16 / 31
第十四話 ヒロインの突撃
しおりを挟む「……そんな事って」
「ディアナ?」
困惑する私をフレデリック様が優しい手つきで私の頭を撫でてくれる。
胸がキュンとした。私はやっぱり優しいこの手が好き。
───私に乗っ取られた(?)ライラックには申し訳ないけれど、私は私でどうしても譲れないものがある。
(フレデリック様の事……破滅を回避する事……)
これだけはどうしても譲れない。
「本当にディアナは昔から面白いね」
「え? 面白い?」
私が聞き返すとフレデリック様は微笑む。
「素直で可愛くて、でもちょっと抜けてて……色んな意味で目が離せない」
「フレデリック様……」
「あと、鈍いよね」
「…………そう言われましても」
前世の記憶のせいで、この世界に対する思い込みがあるからかしら。
何でもかんでもライラックに結び付けてしまっていた気がする。
あの賛辞の数々がまさか自分に向けられていた話だったなんて本当に驚いた。
「ねぇ、ディアナ。君は気付いてる?」
「な、何がでしょう?」
フレデリック様の顔つきが少し変わった気がした。
「僕がずっと毎朝君に送り続けている花……」
「あ、いつもありがとうございます」
そう。フレデリック様からのお花は途絶えたことが無い。学園に入学したらさすがに終わりかと思っていたのに変わらず毎朝届けられる。
ポプリにしたり、押し花にしたり、香油の材料にしたり……たくさん活用させてもらっているわ。
「あれは全部、ディアナへの愛なんだよ?」
「あ、い?」
「そう。ディアナを愛してるって想いを込めて毎朝君の元へと贈っている」
「わたしをあいしてる……」
やっぱり今年儀式をやらなかったくらいでは甘い。効力は継続しているのね。
「僕はどうしても君を振り向かせたかった。それで……」
「いつから……ですか?」
「え?」
「フレデリック様はいつからそんなに私の事を?」
「ディアナ?」
「だって、フレデリック様……最初はあんなに私に……」
「……!」
そんな事は聞かなくても分かりきっているのに。
私があの呪いをかけた後からだと決まっている。それでも────
私のその質問にフレデリック様は驚いた顔をして黙り込む。
それから少しの沈黙の後、苦笑いを浮かべて口を開きかけた。
「それは……」
キーンコーンカーンコーン
「……あっ! 鐘が」
「昼休み終わってしまうね、戻ろうか」
「は、はい」
「この話はまた今度」
「はい……」
フレデリック様が何かを言いかけた所で、ちょうど昼休みの終わりの鐘が鳴ってしまう。
お陰で聞きそびれてしまった。
あの五文字以上喋ってくれなかった頃、何を考えていたのかは知りたかったのに……
「ディアナ? 行くよ」
フレデリック様が当たり前のように手を差し出してくれたので、私も自然とそこに手を重ねる。
今のこの関係の始まりが呪いのせいだったとしても、そこから二人で築いた六年間の形が確実にそこにはあるような気がした。
◇◆◇◆◇
「あの~クワドラント侯爵令嬢様、ちょっとお時間を頂いてよろしいですかぁ? 大事なお話があるんですけど~」
聞き覚えのある甘くて可愛らしいその声に声をかけられたのは、それから数日後の事だった。
登校してすぐの時間。
まだ、人気も少なくて、フレデリック様も登校していない昇降口での事だった。
(何でライラックの方から私に!?)
物語の中での二人の最初の会話は、ディアナの方からライラックに絡んだのが始まりだったはず。
─────
───
「あなたがライラック・トゥルハーシさん? ちょっとよろしいかしら? 大事な話がありますの」
「えっと?」
「……あなた、その反応! まさか、私の事を知らないとでも!?」
「あ……」
突然、自分に話しかけて来た美しい女性は、自分の事が知られていないと分かるなり、すぐに激昂した。
「私はあなたが最近懇意にしているというフレデリック殿下の婚約者ですわ!」
「え、婚約者……?」
ライラックはショックを受けた。
(私ったらどうしてその事に思い至らなかったの?)
