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第六話 二度目のお茶会
しおりを挟むそれからも、私とフレデリック様のちょっと厚い手紙のやり取りは続いた。
「……何をそんなに毎回毎回、書き記す事があるのですか……?」
「え?」
今日も一生懸命、返事を綴っていたらメイドにそう聞かれた。
「何って……そうね、今は私が5歳になった所ね。さすがに記憶はあやふやだけど」
「はい? お嬢様が5歳?」
「そうよー」
私は満面の笑みで答える。
「フレデリック様のお手紙でね、私が昔からどんな子だったのかって聞かれたのよ。せっかくだから、記憶のある年齢から遡って手紙に認めているわ」
「……それ、手紙ではなくて報告書……」
「何を言ってるの? 手紙でしょ? それでね、フレデリック様も同じように遡ってご自分の事を私に教えてくれているのよ」
「……やっぱり報告書!」
メイドは10歳児が何をやっているんですか……!
と、プリプリしている。
そんなにおかしかったかしら?
でも、お互いの事を知るのって大事な事でしょう??
私が首を傾げていると、メイドが軽く咳払いをした後、私に言った。
「……お手紙もいいですが、明日は殿下との二度目のお茶会ですよ?」
「そうなの!」
とうとう明日は定例のお茶会の日! 前回に続き二度目になるわ。
そして、フレデリック様とはお見舞いに来て貰った日以来の顔合わせとなるので、私は今からドキドキしている。
(私に対する態度がどれくらい変わったかが見物よ!)
「ディアナ嬢!」
「え? 殿下?」
そして、お茶会の日。王宮に乗って来た馬車から降りたら、なんとそこにフレデリック様が現れた。
(どうしてここに!?)
時間……は確認したけれど間違ってはいない。どうやら遅刻したのを怒って迎えに来たというわけではないみたい。
戸惑う私にフレデリック様は少し照れくさそうにはにかむ。
「待ちきれなくて迎えに来ちゃった」
「えっ!?」
───マチキレナクテムカエニキチャッタ!
一瞬、外国語を聞いたのかと思ってしまった。それくらい驚き、自分の耳を疑った。
「ま、待ちきれなかった、ですか?」
「そうだよ、早くディアナ嬢に会いたかったんだ」
「っっ!」
フレデリック様は蕩けるような笑顔を私に向けた。
(───こ、これは!)
これはもう間違いない。私は確信した。
“好きな人を自分の虜にする方法”の力は本当だった! そして効果もバッチリ!
「顔色も良いみたいだし、元気そうでよかった」
「もうすっかりですよ。お見舞いもありがとうございました。それから……毎日のお花もありがとうございます」
「……お花、迷惑じゃなかった?」
「まさか! 迷惑だなんて事はありません!」
首を横に振りながら、私は密かに感動していた。
か、か、会話が弾んでいるわ!
前回のお茶会の素っ気なさが嘘みたい。
「良かった。毎朝、ディアナ嬢の事を考えて花を選んでるんだ」
「え?」
「……だって、花が……好きそうだったから」
フレデリック様が頬を染めて照れくさそうに言った。
その表情が可愛くて私の胸がキュンとした。
(私が花を好き?)
「本当はお菓子を贈ろうかと思っていたんだけど、皆が……特に侍女やメイドが全力で止めてきたんだ」
「どういう事です?」
「殿下は乙女心が分かっていない! って」
「乙女心……」
それってまさか、お菓子をお花みたいに毎日贈ってくるつもりだったのでは……
さすがにそれは……ええ、確かに乙女として……私は止めてくれた城の使用人に密かに感謝した。
(だけど、何故、お菓子やお花? 私が一体いつ───はっ!)
そこまで考えて思い出した。
───殿下、このお菓子美味しいですわね! さすが王家の御用達ですわ
───そうだな……
───……殿下、あそこにキレイなお花が咲いてますわ! なんて名前の花でしょう? ご存知ですか?
───……いや
(まさか、あの前回のお茶会の時の会話から……?)
私が必死に話題作りのつもりでふった話を私が好きな物の話をしていると思った……?
