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第二十六話 ヒロインの異変
しおりを挟む「……その、容姿がとても殿下と同じ学園に通われている年頃の女性には見えないのです!」
「は?」
フレデリック様が首を傾げた。
「すまないが言っている意味が分からない。彼女が貴族の令嬢には見えない……そういう意味では無いのだろう?」
「あれが貴族の令嬢……? もちろん……いえ、全くもってそのようにも見えませんが……」
(どういう事?)
そして、否定が凄い。
年頃の女性に見えない? 貴族の令嬢に全くもって見えない?
ではいったい何に見えているというの?
(それって……まさか)
「フレデリック様……」
「うん、ディアナ。もしかしたら……」
───ライラックは呪返しの影響を受けているのかもしれない!
私達は無言のままコクリと頷き合った。
「城門で煩いくらい騒ぎ立てていたので、どうにか引っ張って来たのですが……」
そう言ってフレデリック様の側近の彼は、私達をライラックのいる所へと案内をしてくれた。
どんな事になっているのか気になってしょうがないので、まず私達はライラックをこっそり盗み見る事にした。
「!(……フレデリック様、あの姿は……)」
「!!(あぁ、どういうつもりなのだろうか?)」
ライラックの姿を見て衝撃を受けた私達は小声で話し合う。
私達が驚いた理由は……
「ちょっと! やっと帰って来たのね。遅いわよ! それで? 殿下は呼んでくれたの?」
「会う気は無い……追い返せ、との事です」
「はぁ? 追い返せ? どうしてよ! 私を誰だと思って……! ねぇ? こんな状態になっちゃった私を見てあなたは心が痛まないの!?」
殿下に会えない事に苛立ったライラック……と思われる彼女は側近に掴みかかる。
なんと言うか……態度が偉そう。
「……心が痛むも何も私はあなたの学園での姿を知りませんし、その……どこからどう見ても今のあなたは学園の生徒ではなく…………コホッ……ただのお婆さんにしか見えません」
「おばっっ!? うるさいわよ! 本当の私はこんなお婆さんなんかじゃないのよ! 超絶可愛いの!」
ライラックが側近に向かってそう怒鳴り散らす。
(やっぱり……老化している)
私達が盗み見ているライラックは明らかにシワシワのお婆さんみたいな見た目になっていた。
頭には布を巻いてなるべく顔を隠そうとしているけれど、やっぱりピンク色の髪は目立つのですぐにライラックだと分かる。
「……だからあの時……」
「ディアナ?」
「いえ、上着を脱いで頭に被って駆け出したのはこれが理由だったのね、と思いまして」
手を見ていたのはきっとシワシワになってしまっていたから。
その後、自分の身体の変化に気付いてしまってあんな形で取り乱したということだと思う。
「……そう言われても困ります。殿下はあなたに会う気は無いと言っています」
「どうして? 王子様なんだから、困っている人を助けるのは当然でしょう!? それに私は主人公! 後に王子様に見初めら……」
「いえ! 殿下は昔から婚約者のディアナ様、一筋でございます」
訴えるライラックを側近がピシャリと弾いた。
「……はぁ?」
「殿下は昔から、ディアナ様しか見ておりません」
「な、何を言って……」
「他の令嬢が入る隙などありません。ましてや、高齢の女性ではさすがに……」
「違うって言ってるでしょう!? 私はピッチピチの16歳よ! バカにしないでーー!」
ライラックはシワシワの顔でそう叫ぶ。
(ピッチピチって……その姿で言われても。脳がおかしくなりそうよ……)
「とにかく殿下はあなたに会う気はありません。お引き取りください」
「ひ、酷いわ!」
そう言って側近はライラックを無理やり王宮から追い出そうとする。
「……どうして、こんな事になったのよぉ……昨日まではずっとずっとお腹の調子が悪かったし……何でなのよぉ……」
(なるほど……ライラックがずっと学園を休んでいたらしいのは、お腹を壊していたからだったのね)
それは確かに踏んだり蹴ったりだ。
でも、どこで方法を知ったのかは分からないけれど、人を……いえ、我が家の屋敷の人間ごと眠らせようとした罪は大きい。
きっとお腹の調子が悪くなったのも、シワシワになったのも全部その代償なのだから。
「それにお腹を壊すのは私の予定じゃ無かったのにーーーー」
(……ん?)
どういう意味かしら? とフレデリック様と顔を見合わせる。
フレデリック様も分からないという表情で首を横に振っていた。
───
「……お腹を壊すのは自分では無かったって、どういう事かしら?」
「うん……」
どうにかライラックを追い返してもらった後、私達は部屋に戻り、例の本を読んでみる。
“呪返し”に関しては確かに意地悪なくらい小さな字で警告してあった。
そして、呪返しの内容は“その者にとって最も嫌なこと”が起きると書かれている。
「つまり、ライラック……さんが、老化したという事は……」
「……だね」
(自分の美貌に絶対的な自信を持っていた……という事よね)
「その者にとって最も嫌なこと……か」
「フレデリック様?」
フレデリック様が小さなため息と共に呟いた。
「……僕にとってそれは、“ディアナに嫌われること”だ」
フレデリック様が腕を伸ばして私を囲うようにして抱きしめる。
私も背中に腕を回してギュッとフレデリック様に抱きつく。
「……私もです。フレデリック様に嫌われるのは……嫌です」
「僕はディアナの事を嫌いになったりしない!」
フレデリック様がチュッと額にキスを落とす。
「わ、私だって! 嫌いになんかなりません!」
「ディアナ……」
「フレデリック様」
見つめ合った私達はどちらからともなくそっと唇を重ねた。
しばらく、抱きしめ合いながらチュッチュッとキスばかりしてしまっていたけど、ハッと思い出す。ライラックの言っていた言葉の意味を考えなくては!
「フレデリック様! お腹……」
「あ、そうだったね…………えっと、お腹を壊す呪いもあるのかな?」
そう言いながらフレデリック様がページをめくると、その呪いはすぐに見つかった。
「……あった」
「……ありましたね。ライラック……さんは、私を眠りにつかせる呪いだけでなく、こっちの呪いまでかけようとしていたのかしら?」
ちょっと意味が分からない。
眠らせるつもりの人間のお腹を壊してどうしたかったの?
「意味ないよね。────ってあれ?」
「どうしました?」
「いや、眠りの呪いとお腹を下す呪いって、手順が全く同じなんだな、と」
「そうなんですか?」
そう言われて私も本をのぞき込む。
確かに手順は一緒。液体を使って匂いを嗅がせる手段も。
「でも、材料は全然違いますよ?」
「そうだね……僕の考え過ぎかな?」
「ですよ」
結局、結論としてはライラックがお腹を下す呪いと眠りにつける呪いの両方を私にかけた、という事になった。
「フレデリック様……今日は追い返してしまいましたけど、彼女はどうするのですか?」
「うん、人知れず捕まえて牢屋送りにしてもいいんだけど……残念ながら、ちょっとそれだけじゃ僕の怒りが治まらない」
「え?」
「当然だ。僕のディアナに手を出したのだから」
私がフレデリック様の目を見つめると、フレデリック様はまたしても悪い顔をしていた。
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