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第十六話 鉄壁の守り
しおりを挟む「ディアナ様、おはようございます!」
「お、おはよう……?」
「今朝はあの不審者は近寄って来ていませんので、ご安心くださいませ!」
「あ、ありがとう?」
私が笑顔でお礼を言うと、話しかけて来た二人の令嬢は嬉しそうに頬を染めて「きゃー! 微笑んでくれたわーやっぱり素敵ー! 美しいーー」と嬉しそうな声を上げながら私から離れて行く。
(え? おはよう、とありがとうしか言ってないわよーー!?)
フレデリック様の言っていた“順番制”という話。
初めはよく分からなかったけれど、言われてみれば毎日、色んな人に代わる代わる話しかけられている事に気が付いた。
なので言われてみれば確かに一度に大勢に囲まれて対応に困る……みたいな事は起きていない。
(徹底しているわ……!)
逆にどのような仕組みで効率よく動かしているのか知りたくなるほどだった。
そして、問題のライラックは掟を破っただけでなく、私に冤罪をきせようとしていた事が瞬く間に彼らの間で伝わり彼女は堂々のブラックリスト入りを果たしたという。
そのせいで新たに『ディアナ様を守る会』なるものまでもが発足したとフレデリック様が教えてくれた。
ちなみに、会員数は知るのが怖くて聞いていない。
そして当然だけど『守る会』が今、最も警戒しマークしているのがヒロイン、ライラック。
彼女の動向は会員たちによって私に報告がもたらされる。
(なんて厳重な警備なの!)
学園内では配置出来ないはずの私の護衛が学生たちの手によって出来上がっていた。
「おはようディアナ!」
昇降口で守る会の彼女達に話しかけられた後、教室に向かっている最中にフレデリック様にお会いした。
「おはようございます。あ、フレデリック様。今日は不審者……彼女は近寄ってきていないそうですよ」
「それは良かった。それにしても『守る会』相変わらず今日も凄いね」
フレデリック様は感心したように言う。
「何だか私、凄い人になった気分です」
「ディアナ……」
フレデリック様は「何を呑気な事を……でもディアナらしいよ」と苦笑いしながら頭を撫でてくれた。
「僕のお姫様は分かってるのかな? あれもこれもそれも全部ディアナが魅力的だからなんだよ?」
「きゃ!? もう! フレデリック様!」
「皆が君に憧れている」
フレデリック様はそんな事を口にしながら人目もはばからず堂々と私を抱きしめた。
ここは廊下なのに! 人の目だってあ───
「ディアナ、僕だけは特別なんだって」
「……特別? ですか」
「王子……という地位の特権もあるけれど、何より僕はディアナの婚約者だからね! 僕だけはこうして常にディアナの側にいられて、触れる事を咎められない」
ギュッ
フレデリック様は抱きしめる腕に力を込めた。
「それに、どうやら皆は僕達が二人でこうしている姿も好きらしいからね」
「え!」
「それと……こういう事をすると、ディアナが可愛らしく頬を染めてくれるから、もっとやれ! もっとイチャイチャ増量して! って思いながら陰から見守ってくれているんだってさ」
「~~何ですか、それ!」
それはさすがに恥ずかしい! 私の顔が赤くなる。
「……そういう所だよ、ディアナ」
「フレデリック様……」
「可愛い……」
お互いの目が合った。
ここは人目のある廊下だというのに私達はしばらく見つめ合い、フレデリック様の顔が少しずつ私に近付こうと動いた時───
「嫌ァァァ、ふざけないでぇぇぇ! 離しなさいよぉぉ」
聞き覚えのある声が廊下に響いた。
「何が『守る会』よぉぉ! 何でそんな組織が出来上がってるのよーー! 邪魔しないでぇ!」
「いえ! 邪魔者はあなたです! ピンクさん」
「あの雰囲気でしてよ! ピンクさんが邪魔さえしなければもっといい所まで見られたかもしれないのに……憎しですわ!」
「そうよ! とっても見たかったのに!」
(……こ、これは。この声は……)
明らかにライラックが暴れている。
「しかも? 何でこの私が“ピンク”呼ばわりされてるのよーー私にはライラックという可愛い名前が……」
「「知りません」」
「し、知らないですってぇ!?」
ライラックはますます激怒するけれど、令嬢たちはなんのその。終始冷ややかだった。
「覚える価値が無いそうなので」
「いいじゃないですか、可愛いと思いますわよ、ピンクさん」
「か、価値が……誰よ、そんな事を言ったのはっっっ!」
覚える価値が無い……ライラックは大きなショックを受けていた。
「そういえば、補習のお知らせにお名前が載っていましてよ? ピンクさん」
「ほ、補習!?」
「こんな所でウロウロしていてよろしいのかしら?」
「……ぐっ!」
押し黙るライラック。
完全に『守る会』の大勝利だった。
(…………補習って聞こえた……ライラックの成績……)
「───うん、今日もさすがだね」
「……もしかして、ここ最近ずっとこんなだったりしましたか? 」
「そうだよ? やっぱり気付いてなかったのか。相変わらず鈍くて可愛いなぁ」
「うう……」
あまりの情けなさに唸っていたらフレデリック様がそっと私の頬を撫でる。
「でも、そんなディアナだから、僕も『守る会』の人達も君を守りたいと思うんだろうね」
「……!」
(嬉しい……)
その気持ちは純粋に嬉しかった。
「ありがとうございます、フレデリック様」
「…………っ!!」
私が微笑みながらお礼を伝えると、フレデリック様の顔が一瞬で真っ赤になる。
「ディアナ……そこでその可愛い笑顔を見せるのはずるい……」
「え?」
「もう我慢出来なくなる」
そう言ったフレデリック様の顔が近付いてきて、チュッと額にキスをされた。
(───キス!)
「フレ……あ、う……」
ここは廊下だというのに。
まだ、朝の登校中だから人目はいつもより少ないけれど!
「どうしたの? ディアナ」
「な、なんでもないですっ!」
更に顔が真っ赤になった私は恥ずかしくてそっぽを向いた。
こうして、私とフレデリック様の仲睦まじい様子の話はどんどん広がっていく。
(こんなにもストーリーは変わってしまった……)
もう、私は“悪役令嬢”なんかじゃないのかも?
“呪い”の事が気になりつつも、いつしか私はそんな風に思うようになっていた。
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