【完結】殿下! それは恋ではありません、悪役令嬢の呪いです。

Rohdea

文字の大きさ
20 / 31

第十八話 怪しい行動と異変

しおりを挟む


「え?  彼女……ライラックさんが行方不明の王家の本を探している?」

  その日、数日も順番待ちしていたという令嬢(守る会会員)が「やっと順番が来ました~!」と、言いながら持って来た情報は私を驚かせた。

「そうなんです。色々な方に聞き回っているそうですよ?」
「そ……れは、本がどこにあるのか……ということ?」

  行方不明なのに?

「それもあるみたいですが、特に中身を知りたがっているようですね。読んだ事がある人を探しているみたいです」
「……中身」

  私は驚きで言葉を失った。
  何故、ライラックがこんな事をしているの?  そんな疑問が浮かぶ。

  (あの本は小説のストーリーとは全く関係がない……なのに、どうして?) 

  ましてや、ライラックは今の時点で王宮どころか貴族社会とも縁がない状態。
  秘術の本が行方不明になっていた事が発覚した当初……一年前はそれなりに騒がれたものの、今はもう滅多に話題にならなくなったあの本に興味を持った理由は……何?

「ピンクさんも凄いですよね」
「え?」
「王家の秘術……なんていう内容の本なのに、それを読んだ事がある人が沢山いたらもうそれは秘術じゃないじゃないですか。聞き回っても無駄なのに。そもそも何でそんな本の事を聞き込みしようと思ったのでしょう?」
「……」

  彼女の言う通りだった。
  もし、王家の秘術の本が、私が見たあれなら堂々と図書室の書架にあったけれど、もともと王宮の図書室は誰でも入れるわけではない。
  学園の人達に聞き込みを行った所で得られる情報はほとんど無いに等しい。

  (きっとライラックは大した情報を得る事は出来ないわ)

  そこに安堵はするものの、問題はなぜ、ライラックがあの本の事を調べようと思ったか───……



「…………ディアナ?  どうかした?  ディアナの可愛い顔の眉間に皺が寄ってしまっているよ?」
「フレデリック様……」

  ライラックの謎行動に頭を悩ませていたらフレデリック様が現れた。

「そんなしかめっ面のディアナも勿論可愛いけれど、僕としてはディアナにそんな顔をさせる原因が気になるな」
「……んっ」

  フレデリック様が優しい手付きで私の頬を撫でる。
  ライラックの不審行動の話を持ってきた令嬢は「きゃぁぁ~こんな間近で!  眼福~」と嬉しそうな悲鳴をあげて頬を染めていた。

「コホッ…………実はライラックさんが、行方不明になっている王家の秘術の本の事を人々に訊ねて回っているそうなのです」
「何だって?  あの本を……?  それはいったい何の為に──って、ごめん。ライラックって誰?」
「え?」
「……?」 

  驚く私ときょとんとしたフレデリック様は無言のまま見つめ合う。

  (えっと?  フレデリック様は今、ライラックって誰?  と言った??)

「殿下、ピンクさんの事ですよ」
「ピンク……?  あぁ、あの早々にブラックリスト入りを果たした女性か」
「そうですよ。我々の中で最も警戒すべき人物の名ですよ!」
「すまない。ピンク色のインパクトが強すぎて名前と結び付かなかった」

  フレデリック様の心の中には“ライラック” の居場所なんてどこにも無くて。
  本当に物語が大きく変わってしまっている事を改めて実感させられた。

  (……それにしても、ライラックの目的は……何?)


  私の心の中にはモヤモヤしたものだけが残った。



◇◇◇◇◇◇



「殿下、お帰りなさいませ。ディアナ様に贈る明日のお花はいかが致しますか?」
「あぁ、今行く。着替えるから少し待ってくれ」
「承知しました」

  授業が終わり、ディアナを侯爵家に送り届けて王宮に戻った僕が真っ先にする事は、翌朝、ディアナに贈る花を選ぶ事だ。

「……もう六年……か」

  あの日から欠かさず贈り続けている花をディアナはどう思っているだろうか。   
  邪魔だな……しつこいな……と思われていないといいのだが。

  (いや、ディアナは優しいからそんな事は思わない!)

