俺の妃だった」 だが沈薬は微笑んで言う。 「殿下、私は静王妃です」 今の関係は―― 皇叔母様。 前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。 それを静かに守る静王。 宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...