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第五話 贈り物と手紙
しおりを挟む「お嬢様、今日もお花が届いています」
「え、また!?」
フレデリック様がお見舞いに来てくれた日から、約一週間。
私はすっかり元気になって以前と変わらない生活を送れるようになっていた。
けれど……
体調不良になる前(つまり儀式を行う前)と違う事が起きていた。
「今日はピンクのチューリップですね」
そう言われてメイドから手渡された花を受け取る。
フレデリック様はお見舞いに来てくださった日にもお花を持参していて、更にその翌日からは我が家にお花が届くようになった。
それも、豪華な花束! ではなく、一輪だったり小さな花束だったり……と、そこにはちょっとした気遣いまでもが窺える。
「もう、体調は回復しましたよ、とお伝えしたのに?」
「お見舞いとは違う意味があるのでは?」
メイドがサラリとそんな事を言う。
「違う意味?」
「お嬢様と仲を深める為、とか……でしょうか」
メイドのその言葉に私の目が輝く。
───私と仲を深めたい……ですって!?
(……本当に本当にあの儀式の効果なんだわ……)
フレデリック様が私に夢中になって虜になってくれたのかは、まだよく分からないけれど、五文字以上の会話に毎日のプレゼント! これは明らかに好感度は上がっている(はず)!
(ふふふ、顔がニヤケてしまう)
「お礼の手紙を書かなくちゃ! 紙とペンを用意してちょうだい!」
「は、はい!」
メイドは慌てて紙とペンを取りに行った。
「───見て! フレデリック様へのお礼の手紙が書けたわ! お返事が来るかしら?」
手紙を書き終えた私は、満足気にメイドに手紙を見せた。
フレデリック様と手紙のやり取りはした事が無いので私の期待はどんどん高まる。
「それはようございました。それでは早速、旦那様にお渡しして王宮にお届けを…………おぉぉ!?」
「どうしたの?」
笑顔で振り返ったメイドが、突然奇声を発した。
「…………お嬢様、そちらは。その手に持っていらっしゃる物は……?」
「もちろん、フレデリック様へのお手紙よ!」
「……お、てがみ……ですか。え? 何かの会議の資料とかではなく……?」
メイドが何に困惑しているのかさっぱり分からない。
私は首を傾げた。
「会議の資料? 何を言っているの? どこからどう見てもお手紙でしょう? ちょっとフレデリック様に伝えたい事がたくさんありすぎて厚くなってしまったけど!」
「……厚くなった…………のレベルでは無い気が……」
「何か言った?」
メイドが何かを呟いたけれど、声が小さ過ぎて何と言われたのか分からなかった。
「……いえ、お嬢様がそれでいいのなら……」
「いいに決まってるでしょう? 私のフレデリック様への想いがたくさん詰まっているのよ!」
「…………ドン引き……されない事を願います……」
「?」
何だか歯切れの悪い様子のメイドが気になりつつも、私はちょっとだけ分厚くなったお手紙をフレデリック様の元に届けてもらった。
(預かってくれたお父様の顔も引き攣っていたけれど何でかしら?)
───それから数日。
「返事が来ないわ!」
「……」
儀式効果を期待した私は、すぐに返事が来ると思っていた。
だって、フレデリック様からの初めてのお手紙。
どんな字を書かれるのかしら? 内容は?
───と、すごく楽しみにしていたのに!!
「どうして来ないのかしら?」
「……」
そう訊ねる私に何故かメイドは気まずそうに目を逸らす。
「そうですね……殿下も勉強がありますし……色々とお忙しいのでは? あの(何かの資料にしか見えなかった)手紙では読むのにもお時間が……かかるはずです……から」
「……それはそうかもしれないけど」
たった一言でもいいの。
五文字以上喋ってくれなかった時の事を思えば、何でも幸せなんだから!
「それに、お花は毎日届いていますよ?」
「そうね」
フレデリック様からのお花は、あれからも途絶えること無く続いていた。
だけど、何のメッセージカードも無くてひたすらお花だけが届くという状態。
フレデリック様の目的はよく分からないけれど、最初の頃に貰ったお花からどんどん枯れてしまうので、ドライフラワーにしたり、押し花にしたりと極力手元に残すようにしている。
そんな愚痴を言っていたその日の午後。
遂に私の元に念願の物が届いた。
「へ、へ、返事が来たわーー!」
「……よ、良かったですね……お、お嬢様……」
フレデリック様からの返事を手にして喜びを顕にしている私を、何故かメイドが引き攣った顔で見ていた。
「あ! はしゃいでみっともなかったかしら?」
「いえ、そうではありません……お返事を貰ってお喜びになっているお嬢様は大変可愛らしいと思っております」
「ありがとう? なら、何でそんな顔をしているの?」
私が訊ねると、メイドは「あー……」とか「う……」とか唸っている。
「お嬢様、それはお手紙……なんですよね?」
「決まってるでしょう? 私宛なのだから、この間の私のお手紙に対するお返事よ! ほら!」
そう言って私は大事に大事に抱えていたフレデリック様からの“手紙”を見せつける。
「…………お嬢様のも大概でしたけどこちらも負けず劣らずの……資料……コホンッ」
「何か言った?」
「いえ、殿下もたくさんお返事を書かれていたようだと感心しておりました」
「でしょう!」
嬉しくて私は微笑んだ。
「ふふ、フレデリック様からのお手紙~」
私は待望のお手紙を鼻歌を歌いながら開封する。
何が書かれているかしら?
先に送った手紙には、フレデリック様の事が知りたくてたくさん質問してしまったのよね……
その回答があるといいな~
『───ディアナ嬢へ』
手紙はそんな書き出しで始まっていた。
さすが、王子様。字はとても丁寧で綺麗だった。
『すっかり体調も良くなったようで安心している。そして、手紙をありがとう。返事が遅くなってしまい申し訳ない。大切な君からの手紙だから、一言一句もらす事の無い様に大事に大事に読もうとしたら、どうにも読み込むのに時間がかかってしまい……』
「…………まあ!」
大切な私? 大事に大事に読もうと思った!?
その言葉が嬉しくて興奮した私はメイドに聞いて聞いて、と語る。
「ねぇ、聞いてちょうだい! フレデリック様は私のあのお手紙を一言一句もらさない様に大事に読んで下さったそうよ!」
「あれを……」
ついでに読み進めると、私に負けないくらいの内容で返事を書きたかったとある。
その事も伝えると、ますますメイドの顔がおかしな表情になっていった。
「……その結果が、これですか……」
「ふふ、嬉しいわ! 私もフレデリック様の綴ってくれた言葉を一言一句もらす事の無い様に読まなくちゃ!」
(これなら、いつかヒロインのライラックが現れた時も決して負けない!)
私達はこんなに愛のこもった(重い)手紙のやり取りをしていたのよ! って誇れるもの!
そんなフレデリック様からの手紙は、私の質問にちゃんと答えてくれていて、やっぱり彼が以前の彼とは違うのだと思わせてくれた。
(これは間違いなくいい感じね!)
「ふふふ、このままいい調子で突き進むわよーー! さぁ、しっかり読んでお返事を書かなくちゃ!」
フレデリック様からのお返事は情熱だったので、最後まで読むのに夜中までかかってしまったけれど、私は張り切ってお返事を書いた。そのせいで二通目もちょっとだけ分厚くなってしまう。
けれど、フレデリック様も負けないくらいの返事を返してくれるようになった。
(これが憧れの手紙のやり取りなのね!)
───こうして、私とフレデリック様の…………後に伝説となる(重い)文通が開始した。
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