「……ナ」
「……」
「ディアナ?」
名前を呼ばれてハッとする。
目の前にはフレデリック様の顔のドアップ。
ドキッと私の胸が大きく跳ねた。
「どうしたの? ぼんやりして」
「い、いえ……! あ、それより今……ディアナって」
「うん。ディアナは僕の婚約者なんだからいいかなと思って……ダメだった?」
「いえ! ど、どうぞー!」
(……本当の本当にこれはフレデリック様なの!?)
あの本、本当に凄いわ……
マイナスの好感度がこんなにアップするなんて嘘みたい!
「僕の事も殿下じゃなくてフレデリックと呼んでくれていいからね」
「!」
その言葉で思い出した。
物語の中のフレデリック様は、ディアナに向かってこう言っていた。
『お前に“フレデリック”と呼ばれると虫唾が走る!』
だから、ディアナは心の中では別でもなるべく“殿下”と呼ぶようにしていたわ。
けれど、フレデリック様はライラックには名前で呼ばせていたっけ……
そんな名前呼びを───
「いいのですか?」
「もちろんだ! その方がもっと仲良くなれるだろう?」
「!」
フレデリック様はそう言って私に手を差し出した。
私がおそるおそるその手を取ったら、キュッと握られた。
(手……繋いじゃったわ!)
嬉しい事ばかりで私の頬は緩みっぱなしだった。
「そういえばさ、手紙、大変じゃないかな? 大丈夫?」
「大変? いいえ!」
「皆さ、重すぎるって言うんだ」
手を繋ぎながら廊下を歩いていると、フレデリック様がそういえば……と切り出した。
「重すぎる……」
「そうなんだ。ディアナを大事に思う気持ちが重いって事なのかなぁ?」
「私を大事に……?」
「そうなんだよ。やっぱり頻度のせいかな? もう少し減らす?」
「い、いいえ! このままでいいと思いますわ! フレデリック様の事を知るいい機会ですもの!」
「そう? 良かった」
フレデリック様が嬉しそうに笑ってくれたから私も嬉しくなる。
こんなに幸せでいいのかしら───?
(……あら? あの人たちは何をしているのかしら?)
幸せ気分に浸っていたら、前に私の事をとても哀れんだ目で見ていたお付きの使用人達が、プルプルと身体を震わせているのが視界に入って来たので妙に気になった。
その後のフレデリック様とのお茶の時間は、前回が嘘のように会話が弾み楽しい時間を過ごした。
「時間が過ぎるのはあっという間ですわね」
「うん、残念だよ」
この間はあんなに長く感じた時間が今回はあっという間で、帰る時間が迫っていた。
「……あ! そうですわ、フレデリック様。私、帰る前に図書室に寄りたいのです」
「図書室に? 構わないけど……」
フレデリック様は不思議そうな顔をしたけれど快諾してくれた。
(──見つけられるかはちょっと自信が無いけれど、あの本をもう一度見てみたいのよ)
私はあれから、あれが何というタイトルの名前の本なのか、そして、他にどんな内容が乗っているのかがとても気になっていた。
それに、あの日は本を書棚に戻したかどうかもあやふやで、その事もすっきりさせたかったし、何よりあの儀式を行った……“好きな人を自分の虜にする方法”についても、何時まで効果の続く力なのか、かけ直しは必要なのか……という大事な点を見落としていた事に後から気付いた。
「そういえば、この間はすごい慌てていたね?」
「え、ええ。フレデリック様が突然現れたものですから驚いてしまって」
「そっか、驚かせてごめんね」
そんな話をしながら私達は図書室へと到着する。
(確かこの間の本は───)
その前に借りていた本を返した所にあったのだから、と記憶を頼りにその書架へと近付く。
タイトルは不明だけど確か、黒い表紙の本だった言葉覚えている。
そうして本の背表紙を眺めてみるけれど、それらしい本は無い。
(うーん、そんな気はしたけれど……)
「ディアナ? 何の本を探しているの? 僕も手伝う?」
「……いいえ、大丈夫です」
それから近くの書棚まで目を通したけれど、結局、あの本を見つける事は出来なかった。
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