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第二十三話 呪いなんて……
しおりを挟む(今度は温かい……)
それは、何だかとても安心出来る温かさで。そんな不思議な感覚に包まれながら私は目を覚ました。
「……」
(あ!)
目を開けてすぐに飛び込んで来たのは、フレデリック様の顔。
でも、大好きなフレデリック様は今にも泣き出しそうな顔で私の事を見ていた。
フレデリック様がハッとする。
私が目覚めた事に気が付いたみたい。
「……ディアナ?」
「───……はい」
そう返事をすると、泣きそうだったフレデリック様の瞳から静かに涙が溢れた。
頑張って微笑んでみたけれど、うまく笑えていたかしら?
「ディアナ…………目を……覚ました……良かっ……」
(フレデリック様……)
その後は上手く言葉にならなかったのか、声を詰まらせたフレデリック様はしばらくの間、静かに涙を流し続けた。
やがて落ち着いたフレデリック様が静かに口を開く。
「ディアナ……」
「はい、フレデリック様」
「────え?」
私がいつものように答えると、フレデリック様が小さな声で驚いてその表情と動きが固まった。
「……? どうかしましたか?」
「今、ディアナ……僕の事を……え? あれ? 殿下じゃ……ない?」
「?」
私にはフレデリック様が何に動揺しているのかさっばり分からない。
なのに彼は、ただひたすら驚いている。
「……僕の事をフレデリック、と呼ん……だ」
「? だってフレデリック様ですよね?」
「うん、僕はフレデリックだ…………」
フレデリック様はコクリと頷く。
その後に、“まさか……そんな事が? でも解呪は成功しているじゃないか”と困惑気味に呟くフレデリック様。
どうしちゃったの? それに……
(今、解呪って聞こえたわ?)
つまり、私は何かに呪われていた……?
「フレデリック様……?」
「……ディアナ。その……ディアナ……えっと僕は……」
急にオロオロし始めたフレデリック様。本当にいったいどうしてしまったの?
「~~~っ!」
「え?」
ギュッ!
オロオロしていたフレデリック様の表情にグッと力が込められたと思ったら、そのまま手を強く握られた。
そして、フレデリック様が私を見つめる。そして何故かその顔は真っ赤。
「……ディアナ! 僕は君の事が好きだ! 大好きだ」
「え?」
急に真っ赤になりながら、そんなことを口にするフレデリック様。
突然なぜ?
「っっ……ディアナにとっての僕は単なる“婚約者”……それも、政略結婚で結ばれた相手なんだろうけど!」
「フレデリック様?」
「でも、僕はずっとずっと昔からディアナの事が大切で大好きで……」
(ずっと昔から……そうよね)
私が“呪い”をかけたから……あなたは好きでも無かった私に恋をしてくれた。
なぜ急にここで愛の告白が始まったのか分からないけど、訂正するのは今しかないわ!
「フレデリック様!」
「……っ」
私が声をかけるとフレデリック様がビクッと怯えた様子を見せた。
その反応に私の方が戸惑う。
(どうして? どうしてそんな顔をするの?)
私は身体を起こして自分からフレデリック様にぎゅっと抱きついた。
「ディ、ディ、ディアナ!? 急に起き上がったら……そ、それに、何して」
「───大好きなのです、フレデリック様」
「──え?」
「ずっとです。私は初めて会った時からあなたをお慕いしていました」
「は、初めて? え? それに……え?」
フレデリック様は驚いて軽くパニックになっている。
「の、呪いは? え……!?」
──“呪い”
そうよ、一番大事な事を言わなくては。
「でも、フレデリック様。私はあなたの事が好きすぎて一つ罪を犯しました……」
「え? えっと、ディアナ?」
「でも、これだけは分かってください……私はフレデリック様の事がいつだってどんな時だって大好きですわ! どんなに冷たい反応されて、言葉が5文字しか無くても大好きです」
「5文字……」
フレデリック様の目が一瞬、悲しそうになる。
「私はそんなあなたに呪いをかけました…………それも、フレデリック様が、わ、私の虜になる! そんな呪いです」
「え?」
「身勝手でしょう? だからフレデリック様が今、私に抱いてくれている気持ちは恋じゃありません、私の自分勝手な呪いによって無理やり作られた───」
「ディアナ!」
フレデリック様が声を荒らげた。
やっぱり怒るわよね……そう思った瞬間、
「……んっ!?」
私の唇が何か柔らかいもので塞がれていた。
それが何かを理解するのには少し時間がかかったけど───
(こ、これは、まさか───キッ……私、フレデリック様と……!?)
だけど、その初めて触れた唇はすぐに離れてしまった。
色んな意味で泣きそうになる。
「……ディアナ」
「ダメですよ、フレデリック様……呪いのせいなのに、本当は好きでもなんでも無い私にここま……」
「好きだ」
フレデリック様が私の両肩を掴んですごく真剣な目で私を見ながら、まだそんな事を口にする。
「同じなんだ! 僕だって初めて会った時から……ディアナの事が……大好きなんだ」
「フレデリック様……」
(───ん? 初めて会った時?)
私は内心で首を傾げる。
それだと私が呪いをかけてからの期間との辻褄が合わない───……
どういうこと──!?
「それにディアナ、僕だって君の事をを呪っていたんだ」
「…………え?」
「僕は君の事が大好きだった。でも、せっかく婚約者という地位を手に入れたのに僕はとんでもないポンコツだったから……だから、六年前。呪ってでもディアナに僕を好きになってもらおうと思ったんだ」
(あれ? あれれ??)
何かがおかしい。
頭の中を整理しなくちゃ!
私達はお互いの事が好き! そう告白し合った。
でも、好きなのはお互い初めて会った時から。
(それは婚約する前のはずよ……ね?)
更にどうやらフレデリック様も私に呪いをかけていて……?
「の、呪い……」
「うん」
「フレデリック様は何の呪いを……?」
「……うっ!」
フレデリック様は一瞬、躊躇った様子を見せる。でも直ぐにちゃんと答えてくれた。
「自分が好きな子……ディアナに素直になれる呪いと、ディアナに好意を抱いてもらう方法だ」
「え! 二つ!?」
(しかも素直になれる呪いって何?)
「僕が大好きなディアナを前にすると、とんでもなくポンコツだったからだよ」
「ポンコツ……」
「全く喋れなかっただろう? 目も合わせられなかった……このままではディアナに嫌われてしまう……それは嫌だった」
(あれは、あの態度は私を好きだったから? って事は……え、あら?)
「……フレデリック様」
「うん」
「私達…………この六年間……何をしていたのでしょう?」
「……………………うん」
変な空気が流れつつ私達は見つめ合う。
でも、お互いの瞳には確かに熱がこもっている。この気持ちは嘘じゃない。
(───つまり、お互いがあの初めて会った時から好きだったなら……)
「「……呪いなんて関係無かったし、要らなかった?」」
私とフレデリック様の声がとても綺麗に重なった。
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