  それに花は好きなはずだ──……
  婚約者となってから行われたディアナとの初めてのお茶会。

『……殿下、あそこにキレイなお花が咲いてますわ!  なんて名前の花でしょう?  ご存知ですか?』

  ディアナは僕にそう聞いてきた。
  
  (花よりもキレイなのは君だよ)

  あの時、そう言えていたらどんなに良かっただろう。そうしたら、あのまるで花が咲いたような可愛い笑顔で笑ってくれただろうか?

「……」

  僕は部屋の中の本棚に視線を向ける。
  厳重な隠し棚にしまわれている“アレ” ……今日は久しぶりに話題にされていたな。
  あのブラックリスト入りしたピンク色は何を思って聞き回っているのか……

「……ディアナ」

  あの僕に見せてくれる笑顔はとにかく最高だ。距離を縮めようとすると真っ赤になる顔も可愛い。
  大真面目な顔してちょっとズレた所とか、自分の事にはすごく疎いところ……ディアナの可愛い所はあげればキリがない。
  真っ直ぐで素直で努力家で……ディアナは初めて会った時からそういう子だった。
  学園の人気者になったのも頷ける。

「───君は知らないのだろうな」

  ディアナが僕の婚約者になったのは、政略結婚なんかじゃない。
  全部、僕の我儘だ。

「……僕が君が欲しいと望んだんだ」
  
  僕はディアナを何としても振り向かせたかった。
  君の特別になりたかったんだ。だから───



「うーん、最近は薔薇が続いているからなぁ……とはいえ、もう少しバリエーションを変えたい」
「では、殿下。あちらの区画の花はどうです?  最近新種の花を植えたそうで」
「へぇ、それはいいかもしれない」

  ずっと続けてきたこれもそろそろ集大成。最後に向けてディアナが喜びそうな花を届けたい!
  そんな事を思いながら愛しいディアナへの花を選んでいる時だった。

「───フレデリック殿下!  ここにいらっしゃいましたか!  大変です!」
「───……何だ?」

  息を切らして庭園に飛び込んで来たのは僕の側近の一人。
  顔が青白い。それだけでこれが良くない報せなのだと分かる。

「お、落ち着いて聞いてください……」
「……」
「と、取り乱したり、あ、暴れたりしないと約束してください……」

  青白い顔のまま震えながらそんな事を言い出した。

「何をわけの分からない事を言っているんだ?  僕が取り乱す?  暴れる?  そんな事は愛しのディアナが絡んだ時だけ───まさか!」

  側近に詰め寄ると、彼は震えながら僕から目を逸らす。
  その様子に僕の心は一段と落ち着かなくなる。
  まさか、ディアナが?  ディアナに?

  (しっかり侯爵家に送り届けたのに!)

  ディアナは護衛も付けずにフラフラ出かける事はしない。今日も家で授業の復習をすると言っていた。

「そ、そのまさか……なのです。殿下」
「……っ!!」
「先ほど、侯爵家から早馬がありまして。その者によると殿下の最愛のディアナ様が…………」



  側近からもたらされたその言葉に僕は目の前が真っ暗になった。

しおりを挟む
感想 120

あなたにおすすめの小説

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました

歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と 罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、 エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」 辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。 商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。 元夫が「戻ってこい」と泣きつくが—— 「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます

由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。 だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。 そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。 二度目の人生。 沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。 ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。 「今世は静かに生きられればそれでいい」 そう思っていたのに―― 奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。 さらにある日。 皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。 「沈薬は俺の妃だった」 だが沈薬は微笑んで言う。 「殿下、私は静王妃です」 今の関係は―― 皇叔母様。 前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。 それを静かに守る静王。 宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...