彼は王子様。そういう人がいるのは当たり前……私は気付きたくなくて知らないフリをしようとしていた───
「……まあ! そんなに驚いた顔をするなんて……殿下はこんなにも重要な事をあなたに話していなかったようね?」
「……っ!」
「なぁんだ、あなたってその程度の存在だったのね」
クスッと笑う目の前の令嬢は美しかったけれど醜かった。
───
─────
(今、思うと醜いって。美しいと言われていても酷い表現よねぇ……)
それにしてもこの時の悪役令嬢はまだ余裕がありそうだったのに、どんどん分が悪くなっていく……
しかも、この時ライラックに絡んだのは嫌味だけだったけど、ライラックに詰め寄った事は彼女が泣きついたからすぐにフレデリック様にバレてこの後、散々、罵られるのよね……
(悪役令嬢ってやっぱり不憫だわー……)
「…………あの! 私の話! 聞いてますか!?」
私が思考の旅に出てしまっていたからか、ライラックが声を荒らげた。
その声にハッと意識が戻った、
「あ、ごめんなさい、全く何も聞いていなかったわ」
「……は?」
「あ!」
正直に言いすぎたせいで、ライラックは鳩が豆鉄砲をくらったような顔になった。
「…………コホンッ。えっと、あなたはどちら様かしら?」
「ライラック・トゥルハーシと申しますわ。平民ですけどこの学園に優秀な成績で入学した者です! 今日はディアナ……様に話があります!」
「……」
私は耳を疑った。
(優秀な……成績ですって?)
え、あなたクラスは?
そう聞き返したかったけれど、何となく止めておいた。
あまり長々と話をしたい人では無いし。
(それにしても……)
貴族社会に於いて、初対面なのにこんな失礼な突撃しようものならかなり大変な事になるのだけど……この先大丈夫なのかしら?
と言うか、物語通りのディアナだったなら確実に消されていたわよ?
そんな心配の気持ちが生まれてしまう。
(でも、これも私が物語をかなり狂わせた結果からなのかも)
そう思うと話くらいは聞いておくべきかとも思い直した。
こっそりため息を吐いた後に聞き直す。
「私に? 何のお話かしら?」
申し訳ないけど、フレデリック様の事だけは譲らないわ!
そう意気込んでいた私に向かってライラックは言った。
「──皆を……騙すのはやめて下さい!」
(……は?)
私は何の事か分からず首を傾げた。
67
あなたにおすすめの小説
白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話
鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。
彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。
干渉しない。触れない。期待しない。
それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに――
静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。
越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。
壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。
これは、激情ではなく、
確かな意思で育つ夫婦の物語。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」
この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。
けれど、今日も受け入れてもらえることはない。
私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。
本当なら私が幸せにしたかった。
けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。
既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。
アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。
その時のためにも、私と離縁する必要がある。
アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!
推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。
全4話+番外編が1話となっております。
※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【完結】死に戻り8度目の伯爵令嬢は今度こそ破談を成功させたい!
雲井咲穂(くもいさほ)
恋愛
アンテリーゼ・フォン・マトヴァイユ伯爵令嬢は婚約式当日、婚約者の逢引を目撃し、動揺して婚約式の会場である螺旋階段から足を滑らせて後頭部を強打し不慮の死を遂げてしまう。
しかし、目が覚めると確かに死んだはずなのに婚約式の一週間前に時間が戻っている。混乱する中必死で記憶を蘇らせると、自分がこれまでに前回分含めて合計7回も婚約者と不貞相手が原因で死んでは生き返りを繰り返している事実を思い出す。
婚約者との結婚が「死」に直結することを知ったアンテリーゼは、今度は自分から婚約を破棄し自分を裏切った婚約者に社会的制裁を喰らわせ、婚約式というタイムリミットが迫る中、「死」を回避するために奔走する。
ーーーーーーーーー
2024/01/13 ランキング→恋愛95位 ありがとうございました!
なろうでも掲載20万PVありがとうございましたっ!
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる